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思い出の色

「もう、ご飯の時間よ!」




母が、庭から叫ぶ


あの頃の彼は 大きな畑で 泥だらけになり


そうして 生きていた


なんの変哲も無い 普通の少年だった



でも 何故か


いつも 心に 寂しさを感じていた


満たされない心



何が足りないのか?



分からないまま 彼は東京の大学へ進学した




一人で生活することで


何が足りないのか?


分かるような気がしていた



真理は簡単に見つかるものではない



なのに期待してしまう



彼もそうだった



学問と真理追究は 全く異質なものだ



知識は養えるが 心は養えない



ただ もがき 死んだような目をして



それでも 新たな日は やってくる




彼が変わるきっかけ



いや ようやく 模索が始まった日



それは 一人の女性との出会いだった




高校時代まで 頑なに 女性を避けてきた



理由はなかった



ただ 嫌だった



いつかは目の前からいなくなる



そう思っていた





彼は テレビ局で アルバイトをしていた



CMの編集作業で それは退屈な仕事だった



単調な作業



それでも アルバイト料は魅力だった




その日も 単調な作業が続いた



ただ ちょっとした油断から 



素材と呼ばれるマスターCMのテープを



ダメにしてしまった



慌てて復旧するも 作業はやり直し



それは深夜にまで及んだ




「本当に すみませんでした」




彼は職場の社員の方々に 詫びて回った




すっかり12時もまわり 終電もなくなり


変える場の無くなった彼に 背後から声がした




「うちに泊まる?」



事務社員の依田さんだった




「あ いや それは」



躊躇するのも当然だろう



彼女は職場でも有名な美人で



彼のように女性に免疫のない男には距離がありすぎた



ましてや年上である




「いいのよ 但し ただ泊まるだけよ ふふっ」



からかわれている



そう思ったが



睡魔には 勝てそうもなかった




「じゃあ すみません」




局から彼女のアパート 下北沢までは すぐだ




女性の部屋に入るのも初めてだった



部屋に入ると 良い香りがした



心が落ち着く



初めての経験だった



部屋は狭いが 綺麗に整理されていた





「コーヒーでも どう?」



彼は 玄関先で 蹲るように寝ていた






次の日 彼女は仕事があり 彼は大学の講義だった



彼は彼女のアパートの玄関先で 深々とお辞儀をし



井の頭線の駅へ向かった




電車の中 彼は彼女の部屋の香りを思い出していた




あの香り



心に染みこんでゆくような






その後も アルバイトは続いた



もう 同じ失敗をする事もなかった





そうして ある日



そのCM編集のグループだけで 旅行に行く話が出た



彼らアルバイトも連れて行ってもらえるらしい



あまり気乗りはしなかったが



彼も参加する事にした





旅行といっても 近くの伊豆への一泊旅行だった



テニスをしようと



ホテルの敷地外にあるテニスコートへみんなで歩いていた時



大型トラックが 彼らの脇を 猛スピードで走り抜けた



彼はとっさに 彼女をかばうようにトラックとの間に入った



みんな青ざめている



彼は彼女の肩を抱きしめ 固まっていた




しばらくの時間




「ひゅ~ ひゅ~ やるね~」




彼女は顔を赤らめ 俯いている





そんな



大したことじゃない



普通の出来事



それから 世界に 色が付き始めた








疲れたな


今日はここまでにしよう


適当に寝てくれ


ウォッカが足りないかい?


まあ 適当に飲んでくれ


時間はたっぷりあるんだから

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