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愛する侯爵様、化け物の妻など今世も冷遇してくださいませ  作者: 結月てでぃ
愛しき侯爵領

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5/21

1.女主人の重い椅子

 二度と侯爵様とお会いすることができない可能性も示唆しておりました。

 ですが、人生とは時になにもままならないもの。

 私にそのことを思い出させてくれた出来事が起こったのは、翌早朝のことでした。


 小鳥が鳴き始める前に起きなさい。

 叔母から命じられた生活習慣は巻き戻った後も健在のようです。


 ですが、折角ですし二度寝をしてみましょう。

 目を閉じてみましたが、一度覚醒した体は眠りの精霊の誘いに乗りそうにもありません。

 仕方がありませんわね。

 リリアを起こすのも忍びないですし、一人で身支度をして屋敷内を散策してみましょう。


 廊下に出ると冷たい風が吹き付けてきます。

 ですが、重たくなった髪はなびいたりして視界を塞ぐことはありません。

 私は足早に外廊下を渡って、目的地まで歩いていきます。


 冬の庭園は殺風景で、ほとんど手を入れられていません。

 アリエッサが来るまで、侯爵様のお母さまが愛した庭に立ち入ってはいけないのだと誰もが思っていたのです。

 それに――私は花が似合うような、優しい女性ではありませんから。


(彼女が作った”温かみのある庭”にはならないでしょうけど……)


 比較対象として、いい物が作れるかもしれませんわね。

 私が着手する不格好な庭を見ることで、より彼女が手掛けた庭の愛らしさが際立つはずですわ。

 そう思えば、頬も緩みます。

 侯爵様に庭に手を入れたいことを執事を通して頼んでみましょう。私では断られるかもしれませんが。


 前世では女当主として出来る仕事を全て担っておりました。

 侯爵様は忙しい人です。

 なので時には屋敷や社交だけでなく、領地の慈善事業や災害対策などのすべてが私に一任されていました。

 少しの余暇もありませんでしたが、侯爵様や領地の皆さまの為と思えば苦ではありません。


 書庫の扉を開けると、整然と並んだ背の高い本棚が目に入ってきます。

 実家の伯爵家の書庫はこぢんまりとしていましたし、そもそも入室を禁止されていました。

 ですが、侯爵家の書庫は違いますの。

 一流の司書が常駐していますし、彼らが選んだ書籍が所狭しと並んでいます。それはそれは、壮観ですのよ!


「まあ……っ」


 前世でもよく来ましたが、私は仕事に関する書物ばかり読んでいました。

 小説を読む時間が取れず、けれど社交界では貴重な話題です。

 なので、いつもアリエッサに感想を聞いていたの。


(今世では娯楽も取り入れたいわね)


 仕事一辺倒なのが、さらに私の可愛げのなさを増幅させていたのでしょう。

 ですが、それならばやはり仕事一筋で生きた方がいいでしょうか。侯爵様には仕事仲間だと感じてほしいですし……。


 うーんと目を閉じて考えこんでしまいます。

 けれど、前世でアリエッサが話していた小説の内容があまりに面白く、実際に読んでみたいという欲求が勝りました。

 数冊だけならと、特にご婦人の中で評判だった小説をいくつか抜き出して、胸に抱きます。

 いつもいつも腕が痺れてしまうくらいに重たい、政治や法律や医療の本ばかり抱えていました。この軽さは新鮮です。


 手に持った小説を胸に抱えて用意していただいた部屋に戻ってきました。

 窓を開けて新鮮な空気を入れると、ここで読んでみたいという気持ちが湧いてきました。


 椅子を持ち上げようとしましたが、重たくて重くて、私では数センチも持ち上げられそうにありません。

 ならばと背を掴んで引っ張ってみますが、頬をパンパンに膨れ上がらせても斜めになるだけでした。

 貧弱なこの体が恨めしいですわ。


「べ、別の椅子は……」


 床に手をついて息を吐いて、代わりの椅子がないかとお部屋を見渡します。

 ですが、この椅子以外には見当たりません。

 しかもベッドと化粧台の間という用途が不明な位置にありますし、化粧台の前にも椅子が――ないですわね。


(……そういえば、最初は使用人にも嫌われていましたわね)


 後でリリアに追加の椅子を頼んでみましょう、と立ち上がって腰に手を当ててふ――っと長く息を吐きながら反り返ります。

 その時です。ドアを叩かれ、驚きました。


「だ、誰ですの……?」

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