臆病な僕は 6
手のひらに血流が流れなきゃいいのに。
なんて思うほど、胸はドキドキしている。普段なら押さえて落ち着かせたいところだが。
今触ったら地獄の痛み。
止められないドキドキはたくさん血液を押し出して、繋がれた手からロザリーに分かってしまう様な気がした。
「そんな二人にチョッープ!」
私とロザリーを引き裂いたのはシンジュである。
「お姫様。僕のロザリンドとイチャイチャしちゃだめ〜」
「誰が僕のロザリンドだ」
「え〜君」
そう言ってシンジュは私にウインクした。
こいつ、分かってやってる?
まぁ、何にせよ。
助かったというか、残念というか。
私は冷や汗がにじむ手を見つめる。そこにはほんのりロザリーの温かさが残っていて、徐々にそれは無くなっていくのが何だか寂しかった。
体を強張らせてドキドキしてたのもそれと同時に覚めていく。
だから、仲良く騒ぐシンジュが憎らしくて、自分からロザリーの手を取った。
だってさっきまではそこには私が居たんだよ。
「あなたの物ではありません。私がロザリンド様の妻なんですよ」
ただ、自分から言った言葉にびっくりして、固まる。
それは相手も一緒で、シンジュもロザリーも驚いた眼差しをこちらに向けた。
「お姫様?」
「姫?」
「‥‥うー。ってセリフお姫様は言わない?」
ロザリーが「姫?」って言ったからあわてて思い付いたようにしなを作った。
あんな言葉使い、私の頭で思い付かない。
でも飛び出たのは現実だ。
なんだろう‥‥?
なんだか凄く、不安になる。
「分からない」
寂しそうな瞳を下に向けてロザリーはつぶやく。
そうだよ、嫌ってたお姫様が「私が妻」なんて言わないよね。
「口調は本物ぽかったけどね〜。彼女は絶対言わないセリフだね〜さあ、ロザリンド。お姫様と僕とどっちがいい?」
ロザリーは嫌な顔をして私の手を両手で握り締めた。
明らかにショックな表情を浮かべるシンジュ。
気の毒だが、あなたに勝てる要素がどこかあっただろうか‥‥。
敵は弱かったが、ロザリーが自分を選択してくれた事が少し嬉しい。
良く分からない不安はこの際どうでもいい。としよう。
私は、ロザリーの表情を曇らせる事しかできない。
シンジュみたいにできないもの。
「うーん。女の子には勝てないか、ならこれなら負けない」
シンジュはそう言ってロザリーに抱きついてきた。
「かわいいでしょ☆」
声が少し高くなった気がする。顔を上げたシンジュはとても綺麗なお姉さんに変身していた。
いつの間に女装などしたのだろう、元々が顔立ちが良いのだから、女の子に変わっても何も違和感はない。
というよりも、間違いなく見た目は負けているから、悔しいです。
「女装?」
ものすごい、嫌みっぽく聞いてみた。
だからなんだって回答は期待してるから、冷たく返されても平気。
「違うちがーう。僕らは人間みたいに性の観点がないの、必要ならどっちにもなれるんだよ」
驚いた。
女装なんかじゃなくて、性転換なんだそうだ。
性の観念がないから、細かい事を言うと違うんだろうけど。
「かわいいと言うか、綺麗かな」
「うーん。同姓には魅了効果ないかぁ」
「ん?」
綺麗は魅了できるんじゃないかしら?
「君から見たら、僕もロザリンドも他の樹木の妖精も好みだろ〜」
ロザリーはかわいい。確かにシンジュもハンサムだ。他もイケメンな妖精は何人か見た。
好みかって言われたら、そうなのかもしれない。
でも、好みとはちょっと違うようなぁ‥‥
「顔だけ、好みに見えるようになってるんだよ〜でも同姓には無理かぁ」
好みではないが、なるほど美形揃いなのはそう言う魔法なのね。
魔法なのかな?
魔法でいい、だろう。うん。
でも、シンジュができちゃうんだから、勿論。王様もそうなんだよね。
「ロザリーも女の子になれちゃうの?」
「ならないけどね」
手を繋いだロザリーを見ると、顔を背けてそう呟いた。
その仕草が可愛くて、私の欲を刺激する。
スッゴイ見たい。
「‥‥」
そう思っていても、おねだりができなかった。
考える事はできるけど、口に出すのは不可能で、あれ?
「そのお願いは聞かない」
「え〜。何も言えてないのに」
「言われたら、拒否できないもの」
くそう。奴隷契約。嫌なところで枷だ。
気を抜いた時とかに、何とかできないかな。
良くない楽しみを心にしまいこみ、拗ねるロザリーに笑いかけた。
「あ。セイ君だ」
その言葉に先を見ると、黒い頭のセイが歩いて来る。
黒ってやっぱし目立つよねぇ。
ということは、私も目立ってるんだろうなやっぱり‥‥。
シンジュはロザリーから離れいつもの姿に戻る。
綺麗なお姉さんから、ただのイケメンに戻る。
個人的には、女の子がロザリーにくっついてるのは、あんまり大人しく見てられないので戻ってもらって安心なのだが。
女の子に飢えてる私としては、ちょっと残念な気もする。
まぁ、外見が変わったからといっても、苦手なのはきっと変わんないと思うんだけど‥‥
「女の子のママじゃないんだ」
「セイ君には刺激が強すぎマス」
彼が近づいてくると、ロザリーが強く手を握りしめてきた。
「あんた、ぞんざいだな」
そう言って私の刀を目の前に差し出した。なんだか、機嫌が悪そうだ。
あぁ、シンジュが居るからだよね。
イライラして得物を手にする彼ってば、確かに怖いよね。
ロザリーが怖がるのも分かるよ。
「ありがと」
お礼を言って受けとると、すぐさま手を離し、ロザリーと繋いだ手を見て眉をひそめた。
「手入れしてるから大切にしてるのかと思えば、そこいらに棄ててある‥‥女学生は愛刀より色恋か」
呟いた言葉で分かった。
怒られてるのは私。
そりゃ刀放置してたのは悪いけど、
意識がなくて放置してしまったのは、私のせいじゃないし。
って知らないもんねお仕事してたんだから。
んでも、色恋が原因じゃないもん。
「大切だから探しに来たのよ」
「そうか」
いつもと同じ「そうか」
でもいつもと意味はきっと違う。尖った言葉が痛い。
「さぁ、武器は見つかったんだ。部屋にかえるよ」
「でも‥‥」
「でも?」
でも‥‥何?
用事が済んだから立ち去ろうとするセイの背中に何か言わなきゃいけないような気がして、言葉が止まる。
同じ事がついさっきあった、
でも、彼は今度は振り返らない。
さっきみたいに笑ってくれはしない。
「セイは何のお仕事していたの?」
「おや? ロザリンドからセイ君に浮気かなぁ」
「違う。そんなのじゃなくて。その、なんだか彼がイライラしてたから‥‥」
原因は、私だとは想定している。
平和ボケな私を見て、いらっときたのなら対照的な負の要因があるのだろう。
それがさっきの仕事なら聞いておきたかった。
聞いたって仕方ないよ。
そんなことはよく分かってるんだけど。
「彼が不機嫌なのはいつもの事。あなたが気にする必要はない」
シンジュに聞いてるのに、ロザリーが答えを出した。
聞きたかった回答とは全く違う答えで‥‥
「‥‥そうね」
そんな事言われたら、続きは聞けなくなる。
だから、納得しないけど質問の回答受付は終了。
素直に手を引かれて部屋に戻る。
ロザリーから香る匂いが微かに強くなっていた。




