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王子さまはいらない

作者: 高月水都

シンデレラが王子ではなく魔法使いと結ばれた方が幸せだと思ったら家族仲が良好なシンデレラになってしまった(-_-;)

「シンディア。何サボっているのよ。ここの掃除が終わっていないでしょ」

「はい。ただいま」

 秘書から領地の生産量の相談をされていた義母が話の区切りがついた瞬間入り口付近の泥汚れに気付いて声を掛ける。


「肩凝ったわ。さっさとマッサージしなさい」

「もう少しお待ちください」

 税収入の報告書と机に向き合って、同じ姿勢で固まっていた一番上の異母姉が区切りがついたのか大きく腕を伸ばして呼び出す。


 バタバタと義母と異母姉の声に返事をして言われたことを行うシンディアは伯爵家の令嬢である。


 ただし、伯爵家は火の車。それもこれも女遊びの激しかった父の影響。そして、シンディアの母の身請け金のせいだったりする。


 もともと父は外交の仕事に力を入れていたそうで、様々な国で見聞を広めて……ついでの港々に女がいる状態で妾を作りまくっていた。


 そんな父がとある国の行き、そこで知り合った友人に勧められて、その国最大の花街に訪れ、そこで母に会った。


 母は花街で最高位の【花魁】という存在だったそうで、母に心を奪われた父は、母と同じ重さの金塊を用意して身請けをして国に連れ帰った。


 それに激怒したのは正妻である義母。外交の仕事で常に家にいない状態で家を守っていたが、夫が外交しながらも港々に女がいるのを知っているので、その女性陣と生まれた子供に毎月仕送りをして……それだけでも尊敬できるが、外国に仕送りだけでもかなり負担が大きいのにまさか成人女性と同じ重さの金塊を用意して身請けをした外国の娼婦……【花魁】と娼婦の違いは分からなかったのでそんな扱いだったが……を連れ帰って世話をしろと押し付けてくる。


 言葉が分からないし文化も何もかも分からない女性に様々なことを教えるのも至難の業だっただろう。そして、成人女性の大きさの金塊などを用意したことで生活も苦しくなって……。


 家計も火の車になるわけである。


 そこで悪徳領主だったら税金を増やしていくだろうけど、領民を苦しめることを良しとしない義母は、

人件費をケチることにしたのだ。

 

 メイドや侍女を出来る限り減らして、出来るところは自分たちで行う。とは言っても義母に出来るのは外交で留守にしている父の代わりの領地経営。次期領主になるのが決まっている異母姉のリィンディアも然り。


 なので、メイドが行う下働きをシンディアが毎日行っていた。


「ただいま~♪ 仕事帰りに銀木製(ギンモクセー)義母さまと一緒になったから買い物に付き合ってもらったよっ」

「イマ、戻りました。セリューディアさんと一緒でした」

 二番目の義姉のセリューディアと母が一緒に帰ってくる。


 父に金塊で身請けさせた母は、シンディアを生んだはずだが、その美しさは損なわれず、異国文化を知りたい者たちの講師という形で働いている。いや、講師と言うか……異国の楽器を演奏したり、異国美人の絵を描きたいという人々のモデルになっているというべきか……。


 セリューディアは貴族令嬢というのを隠して、商人の所に勤めて、ウェイトレスとして人気があるとか。


 ついでに買い物もしてくれて……店で覚えた料理もよく作ってくれる。セリューディアはまだこの国の危険性に疎い母をついでと称して帰りを合わせてくれている。それにお礼を言うと母が一緒だと買い物でおまけをしてくれるからと照れたように言ってくる様が可愛らしい方だ。


 そんな火の車の日々を過ごしながら、母は世間一般的に妾で、異国の女に入れ込んだ父の行いからしてシンディアも母も冷遇されてもおかしくないのだが、なんだかんだで義母も異母姉たちも優しくしてくれる。


 港々の女性たちにも自分たちの生活が苦しいのに仕送りをしている。

 

 生活は苦しいが家族関係は比較的良好であった。



「なんか、王族が婚約者を決めるパーティーを開くらしいよ」

 隣に住む魔術師が世間話のついでにそんな話をしてきた。


 彼は最初は洗濯物を干している時に挨拶をする程度の関係だったが、魔術師がスランプになっていた時に気分転換に別の研究を始めるのをきっかけで親しくなった。


 我が国の魔力と母の出身地の魔力は同じ魔力という言葉でも質が違うものらしく、シンディアは混血故に二つの異なる魔力が体内に流れていると興味深げに話をしてそれを調べる仕事を持ってきた。その仕事内容が簡単なことなのにかなりお金をもらえるので本当にこんなにもらっていいのかと心配するほどだったが、魔術師にとってはかなり重要なことだったそうで、これが妥当だと言われた。


「婚約者? 決まってなかったの?」

 貧乏貴族に関係ない話だと思いつつ、魔道具に魔力を込める仕事をこなしていく。


「らしい。――王太子の婚約相手を決めたかったが、そこら辺は政治的兼ね合いがあったのか。相性の問題なのか。いい条件の令嬢が居なかったようだ。同盟国の王族というのも難しいしな」

 だから婚約者を決める夜会。


「貴族令嬢は全員参加だそうだから」

 魔術師がトドメとばかりに告げてくる。

「えぇぇぇぇ!! 夜会用のドレスなんてないのに~」

「頑張れ。――とは言っても俺も参加するんだけどな」

 王子(本命)が相手を見付けたら選ばれなかった女性陣に声を掛けていいという話でなと王子の都合で婚約者が探せなかった魔術師が愚痴混じりに告げる。


「――じゃあ、夜会で会えるんだ。それは楽しみかも」

「そういうことになるな。――面倒だけど」

「そうね。かなり面倒だわ」

 でも、異母姉たちに素敵な殿方が見つかればいいなと思って、ドレスを買うお金を何とか工面して、二人分用意した。


「シンディア。貴方の分は……」

 リィンディア異母姉が慌てて咎めると。


「ああ。そうでした……。どうしよう……」

「ナラ、着物。着ます?」

 母が声を掛けてくれたのを聞いて、アレンジすればいいかと異国風と言うことでいいかもしれない。


 という時点で、自分は王子との婚約が面倒だと思っている前提で用意しないといけなかったのだと気付いた時は後の祭りだった。





「いくら華美なドレスを着こんでいてもその生地の痛み。さぞかし苦労をしているのだろう」

 こういう場所じゃないと高級な物を食べられないよねと食事のスペースで舌鼓を打っていたらいきなり声を掛けられた。


「荒れている手。よほど、過酷な状況で日々暮らしているのだろう。ああ、なんて哀れな」

 労わるような言い方だが、その口調に優越感を感じられるのは気のせいではないだろう。


「あ、あの……」

 どちら様ですか? こっちとしたらこの豪勢な食事を堪能するのに集中したいのですけど。と、言いたかったけど、さすがに空気を読んで口を噤む。


「ああ、言わなくていいっ。貴族令嬢は全員参加と命じたが、このように義母によって虐待されている物を救う目的があったのだ。まさか、ここで君を保護できるなんて……」

「…………」

 何言っているんだろう。


 こちらが理解できないで呆然としていると、

「君を冷遇してきた人たちはどこだ? すぐに捕らえよう」

 大きな声で叫んで異母姉たちを呼び出す。


「お前らが、この令嬢を冷遇してきたのはっ!! すぐに処罰を」

「ちょっ、ちょっと待ってくださいっ!!」

 何いきなり言い出すの。この王子は。


「こんな悪行をしてきた輩を庇うなど君は心も優しいのだな」

 よく分からないけど、話が通じていないのだけ理解できた。


 王子が呼んだのだろう武装した男たちが異母姉たちを捕らえようとしたが、風が異母姉たちを包むように守っている。

「――お待ちください」

 それと同時に慌てたように現れる魔術師。正装に着替えている途中だったのかリボンタイがほどけていて、髪もぐちゃぐちゃなまま。


 たぶん、王子が婚約者(本命)を見付けたら他の令嬢に声を掛けるという流れだからとあとでこっそり参加しようと思ってゆっくり準備をしていたのだろう。でも、なんでこのタイミングで転移魔法を使って……。


 人は混乱するとどうでもいいことが気になるのかそんなことを考え出していると、手首に着けていたブレスレットの色が変化しているのに気づいた。


 そう言えば、魔法研究の一環で、防犯的道具が作れないかと試作品を試していた。

 試作品を試すだけでお小遣いをもらえるなんて楽な仕事だなと思っていたけど、それが役に立ったと言うことだろう。


「なんだ。邪魔をするのか?」

 不愉快げに王子が言ってくると、

「恐れながら、彼女……シンディア・グレイ伯爵令嬢とその家族は外交官のグレイ伯爵の仕事を代行している状況で、………他家の恥を公言するのも心苦しいですが、グレイ伯爵の浪費癖の影響で皆協力して家計をやりくりしているだけです!!」

 その言葉に異母姉は頷いて、

「まず、わたくしのドレスは既製品です。領主の仕事は母と二人で手分けして行なっており、それでも火の車の状況なのでメイドの数を減らして、末っ子のシンディアが家事を行っている状況です。生活が苦しいのを次女のセリューディアが商人の所で働き、第二夫人のギンモクセー義母さまが絵のモデルをして稼いでいます」

「そ、そうですっ⁉ わたしが冷遇されているなどと言う勘違いはやめてくださいっ」

 リィンディア異母姉を矢面に立たせてはいけないと慌てて伝えると、


「そんなはずはっ!!」

 王子はなかなか納得してくれない。


 どうすればいいのかと途方に暮れていたら。

「――あら、またですの」

 何処からともかく綺麗なドレスに身を包んだ令嬢が扇を口元に持っていき、呆れたような口調で、

「殿下。冷遇されている女性を助ける王子という物語の主人公に憧れて、冷遇されていると思い込んで好みの令嬢に声を掛ける悪癖がまだ直っていなかったのですね」

「邪魔するのか。悪役令嬢!!」

 王子が助けに入ってくれた令嬢を指差す。


「悪役令嬢……はあ、宰相を務めるオランジュ侯爵家のわたくしと婚約の話が来た時もわたくしを一目見て、『お前のような悪役令嬢などと結婚はしない!!』と喚いて、婚約の話は無しになって、人をむやみに悪役令嬢にしないでくださいと父を通してお伝えしたのに……」

オランジュ侯爵令嬢(ラーシェルさま)もですか。実はわたくしも」

「わたくしも」

「実は……」

 と次々と名乗り出てくるご令嬢ら。


 どうやら、王子の婚約者が決まらなかったのは王子と身分が釣り合う令嬢に【悪役令嬢】と喚いたのが原因だったとか。


 で、不遇な女性――しかも好みの外見による――を助ける白馬の王子さまというポジションに憧れてそれに目を付けられていたのがシンディアだったとか。


 目を白黒している間に騒ぎを聞きつけた王が異母姉たちを捕らえようとしていた騎士らに命じて、王子を会場の外に追い出す。


「ここまで騒ぎを起こして、今まで対応しなかった陛下にも困ったものですわ」

「お父さまにご報告しておかないと」

「ええ。そうね。軍を動かしてもらうようにしないと」

 とご令嬢たちが物騒なことをささやいていたのが怖かった。




「えっ、えっと……」

 魔術師はすっかり出番を奪われたという感じで途方に暮れたように、

「大丈夫だった。か……」

 などと確認してくる。


「大丈夫だったけど……。あんな王子で国が心配だわ」

 異母姉に怪我はなかったが、あんなことされて名誉棄損で訴えれば慰謝料でもぶん捕れるだろうか。


「まあ、ご令嬢たちが逞しいから……」

 大丈夫ではないかと呟かれて、

「不遇な令嬢を助ける白馬の王子さま……。う~ん。わたしは仕事をくれる魔術師の方がいいな~」

 夜会で王子が相手を見つけた後は婚活パーティになると聞いて期待していたのだ。ついそれを漏らすと。


「そっか。まあ、俺もそうだと思ったから夜会で会う約束をしたんだけどな……」

 と返されて二人して笑い合った。


 うん。王子さまはいらないな。





 後日。王子相手に堂々と自分の家の状況を告げて、それでも胸を張っていたリィンディア異母姉はその様を気に入った王子に【悪役令嬢】と言われた令嬢の一人が自分の弟と婚約しないかと打診して、セリューディア異母姉にはウェイトレスをしている時に知り合った男性が実は夜会に参加していたと話で盛り上がって婚約を果たした。



 そして、全ての原因の父は義母にしっかり絞められて、王子はこれ以上問題を起こされては困ると思われたのか病気療養として表舞台から消え去った。


 たぶん、めでたしめでたしなんだろう。真相は闇の中だが、貧乏貴族が触れてはいけないこともあるのだから。

真相は闇の中

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― 新着の感想 ―
ん?王子転生者で可愛いドアマットヒロイン探してた的な?(;・∀・)
銀木犀じゃないのか。そしてこの国野郎どもが割とクズ過ぎるなあ
こういうのは男性側もシンデレラコンプレックスって言うのかなあ? 今まで放っておいた王さまも大したタマだと思うが、流石にお咎めするような立場の人間はいなかったか。いや、舞台裏で王妃さまに叱られてるかもな…
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