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大切なはじめのコト 1



長い間眠っていたから体が超痛い。

だるいとか重いとか通り越して、ものすごく痛いのだ。


私があんなに疲れはてていたとは‥‥自分自身でも気がつかなくて。




気がついてたら、寝なかったわよ、全く‥‥

 と、過去の私に教えてあげたい気分だった。






ロザリーとお別れして、数十分。

ユーノの服を脱ぎ捨て、制服に着替える。

上着の袖を通す前に、欠伸が出た。


きっと、眠いんだろうなぁ。

疲れてるんだろうなぁ。

って体を気遣ってお布団(正しくはお姫様ベッド)に横になったら‥‥










気がついたときは3日ほど経っていた。




3日だよ。お寝坊にも程があるよね。

恥ずかしい‥‥




起きた時の、ロザリーの心配でやつれきった顔を見た時――――






やっちまったぁぁぁぁと心の中で叫んでおりました。


シンジュも周りにいたあたり、かなーり大事。

何故か謝るロザリーに苦い笑顔で応対し、体が痛いことを気づかれる前に部屋を抜け出してきた。






そんな、お寝坊事件はセイも知ってるんだろうなぁって、ドキドキしながら声をかけてみてるわけなのですが。


「おはよう‥‥」


っていうか、普通にね、私の朝の稽古場所に居るとは思わなかった。


だって、私は最低でも五日はこの場所に来なかったんだから、彼は私が居なきゃ用事ない‥‥はずだ。と思う。


「無事。帰ってきたみたいだな」


何事もなかったかのように、そう言う。



無事っちゃあ、無事だよね。

傷ついてもすぐ治るんだし、いっぱい寝たし。


あ、寝すぎで体が痛いってのは、除外ね。


「セイも、家出したの知ってるんだ」


あとお寝坊事件も‥‥?


「家出? 誘拐って聞いていたが」

「えぇ。と。あーそうなのよ、誘拐ね」


確かに、ちょっと森に散歩に行ったら、助けにきたって言う優しげな男の人に保護されてあの屋敷に閉じ込められた。

それってちゃーんとした誘拐だよね。


「家出なのか‥‥その年にもなって」


ただ、セイは先の言葉を鵜呑みにしちゃって、そこから頭は動かない。




残念だぁ、私!!



「家出にしろなんにしろ、怪我は?」


セイは親切にも、怪我を気遣ってくれる。

家出ってところは強調して、嫌な男だ。


「あ‥‥うん。殆ど治ったけど、頭と目と指かな」


樹木の妖精から逃げるために傷つけた指。

知らない間にポカリとされた頭とあの男に振るわれた暴力の犠牲となった目。

そう言えば、殴られて口の中も切ったっけ‥‥

うーわぁ。結構怪我してるなぁ。


「治るぐらいだったら大事無いな」

「怪我は‥‥ね」


そう、怪我はすっごい痛かったけど結論としたら大したこと無い。

実際心配してるのは、肉体的な負傷じゃなくて、

精神的な‥‥何かの痛み。

直接、チクチク痛んだりしない。むしろ、痛くないのが心配だ。


「ねぇ、セイ。私、壊れちゃったのかな」


同じ物を見てない彼に問うのは間違いかもしれない。


「何について問うてる?」


唐突に問うた疑問にセイは冷静に返す。


「ココロ‥‥」


気分が悪くなるぐらい痛め付けられて、それでも逃げ出さず我慢できたこと。

まぁ、これは我慢できたとしても。


流れ落ちる血。

引きちぎられる肉。

進行ルートに広がる死体。

殺し合いをしてるって分かってるのに、結末を見たいと隔離されたスペースで嘆いた。

映画か何かと勘違いしてるわけじゃなくて、ちゃんと現実って理解してる。


私、きっと動揺してる? なんて思いたいけど、そのの割には、頭の中はとても冷静だった。



怖がる心が壊れたとしか思えなくて、

でも、自分ではそれが確かめられなくて。


セイに聞いてみるのは、彼にしかそんな事聞けないから‥‥


具体的に事例を語ったわけじゃない。



でも、セイは何となく分かったみたいで‥‥

ため息のように、肺に溜め込んだ息を吐き出して教えてくれた。


「慣れとは恐ろしいものだとは言うが、皆慣れるわけじゃない」

「なんで?」

「何故と俺に聞かれても的確な回答は不可能だ。

戦場から怪我で帰ってきた隣家のおじさんは、肉を見ると前線を思い出すといって、最後は首をつって死んだ。

折角助かったとしても、心が病んで自ら絶ってしまう。

戦場とはそういうものかと思っていたが‥‥一度戦場に出て、見て、感じた。

俺は、軍に配属にはなったが、人相手に命の奪い合いをしたのは、ここに来てからが初めてだ。刀は抜けるが、周りで裂かれる命に怖じけづき、逃げだそうとした。

卑怯だが自分で殺めるのも嫌だが誰かが殺めるのを見るのも‥‥辛いと思った。

だが、殺されそうになって反撃した。

それからだ、なんて簡単だと‥‥今までの怖さがなんともなくなった。

それは慣れなのか、壊れたのか」


セイが戦場の話をする。


戦場の話なんて聞いたのは生まれて初めてだけど、

あれを見たからセイの逃げ出したい気持ちは分かる。


彼の言ってる場所の方が、もっと酷いのかもしれない、

私が経験したあれと同格に見てはいけないのかもしれない。


ただ‥‥命を奪うのが簡単だなんて言葉には共感はできなくて‥‥


「だが、生きた魚や獣を調理をするとき自分は壊れたと思うか?」


彼の問いに首をふる。

生きた獣を、食べるために調理した事はないけれど、お魚だったら何度か料理したことはある。

最初こそは動く尾びれにビクビクしたけど、それは動くのが普通なことで、徐々に嫌だとか思わなくなってた。

最近では、生きた魚なんてのも売ってないから‥‥久しぶりにそんな状況になったらビックリするんだろうけど。

慣れるってのはそういうことだよね。


「慣れる事が不幸か幸せかはあんたの判断次第だが。

この世界に選ばれた時点で『慣れる』人間なんだろう」



慣れる‥‥人間。



セイの御隣さんは『慣れる』ことが出来なかった人間。

セイは『慣れる』ことが出来た人間。




私は?






『慣れる』ことが出来たから、何見ても平気だということなのか‥‥


「慣れたかは分かんないよ」


壊れてないって事は嬉しい。

でも、慣れたって言葉も余り好きではないから素直に肯定できなくて、苦笑いでセイに呟く。


「あんたは、笑っていられる。壊れた人間は作り笑いさえもできない」


セイは口角を上げてそういってくれた。


たまーに見せてくれる楽しそうな表情。

見下した笑い方だって言われたら、そうなんだけど。

本当は私のことバカにしてるだけかもしれない、

けれど、二人っきりの時しか見たことがない。


「セイも笑うから壊れてないの?」

「俺は笑うか?」


上がった口角は元に戻る。無表情と余り変わらない顔だけど、声は少し驚いていて‥‥


セイは笑ってる事を自覚してないわけだ。


笑顔がどうとか言いながら、

それは、なんだかなぁ‥‥


「たまーに」

「そうか‥‥」


帰ってきた私の言葉に目を細め、穏やかな表情でこっそり笑う。


「ほら、今。ね」


これは自覚してるんじゃないだろうか? と思っていたが、

セイはやっぱり分からない様で‥‥


「あんたが言うなら笑えてるんだろう。他者判断で壊れていない証明になった」



相談してこんなこと言うのは悪いけど、笑えるかが判断基準かが正しいのかは、分かんない。

けど、こんなに穏やかに笑える人が壊れてるだなんて思えない。




壊れてるのに笑うのは、

あの男だ。


愛しいと言いながら、他者に手をあげる。

沸点が低すぎるあの男。

カースティ姫が自分の物だって言ってた男。


「そう言えば、カースティ姫ってなんか特種だったの?」

「王族だってだけで特種だが」

「いや、身分とかじゃなくて、特殊な能力があったとか」

「その姫とやらと俺は話をしたことないと言ったが」

「いや。知ってるかなって」

「知らん」


冷たくぴしゃりと言い放たれる。

うーんと、的確に回答はすごくありがたいんだけど、ぶっつり会話をちぎられるのは気にくわない。


「じゃあ。セイから見たカースティ姫ってどんなのよ」


質問を変えてみた。

なんか、こっちを窺うような目でセイはちらりと見ると、嫌そうに話し出す。


「‥‥顔はあんたとおんなじだが、それ以外は全く違う。

銀糸のような髪に、青い眼。風が吹いたら飛ばされそうな儚さなのに、周りに誰もが近づけないような気配を漂わせていて、なんていうか幽霊みたいだったな」

「幽霊?」


それって女の子を表現する言葉?


銀糸に青い眼って、中々可愛い色合いだと思うんだけど‥‥



あぁ!

私の顔にそれだから変って事なのかな。だから、私を見たわけだ。


でも、幽霊て、ゆうれいってぇ!

もっといい表現は無いんだろうか。

同じ顔だって言うから、ちょっと複雑。


「雪女という方が正しいのか‥‥」


きっと不機嫌な顔で睨み付けてたのだろう。

幽霊を考え直して雪女。

考え直しても人外なのね。

セイは女の子に対して、失礼です。





「今更、姫とやらを知ってどうする」

「どうもしないけど、姫をよく知ってるかもしれない人が言ってたの‥‥

『力が使えない』とか『その力で見ていた』とか、だから魔法か何か使えるのかなって」

「かもしれない‥‥あいまいだな。

姫とやらの話は、王に聞けば良いだろう。妻の話なのだから」

「まぁ。そうなんだけど」


ロザリーには聞くけど、先に同じ目線の立場の人の話も聞いておきたい。

予備知識ってやつだよ。


「それとも聞けない理由があるのか‥‥」

「いいじゃん。さ。先生。久々の稽古お願いします!」


セイは尋問するような声に変わり始めた。

これ以上の会話は何か隠してる事を掘り起こされそうで、早々に話を切り上げる。


珍しくキャッチボールが出来たとは思うけど、そんな会話で盛り上がりたくなくて‥‥



本当。この人とベクトルの向きは合わないなぁ。




「手のしびれは問題ないのか?」

「あ。そう言えば。治ってる気がする」


言われて気づく私も私だが‥‥手はもう何ともない。

いつから消え去ってたかは分かんないけど、これであの実を食べなくてもいいわけだ。

流石に、意識しちゃうしね。



治ったのって、やっぱり、ロザリーが食べたからなんだろうか。




「じゃあ本気でできるな」


そう言って、鬼の目が光った。








最悪。

絶対明日筋肉痛だよ。


いやぁ、もう廃用状態で体は既に痛いわけですが。



木刀で本気殴りはダメだっての!!!

前言撤回撤回!!

セイてば、やっぱり壊れてるよ!!




――――でもね。今日のセイの攻撃は、全部防げた。


いや、自慢じゃないよ。

個人的にはスゴイと思って欲しいけど。


防げたんだから、私自信は反射という意味で体は鈍ってない。


なのに、あの男の攻撃が一回も防げなかったのは、セイよりあの男がすごいって事だ。

セイが最強とは思ってないけれど、強い男が姫を狙ってたってだけで、少し怯えなきゃならない。


ティコ達の話を聞いてたら、もういない、って判断で良いんだけど。



何か、

何か忘れてそうな気がして、

すっごく。もやもやする。


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【××× A good child, so do not imitate ×××】
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