幸せの断崖
限りなく広がる草原
踝ほどまでに茂る雑草
穏やかな家族のピクニック
楽しげに笑う子供たち
それを目を細めて見守る
しかし、その一歩先は断崖絶壁
幾度となく押し寄せ
そして 静かに引いてゆく
波の営みが創造した景色
そんな景色がここにはある
そんな景色を見渡すように一軒の家屋がたたずんでいる
家屋といっても近くの森から拾ってきた木々
15kmほど離れた町にある建築資材置き場から頂いてきた廃材
そんな雨風をしのぐだけのバラック
寝床はビール瓶ケースを集め敷き詰めた上に
薄い毛布が一枚
しかし暖炉だけは立派だ
赤茶けたレンガを丁寧に積み上げ
天板もレンガで作られている
その天板の上には写真が一枚
彼はここにいる
そして 毎日 同じ景色の中
生きている
テレビからは決まった台詞
「一人じゃない」
そう?
本当に?
言葉だけで 生きられるほど
人間は強くない
何かに
縋りたい
過去の思い出?
昔を振り返るのは好きではない
しかし 思い出さずにはいられない
思い出すことは 苦痛であり
今を 生きることも また 苦痛なのだ
それでも 彼は 生きている
「なぜ?」
そう思う
「死んだ方が楽なのに」
否
楽にはなれない
彼の場合 なれなかった と言うべきか
彼の事を 話すには たっぷりの時間と
少しばかりの ウォッカ が必要だ
まあ 座って ゆっくりして
あなたも ウォッカ を飲むかい?
そう どこから 話そうか
そうだな あれは 彼が二十歳の頃
・・・・・