臆病な僕は 7
「そうね」そう言って自分を納得させた。
何が「そうね」なんだろう‥‥
ホント、数えるほどしか会ったこと無いけど、いつもセイは不機嫌だっただろうか?
シンジュがいた時は確かに不機嫌だった事は認めるが、少なくとも私に不機嫌だったことはない。
気安く「そうね」なんて言えない。
言っちゃいけない。
シンジュがいたらなぜ彼は不機嫌なんだろう。
ロザリーもいつも不機嫌って言うってことは、彼の前でもそうなんだろうねきっと。
不器用な笑顔を見せてくれたのは私だけなんだ。
なのに、何かが原因で壊してしまった。
「ロザリー。セイの所にいっちゃダメ?」
その一言で彼が止まる。
元々あまり動いていなかったけど、完全に止まったって表現があってる。
私の発言に予想してなかったのだろう。
だよね、「そうね」って納得したんだから‥‥
「行く必要はないと思うけど」
絞りだすように息を吐くと、睨む様な目つきでそう言った。
声も少し低くなっていて、正直怖い。
はじめて会った時のぎこちない笑顔でもなく、不安いっぱいの悲しい表情でもなく、激しい憎悪を想像する瞳。
でも、香りは濃くはないし、言いたい言葉も素直に吐ける。
だから、ロザリーはまだ怒ってはいない。
ちゃんと説明して分かってもらわなきゃ。
「ないと思うけど、行かないときっと後悔するの。ちゃんと怪我もしないように気をつけるし、他の妖精に見つかったらちゃんと隠れる。あと、えっと」
あと、何を気をつけたら許してもらえるかな。
武器を携帯?
それは言われたけど、そんな事では許可なんか出せないよね。
色々と悩んで、回らない頭をぐちゃぐちゃにして考えてみたけど、なんかいい条件が出てこない。
「‥‥そんなに困られると駄目とは言えないんだけど‥‥」
軽く噴出して彼は笑う。
笑わせようとしてたわけじゃないんだけど、
話す内容は大した事ないから、態度を笑っているのよね。
それは失礼な‥‥。
失礼だけど、
でも、睨まれるよりかは何倍もいい。
「終わったら。終わったら、速攻で、ちゃんとロザリーの所に帰ってくるよ」
だから、今は側に居ないことを許して。
「うん」
私の言葉に笑顔を崩さず相槌を打つ。
その言葉と笑顔に安堵する。
でも、さっきみたいに
拒絶されたら?
って怖がると、「一緒に行く?」ってロザリーに助けを求めてしまう。
ダメだな私。
怖いなら、行かなきゃ良いのに。
王様の大事なお姫様を演じてればいいのに。
王様を心配させてまで、無駄な事なんかしなきゃいいのに。
「いや。ここで待ってるよ」
そんな不安な私に気づいたようにロザリーは背中を押してくれた。
扉まで誘導して、開けて外に出してくれる。
■ ■ ■
◇ ◇ ◇
そう彼は‥‥
匂いを嗅ぎ付けて現れる。
彼女に着いている紛い物の香りではなく、彼女自身の微かな香りを嗅ぎ付けている。
そうとしか思えないタイミングで、神原清は現れた。
遠くからでも目立つ黒。
彼女とお揃いの漆黒。
二人で笑っている姿が思い出されて、無意識に彼女の手を強く握りしめた。
どうか、彼の側には留まりませんように‥‥そんな、子供のやきもちの様な感情が意味なく溢れだす。
先ほど、どす黒い感情で彼女を肉体的に傷つけた所だ、自粛せねばとロザリンドは二人から目を反らした。
「あんた、ぞんざいだな」
てっきり仲良く話でもするのかと思えば、いつもの彼で、ロザリンド達が探しに行こうとしていた目的物を回収し彼女に配達する。届け方はぶっきらぼうだが、無くしたものを探す手間が省けた。
武器を取り戻したのだから、もうここには用事は無いだろうと帰りを促すと、一瞬拒絶された。
不安な瞳は、神原清の背中に向けられていて、拒絶の理由は、彼だろうと容易に想像できる。
「セイは、何のお仕事をしていたの?」
ほら、彼のことだ。
彼がイライラしているからと心配する。
彼はずっと不機嫌だ。
当然だろう、気がついたら知らない場所で、瀕死の虐待に会い。同族には悪魔と言われ、妖精達には奴隷と言われ。知らない男に仕事を押し付けられるのだから。
彼が機嫌のいい要素など皆無だ。
何が彼女を束縛するのだろう。
今だって傍にいるのは、自分なのに、なぜ彼しか見ないのだろう。
手をつないで至近距離にいる、目の前の自分はどうでもいいのだろうか。
彼女は自分の奴隷なのに、何故自分を優先できないのだ。
「彼が不機嫌なのはいつもの事。あなたが気にする必要はない」
「‥‥そうね」
少し荒げた自分の声に少し驚き、我に返ると、不満気な表情の彼女に気がついた。
「そうね」は彼女の意思を曲げて口に出させた言葉。
無意識のうちに奴隷契約を利用しているのだろう。
彼女は奴隷なんかじゃないって分かってるのに。
分かってるのに、
自分の奴隷なのに‥‥なんて思ってしまうのだろうか。
「ロザリー。セイの所に行っちゃダメ?」
頭の中が、真っ白になった。いや、白いというよりは、頭が考える事を止めた。
やっと閉じ込めたのに彼女は、また彼の話をする。
このまま行かせたら、気がついたらまた消えてしまうのだろうか‥‥
また‥‥?
自分で巡らせた思考に疑問を抱く。
彼女は一度として消えたことはない、消えた事のあるのは、カースティ姫。
「行く必要はないと思うけど」
気づいた矛盾が声を震わす。
動揺を悟られまいと息を大きく吐き、調子を整えようとするがうまくいかない。
自分が見ていたものに嫌悪を覚え、自覚すると焦る心に自然と表情が歪む。
そんなロザリンドに向かい、あせった表情で彼女は何かを説明していた。
頭を下げ、眉をひそめ、両手をばたばたし、何かを表現しながら一生懸命話をする。
最終的には言葉に詰まり、「うー」だの「あー」だの擬音のみ発言となってしまうのだが‥‥
困る姿に、ロザリンドはなんとなく噴出してしまった。
「終わったら。終わったら、速攻で、ちゃんとロザリーの所に帰ってくるよ」
そう言って、にっこり笑う。
ロザリンドが笑えば、彼女も笑う。
それは、まだ、ロザリンドを拒絶していない証拠。
彼女は純粋だ。
でも、ロザリンドはそうでない、ずっと傍にいれば、なぜかおかしくなる。
カースティ姫を恋う黒い自分が現れる。
神原清の元に行きたいと言う彼女に『行けば』という自暴な心と、『行かないで』という切望する願いが、あと少しで喉から溢れそうになって違う言葉を吐いた。
「いいや。ここで待ってるよ」
気づかれずに部屋の外に送り出すと、慌てて扉を閉めた。
開けて追いかけて連れ戻したい欲を抑え、ノブに巻きつくように手を当てる。
「僕は弱虫だな。彼女に無理を押し付けて嫌いになって欲しくない」
言えば拒絶されるとは決まっていないが、
同じ顔の姫のように彼女にまでnotを叩きつけられるのは、正直辛かった。
◇ ◇ ◇




