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第二話 素敵(素材を敵から入手する)

 街に戻った。


 数百年に渡り暴虐を振るった魔王が滅んで以降、世界は平和に……ならなかった。それまで魔王の支配下で鳴りを潜めていた各地の魔物や獣人が一斉に蜂起し、むしろ世界は未曽有の大混乱に陥ってしまった。

 んで制度や法に縛られた正規軍よりも、俺達のように自由に動き回れる冒険者に白羽の矢が立ち。各地で戦いを繰り広げ――いいかもう。街の話する。


 という訳で、近年はアーベンクルトを中心とした各地方に冒険者の拠点が次々と生まれていった。この街、エギョジュニャもその一つ。呼びにくくて覚え辛い。


 夕暮れに染まる閑静な街並みに、やたら大勢の冒険者がたむろしている。


 どいつもこいつも、目先の報酬に釣られて安牌のクエストを取り合うばかりのやつら。その辺で倒した敵から運よく手に入れたアイテムで満足して、自慢し合っている。色々な意味でレベルが低いぜ、やれやれ……。


 オレはバステナを伴い、いつもの食堂に入った。

 いつもの客、いつもの店主、いつもの食事。


 ……オレはこんな平凡な連中との暮らしに収まるような器じゃない。もっと強力な敵、もっと壮大な旅、もっと尊い戦いの中でこそ、俺の才能は輝くのだ……。



「うーん、おじさん、おかわり!」

 それに比べてバステナと来たら。強力な魔力を持ちながら、その才能を生かそうともしない。

 だけどオレなら、お前の能力を使いこなせるだろう。オレはお前を利用する。そしてオレの栄光の足掛かりとなってもらう。その為ならエリクサー程度いくらでも呑ませてやるさ。ふふふ……そうとも知らず、嬉しそうに、目の前の肉野菜炒めにご満悦―—。


「―—お前、何飲んでんだ!」

 思わず叫んでしまった。バステナがサラダと共にちびちび飲んでいるのは、てっきりジュースか何かだと思っていた。瓶入りの真っ青なポーションだった。当然、パーティ(オレ)のモノである。いつの間に取り出し……というかどういう舌してるんだお前。


「この方が味が深くなるし」へー調味料としても役に立つんだあ。ポーションってすごいね!……とでも言うと思ったか!


――――――――――――――


 夕食を終えたオレは、宿に向かう前に、消耗した薬品類の補充を済ませることにする。急がねば薬品店が閉まってしまう。明日は重要なクエストを決行する日。早朝に出立する予定なので。どうしても今夜のうちに買い込んでおかなければ――


 ―—申し訳ありません。本日は全て売り切れとなっております。


 そんなバカな。

 町中を駆け回ったが、結果は何処も同じだった。


「……仕方ない。やりたくはないが、自力で素材を集めて作成するか」

 オレは唯一、クラフティングだけは苦手である。

 だが、鞄を埋めておかないと落ち着かないタチでもある。


 そして、買い物にくっついてきていたバステナには宿で休めと伝えた。


「えっ、何で?私も手伝うよ」

「それでまたアイテムを使われたら本末転倒なんだよ。一人で行く」

「うう……」


 しおらしく反省しているのか、文句が言いたくてたまらないのか、判らん。

 その仕草はいじらしいが、もし自覚しているのなら、普段からもっと自重してほしい。


 こうしてオレは、満月が照らす夜の草原へと出発した。


 エリクサーの材料となるのは、主に「呪トカゲの尻尾、歩く木の根、食人ヤギの角」などなど。どれもこれも夜間に出没する連中であるので、それらの素材の入手自体は容易いものだった。


 しかし、月夜とはいえ、真っ暗な草地をたった一人で徘徊し、地道に一匹ずつ片付けていく間に段々と情けなくなってきた。何してるんだろ、オレ……。

 暫く凹んでいる内にだんだん腹が立ってきたので、いつの間にか、予定より大勢の魔物を狩っていたようだ。


「……スウィフトスラッシュ」「スウィフトスラッシュ!」

「スウィフトスラッシュ!スラッシュ!スラッシュスラッシュ!スラッシュ!」

 叫んでると楽しくなってくる。

 獲物を見つけ次第、片っ端から切り伏せる。

 トカゲもヤギも逃げ惑うので追い回す。

「はははは!恐れ!慄け!オレこそが魔剣の使徒、レオドラス!月光に閃く我が剣こそ、断罪の、えーと、風刃……飽きた。やめよ」


 テンションは最高潮に達したが、虚しくなってきたのでやめた。



 さて、エリクサーを合成するか……。これだけの材料があれば、明日の戦いに足りるだろう。


 火を起こして鍋をかけ。薬草やスパイスをいくつか加え。

 眠気に耐えながら、うろ覚えのレシピを頼りに、エリクサーを次々と仕上げていく。


 星夜の下、野宿さながら、小さな焚き火の揺らめく灯に照らされて、夜を過ごす。

 このエリクサーがとある悲劇を起こすことに、オレはまだ気づいていない。

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