表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/62

追いかける幻影 5

◇ ◇ ◇



ロザリンドが負傷していたことを彼女に指摘すると、視線をそらす。

いつもまっすぐ見てくる瞳が自分じゃない方を見ると言うことは不安な証拠。

その態度に心配で、痛む胸を押さえた。自分の不安があふれだす前に、会話をはじめようとクローヴに持たされた果実を渡すとその瞳が輝いたように見えた。

やはり、体内が必要な栄養素をねだってるんだと見て思う。


「頑張るから、一人にして」


そう言われて追い出された。

自分の言葉など聞き入れる余裕もなく外に出される。

拒絶され少し辛いが、大人しく部屋にいてくれるのだ。

自分も醜態を晒すことなく大人しく彼女に従おう。そう自分に言い聞かせてロザリンドは部屋の前に座り込んだ。

扉一枚が凄く大きな障害に思えるが、逆に考えると扉一枚だ。


本当は食い下がり、無理にでも一緒にいたい所だが、ロザリンドには別の不安事がある。

彼女が心配でたまらないのは半分と少し‥‥残りは、つい先ほどの事件だ。

普段、獣たちは王の執務室になど絶対入らない。獣たちは主従関係をはっきり理解しており、樹木の領域は侵さない。

それは王の機嫌を損ねた結果どうなるかを本能で知っているから、短い命を大切にする彼らは殺される恐さを感じる。

だから、今日のように危険な方の王へは記憶にあるかぎり侵入者はありえなかった。

その暗黙の線の均衡が崩れた時、起こるものの恐怖は獣だって樹木だって、虫でさえ体に刻まれている。

だから不可侵であったはずなのだ。


ロザリンドに向かってきた雄鹿(ハート)の要求も不明確だ。

ただ、ロザリンドの目には彼は何かに捕われていたように見えた。

雄鹿(ハート)が言葉を発していた事すら気づいていないロザリンドは頭を抱えた。足りない情報で、謎の目的を探るのは不可能に近い。当然、整理中に行き詰まってしまう。


「ただ僕に不満があって、何かを申し出に来てくれたって理由だったらよかったのに」


ぼそりと呟くと、何もない天井を見る。


「あっれぇ。ロザリンドォ。ストーカーしてるの?」


そしてこの声である。


「どういう結論だ、それは」


思考を乱したシンジュを睨み付けると、あり得ない想像を攻撃する。


「だって、お姫様のお部屋の前で座り込み。中で、何してるのかなぁって想像して楽しんでるんでしょ~やだぁ」


バカみたいな幸せそうな声を発するシンジュ、眉間に皺をよせてロザリンドは言葉を失った。

確かに彼女の部屋の前で座り込んではいるが、中を想像などしていない。想像するぐらいなら開けて直接確認する。


「変態な想像をワザワザ聞かせに来たのか」

「まっさか~。僕そんな暇じゃないよ、   ね」


そう言ってシンジュは後ろを振り返った。そこでロザリンドは彼の後ろに他の人物が居たのに気がつく。

そこにいたのは、白い狼の妖精。

大きな体にバランスよく付いた筋肉。白いフワフワの耳が特徴の獣であるが、ロザリンドの補佐官の一人、レタルだ。


「レタル‥‥」


補佐官ではあるが、ロザリンドは先の侵入者排除に姫を使えと提案した彼を怒り距離を置いていた。

今日、側に居なかったのもそのせいである。


「今日みたいな事があったんだからさ、ロザリンド。もう彼を許してあげてよ」

「許さない。許せるものか」


のんきなシンジュの言葉に握った指が手のひらに食い込む。

低い苛立ちの声はするもののロザリンドからは悪臭はしないため、怒りの具合は軽症だとシンジュは理解したが‥‥。表情は厳しい。


「お姫様だって無事だったよ」

「無事じゃない。だから許せない」

「王。申し訳ないと思っているが、あの提案は最善だった」

「分かってるが、軽く口に出したせいで彼女は‥‥」


森から脱力状態で戻って泣いた彼女の顔を思い出す。同族の死にきっと心を痛めたのだろう。

心が傷ついて止まらない涙で痛みを訴えてた。

あれを無事など言えるはずがない。


「謝罪なら、私ではなく、彼女にするんだな」

「承知した」

「そんな事で許しはしないが、今日みたいな事があってお前がいないせいで、また‥‥」


彼女が傷つくのなら、もっと許せなくなるだろう。

でかい体は見せ掛けだけでない、有事には前線に立っていた彼はそんな場面でも役に立てるはずだ。


「その事だが、鹿はどこにいる?」

「気を失ったまま牢に入れた。武器はシンジュが回収したな」

「え‥‥そうだね。まぁ良かったね、後はレタルがお姫様にご挨拶しておしまい。そこ開けてよ」

「今は駄目だ。一人にしてって」

「なんで? また逃げようとしてるの」

「まさか。彼女はマッショウ神経が傷ついていて、栄養素を捕食させるため実を渡してある」

「神経の損傷で、捕食? ならそんなに時間のかかるものでもないだろう」


ロザリンドは立ち上がり止めようとするが、確かにレタルの言うとおり時間のかかることではない。

実を喰うだけなのだから。

それに、離れている時間を少しでも短くしたいのは事実。


ロザリンドは自ら扉を押す。

だが、何か突っかかり思ったように開かない。


「?」

「どうした王?」


レタルが別の位置から力を加えると木簡が床に落ちる音と共に扉が開いた。


木刀は閂にはならない。

一度目は防ぐ事ができるが、二度目は固定位置がずれ、力と共に落ちていく。







中で彼女は――――――――――――

彼女は右手に刃物を突き立てようとしていた。


「な、何を!!?」

「な。何で」


慌てた声をかけると彼女は刀を投げ捨てて転がるように逃げ出した。

そこにあったのはクローヴに渡された果実。

ロザリンドは果実など目にくれず、逃げ出した彼女にかけより右手を掴んだ。


「良かった傷はついてない」

「そんなに不器用じゃないわよ」


安堵するロザリンドに向かって不機嫌な声を返す。


「不器用って、どんなに上手くとも手を切り落としたりして傷病は解決しない!」

「はぃ?」

「怪我で動転してるのかも知れないが体を傷つけても何も回復はしないだろ」

「ロザリー?」

「いや、むしろ精神的に参ってるあなたを一人にした僕が悪かったのか」

「ねぇロザリー?」

「元はといえば、つれ回したのが原因か‥‥」

「ちょっと、」

「なら僕はどうすればいい」

「‥‥」


声を聞かず一方的に思考に陥るロザリンドに彼女は左手の中指で額を弾いた。


「痛‥‥何」


軽い痛みがロザリンドの思考と彼女の視線と引き合わせる。反射的に額を押さえ、少し不機嫌な彼女を見た。


「何はこっちの言葉。どうしたの慌てて」

「いや、部屋に入ったら腕を切り落とそうとしていたから」

「誰が」

「あなたが」

「そんな痛いことするわけないじゃない」

「じゃあ。さっきは何をしてたの?」

「あっと。えぇ。いや。それは言えない」


軽快にロザリンドの誤解を解いていく彼女は、一つの質問で突如口ごもる。

何をしていたか、ロザリンドには言いたくないらしい。


「何故!」

「う。えっとね。何でもないから」


隠し事など許せなくてロザリンドは彼女に問うが、あいまいな回答が的を得ない。

何でもない事を隠し立てする必要は無いだろう。


「ロザリンド、ロザリンド〜。ローザーリーンードー!!!」

「何だ!」


目の前の彼女の疑惑を追及中に邪魔をする、うっとおしいとしか形容できない声に怒りのあまりシンジュを睨み付ける。


「多分。これじゃない?」


にっこり笑ってシンジュが指を指したのはレタルが持ち上げた実。


「あ!ダメ!だめだめだめ」


実に気がつくと慌てて彼女はレタルの元へ走るとそれを隠すように前に立つ。


「クローヴに貰った果実?」


ロザリンドの言葉に顔を赤らめて座り込んでしまう。

実は渡したまま何も姿を変えていない、彼女はこの数時間それを捕食していないのだ。



がんばるとは、食べる事でなかったのか?






◇ ◇ ◇


■ ■ ■





「食べ方が分からなかった?」


ロザリーが驚いた声を出す。

だから黙ってたのに、シンジュとあの厳ついもさもさ妖精がばらしちゃうから‥‥

恥ずかしい。


「だから、とりあえず割ってみようかなって」


くるくる回る実を両足で押さえつけなければならない事に気がついたのはしばらくしてから、足だけだと不安定だったため重しに右手を添える。

高い場所からだと照準が定めにくいと、低い場所から刀を刺しても実はびくともしなかった。

だから、怖かったが刀を振り上げ‥‥た所で見つかった。


両足で実を押さえて、刀を振りかぶる姿を。


いやぁぁぁぁ。私お嫁にいけないよぅ。

食べ物を足で挟んでる姿って、超幻滅じゃね?

ほら、シンジュも厳ついもさもさも笑ってらっしゃる。

バカにしてるのよね。


「食べるという行為に、その選択は間違ってないが‥‥その手では無理だ」


そう言うと彼は小さな鉈を出して実を割ると中からは、白い果汁‥‥ではなくて


赤黒い液体が溢れでてきた。


まるで血のような真っ赤で、ちょっと黒い。くだものでそれは、クランベリーぐらいだろ、いや、あれもまだ薄い色だよね。


正直気持ち悪いです、おじ様。

ぜひ、捨ててください。


「何? そのスプラッタぁ‥‥」

「何を言う。栄養成分故の色だ。ほら口を開けろ」

「いや、自分で食べさせていただきます」



冗談じゃないよ――――――――――――ぅ。


そんな異臭がしそうな食べ物。

自分のタイミングならいざ知らず、喰わされるって、いじめじゃん。


あぁぁぁそうね、きっとこれは、誰だか知らないくろーぶさんの地味ないじめなんだよ。

きっと妖精なんだから。

この厳ついもさもさもグルで、虐めをはじめたんだよ。


「右手が使えないのにか?支えられない、掬えない。喰わせてもらえねば無理だろう」

「何で分かるのよ。セイにしろあなたにしろ」

「うちの若いのがよく患う姿にそっくりだ。その時にこれはよく効く」

「なるほど、わかった。わかりました。でもね、そんな色の食べ物を自分のタイミングで食べれないのは嫌。っていうか、むしろ食べたくないっていうか」


ロザリーの目の前で堂々と私の傷病を暴く。

肯定はしてないけど、実体験を交えた理解しやすい説明。

聞いてるほうは、なるほどと納得するよね。

だからなんだよ、否定するなら、食べないって選択しか無い。

いや、むしろ食べさせないで‥‥。



喰いたくないデス。








「そんなワガママ許さない‥‥」




ぽそりと小さくつぶやいた声。

声のほうを見るとロザリーが俯いて発していた声。


「ワガママじゃな‥‥」

「ほら、食べるんだ」


そう言ってロザリーは厳ついもさもさ妖精から実を取り上げた。


わがままじゃないって抗議したいけど、


見て、

ロザリーがものすっごく怒ってる。


声は優しく。顔も笑顔なんだけど目が‥‥怒気にまみれている。

王が怒っているのは香りからも分かる事で‥‥。



こういう怒り方、


一番怖いよぅ。







「大人しく彼女が食べてくれるまで、少し下がってくれ」


なぜか、ロザリーは気を利かせて二人を部屋の外へ追い出した。

シンジュぐらいは抵抗するかと思ったけど、素直に外に歩きだす。

逃げ場になってくれたり手助けを、してくれないとは思うけど、

二人っきりにしないで、お願いって眼差しで見つめても、それは叶わず。


無機質に閉まる扉の音が響く。





沈黙のまま、ロザリーの差し出す餌に嫌々口を開ける。

当人同士の気持ちは無視して、はたから見たらラブラブなこの状況。

確かに私はドキドキしてるけど、それってば、ときめく恋のドキドキじゃない。


怖すぎて味なんて分かんない。

まあ、きっとまずいはずだから、結果オーライとして‥‥

でもなんで、こんなに怒ってるのだろう。


「‥‥何で怒ってマスカ?」

「別に怒ってないけど‥‥」


確かに、表情は満面の笑み。

ときめくぐらい可愛い笑顔。

でも、目だけは睨み付けるように鋭く、息をすることも咎められるようで冷や汗が止まらない。

ついでにいい香りが濃く漂って、ひしひしとロザリーの怒りが身に染みる。

本人はいたって怒ってないっていうけど。

そんなの当てにならないよぅ。



「何故。僕に相談してくれなかったの?とは思ったけど」


あらかた餌を供給された所で、ロザリーは笑顔を絶やして言った。

きっとこれが、怒ってる理由だ。


「‥‥だって食べれないのは自分のせいだって思うでしょ」


だから素直に理由を話す。

睨まれる視線も笑顔と共になくなったから、怯えて言葉が詰まったりしない。


ぎこちない腕の動きにさえあんなに悲しい顔をしたんだし、一人でご飯が食べれません‥‥だなんて知ったらホントに泣き出してしまうかもって心配だったもの。


「そうだね。確かに僕のせいだから」

「ほら。そういう。違うから、私のせいだから」


思ったとおりつぶやくロザリーに反論するが、彼はため息をついて此方を見た。


「さっきのレタルは久しぶりに見たろ?」


レタルって、もしかして厳ついもさもさ妖精さん、かしら?

確かに、あれ以来お久しぶりだ。


「彼さえ居ればこんなことにはならなかった。レタルを遠ざけたのは僕だ」


遠ざけた理由、は続けられない。何となく聞いちゃいけない気がして黙ったけれど。

ロザリーの仮定に気持ちが異議を唱える。


彼がいたら、先の出来事は変っていた、かしら?



「ならなかった、かも。よ」



ロザリーの言うように、レタルがいたら。彼が鹿男を止めてたかもしれない。

でも、間に合わなくてやっぱり私が動いていたかもしれない。



かもしれない‥‥。


すべては仮定なんだよ。





「私が怪我したのは私のせい。ロザリーが失敗したのはロザリーのせい。終わってから、あーしたら良かったなって悩むけど、少なくても今日のは私ね。後悔してない」


手は痺れて痛いけど。

これは訓練したら慣れる。

今日だけかもしれないし。


何か無いのが理想だけど、何かあったときのために慣れなきゃいけない。

嫌だ嫌だって言ったって、前みたいに突然巻き込まれるもの。


そう言う経験があって、きっとセイは木刀で組手などしようって言ったんだろうね。



王を守るため。


違うか、私はロザリーを失って独りぼっちにならないように。


「あー。でも、ロザリーが泣いて心配ばっかりしてるからちょっぴり悪いことしたかなって思ってるのよ」

「な、泣いてはいない。心配はしたけど」


変な笑顔も、怖い眼差しもなく、普段着のロザリーが焦って否定する。



本当は「心配しないで」って言えればいいんだけど、心配はこっそりして欲しいから。

複雑な私は、それを言うことは出来ない。



「ほら。二人が待ってるから、早く全部食べさせて」


親の帰りを待つ雛鳥のように、私は大きく口をあける。



それにしても


これ‥‥

ものすごく不味い‥‥。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【××× A good child, so do not imitate ×××】
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ