追いかける幻影 7
◇ ◇ ◇
日だまりのように明るいロザリンドの執務室。木々の間から入り込んだ陽射しがキラキラ輝く。
そんな暖かな空間で、補佐官は凍てつく寒さを経験していた。気温は決して寒くない。
凍てつく原因は、王が二人。特にロザリンドから発せられる緊張感が周りの妖精達を凍らせていた。
もう一人の王は突然部屋に現れた。彼女は獣の香りも混じるロザリンドの執務室には滅多な事では現れない。なんの用向きかと疑問に思うが、自らの母を邪険にする気はなく、笑顔で出迎えた。
そう、始めの内は穏やかに会話は始まった。
母の用件が彼女の事だと理解すると、笑顔の裏に怒りが渦巻く。
「聞いたわ。奴隷姫が役にたったって」
「いいえ。母上」
「お前を身を呈して守ったらしいじゃない」
「丁度進行方向に居ただけですよ」
「それでもいいのよ。守ったと言う事実は変わらないのだから」
「‥‥」
ロザリンドの受け答えに、母王から強い香水のような香りが滲み出ており、苛立ちが周りの誰もがわかる。
黙ったまま、周りの妖精を下げさせると、二人きりの空間でロザリンドは母の神経を逆撫でするような言葉を吐いた。
「差し上げませんよ。彼女は私の物です」
「こっわ〜。怖いよロザリンドぉ。すごく怒って出ていったよ。お姫様ぐらいあげればいいじゃん。いつでも会えるんだからさあ」
母王が話にならないと立ち去ったすぐ後に、障害物の影から見ていたシンジュは駆け寄ってくる。
一触即発の母と自分にロザリンドは安全のため補佐官達を下げたのだが、こいつは命が惜しくなかったようだ。
「‥‥誰が、母上の補佐官に鹿の話をしたんだ?」
シンジュの馬鹿な提案に耳を貸すのさえ時間の無駄だと、疑問を呟く。
「え~? 珍しいからさぁ。皆、噂しちゃってるんじゃないの~」
「と、言うことは。お前か!」
疑問に軽い口調で回答すると、ロザリンドは怒りを言葉にあらわしてシンジュにぶつける。
「えぇ。違うよぅ。でも、あんなので諦めないよね〜」
「神原清を代わりに差し出せ」
「えぇぇ。僕のセイ君はだめだよぅ」
「大体何なんだ。役にたったって‥‥彼女は怪我をして僕の前に立ったんだぞ。それをあんな物みたいに」
「私の物って自分で言ってたじゃん」
「言葉の綾だ!」
確かにそう言った、言葉の綾だとは言っても他に言い方があったハズだ。
自分のボキャブラリーのなさに情けなくなる。
母が人間に興味を持つことは無いため、先程の話は生き残った補佐官の入知恵に違いない。彼らの望みなら母はあの言葉で手を引くだろう。望まない願いを何度も繰り返すほど、母は寛大ではない。だがもし、そうではなく母自身が願っていたのだとしたら‥‥自分はどうやって戦い抜こうかと悩ましげな息を吐いた。
その可能性は稀過ぎるが。
◇ ◇ ◇
■ ■ ■
ロザリーは今日は機嫌が悪い。
いつも通り、赤い椰子の実を食べさせてくれるが、冴えない表情に少ない口数。
多分、私の手の痛みがいつまでも治らないからだと思う。
不自由が無いように、セイが巻いてくれた布も見るからに痛々しくて、なんか当てつけっぽくてこれも原因なんだろなぁとは思う。
そんな事は一言も言わないけど‥‥
言わないってことは、気にしてるけど触れないってことでしょ?
治らない原因は、セイに戦い方をちょこっと教わってるせいかなとは予測してる。
初めての打稽古みたいに本気で強打はされないものの、
衝撃は少しあるからじわじわと侵食してるんだと思う。
でもそろそろ慣れてもいいんじゃないかなぁとは思うのよ、
貧弱な私。
まぁ、ロザリーには秘密なので‥‥
彼にしたら、実を食べさせてるのにいつまで治らないのだと、
イライラ?
いつまで手がかかるのだと、怒ってるわけだよね。
「ロザリー?もう自分で食べられるよ」
ほらほらと、テーピングをした手を握ったり開いたりしてみる。
実を割るのは無理だとしても、掬って掻き込むのは絶対出来る。
もう、手はかからないんだよと、ちょこっとアピール。
でも、ロザリーは表情をあまり変えず、掬った実を差し出して、いつもの低い声で一言。
「完治しない限りは無理はしちゃだめだから」
やばい。
やばいぐらい、過保護だ。
こんな貴方に「実はセイと剣の稽古してるんですよ〜」なんていをうものなら‥‥。
恐くて絶対言えない。




