4話 守るのは私の仕事…!!
俺は、物陰に隠れていた。
すぐ横を銃弾が通り過ぎる。
(あいつ、いやらしい戦い方しやがって…!!)
俺は今、決闘をしている。
決闘というからにはグラウンドで戦ったりすると思う人もいるだろう。
俺もその一人だ。
しかし、今俺達が戦っているのは、訓練校内に設置された訓練場だ。
何でも、
『グラウンドなんかでやったらただの早打ちだ』
とのことらしい。
byドロ先
ここは、町中が再現されている。
ビルに駅、公園までもが再現されている。
現代では、町中でのゲリラ戦が多いからその訓練のための施設のようだ。
ここからランダムの地点でスタートして先にチームを無力化した方の勝ち。
殺し以外は基本何でもあり。
簡単なルールだ。
ドンッ!!
発砲音が響く、そのすぐ後には俺のすぐ横の床に弾が跳ねる。
俺達は今、狙撃を受けていた。
どうやら相手は、開始直後自分をエーテルマスターに背負わせ、ここで一番高いビルの屋上に陣取ったようだ。
俺達は、そこからの狙撃に手も足も出ない状況だ。
仕方ない、もう少し温存しておきたかったがあれを出すときだろう。
「ティナ、盾を」
ティナ、とはいじめられていた子のあだ名のようなものだ、俺が頑張って考えた。
由来とか、意味はない。
ただ、頭に浮かんだ言葉を言っただけだ。
「…ティナ?」
一向に返事がないのでティナにもう一度呼びかける。
「私のせいでごめんなさい…、私のせいで…」
壁に体を押し付け、縮こまっていた。
ちょっと待って?そのままだと俺撃ち抜かれちゃう…
俺は、ティナの方へ近寄る。
「ティナ、ティナ、大丈夫だから。」
俺はティナを安心させるために言う。
「え、ゼインさん…、私」
「大丈夫、まだ何も起こってない。盾を出して」
「ごめんなさい、私、やっぱりだめですね。すぐあんなになっちゃって…」
ティナは更に体を縮めて言う。
と、思ったら懐から、シャーペンぐらいの大きさの棒を取り出した。
それをこちらに差し出してくるので、困っていると
「私なんか居ても足手まといだと思うので、代わりにこれを持っていってください。エーテルを流し込むと盾になります。」
ティナが言った。
いや、人間の俺には使えないんだが…
「ティナ、これは俺には使えないんだ。いざとなったら俺が守るから」
「でも…」
「君が必要なんだ。」
俺はティナをまっすぐ見つめて言う。
「わかり、ました…」
ティナが立ち上がって言う。
「私の影に入ってください」
そう言うと、彼女の手にあった棒から光が溢れ、透明な盾へと形を変えて行く。
「い、行きましょう…」
〜〜〜
ティナのお陰で、ビルの最上階まで危なげなく来れた。
俺は一週間の訓練中にティナが話してくれたことを思い出す。
『わ、私の盾は、ノアさんのカタラタスと同じで、エーテルを動力にして動きます。
盾のうちからは向こう側を見ることができますが、外側からこちらは見えません。光学迷彩のようになっているので見つけるのも難しいと思います…
そ、それと、私は魔法が使えません。』
あの、ティナの苦しく申し訳なさそうな顔
いつか、自信のこもった笑みを見てみたいものだと思う。
そのためにも、まずはこの勝負に勝たないといけない。
「つ、着きました」
ティナの声に顔を上げるとたしかに、眼の前にあいつらが居た
こちらには全く気付いてないみたいだ…
行ける!!
「俺は撃つから、いざとなったら盾で助けて」
俺は、盾から身を出し、ゴム銃を撃つ
ドドドドドッッッ!!!
ゴム銃なのにフルオートというなんとも言えない銃で攻撃する。
「!?後ろだ!!!」
流石にここにいるだけあってすぐに反応する。
でも遅い、俺は弾のすべてを男に向かって放った…
はずだった…
男は自分のエーテルマスターの後ろに隠れて弾をやり過ごしたようだった。
確かに、人間の何倍も防御力のあるエーテルマスターならこのくらいでは倒れないだろう
でも、彼女も痛いはずだ、そんなの考えればわかるだろうに、
この男は、本当に救いようのないクズだ。
「ははは!!!近くに寄れば勝てると思ったか?」
玉が切れたのを見て男が顔を出して得意げに言う。
「うるさい、試合中だろ黙って戦えよ、喋らないと死ぬのか?」
本当にとんだクズだ、自分優位のときにしかでかい顔をできない。
「試合中?何を言っているんだ、君たちの負けだろ、君はもう弾がないし、後は魔法もろくに使えない未契約の無能だけ
その状態で何ができるんだ?」
「まだ、隠しているものがあるかもしれないだろ?」
「はっ、そんなものないだろう。僕は君のエーテルマスターとあの無能にどの玩具を使うか考え過ぎてろくに寝てないんだ。早く終わらせよう。
アラデオ、魔法を」
「…!?そ、それは」
「早くしろ」
男がそう言うと、アラデオと呼ばれた子が手を空へ伸ばす。
そうすると、彼女の頭上に大きな火の玉が出現する。
「放て!!!」
男の声とともに、玉がこちらへ飛んでくる。
「ゼインさん!!!」
ティナが盾を持って俺の前に出る。
しかし、ティナの盾は火の玉に少し触れただけで砕け散ってしまった。
「え、」
ティナは驚いて動けないようだ。
危ない!!!
咄嗟に俺は、ティナを引っ張り自分の下に隠した。
〜〜〜
昔から人と喋るのが苦手だった。
すぐ口ごもっちゃうし、自分なんてどうせ…、と毎日覚えていた。
そんな私を、いつも遊びに誘ってくれる子が居た。
でもその子も、いつの間にか私の前に現れなくなった。
いつからだったか…
いじめられるようになった。
同じ年の男の子にいじめられるのは、怖かったし辛かった。
でも、私も主を得れば、楽しい毎日になると思っていた。
女の子が王子様に憧れるように、私もまだ見ぬ主にあこがれていた
そんな人居なかったのに…
私が未契約となってから、いじめは少しひどくなった。
今までは、物を隠されたりする程度だったのに、人目のつかないところに呼び出されて手を挙げられたりした。
契約の儀があるからと耐えられていたけど、もう無理だった。
私はもう、王子様を夢見るような子供じゃなかった。
そんな、ある日のことだった。
また校舎裏に呼び出されていたときだった。
「やめろよ、その子が可哀想だろうが」
私を助けてくれる人が居た。
私が未契約だと知っても優しくしてくれた。
だから、この人はも守ろうと、この人の役に立とうと
そう、思っていたのに。
「ゼインさん!!ゼインさん!!」
私を助けてくれた人が、危機に瀕していたというのに、私は何もできなかった。
また助けられてしまった。
「ごめんなさい、ごめんなさい、私のせいで、私のせいで!!!」
私がそう言うと、ゼインさんは、顔を少し歪めながらも笑顔で言ってくれる。
「いざとなったら、助けるって言ったでしょ」
あぁ、この人はなんて優しいんだろうか。
あって間もない私なんかのためにここまでしてくれて…
それに比べて私は…
「しぶといな、もう一度だ」
「ッ!?ティナ逃げよう!!」
ゼインさんの焦ったような声が聞こえる。
この人はまた私を守ろうとしてくれているようだ。
でも今度は、今度こそは私の番
私はもう一度火の玉の前に立つ。
そういえば、私に構ってくれている子が言っていた。
『あたしは攻めるのは得意だけど、ガードは苦手なんだ、だから』
「『守るのは』」「『私(君)の仕事』…!!」
《絶対障壁》
〜〜〜
この世界の魔法には、通常魔法と固有魔法がある
通常魔法は、誰にでも扱える基礎的な魔法
固有魔法は、使い手は一人だけの、発現条件の厳しい魔法のことだ。
しかし、厳しいだけあって、効果も強力だ。
発現条件は詳しくわかっていないが、使用者は皆一様に言う。
『心が震えたときに使えた』と…
〜〜〜
何が起こったんだ?
何故か火の玉が霧散して…
違う、今はそれどころじゃない。
やったのはおそらくティナだ
「ティナ、さっきのもう一度使える?」
「は、はい、多分」
よし
「じゃあ、それであのエーテルマスターの子を覆って、男の方は俺がなんとかしてくる。」
「は、はい!!」
俺は、火の玉が霧散したことによるのか、立ち上る煙の中を進む
居た、慌てているのか、動き回っている影を見つける。
その影の首の部分に腕を回し、懐から出した”拳銃”を首筋に突きつける
「銃は一つのはずじゃ…」
「ルールで決められてるわけじゃない、言っただろ?隠してることがあるかもって。」
そう言うと、俺は迷わず引き金を引く。
男が気絶し、崩れ落ちたその時
俺たちの勝利を知らせるブザーが鳴り響いた。
〜〜〜
訓練校のとある部屋で、2つの影が揺れていた
「あの決闘、問題児が負けたみたいよ」
影の一方がそういう
「あら、実力だけは確かでしたのに?」
もう一方が、あまり驚いた様子もなく答える
「えぇ、てことはやはり今年は彼かしら?」
「間違いなく、あのガード型の子と契約できるでしょうし、そうなるでしょうね。」
「楽しみね、ふふ」
2つの影は少し機嫌良さそうに揺れていた。
ここまでお読みいただき、本当にありがとうございます!
投稿が少し遅れてしまい、申し訳ありません。
さて、第4話ではついに、今まで名前が明かされていなかった主人公「ゼイン」の名前が登場しました。
いきなり出てきて、「えっ誰!?」となった方もいたかもしれませんね。
今回はティナがよく頑張ってくれました。
ちなみに、ゼインはこの戦いで背中のほぼ全面を火傷しているそうです……
想像するだけで痛いですね。
明日からは、
平日は夜に1話投稿、休日は午前・午後に1話ずつ投稿というペースで進めていこうと思っています!
ぜひ、5話も楽しみにしていてください。
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