土砂崩れ
あの夢を見たのは、これで9回目だった。どうしてそんな夢ばかり見るんだろう。そう思う日々だ。
雄一が最近見ているのは、土砂崩れに遭う夢だ。あまりにもリアルで、本当に起きるんじゃないかと思う毎日だ。
「うーん・・・」
雄一は目を覚ました。今日も生きている。それだけでほっとする。だが、いつ起きるんだろうと怖くなる時がある。
「夢か・・・」
雄一はここ最近、ぐっすり眠れていない。土砂崩れの夢ばかり見ているからだ。もう見たくないのに。
「何だろう。最近いっつもこんな夢ばっかり見る・・・」
雄一は1階のダイニングに向かった。今日も中学校だ。今日1日、勉強も部活も頑張らないと。雄一はため息をついた。まだ夢の事が忘れられないのだ。
雄一はダイニングにやって来た。そこには両親がいる。父は隣町の鉄工所で働いている。母は専業主婦だ。
「おはよう」
「おはよう。どうしたの、大丈夫?」
母は不安そうだ。ここ最近、雄一の気分が冴えない。疲れているんだろうか?
「何でもないよ」
だが、雄一は何もないと言ってごまかす。本当は何かあるのに。言いたいのに、言う事ができない。
「そう・・・。悩んでる事あったら、何でも言いなさい」
「・・・、わかったよ・・・」
雄一はダイニングに座り、朝食を食べ始めた。母はそんな雄一を、不安そうに見ていた。何か悩んでいることがあるんだろうか? 中学校にも聞いたが、まったく悩んでいる事はないという。本当だろうか? 母は雄一が疑い深く見えてきた。
雄一は朝食を食べ終えると、すぐに歯を磨き、登校の準備をしに2階に向かった。父はすでに出勤している。母は雄一の様子を見ている。
しばらく待っていると、雄一が1階に戻ってきた。雄一はジャージ姿だ。いつもの服装だ。これで中学校へ登校する。
「行ってきまーす」
「行ってらっしゃい」
雄一は自転車に乗り、中学校に向かった。雄一の住んでいる村は渓谷沿いにあり、その奥には山がそびえ立っている。あの山で土砂崩れが起きて、自分が飲み込まれる夢だったな。雄一はその前を通るたびに、その山が気になっていた。本当に起きるのではと思って、びくびくしていた。
「あの山だよな・・・」
「雄一、どうしたんだい?」
雄一は横を向いた。そこには同級生の浜田がいる。
「い、いや、何でもないよ・・・」
だが、雄一は何も悩んでいないかのような表情を見せる。浜田も本当は何かに悩んでいるんじゃないかと思っていた。
「ふーん、早く行こう! 遅れるよ!」
「うん!」
2人はいつものように中学校に向かった。今日は晴れの予報だが、夏の時期にはゲリラ豪雨があるかもしれない。気を付けないと。
2人は中学校にやって来た。中学校は隣町にある。生徒数は100人未満だが、みんながまるで家族のように仲が良く、とても楽しい。
「おはよう」
「おはよう」
2人はいつものように校舎に入っていった。
午後6時過ぎ、部活を終えて2人は下校していた。予報にはなかったが、雨が降っている。しかも土砂降りだ。早く帰っておいしいご飯を食べないと。
「今日も楽しかったね」
「うん」
T字路に差し掛かった。浜田はここで左に曲がるが、雄一はまっすぐだ。
「じゃあねー」
「バイバーイ」
雄一は1人で家に向かっていた。雨はより一層激しさを増してきた。雄一は不安だった。土砂崩れが本当に起こるんじゃないだろうか?
「どうして突然雨が・・・」
雄一は予期せぬ雨に戸惑っていた。予報では雨が降らないと言っていたのに。どうして降るんだ。予報はあてにならない事が多いな。
「まさか・・・」
だが、早く帰らなければ。両親が心配しているだろう。おいしいご飯も待っている。
「早く帰らないと・・・」
雄一は急いで帰っていた。だが、信号待ちだ。雄一は焦っていた。早く青信号に変わってくれ。早く家に帰りたいんだ。
「くっそ・・・、信号待ちか・・・」
と、山の方から音がした。何だろう。雄一は首をかしげ、山を見た。だが、何もないようだ。
「えっ!?」
山を見てから5秒も経たないうちに、土砂崩れが起こった。大きな音を立てて、土砂が迫ってくる。
「うわぁぁぁぁぁ!」
雄一は急いで通り抜けようとした。だが、土砂崩れはとても早く、雄一は飲みこまれてしまった。雄一はあっという間に谷底に落ちてしまった。夢の出来事そのままだ。どうしてこんな事が現実に起きるんだろう。
それからしばらくして、住民がやって来た。雄一が谷底に落ちたと聞いて、ここにやって来たようだ。
「おい! おい! 大丈夫か?」
「中学生が落ちたぞ!」
だが、谷底に落ちた時点で、雄一は死んでいた。