第壱仇話 一時帰還
三回目ともなれば慣れたもので、しっかりとした足場への着地ということもあり今度こそ着地に成功する。
膝下を硬化し、膝周りを活性化させることで衝撃を吸収しつつ関節からの破断を阻止。
踵から接地し、足裏全体を使って摩擦でのブレーキを利かせる。
肩幅以上に足を開き体勢を低く、足だけではバランスを崩す恐れもある為、左掌もついでに硬化させ備えた。
およそ五十メートルは滑走しただろうか、飛行機のような逆噴射出来るエンジンが欲しいものだと思いながら硬化部位を千切り捨て、新たな手足と対面を果たす。
……あァ、血が飲みてェ。
「今回は上手くいったのね」
ニヤニヤしつつ後から飛んできたカレンに軽く舌打ちをしつつ、セルゲイに渡された鈴を軽く振ると、カラカラと乾いた音が鳴る。
もっと良い音色を響かせるものだと思っていたため、泥でも詰まったかと逆さまにしたところで足元が少しずつ隆起していくのを感じた。
「ドワーフの技術ってどうなっているのかしら……」
「ォ前でも分かンねェか」
「地脈、魔力の流れで変化させてるのは分かるけど、そこまでね」
ドワーフの独自技術、恐るべし。
そうこうしているうちに身長ほどまで隆起した地面は、側方から入れるような階段付きの穴が出来上がっていた。
「これァ分かり易くて助かンな」
未知を進む迷宮探索も面白かったが、謎技術の中を歩むのもワクワクする。
階段を降りていくと、入り口が地響きと共に光を閉ざしていく。
「……これも地脈ン影響か?」
入り口は完全に閉じ、陽の光がなくなったにも関わらず、洞窟内は青白い光を纏っていて見通しが利く。
しかし、迷宮攻略時に感じていた夜目の利き方とは違う。
「これは……多分ドワーフの技術ね」
ほらあれ、とカレンが指差した場所に目をやると、壁面に青っぽい水晶のような石が所々に埋まっていた。
「あれが魔力を動力源として辺りを照らしてるみたい」
相変わらず、こちらの世界の魔力を扱う技術は凄いな。
……逆に化学物理学の技術は発展していないのだろうか?
そうこうしているうちに階段が終わり、数刻前に出発した地点へ到着した。
「思った以上に早い帰りだったのぉ」
何処かでこちらの帰りを察知していたのか、セルゲイが橋の方から歩いてくる。
「あァ、ちィと問題がな……先ずァこれだ」
カレンに持っててもらった粘樹の樹液、その革容器をセルゲイへと受け渡す。
中身を確認すると、感嘆の声を上げ喜びを露わにしている。
「こんな短時間で樹液を集めてしまうとは……改めて、最初の非礼を詫びさせてくれ」
用件も聞かず門前払い決め込む積もりでいた過ちに対し、深々と頭を下げられる。
同族を守りたい、無用な厄介事は避けたいという気持ちは分からなくもない。
「頭下げンなッて、ォ前ァ自分ン役目果たそォとしただけだろ」
「……すまないのぉ」
「そンより、鉱石ンついてだが」
ゆっくりと頭を上げたセルゲイに対し、一呼吸置き本題を投げかける。
「武器が必要ンなッた。竜を討てるほどンな」
「竜を、じゃと……?」
眉を顰め、怪訝な表情を浮かべつつ、
「むぅ……しかし、うちのロプちゃんを抑えたお主の力なら武器なぞ無くともどうにかなりそうなものじゃが」
「ロプちャンだァ?」
「おぉ、すまんすまん。独眼鬼のことじゃよ。うちらは敬愛を込めてそう呼んどるんじゃ」
「アイツか……を、俺ァどォ抑えたッて?」
「なんじゃ、覚えとらんのか。大きな白い蛇になってロプちゃんを羽交い絞めにしておったぞ? 堪らず飛び出してしもたわい」
俺が掌底で肉塊と化した後、白蛇が出張ってたのか。
「ォ前、何か言ッとけよ」
「…………」
右手へ問いかけるも無反応。
何事かとカレンへ目を向けると、
「ぁ~、そういえば『暫ク休ム』とか言ってたわねぇ。てっきり分かってるものかと」
「そォかい」
全力を出せば魔人を単騎で抑えられる白蛇、しかし今直ぐには助力は得られそうもないらしい。
つまり、結論は変わらないようだ。
「改めて、武器が必要ンなッた」
「ふぅむ……本当なら採集を終えた後にと思っておったが、この短時間で樹液を集め届けてくれたしの、報酬の前払いじゃ」
「助かる」
「して、相手はどんな強い魔物なんじゃ?」
「凍竜だッけか。ソイツが鉱山を凍らせちまッててなァ」
「…………」
竜種を答えたところで、セルゲイの顔から多量の汗が噴き出し、みるみる青褪めていく。
「ァあ、どォした?」
「いや、竜を討てるほどとは、てっきり比喩表現だど、思っとったからの? そぉかそぉか……」
声を震わせつつ、しかし頭の中では既に構想を練り始めているらしい。
「……あい分かった、我々の技術を詰め込んだ逸品を造ると約束しよう。じゃがその前に――」
言葉を区切り、こちらの全身を見て、
「先ずは家へ来なさい。お風呂と新しい衣服を用意しなくてはの」
すっかり乾ききって忘れていたが、硬化で千切り飛ばした部位以外は泥塗れなのだった。
後ろでは思い出したかのようにカレンがケラケラと笑っている。
このまま置いて行ってやろう、そうしよう。
「何から何まですまねェな、世話ンなる」
「ほっほ、お互い様じゃて」
カラッとした心地良い笑顔で答えるセルゲイと共に、再び居住地へと歩みを進めるのだった。




