表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/62

追いかける幻影 3



部屋に入るととりあえず胸を押さえた。

止まらないドキドキは、さっきのなのか、走ってきたせいか全然分からないんだけど‥‥。

走ったぐらいで動悸がするなんて、この私にありえない‥‥かなぁ。


だったら、離れててもドキドキするのは悔しい。

あんなに楽しそうに笑って、組み伏せる。 あ、順番逆ね。

そんな彼に、稽古でも負けて、精神面でも負けて。

いや、負けたとか関係ないかこの際。

うーん。でも何気なくもやもやする。


「どうしたの。泥まみれになって」

「えっと、打ち合いで転がされちゃってぇ」

「へぇ。誰に‥‥」

「そんなの決まってるでしょ‥‥」


っ?

今、誰が質問してきたの?

声の主を確かめると、にっこり笑ったロザリーがいた。

えっと、笑顔なんだけど何だか怒ってるって感じのオーラが出てる。

何だか知らないけど「打ち合いで負かされた」事をとってもお怒りのようデス。

もしかしたら、泥だらけのお姫様を怒ってるのかしら。

どちらにせよ、ロザリーに勝負の話は聞かせたくない。


野蛮な私は知られたくない。


「‥‥えっと。今の無し。聞かなかったことにして」

「言えない事なんだ」


冷や汗を撒き散らしながら言葉をかき消すように両手を振る。

言った言葉がそんな事で消えるわけは無くて。

真実を聞き出そうと、まっすぐな視線でこちらを見上げる。


あぁぁぁぁ。そんな目で見ないでください。

口から溢れてしまいそうだから。


「‥‥ごめんなさい」


小さな声で一言。

それより先も、後戻りもしない。

沈黙がほんのちょっと続くと、ロザリーは軽く息を吐いて笑顔を変えた。


「嫌なら聞かない。でも、泥を払うからちょっと屈んで」

「はい」

「ホントに。怪我するような危険な事じゃないだろね」


小言を言いながら、頭のてっぺんから手櫛で髪をとかしてくれる。

無造作に払うわけじゃなくて、髪の流れに沿って流してくれるから、痛みはないけど、少しくすぐったい。

ロザリーの手が頭のてっぺんから頬のラインをたどると、いつもの香りが動きにあわせて流れてくる。

髪が終わると、続けて背中や袖をなでるように払い泥を落とすと、最後は自分の手を払う。


「ありがとう。ごめんね、よごしちゃって」

「そう思うなら、今度からしないこと」

「できるだけ、約束します」


一人で鍛練してる分には汚れない、組手なんかしなきゃいいんだもの。

今回付き合ったし、しばらくは断ってもいいよね‥‥。


「その返事はどうかなって思うけど」


ロザリーは困ったように笑いながら私の手を取る。

まだ少し痺れが残っていたけど、ちゃんと握り返せる。



朝の稽古が終わったら、ロザリーのお仕事に付き添う。

ここ最近の私の日課。


いつもと違うのは、ロザリーの機嫌が少し斜めで、私は木刀を持って歩くって事。

刀と木刀。

二本持ってたって一緒に使うわけじゃないから、どっちか置いておけば良いんだけど。

どっちも使うことなんてないんだから、どうでもよかったりして。


刀は絶対に手放せない。

私がこの世界じゃない場所から来たって証拠なのだもの。

木刀はセイに会ったら返そうかなって。


だから今日は二本持つ事にした。





今日のロザリーは報告される内容を確認していた。

樹木の妖精さんたちが、話をはじめて国の問題が幾つも報告される。

それはどう問題なのかわからないような内容もあったけど、彼は真剣にその話を聞き、簡単なものはその場で結論を出す。

最初は側にいる私を嫌そうな目で見てた妖精達は、さすがに慣れたらしく最近はそんな視線もなくなった。

まぁ居ないものとして、認識しないようにしてるんだと思う。

ロザリーは相変わらず優しいし、周りがそんな態度でも気にしない。


‥‥ようにしてる。

だって、気にしたら自分でもへこんじゃうし。

何より彼が心配するのよ。



お話内容が白熱してきた辺りで、突然悲鳴と供に怒声が聞こえた。


「王!」


声が聞こえた方に私たちは向くと、鹿の角を生やした大きな男が立っており、回りにか弱い樹木の妖精が倒れていた。

王と叫んだのは、以前怒っていた草の匂いのするイケメン妖精。

彼の警告音に心臓がドキリと痛む。


「獣がココに何用だ?」


ロザリーは声を上げた草のイケメンではなく、騒ぎの中心にいる鹿男に問いかけた。


「何をのんきな、お逃げください!」


確かに口調は緩やかでのんきと取られてもおかしくない。

更に慌てた声で指示するが、ロザリーは全く聞いてない様子で‥‥。


「ロザリー? 逃げろって彼は言ってるよ」

「大丈夫。用がないのに獣はここまで来ないよ」


こちらに笑顔を向けてこんな事を言う。

確かに、ご用がないって感じには見えないけど、

何故、樹木の妖精たちは鹿男を止めようとするのだろう。

何故、鹿男は止めようとする妖精たちを押し退けてまでココに来る必要があるの?


なんか、ものすごく嫌な予感がする。


鹿男が見てるのはロザリー。

ずんずん進んでくる進行方向に樹木の妖精達が立ちはだかり、突き飛ばされる。

見るだけで対格差がありありだもの、引きとめられるとは思えない。

現に引きとめられたものはいない。


「王!」


彼の言葉は聞こえているハズなのに、ロザリーは向かってくる鹿男から視線を外さない。

彼の声と、鹿男の態度を見ていると、不安がどんどん広がる。

相手が近づけば近づくほどなくなる逃げ場を探す。


「こんな騒ぎにして、用はなんだ?」


誰も止められなかった鹿男を、目の前で睨み付け再度問う。

大きい声ではないけれど、とても威圧的な怖い声。

いつものロザリーじゃない。


これは、王様のロザリンド。



鹿男は王に何か申し上げる事もなく、固まったように立ったまま動かない。

王の瞳に怯え動けないのかと思ったけど、その目は虚ろで表情は何も現していない。

虚無がただ立っている。

何も言わない鹿男にロザリーは眉を顰めた。


「目的は無いのか」


話を聞こうと待っていた相手が何も言わないんだもの。がっかりだよね。


不快感を現したロザリーが背を向けると、鹿男の口が動いた。



「も‥‥は、おの‥‥な」



――――――何?

何だって言ったの?


鹿男は背を向けたロザリーに向かって拳をふり上げた。


その手には輝く金属が握られていて、きっと刃物だろうって心臓が高鳴った。

そのままふりおろされたら、ロザリーはどうなるだろう。

小さなロザリーと、筋肉の塊の大男。

この対格差。無事で済むはずない。


怪我。


いや、最悪の場合‥‥

あの笑顔が消えてしまう。


ダメだよ、そんなのダメ――――――――――――――――――!!!!!












右手にびりっと電気が走るような痛みがした。


何を、私はしたのだろう。


気が付いたらロザリーを庇うように前で鹿男の攻撃を受け止めていた。

刀と木刀を並べて持つ事で盾になっている。

刀は鞘から抜いてないから相手に傷はついてないけど‥‥。

無意識にこんなことできるなんて驚いた。

鹿男も驚いたようで、動きが止まってる。


でも、私は驚いてる場合じゃない‥‥


刀から手を離すと、右手で木刀を抜く。

地面に落ちた刀と共にバランスを崩した鹿男は倒れそうになる。

その頚の後ろ、頚椎に向かって重力に任せて木刀を叩きつけた。

私の力(痺れすぎて更に弱々)なんかでも、その位置は痛いハズ。

ごめんなさい!!


鹿男はそのまま崩れさる。

何とか脳震盪にはできたようだ。



「ロザリー。大丈夫?」

「‥‥あ、危ないじゃないか!」


呆然と固まっていたロザリーの目線まで低くなると、声をかけた。

視線が合い、気がついた彼は突然怒りだす。


「あなたが危険をおかさなくても誰かが何とかしてくれるだろう!!」


倒されていた樹木の妖精達になんとか出来るとは思えない。

いや、そう言うんだからもしかしたら、何とかできたかな‥‥

でも、他人任せにして、私が動かなくてロザリーが怪我しちゃうのは嫌だ。

もう会えなくなるのなんて嫌。

今みたいに偶然に対処できなかったとして、自分が大怪我しちゃったとしてもそれは構わない。


「ごめんね。でも、ちょっとだけ、お役にたてたでしょ」


怒りを抑えてもらおうとして、痺れすぎて感覚の無い右手でロザリーの頭を撫でる。

ロザリーがいなくなったらこうやって頭を撫でてもあげられない。

怒らせても守れてよかったって思う。


「役にたったって? そんな事望んでないよ。僕のこの身が傷つくより、あなたが傷つく方が辛いのに」


ぎこちない右手に気がつかれたようで、彼に両手で動きを止められる。

それは掴まれたって言うより、包まれたって表現が正しいのかもしれない。


とっても優しい力だった。


「奴隷契約がなければ、もっと重症だったかもしれない」


契約‥‥?

痺れすぎて、ではなくて痺れ程度で済んでる。ってこと?


「奴隷契約なんか役にたってもないかもしれない。大怪我がわからないだけで」


とても辛そうに続ける。

害があるのは私の手なのに、まるでロザリーが傷ついたみたい。

どうしてそんなに優しいのだろう。


「だから‥‥無理しないで」


私の手を掴んだまま、両手を祈るように額にあて、かすれる小さな声でそう呟やく彼を見て胸が痛くなる。

表情は両手で隠れてしまってるけど、今にも泣きそうな声に後悔する。


「‥‥」


――――返す言葉はない。


そうだよね。きっとセイに耐えられたから、調子に乗ってたのかもしれない。

意識的にしたんじゃないけど、手を引いて逃げるって選択肢もあるんだもの。

何も受けきらなくても問題なかったはずだ。


倒れた鹿男を似たような体格の獣の妖精が運んで行くのを横目で見て、少し反省した。








周りが落ち着き、残された、私の刀。

そういえば、防御に使ってそのままだった。手が痺れるような衝撃で折れたりしてなきゃいいんだけど。


それを拾おうとしても、力が入らない。

木刀を持ってる左手はまだそれを握れるのに、右はほとんどダメになってるようだ。

別に痛くは無いけれど、確かに重症だよね。

掴もうとやきもきしてると、ロザリーが刀を拾ってくれ‥‥

拾いあげられた刀は、私の目線の上から差し出される。


ロザリーじゃない。

彼はもう少し背が小さい。

お礼を言おうとして驚いた。


草のイケメンが、

睨み付ける眼差しの彼が

怒ってる顔しかイメージ無い妖精さんが、

今も、ものすごく怖い表情なんだけど、私の刀を拾って差し出している。


「あ‥‥ありがとうございます」


せっかく拾ってもらったんだから、落とさないように、握力の残ってる左手で受け取り。重さを逃がすため右手を添える。

彼は何も言わずその場所から去った。

奴隷契約してるんだから、彼の言葉がわからない訳じゃない。

だから、無言でどこかに行ったのだろう。


まぁいいんだよ。嫌われてるのは分かってるから。

拾ってくれただけでも親切なんだもの。




にっこり笑顔で、親しげに会話‥‥なんて、期待してない。





振り向くと、ロザリーは側にいない。

鹿男を拘束している獣たちに何か指示をしてる。

側に居ないのは残念だけど、重症な痺れは気づかれないのは良かったのかな。


刀と木刀を胸に抱き、こっそり寂しい息を吐く。






■ ■ ■




「ロザリンド。大丈夫だったぁ?」

「彼女が居たから大事はない」


シンジュとセイが騒ぎを聞いて駆けつけてきた。


「外から帰ってきたらびっくりしたよぅ。獣が王達に襲いかかったって」

「達?」

「ロザリンドだけじゃない。君の母上もだよ」

「母上が?」

「当然無事なんだけどね‥‥」


シンジュが私の顔を見てロザリーに耳打ちした。

その言葉が何を言ったかわからないけど、ロザリーは顔色を変えて走っていった。


お母様が無事なのに慌てるってことは、命以外の何かが無事じゃないってことなのかしら。

疑問に思うけどね、それをシンジュにたずねるほど、私は彼を信用していない。



だって、彼は。

セイの契約者なんだから。



シンジュの側にいるセイは朝の笑顔は当然なくて、いつもの無表情だ。


「お姫様。今日はお部屋に戻った方がいいかも。あんなことがあったし危ないかもよ」

「あれで終わりでしょ?」

「だといいね。ほらほら。送ってあげるから」


進行方向を曲げるため、シンジュが私の背中を押す。

方向転換を突然されて、うっかり刀達を落としてしまった。

木刀が音をたててセイの足元まで転がっていくのを止める事もできず。

私は刀が自分の手から逃げ出すのを止めようと必死で掴むが、右手が言うことを聞いてくれない。


「どうしたの?」

「別に‥‥なんでもないよ」


シンジュには違和感たっぷりに見えたんだろうね、心配そうに言われるけど。

正直に話すほど私の中で整理されてない。

ただちょっと痺れてるだけだもん、何でもない。

なんでもないハズ。


「手を出せ」


セイは無言で刀を拾い上げるとそう言う。


何で、命令されなきゃなんないの?


嫌がってると、右肘の辺りを親指と人差し指で押さえつけるように引き上げた。

声をあげるほどではないけど、手首と甲の部分に痛みが走り、顔をしかめてしまう。


「やっぱり‥‥今日は動かすな。明日になっても治らなきゃ、帯で固定したほうがいい」

「固定?」


セイが手を離すと痛みはない。痺れてるんじゃなくて、痛かったんだね。全然気がつかなかった。

んでも、固定ってどうすればいいんだろう‥‥


「できなきゃ、俺がする」


右手を見つめて疑問に思ってるとセイは視線をそらせてそう言う。

解らなかった痛みを見破った彼の処置を受ける。これはお言葉に甘えた方がいいのかな?

まぁ、明日になっても治らなきゃ、だけどね。


「優しいね。セイ君」

「責任があるからな‥‥」

「だってさぁ~お姫様。

 セイ君も心配しちゃうからお部屋に帰ろうね」


不機嫌そうな表情でシンジュは私の返事など聞かず、強い力で背中を押して歩かせる。

刀を持ったセイが後を追う形で私は部屋に戻された。




どうもこんばんわデス。ことわりデス。

今夜も読んでくださりどうもありがとうございます~。

新しくお気に入り登録してくださった方が増えていて、嬉しすぎて涙が止まりません(ノ-<。)。。

嬉しさのアマリ、気が付いたら携帯でガリガリ続き打ち込んでました☆

通勤一時間って結構時間取れますよね‥‥。(なので誤字は携帯のせい‥‥)



これから場違いな言い訳を記入しちゃいますので、ご気分が優れない方は【もどる】ボタンでオカエリクダサイ。(次話投稿したら次話へクリックで無視できますw)




今回の言い訳。

・木刀と刀って一緒に持てるの-----?

って言う大人な質問はご遠慮ください。

最初は木刀はお部屋に置いてて、刀のみで応戦してたんだよ。

せっかく綺麗な制服になったのだから~血で汚したくないなぁって木刀を持たしたのに、楓さんが理由つけて刀手放さないんです。


・木刀で頚椎殴ったら死ぬんじゃ‥‥

そんな常識な質問もご遠慮ください。

でも、問題ない大丈夫だ。

獣の妖精は筋肉メインですので(基本動物ですからね)頚椎だろうと心臓だろうと脳だろうと筋肉ガードがあります。

まぁ、即死→一週間後に死ぬ ぐらいですねキット。

木刀で頚椎(頭部もね)あたりを真剣に殴ったら死にますからね、良い子も良い大人も真似しちゃ駄目ですよ。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【××× A good child, so do not imitate ×××】
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ