追いかける幻影 1
お姉さんの話をセイからたっぷり聞かされて、お腹が一杯になる、後何か詰め込んだら吐き出しそうな長い時間、彼は姉だけの事を熱く饒舌に語っていた。
もしかして、もしかすると、
セイはシスコンって言われる性癖の持ち主なのかもしれない‥‥と思い始めてからがとても長かった。
見たことも会ったこともない女性の個人情報が頭の中に刻みこまれる。
でも、彼の記憶のお姉さんは、どう私に似ているのかはよく分からないままだったけど‥‥
とりあえず、疲れた‥‥
「おかえり」
「ただいま」
それでも、ロザリーには変わらない笑顔を見せたくてかけられる声に元気に返事をする。
「上手く行かなかった?」
がんばって元気なフリをしたというのに、ロザリーにはバレているらしい。
その問いには首をふる。
結論から言うと上手くはいったと言えるだろう。
彼の不機嫌は取り除いたから。
ただ、ご機嫌にお姉さん話を永遠にされるのならば、
悪いけど、しばらく彼には会いたくないなぁ。
ふうっとため息を漏らし、楽しそうなセイを消し去る。
なら、思い出されるのは怒ったあの話で‥‥
ついでに抱き締められた余計な記憶が顔を熱くした。
「辛そうだけど、大丈夫?」
「いぁ、た。体調は頗る良好。
あ〜そういえばね。セイもど‥‥契約してるんだね」
側で見てるロザリーには青くなったり赤くなったりして、体調不良に見えたのだろう。
熱い頬を抑えながら、話を変えようと、記憶の残り粕の話題をふる。
心配そうだったロザリーの顔が、一瞬ひきつり、すぐ笑顔になった。
「ん。あぁ。シンジュが彼の契約主だよ」
でも、それはかなりぎこちなくて、
あぁ、奴隷契約はロザリーにもタブーなのって忘れてた。
「ロザリーと、じゃ、ないんだ」
「違う。僕はあなたが初めてだ」
「そうなんだ、初めてだったんだ‥‥」
ロザリーは顔を背けて『初めて』なんて言う。
繰り返して私は言ってみるんだけど、会話の方向が変な流れに傾いている。
気がする。
考えの方向を修正しよう、
セイはロザリーじゃなく、シンジュの奴隷だった。
だから、僕のセイ君なのね。
シンジュが契約主だって分かり、彼の言葉の意図が想像できて、なんとなく嫌な気持ちになる。
でも、ロザリーも、私を僕の‥‥なんて言ってるのかも。
それはそれで。
いいかも!
「ね‥‥大丈夫?」
妄想世界にから心配そうなロザリーの声で我にカエル。
シンジュは嫌なのに、ロザリーだったら良いだなんて‥‥身勝手なのかもしれない。
むしろそんな想像が出来ること事態が引くよ。
自分自身にだけどね。
「イヤ! 大丈夫!」
さっきの妄想を知られたく無くて必要以上に首をふって、頭の中を整理した。
「反応無いから、心配するよ」
「ごめんなさい。何だった?」
ロザリーが話し込んでるのに、聞いてないのは自覚してるのでも二回目だ。
自分が一生懸命話をしてるのに、聞いてもらえないのはちょっと嫌だよね。
反省して、彼の方に向くと、言いづらそうに
「えっと、その服‥‥変えない?」って言われた。
確かに濡れたり汚れたり汗だくになったり、怪我したり‥‥
「あ。血か、ごめんなさい」
セイに会うために、着ていた上着に、大量に血が染み付いてるのを思い出し、慌てて上着を脱いだ。
きっとまた、我慢させてしまったのだろう。
簡単に、服を変えると言っても、私はこの制服一着しかない。
せめて鞄があれば、袴一式が入れてあるのに。動きなれてないから、あんまり好きじゃないけど‥‥。
「変えるって言われても、これしか‥‥」
「身長も見た目も同じだから多分着れるかな‥‥って」
提案したロザリーに出された洋服達。
まずもっての感想が、
お姫様な服しかない‥‥
こんな服、テーマパークでパフォーマーのお姉さま方が着てたのを見たかなぁっていうぐらい現実には滅多にお目にかかる機会はない服。
多分、これはカースティ姫のお洋服なのだろう。他人の服に袖を通すのは、少々遠慮したい所だが、なんせ着替えがない!
■ ■ ■
「ロザリー。無理だったよ」
自分でも分かる、ショックを受けて沈む声。
キャミソールにルームボトムなんていう姿のまま、ロザリーを呼び込んだ。
いや、別に下着じゃないし見られたら困る訳じゃないからいいけど、人前に出る姿じゃないよね。
とは思ってるわけですよ、
でもね、でもね、元の制服はロザリーに没収されてたし仕方ないわけで。
お洋服と闘って、小一時間。
私はこれらを着ることが出来ませんでしたぁ。
時間がかかったのは、着方がさっぱりだったこと。
まぁ、これは、所詮洋服。袴や着物に比べたら、時間さえあればなんとかなったんだけど。
あともう1つ、重大な理由は‥‥
サイズが合わなかった。
サイズが合わなかったんだよぅ〜。
「着れないか‥‥」
とても残念そうにロザリーはお洋服を片付ける。
これで分かったのは。
お姫様は、私より胸があって、私よりウエストとヒップが細いって事だ。
ヒップは同じだとすると、お姫様の胴が長いのか。
どちらにせよ。
ナイスバディな、サイズは合わないんだ。
着物なんか、万人誰が着ても着れるのに(小さすぎる子供は別として)、西洋スタイルは、何故サイズなどという、衝撃な物があるのだろう。
着たいけど泣く泣く諦めてきたお洋服達が思い出された。
そもそも、お姫様ドレスが似合わないから、神様が着ちゃダメって言ってるんだね。
ごめんね神様。(イラナイ気を使わせて)
ごめんねロザリー。(想像以上に太ってて)
「さっき着てた服と同じものを用意させるよ」
ロザリーが用意をしてくれた制服は‥‥色は全く一緒ではないけど似たような色で同じような造りの服が何着か。
用意するって言って、そんなに時間がたってないのに、同じものが造れるのはホントにスゴい。
元の制服はというと袋に入れて返却されていた。開封すると、じんわりと生臭い臭いがする。
これは確かに、嫌かも。
こんなの着てたのか、私。
「糸と毛だから、素材は違うけど、着れると思うよ」
靴下までちゃんと用意されてて、サイズは言ったとおりピッタリだ。
これ、安易に太れないな‥‥注意しよう。
後は。
「香り。お願いします」
最後は、変態的なお願いを頭を下げて依頼する。
新しい服には、あのいい香りはついてない。
あたり前だけどね。
「しばらくしたら、自然に香りはつくと思うんだよ」
「待てない」
「改めてこう、香りをするのって、何ていうか、その」
私のお願いにロザリーは照れはじめ、遠回しにイヤイヤする。
前は気にせず、してくれたじゃないですか。
今と前の違いって、
お願いして→ぎゅーってして→解放したら→香り塗布。
お願いして→拒否。
ハグか!
「じゃあこうすれば見えないから、早く早く」
「え、ちょっと」
よそ見するロザリーの背後から彼を抱き締める。
当然慌てたロザリーは異議を口にするけど、ピクリとも動かない。
彼が動かなくったって、胸の激痛ったら痛いことこの上無いんだよ。でも、何回も触ってたから痛みに慣れてきたのか、今は耐えられる。
香りのためなら我慢できるのかも?
「痛いの我慢してるんだから、動いちゃダメだよ」
「‥‥しょうがないな、息を止めてね」
「はーい」
よいお返事をした私は息を止め、にっこり笑う。
ロザリーがどんな表情をしてるのか後ろからだから分からないけど、きっと、照れて拗ねた顔をしてるんだろ。
もしかしたら、苦笑いかもね。
ドキドキしないのって、気にしないでこういう事出来るから、幸せ。
今回の副題は、
「恥ずかしくないんですかw」
って感じですね。
キャミソールとルームボトムはほぼ下着だと思う作者なのでした。




