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手のひらの花びら 3

◇ ◇ ◇


沈黙に耐えきれなくなり、ロザリンドは部屋を出た。


カースティ姫が嫌々この国に送り込まれたのは、その表情を見れば明らかだった。

全てを見下す目、まるで触れることが罪のように蔑む態度、誰も側に寄るなと体全体から発する。

奴隷として見下して、侵略者として人間を見ている妖精達は元々距離を置いていたため、そんな態度であろうとも何も影響はない。

だが、夫のロザリンドに対しては側にいる分、直接、姫の憎しみはぶつけられた。

彼も放置していれば良かったのだが、自分が条件に出した被害者である姫を一人にしておく事はできなかった。

自分が彼女を選んだのだ。こんな場所で孤独に包まって壊れて欲しくない。そんな願いは届かず、今にいたるわけだが。


そんな、姫と同じ顔で彼女は自分と楽しそうに話をする。見たことのない笑顔、思ってもみなかった現実に錯覚した。願ってた姫の姿に心が癒されたと言ってしまっても間違いじゃない。

でも、彼女は姫ではなく、今日はじめて会った他人だ。

誰かが世界の輪を乱し、存在することのない世界から取り出した異物な存在。

自分が望んだ姫ではないのだ。


思考の中、廊下を歩いていると、会いたくない顔の一つが前方から向かってくる。


「ロザリンド機嫌悪そうだね〜」


軽い調子で声をかけてくるシンジュを居ないと判断し、ロザリンドは前を進む。


「あーれー?お姫様と何かあったかな」


聞きたくないときに、会話したくない話題をふってくる男に「別に問題はない」と返す。


「ってか、さっき〜うちのセイ君と故郷の話を仲良くしてたんだけど、知ってる?」


そして先程の話だ。

ロザリンドは彼女を彼に会わせた事を後悔していた。

神原清は、5年ほど前に現れた奴隷召喚の被害者だ。戦争の原因となったとされる奴隷召喚の技術を封印して何百年。今ではその方法を知ってる妖精は誰も居ないはずだ。

しかし、彼は日本という世界から見たこともない武器を持って現れた。はじめこそは何とも出来なかったが、今では戦闘では貴重な戦力だ。コミュニケーションは上手くいってるとは言えないが、少なくとも、シンジュとの主従関係は何とか成り立ってる。


「彼女から聞いた。それが、何か?」

「彼女かわいいよね〜お姫様よりいいんじゃない」


それを気にして話題にしないようにはぐらかせているのに、シンジュは無神経に入り込む。


「そう言えば、お前の香りに私は殺意を感じたが」


彼女から微かに香った自分以外の植物の香り。嫌みで言ってるわけではなく、青い顔で話す彼女の不安の原因だと気がついた瞬間。

相手に殺意をもったのは本当の話。


「あ。怒った?やだ、怖い。ロザリンドったら、ラフレシアみたいな香りになってるよ。

 ほら~あそこで誰か気絶してるし。王なんだから感情は押さえないと。香りじゃなくて臭気になってるよ」

「誰が乱してるんだ」


植物の妖精はその名の通り植物の化身だ。

体全体から無意識に香りたつ、花や樹木の香りを意識して押さえ込んでいる。

それでも無臭というわけには行かなくて、長時間傍にいると強い香りが相手につく。妖精一人ひとりが特殊な香りを持っていて、王と呼ばれるロザリンドとその母は気をつけなければ、命を奪うことが出来るぐらい凶悪な香りを放っていた。


「僕もくらくらしちゃう」

「気絶して永劫目覚めるな。そのほうが彼女も‥‥」


彼女も‥‥安心するだろう

‥‥か?

シンジュ一人が消えてなくなったとしても、不安な瞳の対象は自分も含めてではないだろうかとロザリンドは悩む。


「ん?やっぱり何かあったね。前のお姫様の時みたいに、暴走するまえに僕に話してよね」

「私の意志を暴走というのか‥‥」

「そりゃまぁ‥‥ね」


ロザリンドの見た目は少年だ。

だが、ついこの間までは倍ぐらいの身長のある青年だった。シンジュの頭一つ分ぐらい背が高かったかなと思い出す。


「私は若い男の子が大好きなの。私の望みを叶えてくれるなら、若返ってみなさいよ!!

 出来もしないくせに」


カースティ姫はロザリンドに無理難題を押し付けていた。

姫の言うように『若返る』ことは通常出来ない。

幹を伸ばして葉を茂らせる樹木には、必要がないからだ。

必要であれば出来る事もある。

病気で枯れてしまった部分を切断し、残った部分で再生する方法だ。

ロザリンドは、この方法で少年の姿になった。

当然周りから何があったのだと騒がれ。同株の母からは「病気なのか」と問い詰められたりした。

姫の望みを叶えてみたのだけれど、与えられたのは「化け物!!」の一言だけだった。


「暴走以外なんとも言えないだろう~。なのに報われないわけだし」

「あの時と同じで相談したとしても結論は変わらない。だから無駄な事はしない」

「ロザリンドはつれないなぁ」

「‥‥」

「無視されると構いたくなるんだよ~」


それ以上は意地でも口を開くかと、最初の頃のように無視を決め込んだロザリンドの後を楽しそうにシンジュはついて行く。

ロザリンドには気づかれないように、彼の強い匂いを打ち消す香りを放って‥‥。


◇ ◇ ◇

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【××× A good child, so do not imitate ×××】
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