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第壱拾話 旅立ち

 地脈。

 大地の底から湧き上がる魔力の、川のような流れ。

 地脈が流れゆく大地は肥沃となり草木に恵まれ、しかし供給が多すぎればダンジョン生成や強力な魔物が生まれるなどの魔力災害が発生する要因にも成り得る。

 

「で、私たちエルフや人間は空気中の魔力を利用するんだけど、ドワーフたちは地中……地脈の中に居住してその魔力で生活してるの」

「それをォ前らは毛嫌いしてンのか」

「だって好き勝手に地脈の流れを変えられるんだもん」


 カレンと二人、ドワーフの居る地を目指して進む道中にそんな話を聞かされる。

 情報として無いよりかは有ったほうが交渉もしやすいとは思うため耳を貸しておく。

 

「で、居住区ン入口がダンジョンになッてンだッけか?」

「えぇ、地脈が流れず滞留する場所には、地上よりも強力な魔物が巣食うダンジョンが形成されるわ。人間が亜人排斥を謳うようになってから、彼らは防衛策としてわざとダンジョンを生み出すように地脈を使い、その更に地下で暮らしてるってわけ」

「そこまで、どンくらい掛かる」

「普通に向かうだけなら、五~六日くらい……」


 そこからダンジョン攻略、ドワーフとの交渉を考えると下手したら二週間は掛かりかねない。

 流石に悠長が過ぎる。

 

「どォにか早く出来ねェか」

「アンタの頼みを聞くのは癪だけど、リリアーヌちゃんの為だから頑張ってあげる。その代わり、文句は受け付けないからねっ」

「あァ――頼む、カレン」


 その呼びかけに長い耳がぴょこんっと跳ね、

 

「こっ、この魔法陣に乗って!」


 そっぽを向き、少し上擦った声で指示される。

 言われた通り、緑色の光を放つ紋様に乗り――

 

「着地は自力で頑張ってね」

「ァ――ッ!?」


 強い衝撃と共に、大空へと射出された。

 

 * * *

 

「……大丈夫?」

「本気で言ッてンなら眼か頭を神樹に治して貰え」


 遅れて飛んできたカレンは自身の魔法で優雅に着地。

 一方の俺は着地する手段なんて無い為、折り畳んだ手足と背中を無理矢理に死斑硬化、頭部を庇いつつの耐衝撃体勢で地面へと叩き付けられ、左半身が埋まっている上に自力では動くことも出来なくなっていた。

 

「自力じャ動けねェ、手ェ貸せ」

「それが他人にモノを頼む態度かしら?」

「誰ン所為でこうなッたと思ッてンだ」

「あんたがその手段を選んだんでしょ。仲間が居なくて、敵の攻撃で同じ状態になっても誰かの所為にするの? バカなの?」

「……」


 言いたいことはある。

 だが、カレンの言っていることにも一理ある。

 実際、俺がもっと力を上手く扱えていればラインハルトに負けることも、リリアーヌを攫われることも無かったかもしれない。

 

「……ゎ、かっ……」

「え、なに?」

「悪かッた、助けてくれ」

「……まぁ及第点ね」


 カレンの手によって起こされる。

 が、硬化が解けない為にまだ自力での行動は不可能。

 

「これ、どうすれば元に戻るの……」

「切り落とシて再生させる」

「あんたの方こそ神樹様に頭治してもらったら?」

「うッせェ」

「魔力ガ足ランナ」


 突如、聞いたことのある声が右方から飛んでくる。

見ると、白蛇が俺の右肩から伸びていた(・・・・・)


「ォ前、どッから――」

「我ラハ既ニ一心同体、貴様ノ右腕ニ宿シタ能力(チカラ)ヲ媒介ニ借リルナゾ容易イ」


 正確には、俺の右腕が白蛇と化していた。


「逆モ然リ、貴様ノ呼ビ掛ケニ応ジル事モ可能」

「ンで、魔力が足りねェッてのは?」

「今、貴様ノ右腕ハドウナッテイル?」

「蛇ンなッてる」

「ソウデハナイ。硬化ガ解ケテルダロウ」


 そう言われれば、白蛇が自由に動いている。

 急に話しかけられたことに加え、右腕が乗っ取られた驚きで気付く余裕がなかったようだ。


「コレガ我ガ授ケタ能力(チカラ)、有リ体ニ言エバ『脱皮』ダ」

「そりャなンとも蛇らしィ――」

昨日(サクジツ)緋剣(レーヴァテイン)ニ敗レタ貴様ヲ救ッタノハ脱皮(コノ能力)ダガ?」

「……助かッた」


 得意気にしているのが若干癪だが、お陰で命拾いしていたらしい。


「つまり、魔力があればその身体が元に戻るって事よね……あんた、どうやって魔力補充してるの?」

「獲物ン血ィ飲んで」

「うぇ……」


 想像したカレンが超絶嫌そうな顔をする。


「……つまり、経口摂取で取り込んでるって意味よね」

「そォなるな」

「なら、これはどうかしら」


 両手を広げ、まるで舞うようにその場で回転を始める。

 次第に、手のひらに水色の球体が現れ、舞うほどに少しずつ大きくなっていく……。


「はい、これ飲んで!」


 一分と経たない程度で、握り拳ほどの塊となったそれを口元にあてがわれる。

 逃げることも叶わず、半ば強制的に……


「――ッ、まッず!!?」

「抽出した魔力塊なんて本来飲むものじゃないからねぇ」


 カレンの口角が歪に吊り上がっている気がする。

 コイツ、俺に嫌がらせして内心楽しんでるだけじゃないのだろうか……。


「シカシ、オ陰デ十分ナ魔力ハ満チタ」


 右腕から魔力の波が広がり、全身へと沁みていく。

 背中、右腕、両足の硬化した皮膚が次第に剥がれ、捲れ上がる。

 サイズの合わない靴を履いているような、少し居心地の悪い感覚。

 身体を捩ると左腕が抜け、綺麗な柔肌が露わになった。


「能力ン使い方ァ覚えた。これで――」

「注意点ガアル。睡眠ヲ挟メバ多少ハ短ク出来ルガ、一晩カラ半日程インターバルガ必要ダ」

「……無闇にァ使うなッてことか」

「ソシテ、使用直後ハ再生力モ弱ッテイル。気ヲ付ケルコトダナ」

「あァ、(きも)ン刻ンどく」


 普段使いは避けるべき最終手段。

 昨日のように温存して死を偽装する用途が適当だろうか。


「……服、ちゃんと整えてよね」


 立ち上がったところで、カレンがそっぽを向きつつ指摘してくる。

 ずり落ちそうになっているパンツを履きなおしつつ、内側に残った硬皮を払い落とす。


「行クか」


 カレンに吹っ飛ばされたおかげで、ダンジョンの入口は目と鼻の先にある。

 白蛇はいつの間にか右腕に戻っていた。


「アンタ、ダンジョンは初めてよね。油断しないでよ」

「任セろ」


 二人、地下へと続くその入口へ足を踏み入れた――

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