11話 夏合宿
成すすべもなく負けた。
その事実が俺に重くのしかかる。
(もしあれが実践だったら...)
だったとしたら、俺たちは全滅していただろう。
俺は相手が強くてもなんとかなると慢心に陥っていたんだ。
「マスター、決勝戦が始まりますよ。」
ティナがそう言って、話しかけてくる。
俺達が今いるのは、4位以上のために用意された個室だ。
普通の部屋と変わらない広さに、中継のためのテレビ。
簡単な物を作れるキッチンまである。
「マスター、ティナ、ココアができました。」
ノアがそう言ってキッチンから出てくる。
さっきからコソコソしていると思っていたら、ココアを作っていたのか。
「ありがとう。」
俺がお礼を言うと、ティナもそれに続く。
ノアが俺の右隣に腰掛け、ココアを飲む。
……
部屋に沈黙が流れる。
「マスター、」
ノアがその沈黙を破って話しかけてくる。
「私たちは全力を尽くしました。公開するのではなく次に活かしましょう。」
ノアが真っ直ぐにこっちを見てくる。
いつもそうだ、彼女は俺を励ましてくれる。
更に今回はティナも励ましてくれている。
俺の左手を片手で握り、片手で撫でてくれている。
俺は本当に強くて優しい、いい仲間に恵まれたようだ。
「決勝戦開始!!」
テレビから、決勝戦の開始を知らせる放送が響く。
画面は2分割され、右に生徒会長、左にもう一人の出場者が映っている。
開始と同時に、両者は走り出した
二人が目指す先は街中央のビル。
やはり、髙地を取るのが強いのだろう。
しかし、ビルの前の広間で二人が鉢合わせする。
まず、生徒会長が先制攻撃として、ハンドガンを撃つ。
しかし、それを相手のエーテルマスターが防ぐ。
すぐに反撃へと移り変わり、今度は男子生徒が生徒会長に詰め寄る。
そこに横から、会長のエーテルマスターが蹴りを入れ両者の距離が開く。
突然、生徒会長が後方の建物の内の一つから出てくる。
さっきまで広間に居たのに、建物に入り出てくるのを高速で行ったようだ
更には生徒会長の腕の中には一人の女子が居た。
まさか、相手は複数持ちだったのか!?
(俺のように複数のエーテルマスターと契約している者のことを複数持ちと言うんだ。)
会長が捕まえてきた子は相手の切り札だったのだろう、
男子生徒は苦笑いの後、銃を捨て両手を上げる。
俺は驚きに晒される
自分より手札の多いはずの複数持ち相手に、スピード、戦術、その他全てを圧倒してみせた。
「勝者、シエル!!」
ビービー ビービー
すぐに勝者を示す放送が行われ、ブザーが響く
瞬殺だった、張り合っているように見えても生徒会長に勝てないようだ。
俺等が越えようとしている壁の高さを痛感させられる。
そんな俺の気持ちを感じたのか
「マスター、私達ならできます。」
ノアがそう言ってくる。
左ではティナが首を縦に振っている。
「そうだな…」
俺は初めて魔法以外の目標を見つけた。
〜〜〜
翌朝、俺達は校庭に立たされていた。
壇上に校長が上がる。
「今年も夏合宿が始まる!!!準備しておけ!!!」
それだけ言い、校長は壇上から降りていった。
すぐにドロ先が壇上に上がり説明を引き継ぐ。
「えー、お前らには夏合宿に行ってもらう。
夏合宿は、こことは別の場所で基本訓練とともにお前らには初の実践経験を積んでもらう」
え?それって人と戦うってことだろうか。
実弾で、
…大丈夫だろうか、不安だ。
「2学期には大規模実践がメインになるから校舎ではほとんど過ごさない。
その先の予定については都度話していく。
とにかく、準備をしろ、持ち物は終礼後配る紙に書いてある」
説明が終わると、いつも通り訓練が始まった。
どうやら、また大きなイベントがあるらしい。
まぁ、そんなことはどうでもいい
夏合宿で能力の底上げを目指そう。
次は、勝てるように。
ここまでお読みくださり、ありがとうございました!
11話に入る前に、お知らせがあります。
新たにもう一つの連載を始めたため、今後は2作品を交互に投稿していこうと思います。
そのため、明日はもう片方の作品を投稿予定です。
さて、今回の11話では決勝戦での生徒会長の圧倒的な強さ、そして夏合宿の告知が描かれました。
主人公たち3人の距離も、少しずつ縮まっているのが伝わったのではないでしょうか。
次回からは、いよいよ夏合宿編に突入します!
彼らの成長、そしてさらなる絆にご期待ください。
コメントやブックマーク、とても励みになります。
ぜひ感想などいただけると嬉しいです。
それではまた次回、お会いしましょう!




