7話 ケバブですよね?
翌日の日曜日
この曜日は珍しく、基本訓練がない。
何でも、訓練させすぎても怪我するだけなんだとか。
つまり、今日は完全に休日ということだ。
そんな休日の中でも今日は更に特別だ。
今日は、一ヶ月に一度しかない、街へ出られる日だ。
この訓練校は全寮制。
更には、必要なものはすべて支給される。
そのため、郊外に出ることは許可されていない。
そんな学校生活の中で、唯一外に出られるのが毎月一週目の日曜日だ。
まぁ、最もいつもの俺なら関係ないのだが、今回は違う。
ノアやティアと街へ出かけるのだ。
〜〜〜
あれは昨日のこと。
昼食を食べ終え、大会参加のことも(いやいやながら)受け入れ始めていたときのことだった。
『明日どこ行く〜?』
『映画見に行かね?』
『あり』
遠くの方で男子生徒たちが大きな声で騒いでいる。
『そういえば、明日は街へ行ける日だったな。』
俺が呟くと、ノアが返事をする。
『そうでしたね、マスターは参加するのですか?』
俺は少し考えてから答える。
『いや、俺は…』
その時、ふとティナが目に映る。
少し物欲しそうに騒いでいる男子生徒の方を見るティナが。
…
『…』
『マスター?』
ノアが突然喋らなくなった俺を怪訝そうに見ながら、問いかけてくる。
『行く…』
『もう一度言っていただけますか?』
ノアが俺の言葉が聞き取れなかったのか聞き返してくる。
『明日、街に行く!!!』
俺はもう一度、今度は聞こえるように大きな声で言う。
これが、今日の予定の発端だった。
俺は、着替えを済ませリビングへと行く。
実は、ティナが仲間となったことで、学校側が新しい部屋を用意してくれたのだ。
なかなかに広く、男女の部屋が分れていることが俺的には点数が高い。
これでプライバシーが多少は確保できたわけだ。
ちなみに、この部屋に引っ越してきた初日にノアが枕と布団を持って俺の部屋へ来たのには困った。
ーーーーー
『えっと…ノア?』
俺が思わず聞き返す。
するとノアは少し顔を赤くしながら答える。
『じ、実はさむがりでして…』
違う。そうじゃない。
そういうノアの可愛いところが知りたかったのではなく、なぜこっちの部屋に来ているのかを聞いているのだ。
ーーーーー
その後、なんとかノアを帰らせることに成功したが、
心臓に悪い事態だった。
ノアは、もしあのままならどこで寝るつもりだったのだろう。
まさか同じ布団で…
いや、ノアのことだから
『マスターと同じところで寝るなんてメイド失格です。
私は床で寝ます。』
とか言いそうだ。
…なんの話だっけ?
「マスター、今日はどこへ行くのですか。」
ノアの問いかけにより、思考の世界から引き戻される。
「街に行ってから決めようと思ってるよ」
俺はノアの問いかけに答える。
でもなんか…
「楽しみですね」
ティナがニコニコで答える
彼女がここまで笑顔なのも珍しい。
それだけ今日の予定が楽しみなんだろう。
でもなんか…
何故かティナよりもノアのほうが楽しみにしているように見えるのは勘違いだろうか、
〜〜〜
「マスター、あれは何でしょう?」
ノアがクレープを売っているキッチンカーを指さしながら聞いてくる。
「あれは、クレープ屋さんだよ。」
俺はノアの質問に答える。
「なるほど…」
ノアは俺の答えに返事をするが、どうやら意識はクレープ屋から離れないようだ。
「…食べるか?」
「よろしいのですか!?」
ノアは、嬉しそうに言ってくる。
俺は、ノアとティナと一緒にクレープを選びに行く。
ノアは街に出てからずっとこんな感じだ。
目に映るもの全てに興味を示している。
きっと、今まで街に出たことがなかったのだろう。
楽しんでいるなら何よりだ。
ティナもとても楽しそうだ。
街中の至る所をキョロキョロしている。
ただ、小柄なために迷子にならなければいいのだが…
「マスター、ティナはどこへ行ったのでしょうか、」
「え?」
ノアに問われ、気付く
確かにティナが居ない…!!
〜〜〜
マスターたちはどこへ行ってしまったのだろう…
私は、大きな建物の中にあるベンチに腰掛ける。
こうして一人でいると、ついこの間までの自分のことを思い出す。
マスターと契約してから間もないけれど、一人で居たあの頃よりはずっと楽しい。
マスターとノアさんが話しているのを見るだけで不思議と笑いが込み上げてくる。
きっと今、私は幸せなんだ。
だからこそ、この日々が崩れ去ってしまうかもしれないと考えると泣きそうになってしまう。
もしかしたらマスターは私を煩わしく感じて、どこかへ行ってしまったのではないだろうか。
(ッ…!!ダメダメ、マスターは私を仲間って言ってくれたんだ。)
自分でそう思っても。
気分が落ち込んでしまって…
視界が歪んでくる。
自分の涙がそうしているのだと気付くのにしばらくかかった。
(あぁ…ダメだな私…)
「おや、君は?」
声が聞こえ、顔を上げるとそこには、
生徒会長が立っていた。
「どうしたんだ?涙目じゃないか。」
生徒会長がそう言いながら、ハンカチで目元を拭いてくれる。
「マ、マスターとはぐれてしまって…」
私が小さな声で答えると、生徒会長は優しい声で答えてくれた。
「そうか、なら一緒に探そうか。」
〜〜〜
ティアを探していると、前から生徒会長がティアと一緒に歩いてきた。
「ティア、良かったなにも無かった?」
俺が、そう聞くと、ティナは答える。
「マ、マスター、大丈夫でした、その…生徒会長のお陰で。」
「ティナ、無事で何よりです。」
ノアがティナに話しかける。
ティナのことは、ノアに任せて生徒会長に向き直る。
「ありがとうございました。」
「なに、どうってことないよ」
俺がお礼を言うと、生徒会長は何でもないというふうに答える。
「ただ、気をつけた方が良い、君たちは有名人だからね。」
「え?」
生徒会長は、意味深な事を言うと、直ぐに言ってしまった。
〜〜〜
あの後、夕方までショッピングセンターで遊び尽くした。
クレーンゲームをしたり、服を見たりしながら楽しい休日になったと思う。
「あれは…」
訓練校までのバスへ向かっているときにノアが言う。
ノアの視線の先ではケバブが売っていた。
「あぁ、あれは…」
俺が教えようとすると、ノアが言う。
「知っています。ケバブでしょう?」
「そうだよ、食べる?」
「ぜひ」
俺は、ケバブを二人に渡してから気付く。
クレープとかは知らなかったのに、何故ケバブは知っているんだろう。
どこで知ったのだろうか?
しかし、俺のそんな疑問もどこかへ行ってしまった。
ノアとティナが仲良くケバブを食べているのを見たからだ。
ティナは満面の笑みで美味しそうにケバブを食べているし
ノアは相変わらず無表情だが、楽しんでいるのはその仕草から伝わってくる。
俺はその二人を見て、本当にいい休日になったと心から思った。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました!
7話は日常回でした。
ノアがなぜか「ケバブだけ」知っているという謎の一面が明らかになりましたね。
(理由はいつか語られる……かも?)
そして、生徒会長が登場!
ちなみに、生徒会長はこの学校では珍しい“人間の女性”です。
3人とも、入学式で挨拶していたのを見ていたので、実は知っていたりします。
さて、物語はここからいよいよ《戦術大会編》へ!
大会の裏にある意図や、生徒会長の狙いとは……?
ぜひ8話も楽しみにしていてください!
そしてなんと、ブックマークしてくださった方がいました!!
本当に嬉しくて、友達に自慢しまくってやりました!!
今後も励みになりますので、
ぜひブックマーク・コメントの方、よろしくお願いします!
また自慢します。
それでは、次回で!




