君は何もシラナイ 6
今回は、しくだいのR-15グログロを入れる予定と前回騒いでおりましたが‥‥。
表現が未熟なのであんまりぐろぐろしてない結果になってます。
それでも残酷表現は入ってるので、苦手な方はご遠慮ください。
「ヒィィ!!」
ガシャンと何かが割れる音と一緒に彼の悲鳴がする。
バカみたいな量のお皿、それを少しずつ手をつけて食事があらかた終わったため、彼はそれを下げ始めた所だった。
落としたのはきっと食器なのだろうとは想像するけど、何に驚いたのかはよく分からない。
「どうしたの!?」
机の上のフォークを握り、彼が悲鳴を上げた場所に向かった。
場所は廊下。
彼は出て直のところで悲鳴を上げる事になったらしい‥‥
出入りするのにいちいち鍵をかけていた、それをかけさせる暇も無いまま。
そこには大きな犬が人の喉元に噛みついていて、声を上げた張本人は怯え座り込んでいる。
首筋から泡のように赤い液体がぶくぶくと噴出し、噛み付かれた人が向ける白い目が事切れてるのを知らしめる。
見たことの無い光景に、一瞬だけ頭の中が真っ白になった。
その一瞬が過ぎると、目の前の誰かが死を迎えている事実に足が震えだす。
亡くなった現場だっていうだけで怖いのに、殺した相手が目の前にいるのだ‥‥彼でなくても恐れてしまう。
怖くて、私は悲鳴さえ出ない。
そんな私を笑うかのように犬はくわえた人間を離すと、次は彼だと言わんばかりにゆっくり彼に向かっていった。
怖がってる場合じゃないのは、よっくわかってる。
でも顔から胸にかけて赤く染まった毛が‥‥怖くて、怖くて。
「どうしたの」なんて得意げに出てきても何の役にも立てなかった。
人間を襲う犬に何が効くのだろう、アニメみたいに野良犬が追いかけてくる‥‥なんて経験はないし、対処が分かんないよ。
しかも、なんでフォーク。机の上ってさ、ナイフあったよね‥‥ああぁぁぁぁ
でも、そんなの一本あったってこんな大きな犬には意味がないのかも知れない‥‥
じゃあ何だろう。
棒とかならいいのかも?
間違った自分の選択に自ら問いかけた。
焦ると頭の中が動かないって思ってたけど、くだらない内容が頭を回転させていた。
でも、
何があったとしても獣に勝てる訳が無い。
役立たずな私は、闘う場合のリスクしか思い付かず、「逃げるしかない」と判断し彼の手を引いて立ち上がらせた。
けれども、人は腰を抜かしてしまうと立ち上がる事は出来ないらしい。
「逃げるよ。立って」っていう言葉が出せなくて、足から崩れる彼の手を何度も引く。
言わなくても分かってるだろうって思うけど、恐怖に満ちた彼の顔からは意図が理解できないのか、できて行動に移せないのか、全然分からない。
--------犬はすぐ側まで来ていた。
「ヤメロ。探しに来たモノ噛み殺してどうするんだよ」
冷静な声がかかると犬は動きを止めた。
止めてくれたのは----
森で会った獣の妖精。
助かったのと、助けてくれたのか知ってる顔だから、気持ちが一気に溶け出すようで‥‥
「ティコぉ‥‥」
覚えていたその名前を呼ぶとティコは驚いた表情で固まった。
「俺を覚えてるのか」
「無事だったんだね。良かった」
顔が真っ赤になって、意識も絶え絶えで‥‥大丈夫かなぁって心配だったけど。
しっかり話して元気に立ってる。体に障害も無いみたいだ。
「‥‥あ、ああ」
笑いかけると気まずそうに目を反らす‥‥
そりゃ彼は私の事を知らないんだから、どう反応していいかわかんないか。
それともユーノみたいに、殺されるって怯えてるんだろうか‥‥
そんな感じには見えないけども。
ホントは獣の妖精‥‥。
どんな目で私を見てるか分からない。
でも‥‥あの時にユーノとティコは平気な気がした。
現に、今、戸惑った表情でココにいる。
「なんだ?」
犬がティコの裾を噛んで、意識を自分に向ける。何かが訴えるような仕草をするのが血塗れなのを差っ引いてもとってもかわいくて、何を言ってるのかちょっと気になる。
虫や獣の妖精とは会話できるけど、ホントの獣の言葉は分かんないんだ。
ちょっと不便。
「ああ、そいつは関係ない」
ティコがそう言うと、犬は牙を剥き出してこっちを向いた。
これって、これって。
探しに来たモノが私なら、関係ないそいつは、彼の事?
「ダメ。敵意の無い相手を噛んじゃだめ!!」
犬から彼を庇うように前にでて、両手を広げた。
間違えてなければ、犬はティコに彼を噛みついていいですかって聞いたのだろう。かわいい仕草‥‥内容はとんでもなかった。
少なくとも私は殺されないって分かってるからできる行為。
もう怖くないのかって?
怖いよ。
でも、目の前でかみ殺されるシーンを見るほうが嫌。
「敵意‥‥って」
その言葉と行動にティコは犬の前に止める様に手を出してくれる。
でも、私の言葉に同意した訳ではなくて、
「こいつら、敵意しかないぞ」
そんなこと無いだろう、怯えて腰抜かしてる彼に敵意などあるわけない。
人を噛み殺した犬が、次のターゲットって唸る姿には怖いだけ。
ティコが居なきゃ私も餌食にされるのだ。怖いって思うだけで他の気持ちなんて有り得ないよ。
「怯えるな、ニンゲンの姫。こいつらが、余計に興奮する」
「怖くない方が無理だって」
ティコが私の本心を悟り、そう言うが、血塗れの獣に唸られたこの状況。
なけなしの理性を奮い立たせて、庇ってるのを誉めていただきたい。
膝も体もガクガクだ。
「‥‥まぁいい。王が探してる。帰るぞ」
王が探してる‥‥
王という単語を聞くと、私の中で、世界が分断される。
怖がってた気持ちも、悩ましい気分も、まるで違う世界の話のように遠くで漂っているようで。
ロザリーが探してくれているんだ。
----って、
意識が‥‥心が‥‥
そればかり考える。
「‥‥帰れないよ」
私の口はあまのじゃく。やっと帰れるって嬉しいのに、何故かそんな言葉を吐く。
「何故」
「帰れないの」
突然逃げ出した事。
約束を全て破ってしまった事。
帰る事に不安なのは沢山。
私は受け入れてもらえるのか?
許してもらえるのか?
不安が沢山。
でも一番不安なのはロザリーが本当に帰って来いって思ってるかどうかだ。
帰りたいとは思うけど、帰らなきゃだめだって意識は無い。
奴隷契約のお約束事なら、彼が望むなら私は従うしかないのだ。
だが、帰りたくないっていう、少しの不安が勝っている‥‥
それは望まれてないって証拠じゃないのかな。
ギャイイン!!っという、犬の悲鳴が響き渡り、私は思考の奥底から引き戻された。
「おまえら、気を抜くな」
ティコが隠すように私の目の前に立つ。
悲鳴が聞こえてきた前方には‥‥あの男がいた。
「私の目を。私の栄光を何処へ持っていく!!」
アイツは私達を見て、そう怒鳴る。
遠くたって嫌な気配が声とともにビリビリ伝わる。
前方を塞ぐように、唸り声を上げて、犬達が取り囲むが、男は止まろうともしない。
あいつが見ているのは、私たち‥‥
止まらない男に、犬達は飛びかかるように襲いかかった。
あんなにたくさんの獣に噛みつかれたら‥‥きっと無事ではないだろう。
嫌な男だったが、事切れる姿なんか見たくなくて、目を反らした。
「この泥棒どもが!!!」
廊下に響き渡る声。
あんなにたくさんの犬が襲いかかってるのに、全然元気な声だ。
撥ね飛ばされて、犬達が悲鳴を上げて廊下に倒れていく。
「面倒だな。隠れてろ」
舌打ちしてティコは後ろ手で私を突き飛ばすと身を屈めて走り出す。
犬達が叶わない相手に何をする気なのだろう。
びっくりするスピードで男の懐に入り込むと、下から顔を殴り上げた。
その素早さは、さすが獣。
人間の形をしていても、身体能力はやはり動物的だ。
男が払うように何かを振るう、棒に見えるけどそんなに長くなくて‥‥それをティコは宙に飛び上がり、回転して後ろに避けた。
男は自分の首を右手で押さえながら、空いた左で何度も前空を左右に切る。
ティコが離れたからそれは良く見えて、振り回しているのは棒とかじゃなくて、短い剣だろう。
「勝手に借りて悪い」
そう言って手を出した。
ティコが持っていたのは‥‥
私の持ってたフォーク?
そういえば、いつのまにかフォーク持ってない。
後ろ手で行動を遮った時に、一瞬のうちに取ったんだ‥‥。
全然気がつかなかった。
形を歪めた銀色のそれは、間違いなくフォーク。
私が持ってた時と違うのは、赤い血まみれになったことと何かの固まりを点けている事。
何かは‥‥言葉に出したくない。
「こんなの武器になるの‥‥」
「こうする」
ティコは右手を握ると中指と薬指の間から、フォークを数センチ出した。
異物がティコの指に乗るが‥‥よく分かった。
なるほど、殴りつけて突き刺して。
‥‥引っ掻きながら抉るんだね。
衝撃もあるが、ティコの指に収まるようにフォークは形を変えていた。
どんな馬鹿力が働いたんだ。
超能力もかなわないぐらい、グニャリとされている。
「お前は、見ていたのだな。これを!!」
男は引っ掛かれた喉元を掴む様に押さえ、吐き捨てるように怒鳴る。
押さえた手から流れる血が、痛々しい‥‥。
普通なら、目を背けて、きゃーきゃー騒いでしまうそんな光景よりも、男の言葉が気になった。
見ていたって何?
「だから私を小馬鹿にして見下していたのだな。この忌々しい妖精がココに来る事を見ていたのだな」
だから見ていたって‥‥何のことなの。
「忌々しい‥‥だが、狂おしいほど愛しい。その力、他の誰かに取られてたまるか!!!」
傷も気にせず男は怒鳴る。
ビリビリする気配は変わらないまま、むしろ怖くなってて、
拒絶するために耳を塞いだ。
「あの一撃では影響はないか、ニンゲンは見た目よりタフだな」
「あの人が異常だと思う‥‥」
指の隙間から入ってくる声にこっそり呟く。
「かたずけるから、隠れてろ」
「へ。あっ‥‥まって」
出てきた部屋に戻され、扉を閉められた。
せっかく廊下まで逃げだせたのに、元の場所で囚われたまま。
扉は押しても開けられず、外の音は聞こえない。
耳は塞いだけど、全てから閉ざされたいなんて思ってない。
あいつが来て、ティコ達がどうなったのか確認できないなんて‥‥
せっかく迎えに来てくれたのに、
ロザリーが助けをお願いしたのに、彼等が無事じゃなきゃ帰れないのに――――――
ココから出して。
「待たせた‥‥」
ゆっくり開かれる扉。
そこには疲れた表情のティコが立っていた。
「あいつは?」
「窓から突き落とした‥‥流石にこの高さだ」
ティコの指さした先は割れたガラス窓が、破かれた口を開いていた。
「たく‥‥割に合わないぜ」
廊下に出ると、もわっとする嫌な臭いがする。
さっきは何も感じなかったけど、息を吸い込むと空気に混じって血の臭いがする。
廊下には、幾つかの亡骸と血塗れの犬‥‥。
彼は座り込んだまま、意識を失っていた。
「そいつには何もしてない」
「きっと、何も出来ないから、見逃して」
今さらだけど、彼を庇うように私はもう一度前に立つ。
落ち着いたのなら、許可をもらった犬が襲ってくる可能性を恐れた。
「そんなのに構ってる余裕はない」
ティコの声は、閉じ込められる前に比べて荒れている。
余裕が無さそうなのは表情からも見てとれて‥‥
少しの時間だけど、あいつを対処するのが大変だったのだろうって思う。
ティコはそれだけ言うと、離れていく。
行き先には、血塗れの犬達が待機していて‥‥
手のひらに気持ち悪い汗を感じながら、彼の次の行動を想像してさらに怯えた。
「ごめんな。おまえら」
ティコは犬達に悲しいトーンで声をかけた。
獣達はその言葉に聞こえないぐらい小さな声で返事をする。
満足そうに一体ずつ頭を撫でてやると、最後の一匹に悲しそうな顔をしてつぶやく。
「ありがとうな」
声もなく一体は首を彼に向ける。
身体は動かせそうになく、ぐったり横たわったままだ。
重症な怪我をしているのだろう‥‥。
人だってこんなに死んでいるのだ、獣だって怪我しててもおかしくは無い。
ティコは、震えながら手を伸ばすと。その首を横に引き裂いた。
「な‥‥何をするの」
ティコの奇行。
目の前を飛び散る獣の血に抗議の声を上げたが、涙があふれる目で睨みつけられて黙る。
彼の目はまっすぐ私を見て、流す涙はただ悲しみを現していた。
奇行ではなく、意図の在る行為。
血のついた手で涙をふき取ると私を引き寄せた。
「お前の所為だからな、しっかり自覚してちゃんと帰るんだ」
私の所為‥‥?
戸惑う私は素直に従えなくて、彼の機嫌を損ねた。
「お前が大人しく城に居ないから、こうなってるんだ」
今の行為が私の所為だって言われて動揺する。
反論をしないってことは認めてるみたいで、言わなくていいことを考えもせず吐き出した。
「それとティコが犬を、こ、殺しちゃうのと。どう関係あるのよ」
「あの男に斬られて下半身の中身が出てた。息をするのも苦しいだろうに、それでも俺を庇って戦ってくれた。歩けなくなった、あの状態では連れて帰れない。だから、苦しくないようにしただけだ」
首を裂いた刃物を床に叩きつけるように投げる。
これは、あの男が持っていた短剣だ。
「こうなったのは、もともとは俺のせいだ。でも、原因はニンゲンの姫」
「私がここにいるから‥‥」
「いや。俺を森で助けたりしたから。ニンゲンの姫は城から出てはいけなかったんだよ。後、こいつらは犬じゃねぇ。狼だ」
ティコは私の所為だと言いながら、本心は自分が悪いと訂正する。
ロザリーの元に私がいたらティコは宙ぶらりんのままで、死んでいたかもしれない。
でも、私が城にいたらココでこんな目に誰も会わなかったのだ。
獣達が血塗れなのは、戦闘をしたから。
傷ついているのは、人間が抵抗をしてるから。
私がこんなところに居るから、こんな結果になってる。
「おまえら、最善ルート探れよ」
ティコに手を引かれ、廊下を進むとむせかえる血の匂いと、転がる死体の数が増える。
彼らが最善とされるルート選択のせいか、出会うのは息をしてない者ばかり‥‥。
それらは、歩きやすい様に道を開いてくれているわけではなくて、
折り重なるそれらを踏み越えて進むしか無い。
正直嫌だった。
亡くなった方の遺体を踏みつけるのが嫌なのではなくて‥‥
切り口から剥き出しになった内臓、
一緒に広がった血液。
側によると腐敗臭にも似た嫌悪する臭い。
呼吸口を押さえても体の中に入り込み、体がそれを拒絶するように吐き気をもよおす。
それらに足が触れる、直接目視する。
ただ、単純に気持ち悪いから嫌だった。
そんな、自分自身に嫌悪を感じる暇もなく、彼は手をぐいぐい引っ張る。
「だぁぁぁ。おせえ!! ニンゲンは手がかかる」
ひょいと宙に浮く足。
重力とは反対方向に体の中心が持ち上げられる。全体重がかかる脇腹が痛い‥‥だなんて言えなくて。
踏まなくて済む安堵と、彼にたいしての申し訳なさが口を閉ざした。




