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第4話 俺、ハーレムを目指す

「改めて、先日は娘を助けてくれてありがとう。見つかるのが遅ければ、危ないところだったとも聞いていてね。助かったよ。」


俺の動揺の傍らで、父――レイモンドは温かくも威厳ある笑顔で言う。


「いえ、私もまさかルミナリア伯爵のお嬢様とは思わず…。このような形でお目にかかれて光栄です。」


ユウシもレイモンドの人柄の良さに触れて徐々に安心したようで、ふたりの会話は和やかに続いた。


「ユウシ殿は腕が立つと、我々の領地でも最近評判の冒険者らしいじゃないか。」

「いえいえ、そんな……」


俺は自分のまんざらでもない顔が憎たらしいのと同時に、自分が褒められてるみたいなくすぐったさも感じていた。


「なんでも3カ月でAランク冒険者に登り詰めたとか。先日のゴルキア山の雪熊スノーベア討伐などは私の耳にも聞き及んでいるよ。」

「光栄です、ありがとうございます。」


ユウシ=サガラはこの世界に転生したあと冒険者ギルドに入り、武具や金銭など生活の基盤を整えていた。

転生時にユウシが獲得したSランクのユニークスキル"深淵思考ディープシンク"は周囲のあらゆる情報を瞬時に演算し、数秒先までの未来予知を可能とする。そのスキルで凡庸な身体能力を補って戦果を挙げ、名声を高めていく…のだった。


そしてこの先が俺のシナリオ通りだとしたら。


「ところでユウシ殿。しばらく、私に雇われるつもりはないかね?」

「…といいますと。」


レイモンドとユウシの表情は変わらないが、一瞬空気が変わる。


「アリシアが4月から王都の学院に戻るのだが、いつも道中と王都での護衛を任せている兵士が怪我をしてしまっていてね。代わりのものを決めねばならぬのだが、恥ずかしながら人材不足で決めかねている。そこでしばらく、護衛としてアリシアについてもらえないか、ということなのだ。」


ユウシは口元に手を当て、数秒考えた。


自領に現れた気鋭の冒険者。駒としてなるべく手元に置いておきたい――。そんな思惑を、表情からは露ひとつ気取らせないのがレイモンドの領主としての器量か。

ユウシはそんな思惑も看破した上で、考えるのだ。

ルミナリアに鈴をつけられるデメリットと、有力貴族とのコネクションを得るメリット。これはWin-Winの"契約"となり得るか。


結果として、Aランクとはいえ駆け出し冒険者のユウシには、今の時点ではコネのほうが魅力的だった。


「…そういうことでしたらぜひ。ルミナリア伯爵にお仕えする経験など、欲しても得がたい経験です。」

「おお、そうか。それはよかった。もちろん他にも護衛はいるのだがな。最近、盗賊だの、異端者だの、物騒な輩も多いと聞くから、ユウシ殿がついてくれるのなら安心だ。アリシアも、良いね?」


嫌だといえる雰囲気でもなければ、これが正史なのだから、これを改変したときの影響が読めない。早々に手近な検証をしなければ、このあとも動きが取りづらいな…。


「ええ、もちろん。よろしくお願いします、ユウシさん。」

「こちらこそよろしくお願いします、アリシア様。」

 

アリシアの笑顔に、ユウシも笑顔で応えた。現実の俺なら、こんな美少女に微笑まれたら一撃赤面、目を逸らしてしまうものだが、この世界のユウシは女に臆することなどないのだ。主人公だからね。


なお、今の俺の自然な笑顔の出処と、心の奥底で泡のように浮かぶ暖かな感情については、一旦考えないこととする。


―――――――――――――――――


1週間が過ぎ、屋敷を出て王都へ出発する日となった。


「では、いってきます、お父様。」

「気を付けて。ユウシ、くれぐれもよろしく頼んだよ。」

「はい、ルミナリア様。お任せください。」


屋敷で父に見送られた俺が玄関を出ると、黒髪の少女が俺を待っていた。


「アリシア様、こちらになります!」


アリシアの侍女、エレナだ。エレナはマーサの娘で、アリシアより少しだけ年下。幼い頃から一緒の気心知れた関係だった。


「ではアリシア様、また後ほど。」

「ええ、ユウシさん。よろしくお願いします。」


俺はユウシとも会釈を交わし、エレナと一緒に馬車へと乗り込んだ。


「ユウシさま、すてきな方ですね!最近怖い目に遭った話もよく聞きますから、安心ですね。」

「そ、そうね…。でも、気をつけなきゃね。」

主人公補正ってやつなのか、エレナはユウシに好印象のようだ。


先日の"暖かな感情"の正体と、これからの方針についても、1週間の間に改めて考えた。

認めざるを得ないことに、俺の中には、ユウシに対する好感が確かにあった。ある種のパラメータとしてその"好感度"は俺の意思とは無関係に存在していて、俺はそのパラメータを客観的にとらえることができるようだ。

アリシアルートに入る好感度を100とすると、今時点では15というところだろうか。このパラメータが100を超えたとき、アリシアは俺というストッパーを克服し、ユウシを愛する…そんな強制力が働くと考えるのが自然だろう。


そうだとすれば、俺がやるべきことは、このパラメータを監視し、ハックし、正史を"いい具合に"改変し、俺が望むシナリオを実現することだ。


俺が望むシナリオ―――そう、ヒロインたちとの百合ハーレム。

せっかく転移したんだ。アリシアルートが無いのは残念だが、それならまだ出会っていないヒロインたちとのハーレムルートをこの世界で実現してやる…!


ヒロインたちの好感度をユウシから横取りし、ハーレム作ってルミナリア邸で暮らして毎晩俺の取り合いを……。


「ふふっ………」

「アリシア様?どうかされましたか?」

「え!?いや、なんでもないの。」

「なんだか、また悪いことを考えているような顔でしたよ!もう、危ないことしちゃだめですからね。心配したんですから…。」


拗ねたように俺を叱るエレナは、きっと本当に心配してくれていたのだろう。


「ごめんなさい、エレナ。いつもありがとう。」

「もう。そんなんで誤魔化されませんから!ちゃんと監視してますからね!この間だって…。」


屋敷を発った馬車の中は、エレナとのお喋りが耐えなかった。要するに、奔放なアリシアにエレナがどれだけ苦労しているか…でもそんなところもいいところだよね…みたいな。わかるわかる、アリシアはいい女だよな。


―――――――――――――――――


朝から出発して、日が少し落ちた頃、馬車が止まった。

「アリシア様、つきましたよ。セント・ルミナ教会です。」

エレナはそう言って降りる支度をした。

行程中、いくつか領内の視察という名目での寄り道があるのだが、ここがその一箇所目だった。


そう、ここは最初のヒロイン――シスター様との出会いの場。

ついに、アリシアvs俺ユウシの恋愛バトルが幕を開ける―――。


馬車を降りた俺たちを、銀髪のロングヘアを修道服に包んだ少女が待っていた。


「ようこそお越しくださいました。わたくし、セント・ルミナ教会のシスター、ミレアと申します!」

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