たとえ自分の物でなくとも 8
「王から依頼されている、ここでは、それが色んな面で一番安全だ」
こっそり話しが、聞こえてるのかしらって窺ってたら、レタルがいつもの口調で言う。
やっぱり、聞こえてるのね。
でも、それって? 安全て? なんなんだよ??
色んな面って? 私がユーノの『物』で何が守られるわけ?
全くもって分からない。
「ねぇユーノ?」
「何?」
「もしかして、今日はご機嫌さん?」
「何それ」
「小馬鹿な提案?」
そう。これはいつものノリの冗談だろう。
本気で怖がってもいないクセに、怯えるフリをしたり。本当は面倒なクセに親切な人を演じてみたり。
ユーノの本心はよく分からない。
「馬鹿にしててもいいさ。俺は本気だから」
私の期待を完全に裏切るように真剣な表情が痛い。
『本気だから』って、さらって言わないで欲しい。
くそまじめなレタルはともかく、ユーノも茶化すような素振りはない。
びっくりして、ドキドキしたり照れてる私がバカのようで‥‥なんなんだよぅ。
ゼンセンは簡単な集落って感じの建物がある。
基本は木で作ってあるんだろうけど。あ、いや。樹木に空いた空間を利用して建物っぽくしてるんだ。
枝と枝をうまく利用したり。蔓みたいなので固定されてたり。
今まで歩いていた、森とか荒野とは異質で、ロザリー達がいる城の周りの集落に似てる。
その集落に足を踏み入れた瞬間‥‥見られてる嫌な感じが色んな所に突き刺さる。
こんな感覚までそっくりだなんて、あんまり嬉しくない。
私という異質物、警戒なんて優しいものじゃない‥‥完全に敵意だと思うんだけど。
人だって気がつかれた結果の敵意なら、震えるぐらい怖い。
そうじゃないと信じて。好奇心的なモノでもやっぱり皆見ちゃうんだよね。
痛いイタイ。超痛い。
頭から足の先っぽまで、チクチクする嫌な感じ。
私ってばこんなに敏感だっけか?
この世界にきて、敵意や好奇の視線ってよくわかるようになった。
「森での戦い方しか知らない俺らは、ここで戦い方を学ぶんだ」
そんな私と意志疎通ができにくいらしいユーノは、暢気に場所の紹介だ。
そんなの結構どうでもいい。
周りのおめめを何とかしてくれよぅ。
こんなに穴が開くように見られたら、マジでぽっかり致命的な穴が開きそうで。
少しばかり心配になってしまう。
「皆、私って分かってるのかな」
「だろうね」
「だろうね!?」
答えて欲しい回答なんて彼の口からは出るとは思っていなかったが、完全肯定は、予想外すぎる。
いや、予想外何ていってる場合じゃなくて、『私=人間の姫』ってバレてるのが分かっているんだったら、逃げるか‥‥せめてもう少し焦ってくれよう。
「見たことない女の子がいる。たぶん彼女はお城から来た。って情報ぐらいは知ってるんじゃない。あ、レタル。俺ビズの所にカエデ連れていくからさ」
「任せた」
「カエデ。行くよ」
私の質問なぞ適当にあしらって、ユーノが手を引いて走り出そうとする。
色々適当だが、ユーノが受け取った『私』は『私=姫』ではないようだ。
それとちょいまって、レタルが「任せた」なんぞ言う今の会話はレタルとはここでお別れって話でしょうが。
「レタルさんと離れる必要がわかんないけど」
レタルが私に何かを教えるためここを選んだわけだから。自ら離れて行く必要は無いと思う。
「一緒にいる理由も少ない」
でもね。ってレタルは言う。
はぁ?
ここで何かとご享受してくれる予定とか無かったわけ?
そりゃ、四六時中一緒にいるのは難しい的な話をロザリーにはしてたけどさ。
その見捨て方は冷た過ぎるわよ。
「だってさ。隊長様は忙しいんだからちょっと解放してあげようぜ」
何いってるんだこのモフモフは!ってちょっと口に出かかったところで、違う疑問が飛び出した。
「レタルっ‥‥さんて隊長なんだ」
そう。その疑問。
ユーノは知らない事に驚いた様子で「あれ。知らなかったの?」って言う。
スイマセン。全く存じ上げませんでしたわ。
まぁね、獣の妖精さん達の話をまとめてくれたりする姿は、なんとなく偉い人なのかしらと思ってはいたけど。
ただの世話焼きのおっさんだって事もあり得るし、誰も何も言わないし。
今の、今まで知らなかったです。
はい。
「レタルは12組まである獣の組長の取りまとめをしてるんだよ。まあ実質は11人しか組長はいないんだけどさぁ‥‥」
さて、ユーノが話してくれた獣の妖精たちの軍隊の話。
長いから適当に省略すると、とりあえず兵士の固まりが12組あって、その組各々に組長が存在する。組ごとの役職とかはそれ事に独立してて統一性は無いらしい。それを指揮するのが隊長だって事。
昔、レタルはその中で11組の組長をしていたそうだ。で、先の戦争で前隊長が亡くなった後、王の補佐官が隊長にって決めたんだそうだ。
補佐官ってどっちだろう。多分、草のイケメンの方だと思うけど。シンジュはそんな仕事なんとなくしない気がする。
で、スライドする11組長は、今のとこ不在でレタルが両方兼務中なんだってさ。
兼務は知らないけど、新撰組で言う‥‥局長的な立場。
そう考えると、こう、レタルにちょっとときめいてしまう。
ただの「厳ついモフモフ」が「隊長様」って肩書きが付いたとたん素敵に思えるから権力って不思議だ。
そして、さっき話してた「ビズ」っていうのが、11組の二番手。レタルが居ない11組の実質組長的な妖精らしい。
「よう。ビズ~」
「お。ユーノ。久しぶりだな」
そんなちょっぴり偉い方に軽い口調で近づくユーノは一体何者なのかしらって思うよ。
「それ‥‥」
ただ、そのビズさんともう一人は、私の姿を確認すると不審そうな表情で言葉を止める。
「え。俺の彼女的な」
ユーノは相変わらず軽い口調のままさらりと彼女なんて言った。
「冗談だろ」
「ヤバいのか香ってるって思ってたら、お前が‥‥」
違うって否定する間もなく血相変えて二人はユーノに言葉を続ける。
そりゃユーノに彼女がいるのはおかしいかも知れない。でも、そんなに青い顔して真偽を確かめる必要ってあるのかなって思う。
あれか? 俺に彼女がいないのにユーノにいるわけがない的な。
実際は違うから彼らの望みのまんまだけど、それが本気ならかなり引く‥‥。
「もう。妬くなって。そこまで言うんだし、素性はもうわかってるだろ」
「いや。え。はぁ? 本気なのか」
「見た目はそんなに感じないけど、むしろそこが魅力的でしょうが。こうね」
「悪趣味すぎる」
何を会話してるのかさっぱり分かんないんだけど、私の事をよく思ってない印象がして居心地が悪い。
素性とか聞こえてくると、人間だってバレちゃったのかと、とても怖い。
無意識に首の毛皮を押さえつけるように、握りしめてしまう。
ユーノや、レタルなんかはまだ友好的だと思う。
でも、それはロザリーが居て、彼の妃だからって扱いに過ぎない。
そんな二人が、人間てバレたら守れないって散々脅すんだもん‥‥。怖いのは正しい生理的現象だよ。
「ほら。異常に思ってるのは俺だけじゃないって」
ビズさんがユーノの後ろを顎でさす。ユーノと一緒に振り返ったら、厳つい系の獣の妖精がわらわら集まってきていた。
こう、野次馬的ではなく。敵意剥き出しな視線がユーノに集まっていた。
中には私に向けられた、嫌な感じの物もあるけど。
「えー。視野狭いなあ。俺が連れ歩いてもおかしくないでしょ」
「いや、普通におかしい」
即答するビズさんの言葉に、オーバーなため息をつく。小声で「しょうがないか」と吐き出すと相手に向かって歩き出した。
「レタルが居なくなったからさ、カエデが目立っちゃったみたい。話つけてくるからさ、ビズの側に居てよ」
振り向きざまに手を振って笑顔を向ける。
あんな怖そうな人にユーノ一人で大丈夫なのかしら。
なんとなく死亡フラグに聞こえる言葉が少し不安だ。
「何。なんか文句あるわけ?」
「誰に返せばいいんだ」
「誰って‥‥解んないの? 話にならないから。まぁ、返すってのは言葉として変だし、正解もないけどね」
「自分のしたことの罪は理解してないみたいだな」
「本人の意思だし。罪に問われる筋合いはないけど」
ユーノと相手が刺々しい会話を始めた。
意味は全く分かんないんだけど、ユーノを攻めてる内容だ。
でもユーノは悪いとは認めない。ユーノが正しいとすれば、俗にいう『因縁』だ。
えぇ。ユーノが悪くても因縁でよかったのかしら。
「開き直るな!」
そう言った相手が、言葉と同時に斬りつけてきた。
ユーノは攻撃を避けるため、飛び上がる反動を利用して前方に上腿を傾ける。着地するのは足ではなく地面についた手。それを軸に更に前方に回転する。要はオーバーな側転だ。
くるっと回る足が、普通に蹴飛ばすよりも重いはずだ。
その遠心力と体重がかかった足を、相手の手元に叩き落とす。
「先に手を出したのそっちだからね」
ユーノに反撃された相手は得物を落とし、攻撃された部位を押さえた。
逆に、周りは鞘から刃物を抜き出し、戦闘体制に入る。
「俺弱いのに、こんなに団体で襲うわけ?」
ユーノってば、さっきのは偶然対処できたとして、こんなに沢山で襲ってきたら絶対無理に違いない。
「助けに行かないの?」
「ユーノなら大丈夫だ」
「俺ってば力不足だから。ビズ手伝わない?」
「自分が撒いたんだろ。それに俺までやられるのがわかってる場所に加勢なんぞするか」
力不足でやられるのがわかってて見棄てるなんて、ちょっとこの人神経疑うわ。
さっき、ユーノなら大丈夫だって言ったことと矛盾してるじゃない。
丸腰のユーノに多勢な武器。
やられるのをただ見守れだなんて、おかしな話だ。
でも、
私がそれに加わってユーノを助ける事が出来るだろうか。
相手を傷つけないで話を終わらせる事が出来るだろうか。
刀を握りしめ、加勢に行くべきだと悩んでいると、ビズさんが首を振った。
‥‥行くなということ。
組の二番手なポジションって運動部でいえば、副部長でしょ。副部長が簡単に見棄てる提案でおかしくないわけ?
ビズとちょっとのやり取りに、ユーノから少し目を離した間に、始まってしまった。
気がつけば、回転しながら攻撃を避け。遠心力を上乗せした足技。
ユーノの言う、力不足はこうやって補われるが、それってばどれぐらい彼に有利に働いてるのだろう。
「さて、敵意のある武器はこんなもんかな」
気がつくとユーノが後ろにいる。両手には七本のナイフやら剣やら‥‥あれって、あれ?
今、因縁つけてる回りの獣が持ってた武器だ。
彼らは、ユーノに武器をとりあげられて、手ぶらになってた。手首を押さえてるのもいるから、叩き落としたとかしたのかしら。
「お前、俺は敵意ないだろうが」
ビズさんの言葉からして、ユーノの手元にある刃物は彼のものも含まれているのだろう。
「えー。敵意ムンムン〜」
笑顔で、軽くそう言うとユーノは得物をくるくるっと全部宙に投げる。
サーカスの曲芸師のように、ナイフはユーノの回りでくるくる回り続けた。
「悪いな、借りるぜ」
「お前、二本で十分だろ」
「イイトコ見せたいんだよ。雄として。でも、取れるなら返してあげるよ」
その軽口を叩いてる間もナイフ達は宙でくるくる。
なにこれ、魔法?
浮いたまま回転してるように見えるのは気のせいかしら。
「カエデ。ちょっと待っててね」
ユーノはにっこりそう言うと、敵意剥き出し獣達に走っていった。
動いてもナイフは宙を回ってついて回る。
「あの妙な回転だ」
ビズが言う妙な回転。相手の攻撃を避けるようにユーノ自身もスケートの選手のように回転して相手の回りをくるくると。その間ナイフ達はユーノと一緒に宙をまわったまま。
「動きが無駄だと思うんだけどな」
ただ‥‥ただ回転して相手の攻撃を避けてるだけなのに、相手の皮膚や衣服が切れる。
横を通り過ぎたら、音もなく皮膚から血が吹く。衣服が切れる。側面を押えて蹲る。
ただ、ユーノが通り過ぎただけ。
目で見つけられない音と悲鳴が、遠くから遅れてやってくる。
「もしかして、あの武器。使ってるの?」
視覚と聴覚が違和感を訴え、脳が無理やり導き出した答え。そうとしか考えられずビズさんに質問した。
「らしいぜ、俺は掴んで離す瞬間ぐらいしか見えないが」
相手から武器を回収した瞬間もわからず、その武器を使う瞬間さえ見えない。
彼の動きは見ているんだけど、全く目で追えない。
なんて早さだろう‥‥。
「滅多に手の内見せないのに、ここまでサービスしてるんだ。あんたはあいつの物ってのは本気だな」
「え。いや」
そこの所、まだ誤解中か。早く正さないと。
「こんなに花の臭いがするのに、正気じゃねーけどな」
「花の匂い‥‥?」
って、思い当たるのはロザリーの香り。
でも、そんな意識しても全くあの香りはしないと思う。
むしろ、獣の匂いと汗臭さだけだ。
「本人は気づいてないってか、麻痺してんだな。かわいそうに、お手付きだって分かる位はしてるぜ。じゃなきゃあいつらが構ってくるもんか」
お手付き‥‥って。
残ってるとして、この匂いは自分で好んで着けてもらったんだけど‥‥周りにはそういうつもりで見られてたのね。
「終わった。終わった〜」
ユーノが帰ってくると、相手は切り傷だらけになって座り込んでいた。
「やり過ぎだろう」
この結果は大体予想していたようで、無反応の相手を見てあきれたようにユーノに、ビズさんは言った。
「無傷で大人しくさせるなんて無理。俺ってば弱いんだからいいの」
「ユーノ‥‥」
「黙らせてきたよ。カエデ。見てた〜俺の勇姿。素敵でしょ」
回してた武器を投げつけて返却する。刃物たちは、持ち主の数センチ隣の地面に突き刺さった。
「俺の武器までなげつけんじゃねー」
被害者のビズさんが怒鳴る横で、それなんか気にしてられない私はユーノの手を掴む。
「ユーノ? 今のどうやってたの」
「え。気になる?」
ええ。気になりますとも。
「本当は教えないけど、サービスね」
慌てる素振りでユーノは私の手を離すと、ナイフを持っているような手つきで宙に架空の刃物を投げた。
「落ちてくる位に〜」
右手は後ろで、左手は頭上で武器を掴むと、そのまま回転して、また武器を投げたと思ったら、直ぐにしゃがみこんで、両手で体を支えると両足を揃えて蹴りあげる。
その反動で起き上がるとまた武器を取って回転して斬りつけて投げる。
な・ん・て動きを、分かる早さでやってくれた。
「これホントにやってるなら、何で武器を投げるのよ」
「え。だって、両手使って足技かけたりするときに武器もってたら、じゃまじゃん」
確かに実演してくれた動きの中には両手を足の変わりに軸にして蹴りあげる仕草とか、両足を回した遠心力みたいな力で立ち上がる場面があった。
彼の言う通り、刃物持ってたらバランスが安定しなくて威力が減ったりするのかもしれない。
ただ、体を回転させて刃物自体に遠心力を加算するだけでも、威力を増やすには十分だと思うんだけど。
ユーノにしたら足の方がお気に入りみたい。
「ホントにやってるなら。すごいね」
冷たく聞こえちゃうけど、私はそれを見ていない。
今、ゆっくりした動きが目におえない早さで行われてるなんて想像もつかない。
仮に、してた、と・して、立ち上がれないほど威力があるものとは思えない。
「いや。あー俺に惚れちゃう?」
「前言撤回。ホントにやってても尊敬なんかしないわ。それに、ナイフを回転させて投げる効率がさっぱり説明されてないわ」
「効率ねぇ。姫はめんどくさいな‥‥」
「ちょ‥‥」
こんな所で、姫だってばらしてどうするんだよ。
「ヒメ?」
あー。ほら、ビズさんが気にして聞き返す。
適当に言い訳するわけにも、墓穴ほっちゃいそうで、悩むし。どうしたらいいんだろ。
「あー。気にするな。お育ちの良いお姫様って意味」
「樹木に寵愛されてんだから、そうだな。でも、あいつの前では『ヒメ』なんて言ったらヤバイぜ。気を付けろよ」
「あいつ?」
「舞台の唯一の雌。売れ残りのお姫様だ」
「まだいるのか。とうに、誰かの子供産んで引退したって思ってたのに‥‥ちょうどいいや」
「なにが、ちょうどいいんだよ」
「カエデの面倒見てもらおうかなって。」
ユーノは意地悪な笑顔で私を見た。
凄く嫌な感じの笑顔だ。
面倒って‥‥なんなのよ。
長らくお待たせしました。
コンバンワ。作者です。
いやーん。更新は開いてるのですが、本人は毎日こそこそと修正をしていた今回です。
全然進まないww
王様推しの話はさくさくーって行ったのですが。(あ、エクストラ。たくさんの方読んでいただいた様でありがたいです)
なので、今回はエクストラ残して(自分のため)割込み稿してます。
もし、万が一。ありえないと思うんですけど。
ブクマしてらっしゃったらごめんなさい。
それでは又、次稿まで。




