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第弐参話 再会

「何故、貴様は私が塵も残さず――!」

「ンなこと言ッてる暇有ンのかよ。急がねェとお仲間全滅すンぞ」


 ラインハルトはハッとした表情となり、緋剣を振るい氷漬けの仲間を助け出す。

 抱えていた瀕死のお仲間をなんとか運び、治療を催促している。

 それを横目に、俺は地面へ伏した凍竜の、斬り落とした断面から溢れ出る鮮血の滝に、身を投じた。

 凍竜もその血は生温かいらしい。

 文字通り、浴びるように飲んでいく。

 上を向いて口を開け喉を鳴らし、また毛穴も開き血液を吸収していく。


 嗚呼、気持ちいい……


「アンタ、気持ち悪いわよ……」


 いつの間にか追いついていたらしいカレンが、ドン引きの表情を浮かべて立っていた。

 数日振りの食事(・・)なんだ、仕方ないだろ。

 そう思いはするが、口にはしない。

 逆の立場だったら同じ反応をしかねない気がする。

 一旦、そんなカレンは放っておいて、舵刀(セルピエンタス)で喉元から胸に掛けてを斬り開く。

 右腕を突っ込み、ぐにぐにと強い弾力の竜肉の中を()くように(まさぐ)っていると、指先が硬いモノに触れた。

 鷲掴んで引きずり出したそれは、アメジストの様な深い紫色を(たた)えた結晶。

 素人目に見ても、ロルフから渡された魔石とは比べ物にならない程の力を感じる。

 一応カレンにも見てもらうと、


「――すごい、これが竜の魔石……恐ろしい程の力を感じるわ」


 と感嘆の声を上げていた。

 間違いないようなので、舵刀(セルピエンタス)に与えてみる。

 先に嵌まっていた魔石が地面へと落下、その色はどす黒く変色しており、既に役目を終えているようだ。

 新たに凍竜の魔石を窪みへ()てがうと、窪みの形が変わりピッタリと収まる。

 その瞬間、先ほどまで周囲の空気を凍てつかせていた魔力が消え去った。

 ……否、魔石を通して舵刀(セルピエンタス)に吸収された。

 空気中を煌めかせていたダイヤモンドダストも消え、鉱山を覆いつくしていた氷が早速溶け始めている。


「――緋剣ッ」


 それを好機と見たか、仲間を後方に待機させたラインハルトが攻撃を放ってくる。


「随分な挨拶だなァ?」


 地面を這うように放たれた火柱。

 以前は焼かれるしか無かったその劫火を。


「――ッ!?」


 舵刀(セルピエンタス)の一振りで凍結させた。


「これァ良いな……少し離れてろ」

「わ、わかったわ」


 横で呆然としていたカレンに一声掛けると、本人も命の危険を感じていたのか、そそくさと空中へ退避していく。

 それを横目で見送り、


「なァ、ラインハルトさんよォ。ここァ一丁見逃すンがお互いン為だと思うンだが」

「……愚問だな。貴様は私の大切な部下を手に掛けた、元より逃がす選択肢など有ろうものかッ」

「それァお互い様な気ィすッけど……言ッてもキリ無ェか」


 いくら待とうが武器の構えを解くつもりは無いらしい。

 仕方がないのでコチラも前傾姿勢になり、右肩に担ぐようにして構える。


 十数分にも感じられる程の、緊迫した数秒。


 ――ほぼ同時の動き出し。


 緋剣と舵刀、熱気と冷気の交錯。


 流石、騎士団の中隊長と言うべきか。

 こちらの攻撃を的確に往なし、カウンターの一撃を狙ってくる。

 普通に攻撃をするのでは読まれてしまう。


 ならば。


 右腕で最上段から切り伏せる。

 緋剣によるガードと()ち合う……が音が軽い。

 次の瞬間、舵刀の切っ先がラインハルトの喉元を抉る角度で掠めていく。


「――クッ! 緋剣ッ」

「チッ、惜しいなァ」


 逃げるために放たれた劫火を舵刀で打ち消すが、ラインハルトに距離を取られてしまう。


「……なるほど、その独特な柄の形状が先程の奇怪な攻撃を生み出したのか」

「やッぱバレンのか、すげェなァオイ」


 そう言って舵刀の柄に付いている輪でクルクル回して見せる。

 不意を突いた一発勝負は不発に終わった。


 再び、お互いに武器を構え――


「……緋剣――」


 * * *


「今じゃの」


 何処か遠くを眺めている様子だったお姉さんが急に呟き、指を一度鳴らした。

 何をしているのかと考えていると、今度はコチラを見て、


「時が来た、逃げるぞっ」


 * * *


 ラインハルトが力強く振るった火柱による攻撃は不発に終わった。

 振るわれる途中までは確かに炎を纏っていた其の剣が、今や輝きを失っている。


「……な、何故です!? ウル様――」

「その名を公の場で気安く呼ぶでないわ」


 ラインハルトが悲痛な叫びを上げた瞬間、何処からともなく現れたのは、自らを化け狐だと名乗った女。

 そして――


「お、お兄さんっ!」


 助けんとしていた少女の姿があった。


「リリ、アーヌ……」

「無事で、良かったです……」


 こちらを視認すると同時に走り寄り抱き着いてくる。


「そりャ、こッちの台詞だろォが……」


 その頭をクシャッと撫でる。

 数日ぶりの、出会って間もないとは思えないほどの安心感。


「すまんの、ラインハルト。訳あってお主に授けていた恩寵は返してもらう故」

「な、なぜです……?」

「妾の優先順位が変わっただけのこと。お主は何も悪くない、安心せい」


 九尾はとても優しい表情でラインハルトの顔を撫で、手を離すと同時にその体が地面へ突っ伏した。


「……何しやがッた?」

「少し記憶を改竄(かいざん)しただけよの。ほれ、後ろの奴らも同様じゃ」


 ラインハルトの後方へ目を向けると、全員が同じように倒れていた。


「此奴らはここでお主らと相対したことは覚えておらん。暫くは起きんじゃろうし、今のうちに目的を果たすがよい」

「……俺らン味方ッて考えて良いンだな?」

「勘違いするでない。妾はリリアーヌの味方じゃ。その娘を傷付ける事があれば、たとえお主じゃろうと喰い殺す。努々(ゆめゆめ)忘れるな」

「わかッた、そンでいい」


 彼女を守る存在が増えた、今はそのことに感謝しておこう。

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