君は何もシラナイ 1
さて、楓さんは何処に行ったのか――――
(´Д`;ヽ
あ、刀。
忘れちゃった‥‥
手元を見ると、何もない。
ここに来てから、すがるように大事にしていた刀に今まで気がつかないなんてどれだけ焦ってたのかな。
ロザリーにどんな顔して会えばいいか分かんなくて、一人っきりにされた事を良いことにあの部屋から逃げ出してしてしまった。
いつもなら、城のどこかで誰かに見つかるのだけど、今日は誰にも出会えなくてすんなり集落の外、森まで出てしまえた。
いいのか悪いのか‥‥。
刀が無いことに気がついたのは、大分歩いた頃で‥‥。
‥‥武器を携帯しなさいって約束を破ってしまった。
あぁ。約束なら‥‥部屋から出るなって約束も破ってる。
後、どんな約束をしたっけな‥‥。
短い彼とのやり取りを思い出して、木の幹にもたれかかるように座る。
ぼんやりと遠くを見ていたら何だか変な景色が視界に入る。
そう、あれは‥‥人型の何か。
赤い顔をした男の人が逆向きに吊るされていた。
右足だけが縄で縛られていて、後はダラリと力がない。
この姿どこかで見たことある。
タロットカードの吊られた男だ。
カードと違うのは、顔の色なんだけど、髪の毛に混じった獣の耳と、腰部分にふさふさする黒い尻尾。人目で彼が獣の妖精だってわかる。
分かったけど、この状況は一体何なのだろう。
「‥‥大丈夫?」
声をかけてみるが反応はない。
もしかして死んでるんじゃないだろうか‥‥。
動かない姿、だらりと垂れる手にそっと触れると、まだ少し温かかった。
とりあえず、ここから下ろしたほうがいいんだと繋がれた縄を見上げる。
縄自体は大した事のない、ただの縄。でも、切れる気がしない。こんな時、刀があれば、切り落とせるのに‥‥。
いつもそうなんだ。無いとなると、なぜか必要になる。
部屋に忘れてきてしまった、刀を思い出して後悔する。
まぁ無いものを頼りにしたってしょうがない、代用品を探さないと。
石とかで何とかできるのかしら‥‥。
地面に落ちてる石を見て悩むけど、こんなところに落ちてるのは周りが丸い、鋭角ではないものばかり。
役に立ちそうはないかなぁ‥‥。
「どうやって下ろせばいいのかなぁ」
「ティコの仇!」
「なになに、なんなのよ」
こっそりつぶやきぼんやり悩んでると、気づかなかった方向から懐めがけて、誰かが突っ込んでくる。
「かわすな!」
無意識の内にかわすと、相手は避けた先の木に体当たりするようにぶつかり転んだ。
背部には長いキャラメル色の尻尾が生えてるところから、相手も獣の妖精の様だ。
ただ‥‥形が、知っている動物じゃない気がする。
「何いってんのよ。避けなきゃ怪我するでしょ。王は血が苦手なのよ!――――て」
気にしなくても‥‥いいのか。
今すぐにロザリーの元には帰れないんだから。
帰れ‥‥ないよね?
「王? あぁ。黒い髪。お前、ニンゲンの姫か」
とりあえず違うけど、とりあえず嘘つかなきゃだめだから、とりあえず頷く。
「じゃあ俺も殺すんだな」
「は?」
なんで、殺すだなんて物騒な話になるのだろう。
「王の側にいるニンゲンの姫は黒い悪魔って聞いた。ハートの一撃にも耐え、容赦なく命を喰うって」
まずハートってのかなんなのか分かんないけど、心臓か何かかしら。
容赦なく命を喰うっていうのが気に入らない。
なんか化け物的な表現で‥‥。
「こんなか弱い私がそんなことできると思うの?」
「だって、避けた」
じゃあ大人しく刺されって言うのか、そのナイフで。
「あ、ナイフ!」
彼は小振りのナイフを此方に構えていた。
ナイフ‥‥鋭利な代用品だ。
それを指摘すると驚いたように隠す。
なんで隠すんだよ。本気で私が殺すだなんて思ってるんだろうか。
「それであの人助けられるのよ。貸しなさい」
口だけじゃ絶対渡してもらえないと思い、吊るされた獣の妖精を指差して、ナイフを渡すように指示する。
警戒した表情で睨みつけていた相手は、指差した先を見て驚いた表情を見せた。
「死んだんじゃないのか」
「まだ、生きてるって思うの」
生きてて‥‥ってのは希望なんだけどね。
助けられないなんて嫌だから。
木登りは不得意ではない。大きくなったから予定が無くなっただけで、まだ登れる。
元々罠を仕掛けた人が、縄をかけるために登りやすい木を選んだのかもしれないけど、私は苦なく登れた。
「切るからちゃんと受け止めてあげてね」
先ほどはそんなに深く考えていなかったが、そのまま切ったら頭から地面に落ちてしまうだろう。意識がないのだから、そのまま首の骨がぽっきり‥‥なんて事もある。
今、生きてても、そのせいであの世に行かれたらかなり悲しいよね。
私は、目的物を視界にとらえると幹に結びつけられた部分をナイフで刺して、裂いた。
ちょうど幹が邪魔で落下地点が見えない。
鈍い音がしたことで、彼は縄から解放された事を想像する。
下に降りると、想像通り彼は地面に降りていた。無事かどうかは分からないけど、地面に寝かされる姿。
赤い顔は元に戻っていた。
「ぅぁ‥‥」
「ティコ。大丈夫?」
呻き声を聞きつけると、吊るされた妖精にナイフを持っていた妖精は声をかけた。
私に仇討ちしようとしてた、ティコってのは、吊るされた彼の事だったのね。
「‥‥ユーノ?‥‥か、ありが‥‥と」
苦しそうな喉の声でティコは礼を相手に伝えると、すぐまた意識が途切れた。
それで、ナイフの妖精はユーノって名前の確認ができる。
「ティコ。助けたのは俺じゃないんだよ」
ユーノはティコの体を揺さぶり、声をかけるが意識は無い。
「ティコ‥‥誤解してるよ。助けたのはニンゲンの姫なのに」
ぼそりと呟くユーノの言葉が耳に入る。
確かに縄を切ったのは私だけど、ナイフを持っていたのはユーノで、落ちる彼を受け止めたのもユーノだ。
「ユーノ‥‥」
「ニンゲンの姫。後でちゃんと訂正するから」
「別に訂正しなくても‥‥」
「俺とティコを殺さないで」
「殺さないわよ!!!!」
なんなのだ。
どれだけこいつは私の事を怖い存在と認識してるのだろう。
「だって、この罠もニンゲンが俺達を捕まえるために仕掛けたものだ」
「罠?」
なんか映画で見たことがある、草の中に輪を作って、入ったら締め上げてぶら下げる的な罠。
「ティコは、先にかかっていた獣達の縄を切ってたんだ。そしたらティコがこんなことになって‥‥俺じゃ。何もできなくて」
「ナイフで切るって発想は無かったの?」
「ティコはしばらく頑張って切ろうとしてたけど、気がついたら‥‥」
「いや。彼じゃなくて」
本人は無理だろう。足も胴も比較的長いし、吊るされた先の縄まで手を伸ばそうったら、どれだけ腹筋を酷似するんだよ。
ユーノが切るって発想はないのか。
「だってあんなとこ、届かないだろ! ティコみたいにジャンプ力ないし。姫みたいに、物を持ってたら木には登れないし。ニンゲンと体の作りは違うんだよ」
「咥えたら‥‥両手使えるよ?」
「そうか。そうすれば良かったんだ」
成る程、ユーノは少し思考が欠落しているらしい。
「いや。くわえたら口の中刺さるだろう」
「‥‥そうね」
もう何にも言わない。
どうやったら、ナイフが口の中に刺さる咥え方があるんだろとか思うけど、それを言ったって彼は何か負の要素に怯えそれをしないだろう。
きっと、彼は怖いのだ。
まるで私みたい。
ロザリーに言われたから、ロザリーのため、ロザリーが悲しむから。
なんでもロザリーを理由にしてたのに、逃げ出してしまった。
あんな事で片づけるには、私にはちょっと出来ないけど。
顔も合わせられないほどの事じゃない。
よく分からないものを怖がって。よく分からないものから逃げ出した。
しかも、困ったことに帰るタイミングが分からない。
「ティコを早く安静にさせてあげたら?」
村まで運べないとか言うかな。
そしたら、それについて帰れるかな。
甘い希望はそんな簡単には通らずに‥‥。
「そうだな。ニンゲンの姫も罠に気をつけろよ」
ユーノはティコをおぶると村の方へ帰っていった。
私は帰るタイミングを逃してしまう。
セイ以外の人物に接触しないってロザリーとの約束。破っちゃった。
帰りたいけど、帰れない‥‥。
帰れよ!!!!
はい。
取り乱してしまいました。
書かされた作者です。
今夜も読んで下さりありがとうございます〜<(_ _*)>
お気に入り登録も新しく、してくださり。既に登録の方も含め大感謝です♪
章題も変わり、しばらく楓さんは家出中です。
大人しく保守してない女の子が嫌いな私。(作者が主人公嫌いってなんなんだw)
いいこになってください。
あ、そうそう。
新しい妖精が出てきました。(すぐ帰っちゃったけどね)
話中、書いてませんでしたが、以下は彼らの設定です。
★ティコ★
森の獣の妖精。狼の妖精さんです。
レタルは白い狼の設定ですが、彼は黒い普通の狼さんです。体型も普通のお兄さん。
★ユーノ★
森の獣の妖精。鼬さんです。慎重は楓さんとおんなじか、少し小さなぐらい。ちょっぴり鈍でおばかさんです。
今回、ユーノの獣の種類を考える時に検索したら、鼬って野生で見たら幸せになれるんだって。
知らなかったよ‥‥普通に近所にいるし。
見てても特に幸せじゃない気がする。




