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たとえ自分の物でなくとも 5

* * *


振りかぶりながら木から飛び降り、獲物に振り下ろした瞬間、終わったと気を抜いたのかもしれない。

鋼同士が当たる金属音がして、逆方向の力に清は吹き飛ばされる。

着地時の重心を後の足にかけ、倒れるのは防いだが、相手から離れた位置にやられてしまった。

仕掛けた相手、道雪は清の重力が力に加算された攻撃をあっさりと打ち返す。


「奇襲とは‥‥」


道雪は自分の背より長い刀を逆手で持ち相手をにらみつけた。


「他人の陣地で殺気を振り撒いてその言葉か」


上部からの襲撃。卑怯は元より承知である。

不意討ちを難なく返し、あの動かすのが困難そうな長刀を易々と向けられ、不名誉に恥じがトッピングされている。今更だと清は相手の言葉を意識から無視した。


「ご挨拶だなぁ。平和的にお話にきただけなのに‥‥」

「平和的ね‥‥あんなに血の香りを漂わせて」


清の耳にシンジュの呟く声が入り込む。

道雪は着衣の一部を赤く染めていた。不快な主人の言葉は、それを指しているのだと気がつく。


「その傷、弊害になる?」

「問題はござらん」

「でも、森で問題を起こすのは不味いんだけど」

「仕掛けてきたのは。あちらだ」

「だよねぇ」


距離があったとしても、道雪の刀の間合いには充分足りていて、清は安易に近付く事が出来ずにいた。

離れたままだが、殺気が空気を震わせて近づいてくる。

気を抜けば、切り裂かれる。

睨み付けていても何も変わらない。ならば、あえて切り裂かれようか――――


「生きて森から帰れると思うなよ」


悪役の様な言葉を吐きつけ、真っ正面から相手に向かい刀を突き出す。狙うのは負傷していると思われる部分の右斜め上。避けるにしても、防ぐにしても、そこの筋肉は確実に機能する場所。

表情は変えなかったが、動作は清の思惑通り鈍く、隙が出来た。ほんの少しだが‥‥

道雪の攻撃を、予定の箇所に受け止める。

相手に刀を引き戻される、少しの時間に、逆手で持った刀を相手のそれに這わせ利き腕をかすらせた。


「わざと‥‥斬らせたように見えたが」

「気のせいだ」


双方ともに片手を負傷した状況だ。だが、清には奴隷契約の力があり、これぐらいは負傷したうちに入らない。

自身でも卑怯だと認識するが、今、自分に与えられている『仕事』は彼等の排除。黒髪の従者の殺害ではない。排除=殺害となるのであれば、面倒なことを考えずに間合いに飛び込んで斬りつけよう、だが、不意討ちで頭の上から飛びかかられても安易に返し、殺気を放ちながら構える相手に食らいつこうとすれば、本気で命を奪いに行かねばならない。

こんな場所で、命を無くすほどの出血などさせてはいけないのだ。

逃げるように見えたとしても、誘うように見えたとしても、出血している従者を主人から引き剥がさないとシンジュは姿を現すこともできない。だから、従者を引き付けるように押し付け、誘うように逃げ出す。



「主人を放置して逃げる相手を追いかけるだなんて、やっぱり好戦的だよ」


道雪は、逃げ出す清を追いかけて行き、置き去りにされた男は満足そうに笑う。


「守ってくれるものがいなくなったのに、余裕だよね」


その姿に隠れていたシンジュが声をかけた。相手には姿を見せないで声だけが響く。

男は驚きはしないもの、声の主は誰かと周りを探すが‥‥彼はシンジュの姿を見つけることはできない。

どうせ自分の姿は見られているのだから、明後日の方向を見て話をして、相手にバカにされるのも面白くない。だから、あえて背中を向ける。


「うん。だって。僕は強いんだ」


今、出てきた城の方向を向くと目につくナイフ。

言葉を吐きながら、投げ棄てたナイフを拾い上げ軽く武装する。

ナイフには道雪の血がほんの少しついており、その手を汚した。


「妖精は綺麗な姿をしてるって言うね。声からするととても美しい女性のようだけど‥‥姿は見せてくれないのかな?」

「丸腰ならともかく、そんな刃物を持ってる人間なんて恐ろしくて」


シンジュの計算は簡単に崩された。

樹木の妖精を見た人間は簡単に魅了される。詩か香りで動きを縛り、じわじわと命を奪う‥‥予定だった。

何の用かわからないが城から男が出てくる。すぐ側には黒髪の人間――――すぐ異常に気がついた。

この男。無事に森から出すのは、今後のロザリンドのために良くない。そう思って直接手を下そうと考えたのだが、黒髪の男から香る血の臭い。

広い空間では香りは拡散されるため手が触れる側まで近付く必要がある。詩では命を奪うことはできない。清を使い、怪我をしている男は排除した。

だが、それを刺したと思われるナイフが側にあったのは大誤算だ。


「じゃあ、丸腰なら姿を見せてくれるかな」

「姿を見せる必要はないかな。何か仕出かさないように見張ってるだけだもの」


ナイフを捨てたからといって血の香りはなくならない。

実行できないなら姿を見せる事は意味がない。


「残念。黒い悪魔さんはそうじゃないみたいだけどね」

「害がないのなら、直ぐに解放して戻ってくるよ」


とりあえず清を元に戻そうと思う。黒髪は何故か強い。今までの被害者もあの子も、闘うことには秀でていて、その中でも清は特に強い。相手が黒髪であったとしても、さすがにもう終わっているだろう。

だがしかし、この人間はなぜ黒髪を従えているのか?と疑問は生じるが、清が止めをさせば気にすることはない。


「害意の審査ですか、それは、居なくなった姫のせいかな」

「‥‥さぁね」


居なくなった姫という言葉にシンジュは少し驚いた。

この男とロザリンドのやり取りはシンジュは知らない。たどり着く結論は、家出した楓ではなく、行方不明のカースティ。

あの女の何を知っていて、どこまでを引き出そうとしているのかは分からない。要らないことを知る前に、計画どおり進めるか‥‥知っている事を聞き出すべきか少し悩む。



* * *



清の思惑どおり長い刀の男は追いかけてきた。


縦に横にと攻められる刀の軌道を反らして後ろに飛ぶ。この動きは、彼女の演武から学んだもの。稽古をつけるといって自分が教えられていたらしい。

空を舞う紙切れのようにひらひらかわす姿に苛立ちを覚え、道雪は間合いを取ると空間を切り裂く様に真横に斬りさいた。

衝撃波が発生するように、受ける清側は離れていても手や衣服を傷つける。

長い刀のせいかと舌打ちし、後ろに仰け反るのではなく身を屈めることでそれを避ける。

飛び上がり、後退しながら常に適度な空間を作っていた行為が妨げられ、清の後退する速度が鈍くなり、道雪が進む速度で二人の距離は狭くなっていく。


一気に間合いをとられると問題だなと下がりつつ隙を探すが‥‥



そんな時、無性に先程の場所に帰りたくなった。

これは、清の意思ではない。おそらく、その場でシンジュが呼んでいるのだろうと思う。

奴隷契約は主人に逆らうことが出来ない。ロザリンドと楓は、望まない願い事などという可愛らしい検証をしていたが、シンジュはこちらを利用して清に行くべき場所の指示をしているのだ。


「このままでは不利だな。素直に従うか」


縮められる間合いに危険を悟ると、シンジュの選択に従う。

身を屈めたまま、相手に近付くと突き抜ける様に斬りぬけ、今来た方向へ走り出す。

狙ったのは脹ら脛の部分。長い刀であるからこそ、攻撃をした後では防げない部分だと知っている。


「先程から卑怯な技ばかり。しかも、また、逃げるのか!」


道雪が当然の侮蔑をぶつけるが、振り返らず逃げ出す。挑発にのって振り返ればもとの場所まで帰れるとは思わなかった。



* * *



「えー黒髪つれてきちゃったの?」


あんな短時間でなんとかできるかとシンジュのその声に思いはするが口には出さず。


「お帰り。無害だって証明されたんだね」

「?」


主人とシンジュのやり取りを知らない道雪は、笑顔でかけられる言葉を疑問に思う。


「あの、黒髪の青年は、黒い悪魔って呼ばれる森の妖精側の戦士様なんだよ。それは残虐非道で‥‥無表情で命乞いすら聞かないって専ら噂だ。今聞いた話だけど、そんな彼は、君を試すため連れ出して、無害だから帰ってきた。らしいよ」

「なんだそれは」


道雪が口にした疑問を、清も心の中で呟いた。


シンジュは男に何を吹き込んだのか。そもそも、殺すつもりでなかったのか?

真意は全く分からない。

分からないが‥‥それをシンジュにたずねるほど清はこの行為に意味を感じていない。

別に戦う事が好きなわけではない。

特に森を守ろうだと意気込んでいるわけではない。

指示があるから障害物を排除する。


ただそれだけ。




そのまま、二人が五体満足で森から出ていくのを、何もせず見送る事になる。

それが、吉とでるか‥‥処分しておかないで後々後悔するのか。

小さくなっていく二人の姿にシンジュは頭を悩ませた。


彼は‥‥姫の何を知っているのだろう。






◇ ◇ ◇




「望まなければ良いのに‥‥」


うっかり口に出してしまった言葉。

制約があるから否定的な言葉を出さないように、気を付けていたのに。

こんなのだから、彼女は、側から逃げ出そうとするのだろう。



カエデ‥‥

名前を教えてもらえただけで、ほんの少し近付いたのかと調子づいていたのかもしれない。



今、目の前で静かに眠る楓を見て、ロザリンドは自身を攻めた。


眠っていれば、何も言わないし、何も選択しない。


「このまま、目が覚めなければ僕は悩まなくていいのに」


この言葉を吐き出したのは、つい先日だ。自分でも言った事を覚えてなくて、何日も目覚めない彼女に悩まされた。

結局、起きてても、寝ていてもロザリンドを悩ますのは変わらない。

なら、表情を自由に変える姿を見て悩む方が得策だろう。







「でもね‥‥

 あなたが傷付くって分かっていて、止められない僕に存在意義はあるのかな‥‥」





握ろうとした手は、反応はなく‥‥ロザリンドはただ重ねる。






◇ ◇ ◇


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【××× A good child, so do not imitate ×××】
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