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大切なはじめのコト 5





確かに名前は知らない。



それは、今まで名前など呼ばなくても事が足りるからだ。


第三者がいる場所で本当の名前を呼ぶ必要はない、むしろ呼ぶ訳にはいかない。

それに彼女は、手を伸ばせばすぐ側にいる。


側で笑っている。



「名前を知らない理由にはならないか‥‥」



シンジュのいうとおり、たまに錯覚を起こすが、それは失礼だと自覚してる。

でも彼女は彼女だ。


彼女の仕草や態度に惹かれているのは、彼女だからだ。

その笑顔を守ってあげたいと思うのは彼女だからだ。


姫は自分に笑わない。

あの姿で笑ってくれるのは、彼女だけ。



「そういえば、遅いな‥‥」

「何が?」


不意に漏らしてしまった言葉に、ロザリンドは問われて、にらみ、一瞬言葉を閉ざす。


「私の神経を蝕む、お前には関係ない」

「またまた〜。嬉しい癖に」

「‥‥‥‥」


シンジュの言葉をロザリンドは聞かなかったことにして視線を遠くへ向ける。


入り口には自分が立っていた、出入りがあればすぐに分かるはず。

もし、気がつかなくても、目の届く位置には自分の姿はあったはずだ。

見失って、どこか遠くへ行くはずもない‥‥。


「もしかしてお姫様待ってるの」

「お前には関係ない」


目は口ほどに物を言う‥‥、関係ないとは言いながら、視線は彼女の部屋に釘付けだ。

虐待されて腹をすかせた子供が親の背中を見つめるように、不安と期待を混ぜた瞳で凝視する。



----この王様は、まだ少し彼女と距離を置いているようだ。

遠慮している、といえば聞こえはいいが、ただ臆病に様子を伺いながら進んでいるだけ。

もしかしたら後退しているのかもしれないのに、臆病者は事実まで監視する余裕はない。

なかなか出てこない彼女も、出るタイミングを伺って悩んでいるのではないかとシンジュは思う。


二人がどちらとも踏み出さなければ離れた距離はそのまま‥‥

今のこの状況だと日が暮れるまでここで待ちぼうけだ。



「関係あるよぅ。一緒にお名前聞いてあげるからさ」

「や。やめろ!」


焦るロザリンドの制止など全く気にせず押し開けた扉。



扉を開けると、先程出ていったため当たり前なのだが、部屋に彼女の姿はない。

室内にいると思い込んでいた二人は、つい最近の出来事を思いだし青ざめた。



「また‥‥居なくなった?」


そう簡単に、何度も同じことがあるかと、部屋の主が隠れていないかと問いかける。


「お姫様~。まだ支度中だった‥‥?」


声の大きさは自信の大きさ‥‥彼女がこの部屋に居る可能性はシンジュの中では皆無である。

だが、ロザリンドの神経に障らぬように彼女を探す。

外に王を待たせて、準備をしているのだ‥‥思いのほか悩んでいる中、乱入されて慌てて隠れる。

女の子ならそんな出来事があってもおかしくない。


「まあ‥‥あの子に関してはそんなイメージ全く無いけどね」


どちらかといえば、慌てて押し出すか開き直って「なあに」とか言ってそうだと想像する。

どちらにせよ、なにぶん平和な情景だ。

そんな彼女はどこへ行ったのか‥‥考えてみるが全く思いつかない。





「も~。いい加減にしてよ!!」


外から聞こえる彼女の声。

その高く大きな声に二人は驚き窓枠に駆け寄った。


「本気で心配したんだから!!」

「あれは俺のせいじゃないって」


枝葉が茂り、ここからは姿は見えないが、下の庭に彼女はいるらしい。

誰かと言い争っているようだ。


聞いたことある声に、ロザリンドとシンジュは記憶の中を探す。


「ロザリンド。見えないから、ちょっと退かしてよ」


シンジュが言うと、枝が少し左方向に動く。

庭の木々はロザリンドの体の一部。彼が思うだけで自由に動かせる。


庭への視界が広がると、二人に彼女と清の姿が見えた。


「なんでかな? セイ君と一緒に居るし」


とたんにシンジュは不機嫌な声をだす。


「お前が、ちゃんと捉えておかないからだ」


更に上乗せされた不機嫌な声がシンジュに返された。




苛立ちを声に乗せてぶつけるのは、八つ当たりだと分かっている。

しかし、部屋の外で待っている自分を放置しておいて、庭で誰かと居るのはどうだろう。

自分以外の人物と楽しそうに会話をしているのは、どうなのだ!!


しかも、神原清が彼女にまとわりつく。


無事だったことよりも、見つかった安堵よりも沸き立つ嫉妬。

彼女が庭で話している相手に対しての怒り。


「ちょっ。ロザリンド!」


苛立ちが汗腺からオーラとなり染みでているロザリンドは、そのまま窓から庭に飛び出していた。

シンジュの制止は遅く、勝手知ったる我が体‥‥木々が動き回り、ロザリンドは無傷で目的の箇所に送り届けられた。


上でシンジュが安堵するが、下の三人は突如上から現れた王の姿に驚き絶句していた。


彼女と神原清と、ユーノである。



王の嫉妬の対象は、鼬の妖精。


「ユーノ? 今日は何のようだったかな?」

「‥‥どうも。王」


木々だらけで座り込む獣の妖精に笑顔で丁寧な言葉をかける。


「彼女の部屋に窓から入り込む必要性を説明してもらおうか」

「何でそれを知って‥‥」

「彼女を外敵から守るための罠である私の木々にやられたんだろ? 体は痛むだろ、向こうで手当てをさせよう」


笑顔を崩さず続けられる言葉にユーノは怯えた。

顔は笑顔だが、眼差しは笑っていない‥‥さらに漂うロザリンドの香りが嗅覚から警告を伝えていた。


「痛みは‥‥ないです」

「遠慮するな」


座り込む地面の脇から枝葉が伸びてユーノに絡み付く。

驚いたユーノが抵抗する間もなく縛り上げるようにそれらは巻き付くと、彼をどこかへ連れていってしまった。


「ロザ‥‥王。違うの、ユーノは私が招き入れたのよ」

「窓から入ろうとした事実は変わらない。招き入れるにあたっては、そこまで辿り着いた、その後の事。あなたは関係ない」


ロザリンドは、彼女の態度に苛立っていた。

青ざめた表情でユーノを庇う。声のトーンから嘘を言っている様子も無い。

確かに、彼女に一因はあるとは理解するが、そもそもユーノがそこに居なければ結果はこうなってない。


視線を反らし、うつむいてしまう彼女の表情に、伝えた言葉が厳しかったかと少し心の中で反省する。




「そんなことよりも‥‥」


気がつけば、視界に黒い男が入り込む。

偶然の立ち位置だったのか、彼が意識しているのかは分からないが、ロザリンドの視界には、まず彼が入りその向こう側に彼女が居る。


神原清は、目障りだ。


もともとは存在すら気にしなかった彼が障るのは彼女が現れてから。

彼を気にするのは、彼女を自分の元に置いておきたいからだ。



「‥‥帰るよ?」



先に、視界に入る男など気にせず、うつむいたままの彼女に問う。





そう‥‥このタイミングだ。ここで固有名詞がなければ、言葉として乱暴である。

名前が初めて必要だと知った。




それは、心が離れてしまった証拠ではないと信じたい。

固有名詞がなければ、通じないなどと思いたくない。





こんなに側にいるのだから、声は聞いているのだろう。乱暴な言葉でも不安な表情のまま、彼女はロザリンドの方を見上げた。

その不安な眼差しが迷わないよう、此方に来やすいように、彼女に向けて手を差し出す。



いつものように‥‥。




ゆっくり手を出す彼女を遮るように‥‥神原清が前に立った。



何故彼は邪魔をするのか、彼女の行動を遮る権利があるのか。

何も言わず、彼女とロザリンドのつながりを絶とうとする。

これは偶然ではない‥‥、彼の意思で立ちふさがっている。

その視線は心配そうに彼女へ向けられていた。



「セイ。大丈夫」

「構わないのか」

「みられちゃったから、隠してもしょうがないよ」

「あんたが良いならいいが」

「ありがとう。耐えれるよ。もうちゃんと戻ったから」


意味深な言葉を交わして、彼女はロザリンドの元に戻ってくる。

神原清を押し退けて、差し出された手に止まる。


逃げ出した鳥が枝樹に戻ってきたのを確認すると、障害から隔離するため、手を引いて歩き出した。

当然引いても抵抗しない彼女だが、表情は沈んだまま。

神原清は追いかけて奪いにくる様子はない。


彼を、うっかり殺してしまいそうになった憎しみを気づかれないように、心の奥底にしまい込む。

香りで気づかれたかもしれないが、こんな黒い想い、恥ずかしくて‥‥できることならば知られたくない。




元々の原因は‥‥心配そうな眼差し。

何に耐えれるのか、何が大丈夫なのか聞くべきか悩むが‥‥


「あ。あの‥‥」

「なぁに?」


涙で腫らした瞼、微かに濡れ雫をつけている睫毛。

何かに心を痛め、こっそり泣いていたのだと推測する。

その理由は聞ける心情ではない。

「どうしたの」って言えば済む話なのだが何故だが聞けない。

ただ、声をかけただけって流すのもおかしい話である‥‥。



思い付いたのはさっき神原清から取り戻す時に悩んだ事。

シンジュにも言われたあの事。


「今更だけど。僕はあなたの名前って知らなくて」


言ってから、しまったと気づく。

事実だが、名前を知らないとは、このタイミングで言うことだろうか。

「どうしたの」より選択してはいけない言葉だ。

また、傷つけてしまうかもしれない。


「さっきだって。名前がわからないから‥‥冷たい言い方になってしまって」


言い訳が墓穴となっているのは自覚するが、良い言葉が思い付かず。口も閉ざせない。


暗い表情から驚いた顔に変わり、次に悲壮が覆うその前に打ち消す言葉をかけなければと心中で悩むが頭の中には回答はない。







「冷たいだなんて、そんなの。気にしなくて良いのに」



ロザリンドの不安とは別に、その言葉に彼女は笑顔で答えた。





「私。楓って言うのよ」










 はい。コンバンワ。

 いつも読んでくださりどうもありがとうございます~。


 知らない間にお気に入りが増えていて‥‥ちょっと驚きなワタクシです。

 いやぁ。50ptぐらいになったら、何か投下しようかなぁと某作者様のように番外編を考えてたのですが~♪

 作成を待たず超えてしまいました。ありがとうございますw

 基準値はもう少し高めに設定して、その時に割り込み番外編入れようと思うのです。



 さてさて、今回やっとこさ名前関係のお話が書けましたよう~。

 感想にもいただいてたので早く早くとは思っていたのですが、ちょっとたどり着くのに長かったです。

 お待たせしました、これであなたの疑問は解決ね。

 



 名前って大切です。

 でも、話の中で、私はなんとかかんとか~って自己紹介するくだりって何か書きたくないです。読んでる方は冷めちゃうきがするのは、ワタクシだけなのでしょうか‥‥。

 そんなかわいそうな被害を受けて、楓さんは今まで名無しであったわけですねw

 

  


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【××× A good child, so do not imitate ×××】
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