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愛する侯爵様、化け物の妻など今世も冷遇してくださいませ  作者: 結月てでぃ
魔物との対峙

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20/21

4.私を捜していた腕、愛するあなた

 魔物は侯爵様が倒してくださった。

 なので私は濡れた頭が渇くのを待って帰ればいいのさうよね……。

 もしくはこのままドレスで顔を隠してリリアに呼び出せばいいのでしょうか。


 脈打つ心臓を抑えるように、胸に手を当てて歩いていきます。


(イーサンが無事に逃げられてよかったわ……)


 私は強く手を握って感慨に耽りました。

 いくらアイアンウルフに目当てにされていたのが自分だったとして、他の魔物に出会わないという保証はなかったのです。

 大人として無責任だったのではないかと思う気持ちもありました。


「本当に良かったですわ」


 泣きそうになっていたのですが、草を踏む音が聞こえてきて、我に返りました。


「どうして……」


 振り返った先には、またアイアンウルフがいました。

 先程討伐された個体よりも、随分と小さく見えます。

 理不尽な怒りから頭に被っている布やナイフを地面に叩きつけて、地団太を踏みたくなってきました。


(あ……違うわ。この”子”は)


 ですが、よくよく観察している内に気が付きました。


(私は、なんて愚かなのでしょうか)


 あのアイアンウルフが大きいわけではなく、目の前にいる個体が小さいのです。

 この子どもを守ろうとして、入ってきた侵入者(イーサン)を排除しようとしたのでしょう。


 気付いてしまうと、もう抵抗する気がなくなってしまいました。

 死にたくないという気持ちと、自分と同じように親を亡くしたこの子への同情心で挟まれて頭を抱えたくなってきます。


(ダメ、どうしたらいいか分からないわ……っ)


 じりじりと後退していきますが、子どもは私を澄んだ目で見つめていました。


「ごめん、ごめんなさい。私たちを許して」


 魔物は瘴気で土地を汚し、人を襲う害獣であり討伐の対象です。

 けれど、今の私には殺すことができない。特に、この子どもは。


 この事態を招いたのは私。

 その不始末も私がつけなくてはなりません。


 付くにある物で一番大きな岩を魔法で持ち上げますが、ぐらぐらと揺れて何度も落としてしまいます。

 息を吐いて目を開け、魔法の精度を上げる為に指先や目に神経を尖らせます。


「なにをしている!」


 ようやく持ち上げられたとき、怒声が劈き、張り詰めていた緊張が解けてしまいました。


「あっ! ……あぁ」


 自由になった岩は獣の尾の上に落ち、悲鳴を上げました。

 怒ったアイアンウルフの幼獣が駆けてくるのが見え、腕で顔を庇います。

 足の力が今にも抜けて、倒れてしまいそうですわ。


「おい、大丈夫か!」


 ですが、力強い腕に肩を引き寄せられました。

 視界が黒いカーテンのような物で塞がれ、私は必死にその腕の主にしがみつきます。


 犬の遠吠えのような、か細い鳴き声の後で大きく地面が揺れましたわ。

 目を開けて見ようとすると、大きな手で覆い隠されました。


「君は見なくていい」


「ですが、これは私が。あの子は」


「大丈夫だから」


 鎧姿の男性の低い声を聞いて、体の力が抜けました。

 地面に膝をつきそうになった私を片腕で受け止めてくださった方は「よく頑張ったな」と労いの言葉まで掛けてくださいました。


(侯爵様……)


 抱きしめてくれる方の胸に縋りつきたい。

 ですが、私はすぐに自分の無惨な状態を思い出してドレスの裾を手で引き下げました。

 幸いこのドレスを着るのは今日が初めてです。

 誤って侯爵の所有地に入ってしまった領民のフリをすれば、処罰を受ける程度で切り抜けられるでしょう。


「……君なんだろう」


 侯爵様に躊躇いがちに声を掛けられますと、私は声が出せなくなりました。


「俺は自分の妻を捜していて、君がそうだと確信している」


 本当に私を捜してくださっていたのですか。

 彼の腕の中に収まっていた体が安堵に包まれるような心地がします。

 あなたの腕の中は、あんなにも温かく力強いものなのですね。


「頼む。どうか顔を見せてはくれないだろうか」


 感情を押し殺したような声に、私の喉は引き攣りました。

 唇を噛んで、手を握ります。

 ここは侯爵家の敷地内で、拒めば更迭もやむなしでしょうから、私には従うほかありません。


「……分かりましたわ」

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