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愛する侯爵様、化け物の妻など今世も冷遇してくださいませ  作者: 結月てでぃ
悪戯の天秤

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15/21

3.鱗ばかりの人魚ですから

 足でドアを開けた侯爵様に、アイザックが目を丸くしました。


「どっ、どうして奥様を抱えているんですか!?」


 慌ててついてくるアイザックの腕を掴んだリリアが、ぜえぜえと息を継ぎます。


「も……もっと穏やかに歩いてくださいっ。奥様は繊細なんですよ」


「頭を打たれているので動かすのはよくないと思います」


 アイザックはメイドたちが侯爵様に抗議しているのを含め、困惑していた様子でした。

 ですが、なにを思われたのかメイドたちに「まあまあ」宥めたので、私は(そちら側につきますの⁉︎)と驚いてしまいましたわ。


 皆の前で、侯爵様は大きな音を立ててドアを閉めてしまわれました。


「侯爵様、ここは私の部屋ではありませんわ!」


「俺の部屋だな」


 ドアを蹴って閉めた侯爵様の乱暴さに唖然としてしまいます。


「お待ちください、お医者様が……っ」


 初めて入った侯爵様の私室を悠長に見ていると、侯爵様が続きの間に行こうとされたので引き留めました。

 自室に続いている部屋など一つしかないからです。


「ここに呼んでいるから心配しなくていい。まずは横になれ」


 そう言って寝室に入った侯爵様に大きなベッドに下ろされかけ、慌ててしまいます。


「顔! 顔を見てください!」


 思わず侯爵様にしがみついて、叫びました。


「それがどうした?」


 冷静に返されて開いた口が塞がりません。


「う……嘘でしょう。冗談もほどほどになさってくださいな」


「お前の美しさは顔の美醜程度で損なわれるものじゃない」


 私のひとりごとを拾った侯爵様は呆れたようにため息をつきました。


「そんなに嫌がられるといくら俺でも傷つくぞ」


 夫婦だというのになどと言い、しかめっ面になってしまわれました。

 ですが……私たち、前世ですら肉体関係は一切なかったのですよ。

 それに、アリエッサの為に清い関係でいなくてはいけません。彼女が傷つきます。


 ソファーに下ろされると、ようやく人心地がつきました。

 幼子が求める抱っこというものが、こんなにも緊張するものだとは思いませんでしたわ。


「まったく、子ども相手とはいえ男に足を触らせるな」


 見せてみろと言われ、私は蒼白になって首を振ります。

 侯爵様に足を見せるだなんて、とんでもないことです。

 ですが、ドレスの裾からするりと手が滑り込んできて「きゃあ」っと叫んで叩きました。


「なんで俺はお前の夫なのに拒まれなきゃいけないんだ」


「子どもが遊びで触るのとは違います!」


「なら、せめて見せてくれ。俺だけお前の知らないところがあるのは嫌だ」


 まるで子どものようなことをおっしゃるのね……。


「恥ずかしいですわ」と両頬に手を当ててうつむくと、顔を上げさせられそうになります。


「俺はお前の夫のはずなんだが?」


「……わ、分かりました。けれど、少しだけですわよ」


 これは見せないと引いてくれませんわね。

 万が一の為に忠告をしたのですが、それでいいとうなずかれてしまい、あとに引けなくなってしまいましたわ。


 仕方なく、するすると衣擦れの音を立てながらドレスの裾をゆっくりと上げていきます。

 強い視線が足に集まってきて、羞恥で消え入りたくなります。


「ああ、美しいな。まるで足を得た人魚姫のようだ」


「人面魚とお間違えないでしょうか」


「なあ、今日くらい一緒に過ごさないか。ここが嫌なら君の部屋でもいい」


 俺たちは一度も夜を共にしていないじゃないか。

 などと言いながら肩を抱いてこようとする侯爵様に、魚のように口をパクパクと開きます。


「む……無理ですわ!」


 彼の胸元を押して、ベッドから下りました。

 走って駆け寄ったドアのノブを掴んだ手に、黒い手袋をつけた手が重なる。

 すぐ後ろに立っておられる侯爵様の息が耳元に掛かりました。


「いつかは許してもらえるように善処しよう」


 囁かれた言葉に体が震え、手で耳を押さえます。


「抱けば、俺がお前を寵愛していることも伝わる。お前が侮蔑されるのは俺が耐え難いんだ」


 こんなに醜い顔にしたのに、どうして……!?

 いいえ、違うわ。首を振って雑念を追い払います。

 侯爵様のお好みは私ではなく、アリエッサなのですからね。


「膿で侯爵様の枕を汚してしまうのは耐え難いので、失礼させていただきますわ」


 ドアノブをひねろうとしたのですが、手の上から握り込まれて動きを抑え込まれてしまいましたわ。


「ここに医者を呼んだと言っただろう? 大人しくするんだ」


「リ、リリア……、助けてくださいな……っ」


 ひくりと口の端が動き、ドアの外にいるはずのメイドの名前を呼んで助けを求めてしまいます。


「君は往生際が悪いな」


 ですが、まるで盗賊のように実に楽しげに笑う侯爵様に、私は抱えあげられます。

 ソファーに戻されてしまった私は、行儀悪くもたれかかりました。


 どうしてこうなってしまったの……?

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