手のひらの花びら 1
どうもこんばんわ。ことわりです。
読んでくださりどうもです。
あと、お気に入り登録ありがとうございます。
今回の『手のひらの花びら』は序章よりも前、
主人公・楓が異世界に来た当初の話からはじまります。
どっちかっていうと説明回になっちゃってますね。
太陽がでているのに、雨が降って、虹が出る。
そんな幻想的な夕方にやってはいけないことって知ってる?
その虹を、指と指で作った隙間から、覗いちゃいけないってこと。
妖怪が、虹の向こうから、指の隙間を通ってさらいに来るよって言われた。
そんな迷信、馬鹿にしてたけど。
やってはいけないから、迷信はちゃんとあるんだね。
居合道の稽古の帰り道。
梅雨も明けたはずなのに、夕方は大雨。
でも帰るころには晴れていて、日ごろの行いがいいからだよねと友達と笑い合っていた。
もうすぐ自宅に着く頃、小雨がパラパラと降っているけど、夕日はちゃんと見える。
濁った雲に映し出されたのは、大きな虹。
キラキラ光ってて、ものすごくきれいだった。
そして、私は、思い出す。
昔、祖母やご近所のお年寄りに言われた迷信を。
なんでそんなことしたいと思ったのか分からない、ただ。
ただ、無意識に手を伸ばし、重ねた指の隙間から。その虹をのぞきこんだ。
「妖怪でるかな、なんて‥‥」
隙間から見えるのは、同じ景色。
やっぱり迷信だ‥‥ってもう一度覗きこむと、今度は先ほどと見えるものが違う。
指の間から見えるのは、黒。
闇だ。
そして、目の前は何も見えなくなった。
闇がまとわりつく。
太陽も、虹も、濁った雲も何も見えない。
暗闇で手を誰かに握りしめられた。
「ひあぅ」
こんな時、かわいらしい悲鳴でも上げれば女の子なのだが、驚くと悲鳴なんて出てこない。
びっくりして叩きつけるように振りほどく。
握りしめられた手は、とても冷たくて。
なんだか嫌な感じがした。
こういう、奇妙な話はもちろん、それだけでは終わらない。
例に違わず、手がダメなら体へと取り押さえるようにまとわりつく。
すがりつくような手が怖くて暴れるけど外れない。
見えないけれど、自分じゃなくて他の、唯一、自分が知っている物。
カバンと、居合道の道具。
カバンは手の届く範囲にはなかったが、刀を収容している袋を見つけた。
それを掴むと振り払う。
相手がどこに居るかなんて分からない。
今、これから解放されたいのだ。
そんな願いは虚しく終わり。手は首を絞めはじめた。
息ができなくなる苦しさ。
声の代わりに涙があふれでて、息を吐こうとする音が耳の中で障る音を響かせた。
もがいていると目が慣れて辺りが見える。
左右には木々。
頂点には月明かり。
夜、森の中は暗い。
当たり前の世界。
周りは当たり前の状況なのに、私は、今あたりまえの状況ではなかった。
息をしてるのに呼吸ができない。
ただ、痛くて苦しいのだ。
せき込みながら息を吸い、呼吸が安定したことに気がつく。
息は出来るけど首がマダ痛い。
私は誰かに殺されそうになっていた?
「よかった。気がついた」
声の主は子供で、他に誰もいないので彼が発したのだろうと認識する。
低くて優しい大人の声‥‥彼が声の主。
最後に見た暗い森の中の景色とは違い、大きな部屋の自分一人ではとても広すぎるベッドに寝かされていた。上には天蓋があり、私達がお姫様ベッドと憧れた物だ。
素敵なベッドとお部屋は分かったが、ここはどこなのカシラ?
「おはようございます。カースティ姫」
疑問の表情の私に、彼は知らない人の名前で呼びかけた。
‥‥ていうか、姫って言った?
「人違いです」
人違いをしているなら、誤解を解いておかなければならない。しかも女の子に姫だなんて、ちょっと危ない臭いがするの。
イマドキ、他人に姫なんて口走るのは、ホストか頭の可哀想な人ぐらいでしょ。
「知ってる」
私の言葉に相手は笑顔で答えた。
「知ってる?ならなぜ」
「この国は、たとえ偽物であってもあなたを必要としている」
「にせもの?」
偽物ってこの子言ったよね。偽物ってどういう意味だろう。
「あなたは彼女ではない。髪の色と服装が違うからもしやと思ってはいたけど。ただの変装という事もあるし‥‥でも違うことはよく分かった。顔は一緒でも、僕に対する態度が全く違うもの」
確かめたかったんだ、と相手は言って寂しそうに目を伏せた。
その切ない表情に胸が苦しくなる。こんな小さな子にこんな表情をさせるなんて、とんでもない女だ。
「さて、偽物と分かったんだ。状況を説明しないと困るよね。
ここは森の妖精の国。あなたは多分人間だと思うけど‥‥」
「人間です!!」
「そう。やっぱり人間か‥‥ということは、誰かがまた奴隷召喚を行ったわけだな」
人間か?と問われて、即答したが、この子は今なんと言いましたかしら?
もりのようせい?
どれいしょうかん?
目を丸くして驚く私に彼は笑いかける。
「まぁ、奴隷召喚されちゃったニホンジンなら驚くよね。
僕らとあなたたちは体の基本構造は少し違うけど、見た目は、同じだし。理解できないのも無理はないかな」
手をこちらに向けると、手のひらから淡いピンク色の花が咲く。
手品かと思った。
気がつけば手を伸ばして、その花弁を触り、引っこ抜こうとしている自分がいる。
彼は「くすぐったいよ」と手を引っ込めた。
周りに花の香りが濃厚に漂う。花弁はみずみずしく、引っ張っても抜けなかった。多分‥‥生えているのだろう。
「さて、カースティ姫とはこの国のすぐ隣にある人間の国の姫で、僕の妃になるために来ていただいた方です。
ここ数日のうちに彼女が行方不明になって、皆で探している最中にあなたを見つけた、というわけですよ。あなたは彼女にそっくりで、僕も皆も見つかって良かったと安堵していました。でも、黒い髪、見慣れない服、もしやと思って」
私を彼女かどうか、確かめた‥‥。
こんな子供と結婚だなんて、とても愛しあってなきゃ無理だろう。きっと本人の希望なんて聞かないで無理やり嫁がされた姫は逃げ出したのだ。
「妃が逃げたなら、ほっとけばいいじゃない」
そりゃ立場上かっこわるいけどさぁ。嫌がる女の子に婚姻関係結ぶなんて素敵じゃない。
婚姻って言えば、その‥‥女の子にとって本当に困る事もしなきゃならないだろうし。
「そんなに話は簡単じゃない、人間は僕らの森の土地を欲していて、僕らの森を侵略している、そんな彼らを罰するという名目で妖精は、人間とずっと争いをしていた。こちらが攻めないという約束のもと彼女は嫁いできた。争い緩和のためにここに居なければならない存在だ。
森の妖精は‥‥もしかしたら僕だけかもしれないけれども、人間と争う必要はないと思っている。彼女が居て、人間たちのほうから攻めてくる心配がなければ戦争なんか必要がない。
だから、彼女が居ないという事実は長引かせてはいけない」
長い話が頭を痛くする。
話の長さで痛いのか、内容が重いから痛いのかよく分かんないけど。
でも、彼女は喜んでここに来た訳ではないのだけは理解できた。
争いを止めるための政略結婚。人間が襲って来ないように盾にされた姫。
「それは人質という」
「人間たちはそう思っているでしょうね。僕らはそのつもりはないのですけれども、むしろ‥‥」
むしろ?
彼は顔を赤らめて言葉を閉ざした。
まるで、初恋の人の名前を友達に伝えるような‥‥
まさかそうなんだろうか。
「僕は彼女に来ていただいて幸せだったんですよ」
可愛い笑顔でそう言った。
不覚にも、その素直な言葉にときめいてしまう。
違う。
私はショタの気はないハズだ。
可愛い顔と彼の声が素敵で話が切ないから感情移入してるんだよ。
たぶん。そうだよね。
「ロザリンド。人間は見つかったの」
「はい。母上、ここにおられますよ」
その声に、彼の言葉に焦って上ずっていた心が一瞬で現実に戻される。
母上と呼ばれた声は、とても‥‥
とても冷たくて怖かった。
ロザリンドと呼ばれた彼も今まで話していたときとは違い、礼儀正しく無表情になる。
部屋に香水のような濃い香りが侵入してくると、大きくとても綺麗な女性が入ってきた。
「黒髪‥‥色が違うけど、まあいいわ。自分がどれだけ危ない位置に居るかちゃんと理解させなさい。お前が言うから受け入れたけれども、奴隷たちなどと停戦などこちらはする必要などないのだから」
彼の母は私を一瞥すると直ぐに部屋から出た。
同じ空気を吸っていたくない様に口元に手を当てて見下された目に背筋が凍る。
後ろ手で無意識に刀を握る手に力を込める。
彼と話している時は気づかなかったが、私は大切な刀をずっと握り締めたままだった。
「母上のお優しさには感謝しています」
後姿に聞こえるように声をかけると、彼は小さくため息をついた。
ため息じゃないのかもしれない、私が偽者とばれなかった安堵かな。
今の言い様、偽者だとばれたら私の命もないかもしれない。
でも、妖精と言われるだけあって、とても綺麗な女性だった。
妄想膨らむファンタジーの本も意外と嘘は書いていないのね。
ただ、あの態度に好感は持てない。
「奴隷たちって言ったけど‥‥」
先ほど聞いた奴隷召喚という言葉が思い出された。
私の言葉に、彼はばつの悪そうな顔をして話し始める。
「この国の人間は、昔々僕ら妖精が召喚した異世界のものの子孫たちだ。僕らが人間を召喚するのは奴隷として利用するため‥‥」
だから奴隷召喚‥‥。
って、異世界から奴隷を召喚するって、
私も奴隷として召喚されたって話なの?
「過去に禁じられたため現在その方法を知っているものは居ないはずなのだが‥‥、あなたのように黒い髪の人間がたまに呼び込まれる、彼らはニホンという国から来たというんだ。その色を見たときもしやと思ったけど」
「だから私が日本人って思ったのね」
「妖精たちの傲慢さ、異世界の住民を『奴隷』などとして連れて来た報いが戦争として降りかかっている。ただ人間の彼らとて、今はこの世界の住人だ。戦争の当事者として自分の首を絞める必要はないと思う。戦争なんかする必要がない」
彼の言う事は正論だ。
でも正論では何も出来ないのは、歴史に疎い私にでも分かる。
「召喚されたニホンジンの気の毒なところは、今の人間の国に、あなたのような黒い髪の人間は存在しない。だから妖精の手下だと、黒髪の人間は人間の敵として認識されているようで‥‥。同じ人間なのだからと何人かがあちら側に逃げ出したが酷い姿になって捨てられていたよ」
この国に召喚されたら奴隷として生きる‥‥
それが嫌だから人間の国に逃げたとしても居場所はない。
使役されるか、殺されるか‥‥。
理不尽な選択肢だ。
「人間からは敵と言われ、妖精からは奴隷として蔑まれ。あなたを守るには、彼女の振りをして、僕のそばにいていただくしか方法はないんですよ。あなたが彼女のふりをしてくださるのなら、僕はこの世界からあなたを守ります」
落ち込む私に彼は真剣なまなざしでそう言った。
‥‥あなたを守りますと
「その中で、元に戻る方法でも探せばいいでしょう」
最初の優しい笑顔で笑いかける。見た目は子供なのに、低い優しい声で‥‥
悔しいが、
私は彼に好感を持ってしまった。




