追いかける幻影 10
◇ ◇ ◇
赤い補食の時間。
彼女に押し倒され、双方共に実を食した。
本来ならば全部彼女が食べるべきなのだが、うっかりペースに乗せられた。
あの男の名前がでなければ、彼女のいうがまま自分が全部食べていただろう実がまだ口内に残る。
最後の少しは、彼女に食べさせられたが、その際に切ったのだろう、打ち付けた背中も痛いが、唇が痛い。
透明な水分が表皮から滲み出ているのを左手で拭うとクローヴに廃棄物を処理させた。
「あれ?ロザリンド怪我したの?」
三人で居た場所で、クローヴが出ていった事で、必然と二人きりになったのを楽しむようにシンジュは話題をその傷へ。気にしていたことが気がつかれている様だ。
隠しだてする必要もないし素直に「歯で切った」とロザリンドは答える。
「葉? ロザリンドの表皮に傷つける葉なんて、とんでもない殺意だね~ 処分しとかなきゃ----誰?」
シンジュの言う処分はその言葉の通り危害を加えた誰かを抹殺する事だ。
王に危害を加えるなど大問題。
事故にしても、故意にしても、王への反抗意志の可能性がある以上、補佐官としては放置できない。
真面目に業務をこなしている言葉。
「彼女の歯だ。処分なんかできるか」
シンジュの言葉に、正直に犯人を明かす。
「彼女ぉ‥‥あぁ。お姫様に噛みつかれたの、狂暴だ‥‥なぁ?」
その言葉に状況が想像できないため言葉の所々に疑問詞が混じる。
唇左側などどういう状況で歯による怪我をするのだ?
その疑問はロザリンドの正直な言葉で解決した。
「彼女は悪くない。口移しで食物を渡すときに、抵抗されて切れた」
「は?」
「そうだ歯だ」
「いや、そうじゃなくて‥‥。
何やってるんだよ、女の子に? いくら奴隷だからってやって良いことぐらい‥‥って別に悪い事じゃないけど。いや、いやいやいや、ダメな事だよ。
唇の接触行為は結構濃い目の愛情表現なの!女の子には大切なものなんだよ。多分‥‥」
「愛情表現?」
最後の言葉を繰り返すと徐々にロザリーの顔が赤くなっていく。考える事で体がちゃんと反応しているのが見ている誰もがわかるように。
自分の先ほどの行為をそれというなら、まったく意図せずに自分はとんでもなく恥ずかしい行為を行っていたことになる。
しかも彼女の意思など全く無視して。
「何でだ?何でそれが愛情表現なんだ」
焦る口調でシンジュを問い詰めるが、明確な答えなどあるわけがない。
「ええっとぉ‥‥」
感情などという感覚的なものを抽象的、かつ明確に説明などできるわけがなく、シンジュは言葉に詰まる。
「だって人間の愛情表現なんだもの」
間違いではなく、それ以外に言葉はない。
どんよりした顔で、彼女の部屋の扉の前で呟く。
「彼女にどんな顔して会えばいいんだ」
そんな姿が可愛らしくて、ニコニコ微笑みながらシンジュは隣に立った。
意識せずに、彼女に強制した行為を謝罪しろと連れてきた。
相手に傷をつけるほど抵抗していたのなら、同意は全くないと想像したからだ。
怒りは時間が立てば恐怖に変わり、ロザリンドとの関係が修復出来なくなる。
別にシンジュとしては、彼女とロザリンドがギスギスしてようが知ったことではないのだが、それによりロザリンドが傷つくのが目に見えている。
哀しむ彼を見る前になんとかしてやるのが補佐官であろう。
「可愛いなぁ。ロザリンド。普通でいいんだよぅ」
先の未来の暗闇を想像して沈むロザリンドにのんきに声をかけると彼は、睨み付ける。その姿も可愛くて軽く笑った。
「ははっ。悩ましいね。早く謝った方がいいよ」
ノブにぶら下がるように躊躇うロザリンドの上から扉に手を当てる。
悩める時間が気の毒で、きっかけを作ってやろうとしたわけだ。
「まて‥‥自分で開ける」
そんなおせっかいは要らないと、シンジュを静止して開けられない扉を睨みロザリンドは息を吐いた。
恐る恐る扉を開け、中を覗き込むと、ロザリンドの体が硬直する。
何かと覗き込んだシンジュも同じく、青ざめる。
彼女は部屋から姿を消していた。
「‥‥やっぱり、また。僕の前から消えてしまった‥‥‥‥」
◇ ◇ ◇
そして作者が回収しないまま、彼女は逃亡してしまい。振り出しに戻る‥‥。
-完-
となりそうな今回の話。
コンニチハ作者です。今日も読んで頂きありがとうございます。
ふりだしに戻しはしないですけど、キスってどんな意味だろう?って、作者が考えてる間。
何故か、楓さんが逃亡しました。
スミマセン。最後の一行欠損してました。
追記いたしました。




