大切なはじめのコト 3
「ねぇ。その時に庇ってくれた姫に恋したの?」
妖精達は手段の為に、姫が必要である。
でもロザリーはカースティさんって、女の子が違う意味で大切だ。
たまに見せてくれる、切ない表情は確実な恋する乙女である。
男の子捕まえて、恋する乙女ってのは間違いなんだけど‥‥
さっきの話だと、ときめく要素が満載。
「!! ‥‥ わからない、でも、初めて人間が笑いかけてくれたんだ。
印象には、強く残ったよ」
恋したの?
なんてよく聞けたものだ。
顔を赤らめて、慌てて否定しようとする姿‥‥
すぐに、肯定して悩む姿‥‥
恋って言葉は間違いなく、彼に存在していた。
それが、とても気に入らない。
悪い奴に虐められてる女の子をヒーローが救う。
拐われた王女様を勇者様が救い出す。
最後に二人は結ばれる。
それは、王道って言われる話だけど。
普通、あんまり現実じゃあお目にかかる機会はない。
でも、立場は逆なんだが、姫は王道にロザリーの心を射止めた。
私は、それに勝てるのだろうか‥‥
▽ ▽ ▽
あの子の部屋からロザリンドが現れる。
戻ってきてから、彼の日課。
朝の数時間と、就寝時間以外はずっとあの子を拘束している。
就寝時間にしても、自らの体の上を良いことに、出入口を加工して誰も通せないようにしているのは知ってる。
あの子が夜に逃げ出そうとしないから、気づかれていないだけ‥‥。
たかが、ニンゲンになぜ、こんなに執着するのだろう。
あの子も、そんなロザリンドの執着に気がついたとき‥‥嫌悪するに違いない。
彼が重ねている、カースティ姫と同じ様に。
そういえば‥‥。
あの子の名前をロザリンドの口から聞いた記憶が無い。
もしかしたら、紛い物を本物と勘違いしているのだろうか?
「ロザリンド。お姫様の名前、知ってる?」
「前にも同じ質問をしたな。カースティ姫だろ」
確かに、彼の冷静さを確認するために、つい最近、同じ質問をした。
でも、今回はそうではなくて‥‥
「違うよ。偽物のお姫様」
あの子のお名前。
「偽‥‥彼女をそんな風に呼ぶな」
「分からないでしょ」
「‥‥」
思った通り知らないようだ。
知らないのか、知る気がないのか探るつもりは無いが、重ねて違う人物を見るのはとても失礼だ。
あの子に非礼はどうでもいいが、その結果、また独りで何処かに行かれたらたまったものじゃない。
足をもいで、椅子に縛り付ければ逃げ出すこともできないだろうが、そんなことはロザリンドが望まない。
彼が安定してるのは、間違いなくあの子のお陰なのだから、自分が、調整してやることは必要なのかもしれない。
「まぁ、僕はどうでも良いけど。お姫様を姫と見誤ってるのはどちらにも失礼だと思うよ」
「そんなつもりはない」
焦った表情でロザリンドが返してくる。『どちらにも失礼』だなんて言われて、気がついてくれると良いのだけれども。
ロザリンドはきっと気がつかない、
自分が見えてるものは何か?
口にしなければわからないのだ。
「そう?
僕にはそう見えない、君はあの子に姫を見て‥‥」
「そんなつもりはない!」
話を理解したロザリンドは終わる前に大きく否定する。
「でも、あの子は姫じゃないんだよ」
そんな言葉で納得などするかと、シンジュは続けた。
「だからちゃんとあの子を知ってあげて。お姫様はカースティ姫じゃない」
「そんなこと!」
「‥‥そんなことわかってる」
小さくロザリンドは呟いた。
■ ■ ■
埃払いが終わって、前みたく説教がはじまるかなぁって心配してたら、うまい具合に話が別の方向に流れたつい先程。
姫の事を思い出したロザリーは、私の質問に少し照れる。
そのせいか‥‥
いつもなら、手を引いて部屋から出るのに、今日は廊下で支度を待ってるって言うのだ。
なんだろう。
よそよそしい‥‥
気を使ってるのだと思いたいんだけど。
姫の事を思い出して、私が何のためにいるんだろう、なんて疑問に思ったりしないんだろうか。
家出なんて可愛い言葉で片付けられない事件を起こしたんだもん。
迷惑だなって、
邪魔だなって、
思ったりしないんだろうか。
距離を感じてしまうと‥‥少し怖くなる。
必要じゃないよって突き放されそうで‥‥
「姫〜」
聞き覚えのある声が耳に入った。
「ユーノ‥‥っていうか何処から入ってくるのよ」
窓から部屋をのぞきこむ知った顔。
彼は悪びれる様子もなく変わらぬ笑顔で手をふっていた。
ここは、一階ではない‥‥。
宙に浮かんだ状態でにっこり部屋を覗きこんでいるのだ。
よく見れば足元は大きな木の幹があるから、登ってきたのだろう。
「まだ、入ってないし。まぁまぁ。ワイルドでしょ」
「報われないストーカーにしか見えないわ」
若い女性の部屋を許可なく覗くだなんて犯罪行為である。
口調だって冷めたものになるわけで‥‥
「ロマンチックじゃないなぁ。王子様は窓からさらいに来るんだよ」
「さらってる時点で、愛はないじゃん」
「! 姫は俺に愛を求めてるの?」
「いや、全然」
「連れないなぁ〜。一緒に水浴びした仲なのに」
「あれは一緒にしたって言うのは間違ってる。ユーノが叩き落としたんじゃない!!」
「叩き落としてはないよ。突き落としたんだ」
「同じ!」
などと不毛な会話を続けてて気がついた。
廊下でロザリーが待ってるんだった。
彼が、何のためにここに居るのかは分からないけど、待ち人を放置するのはいけない。
それがロザリーなんだから、誰より先に優先しなきゃならないわけだ。
ユーノと王はとりあえず仲良しだから、一緒に出てもきっと問題ないと、思う。
たぶん。
だから、部屋に招き入れた。
「いつまでそこにいるのよ。入るなら入れば?」
「わぁー姫ってば、窓からお客様入れるんだ。密会?密会?」
なんだ、密会って。
響きが良くない言葉を表してると思うから、そこは無視して‥‥
「勝手に登ってきたのユーノでしょ。あと、助けてもらったお礼もしてないし」
後半は本当の言葉。
居候で偽物の身で、お礼なんて何もできないけど。
言葉で伝えるにしても、この配置は如何なものでしょう?
ロザリーは優先しなきゃだけど、恩人も適当にあしらえない。
「そう。気にしなくていいのに」
ユーノはくすりと笑うと、窓の方へ、ジャンプした。
――――ように見えた。
正しくは、飛び込もうとして、窓枠にたどり着く前に落ちたのだ。
「えー!! なんで!!」
慌てて窓から身を乗り出して下を見るけど‥‥真下は丁度枝葉が茂っていて、見えるのは緑の葉っぱばかり。
少し折れてたりするから、多分あそこから下に落ちてるとは思うけど‥‥無事かなんて分からない。
動物ってさあ、あれぐらいひょいって飛べないわけ?
ユーノ!!
鈍くさ過ぎるよぅ。
とりあえず、ここで、彼を罵ってても仕方ない。
猫とかは、高いところから落ちても無事って言うし、ユーノがなんの獣なのかわかんないけど、耳は丸いからきっと狸か何か、猫に近い動物だ。
だから、無事だ‥‥とは思うけど。後味わるいよねぇ。
廊下で待ってるロザリーに訳を話して、ユーノの無事を確認しにいこう。
部屋からでると、廊下で見かける二人の姿。
シンジュが側にいるなら時間が稼げる。
気にしないでユーノを黙視して戻ってくる時間は、きっとあるんじゃないかなぁ。
でも、ロザリーは相変わらず怒ってる表情で‥‥
シンジュってば報われないなぁって思う。
これは私が仲裁してあげないといけない状況だよね。
落ちたユーノは気になるけど、自分でよじ登って、落ちたんだから自業自得だ。
来いって言ったの私だけど‥‥。
いゃ、決して私が悪いわけじゃない。
あくまでも自業自得だ。
「‥‥お姫様を姫と見誤ってるのはどちらにも失礼だと思うよ」
「そんなつもりはない」
なんの話をしてるのだろう。
近づくとシンジュの声と、反論するロザリーの言葉が聞こえる。
何故か聞いちゃいけない気がして、胸がドキドキする。
シンジュの声だけがはっきり聞き取れて、ロザリーの反論は何を返してるか分からない。
「あの子に姫を見て‥‥」
あの子に姫を見て?
シンジュが言う。
姫って、私の事じゃないなら、カースティ姫の事?
じゃあ、あの子って‥‥?
考えちゃダメだよって心臓が警告するように、どんどんドキドキが大きくなる。
冷や汗まで、色んな所から滲んできて。
正直吐きそうだ。
それでも、聞き耳は止められなくて‥‥
「だからちゃんとあの子を知ってあげて。お姫様はカースティ姫じゃない」
「そんなこと!!」
ロザリーの叫ぶ声は、しっかり聞き取れた。
でも、
「そんなこと」ってどういう意味なんだろう。
ロザリーはあの子にカースティ姫を重ねてて、その違いを自覚しろって言われてた。
反論は
そんなこと‥‥
でも、続く言葉が聞こえない。
何だろう。
ドキドキが分かるたび、痛いのが大きくなって。
そんなこと当たり前だろう?ってシンジュを軽くバカにする?
でもそんな表情じゃない。
あの、
あの苦しそうでそれなのにイラつく仕草は‥‥
完全に否定してる態度。
そんなこと‥‥
ない?




