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ラブコメ、恋愛、アオハル~千本ノックシリーズ

優しいだけの嘘つき達は今日もラブコメを演じる【短編版】

作者: なつの夕凪

緒方霞おがたかすみ

 私立白花学園高等部一年B組

 長い前髪、寝ぐせ、常に花粉症対策完備

 (眼鏡、マスク)のためクラスメイトですら

 素顔を見たことがない謎の男。

 なぜか美少女五人にモテモテな「くされリア充」

 その生き様は全年齢版ギャルゲー主人公

 そして重度の義妹大好き病(別名:シスコン)


・天使同盟

 白花学園高等部の全三学年から

 毎年学園非公認で選ばれる十二人の美少女

 校内だけでなく校外にも影響力がある


赤城(あかぎ)さくら 一年A組天使同盟一翼『櫻花の天使』

高山莉菜たかやまりな 一年A組天使同盟一翼『気ままな天使』

宮姫(みやひめ)すず 一年A組天使同盟一翼『癒しの天使』

前園凛(まえぞのりん) 一年B組天使同盟一翼『放課後の天使』

望月楓(もちづきかえで) 一年B組天使同盟一翼『月明かりの天使』

 梅雨が始まった六月上旬のこと、その日は臨時の教職員研修のため、午前中だけの短縮授業となった。期末テストまでは多少時間もある。


 俺、緒方霞おがたかすみはバイトもないし、気晴らしに本屋で漫画でも買って……と思っていた。ところが来週までの小論文の宿題が残っているため、同じクラスの望月楓もちづきかえで前園凛まえぞのりんと俺の家で午後は宿題をすることになった。

 

 「女の子ふたりと仲良く宿題かよ、良い身分だな~」と思うかもしれない。一応言い訳すると俺はクラスの友人である水野深みずのしん広田良助ひろたりょうすけのヤロー両名も誘った。だがアイツらにはやんわりと断わられた。

 

 水野曰く「それくらいの空気なら読めるから」とのこと、空気を読めるなら女子二人に家で挟まれる俺の気持ちを分かってほしい。

 

 女の子って近くだと俺らと違う甘い匂いがする、変な事をする気がなくてもドキドキする。というか家の中という閉鎖空間だと非常に気まずい。


 宿題を一緒にやるだけなら図書館やカフェでもできる。だけど楓が「今日昼ご飯作りに行っていいかな~あとできれば宿題を一緒にやりたい」と言ったのが発端だったため、宿題をやる場所が、最初から家で固定されてしまい変更できなくなった。


 楓の提案を断る理由もなかったから「じゃあそうするか」と言ったところ、横で話を聞いてた前園がニヤニヤしながら俺たちの間に入ってきた。


「おやおや楓さんや、抜け駆けかい?」 


「ち……違うの、カスミはいつも宿題をぎりぎりまでやらないから、今のうちにやらせちゃおうかと」


「ふ~ん~なるほど、あくまで見張りだと~そかそか、ねぇ緒方、用があるからすぐには行けないけど後で家に行っていい?」


「別に構わないけど」


「ありがと、おみやげ持ってくから楽しみにしててね」


「おう、わかった」


「楓も後でよろしく~」


「うん……(凛ちゃんのいじわる)」


「ん~拗ねた顔もかわいいよ楓」


「もう……」


 かわいいと言われて楓は顔が赤くなる、前園は不敵に笑うと楓の顎を軽く持ち上げ――所謂『顎クイ』をするとイケメンのような仕草で、楓の耳元で甘く囁く。


「その照れ顔はオレのこと気にしてるってことでいいかな?」


「そうだけど、そういう意味と違うから」


 顔が完全に真っ赤になった楓は前園から必死に目線を外そうとするが、それを前園が許さない。目の前で高純度な百合世界が展開される。クラスの連中も気づいてざわめき始めた。圧倒的なイケメンスペックで楓を篭絡しようしているのだから無理もない。一般男子の俺ではどうにもならない世界を静観することにした。

 

 あ~尊い、尊い。


 なんてな……そろそろ助けてやらないと前園のイケメンオーラで楓がぶっ壊れるな。

 

「前園、その辺にしとけ」


「うぃ~」


 前園が楓から手を離す。楓は顔が真っ赤なまま、俺の背中に隠れた。


「楓はいつもながらかわいい反応するねぇ……いや~眼福眼福」


 前園がおっさんみたいな物言いをする。やれやれ


 楓と前園は普段から仲がいい。楓クラスの委員長で前園は副委員長、クラスの困り事はふたりであっという間に処理してしまう。大人しい楓が詰まる時は、コミュ力抜群の前園がしっかりフォローしてくれる。前園が楓をからかうのもふたりだけの信頼があればこそだ。


 と思ってるんだけど、ガチ百合ゆえの信頼じゃないよね?


「じゃあ、緒方、楓また後で~」


「おう」


「うん凛ちゃん待ってるね」


 前園がそう言い残すと、颯爽と教室から去っていった。


「カスミ私たちも行こうか」


 後ろに隠れたままの楓が指先でYシャツの腰の辺りをギュッと掴む。


「そうだな帰ろう楓」


 ぱぁっと嬉しそうな顔した楓がようやく姿を見せくれた。


◇◇◇

 

 家のそばのスーパーで買い物を済ませ、楓と家に向かう。途中でいつもと同じように楓と手を繋ぐ、細くて小さな手はひんやりしてて気持ちいい。


「~~♪」


 機嫌が良いのか俺にだけ聞こえる程度で鼻歌を歌ってる。肩ごしに見えるその美貌につい見入ってしまう。黒髪ロングのカチューシャ編み、長い睫毛と大きな瞳、小さな鼻と薔薇の唇、こっちを向いた楓と目が合う刹那――


「カスミどうかした?」


「いや……何でもない」


         ・・

「私たちはその……親友でしょ? じゃあ隠し事はなしにしてほしいな」


「楓はきれいだなと思って」


 楓がビクッとして、俺から離れようとするが手を繋いだままだから、どこにもいけない。困惑した表情のまま視線を浮かべる。


「急に変な事を言わないで」


「言わせたのは楓だろ、今更だけど『月明かりの天使』様はやっぱ一味違うな~」


「その呼ばれ方は好きじゃない、ちゃんと名前で呼んでほしい」


「ごめん楓」


「ううん、いいの……カスミ」


 俺たちの通う白花学園高等部は毎年五月のゴールデンウイーク明けに学園非公認組織により、その年の天使同盟なるものが発表される。


 具体的には一年から三年までの女子生徒から選りすぐりの十二名が選ばれる校内美少女番付で、高等部に女子は計四百八十名もいるから天使同盟に選出されるのは難しく、選ばれると学園内はもちろん近隣の高校にも美少女として名が行き渡る。


 目立ちたい子が選ばれれば鼻高々かもしれない。元々大人しい楓にとっては大迷惑みたいで天使同盟に選ばれてから、ワンチャン狙いの告白が増えて大変らしい。


 バイトがない日はできるだけ楓と下校するようにしてる。男が横にいれば告白しようとするヤツも寄ってこないだろうし大切な親友をいや楓を守ることは俺の義務だから。


◇◇◇


 楓の作ったクリームパスタと俺が作ったサラダを食べ終えた後、うちのキッチンで洗い物をする。食洗器がないため楓が皿を洗い、俺が皿を拭く……居間でテレビでも見ててと言われたけど、落ち着かないから手伝いをする。


 うちには楓用の猫の絵のついたエプロンが置いてある。楓が来るようになったのは中二の頃からだからかれこれ二年、調味料の置いてある場所から皿の種類まで楓は全て把握している。普段家族のご飯を俺が作っているけど、そもそも料理の師匠は楓だから到底敵わない。

 

「どうしたの? ぼぉ~としてたよ」


 手を止めて物思いに耽っていた俺に楓が怪訝そうに声をかける。


りぃ、いつも楓に世話になってて申し訳ないと思って」


「いいよ……私がしたくてやってるんだから」


「ありがと、親友でもそこまでしてくれなくても大丈夫だぞ、俺も少しは料理が出来るようになったし」


「私お邪魔かな?」


「そんなことね~よ」


「……だったら、もっと私に頼って」


 楓は洗い物をしていた手を止めて、俺を真剣に見据える。その距離二十センチ未満……気のせいかその瞳は徐々に潤んできて、頬は少し上気し赤くなっている様に見える。


 互いに見つめ合ったまま動けない……唇が僅かに動き、瞳を閉じた楓は待っている。鼓動は自然と早くなる……楓に聞こえてしまいそうなくらいに


 楓は何を考えてる?


 俺はどうすればいい?


 楓の唇に自分の唇を少しずつ近づけていく…… 



――ピンポーン♪



「うわっ」


「きゃ」


 俺も楓もびっくりして、互いに後ろへ飛びのいた。


「誰か来たみたいだからインターフォン見てくるわ、はは」


「う、うん……凛ちゃん来たのかな?」


……良かった。俺は今、楓に何をしようした? 頭の整理がつかないままインターフォンの画面を覗くと金髪の少女が手を振っていた。


◇◇◇


「おまたせ~」


「おう」


 制服をやや着崩した少女が人懐っこい笑顔を浮かべている。金と銀の中間のような透き通る髪をミディアムショートで流し、白よりも白い肌、空のような薄い蒼の瞳、北欧と日本のハーフで、その姿はまるで絵本の中のお姫様、またはファンタジー小説のエロフ、じゃなかったエルフと言われても疑わない。


 さっきまで学校で一緒だったはずなのに改めて見るとその姿に幻想的な美に心を奪われる。

 前園凛、白花学園高等部天使同盟の一翼「放課後の天使」、白花学園の男子生徒は一度は前園に恋をするという噂まである美貌の持ち主。


「ん~どうした緒方? オレに惚れたか?」


 前園は吸い込まれそうになる笑みを浮かべ、その蒼の瞳が俺を覗き込む。瞳には狼狽する俺の姿が映る。ピンと張るような緊張感で首筋に一筋の汗が流れた。

 

「なんてな……まぁ緒方が本気ならオレはいつでもいいけど」


 少年のように二カっと笑う。一人称は「オレ」、可憐な容姿のまま快活に話す。白花学園中等部からの内部進学組で、中等部出身者からはカリスマ的な人気がある。その上頭脳明晰で運動神経も抜群、こんなチートが家に来たら俺じゃなくても緊張するだろう。


「……お邪魔してもいい?」


「あぁすまん、そこのスリッパを使ってくれ」


「ありがと~お邪魔しまーす。楓は?」


「中にいる」


 廊下を通り抜け、前園を居間に連れていく。楓は冷蔵庫から出した麦茶をコップに入れ、前園の分を用意していた。


「よ~楓来たぞ~」


「いらっしゃい凛ちゃん……って私の家じゃないのに、言うの変だね」


「もう事実婚みたいな感じなんだから気にするなよ……ん? 楓ちょっと来い」


「ん……どうしたの? 凛ちゃん」


 きょとんした顔をした楓が首を傾げた楓が金髪少女の前に寄っていく。前園は神妙な面持ちで楓のおでこに手を当てるなり、手のひらを見たり、楓の瞳を覗き込んだりと色々なことをする。楓は終始「?」のついた表情のままされるがままになった。しばらくしてから怪しげな行動を止めると「ふっー」と大きなため息を尽く。


「すまないふたりとも」


「どうした? 前園」


「さっき事実婚とか言ったけど、実際ふたりがそこまで進んでるとは思ってなくって……こんな事ならいちゃいちゃ後のお風呂での洗いっこタイムが終わった辺りを見越して来ればよかった」


「「はぁ~~~~~~!?」」


 俺と楓はふたりして前園の妄言に変な声が出た。


「凛ちゃん、何言ってるの!? そんなこと全然ないから! 私も今日こそとか全然全く一遍も考えてないから!」


「そうだ前園、いつも言ってるけど楓と俺は親友でそれ以上でもそれ以外でもないから」


 すると前園がげんなりした顔で俺を見て上で楓につぶやいた。


         ・・

「緒方は相変わらずアレだし……楓、お前大変だな」


「凛ちゃん別にいいの。いつも通りだからいつも通り……はぁ」


 楓はなぜか二度も「いつも通り」を言った上でため息をつく。よく分かってないのは俺だけ? どこかで地雷を踏んだか?


「ところで凛ちゃん、美味しそうな匂いがするんだけど?」


「あ、そうだった。緒方の家に来る途中に赤い看板の焼き鳥屋さんがあるじゃん? あそこでお土産に買ってきた」


 前園はカバンとは別に持っていたビニール袋を楓に渡す。


「ありがとう。凛ちゃん」


「焼き鳥公国少佐のことか? あそこは旨いんだよ。秘伝のタレを使った『ボーヤでもおいしく食べれる特性三倍焼き』が絶品なんだよな!」


「そこそこ! オレみたいな金髪でサングラスをかけた渋いイケオジが店主で……って、うん?」


「どうした前園?」


「今、太陽が昇る方角から『それ以上その話題に触れるな!』って言われたような気がした」


「よくわからんが深追いすると危険なのかもしれないな、この話はここまでで」


「凛ちゃんは昼ご飯食べたの?」


「ここに来る前、バイト先に寄ってきたから、そこで賄いを食べた」


 前園は月に何回か知人の漫画家さんのアシスタントをしてるらしい。つくづく多芸なやつだ。


「じゃあ凛ちゃんが買ってきた焼き鳥は後で食べよう!」


 その後、俺たちは夕方まで小論文を書く事に没頭した。楓はこの前の中間で学年二位で前園は三位、どちらも集中力が高い、そんなふたりがいるせいか俺も引きづられて小論文はどんどん進む。楓は小論文を書き終え、俺と前園も八割終わったところで休憩することとなり、前園の買ってきた焼き鳥を食べることにした。


 焼き鳥は冷めたままでも美味しいが、温めるとより美味しいので電子レンジでチンする。その間に焼き鳥に合いそうな緑茶を三人分に入れる。


「前園、楓は緑茶でいいよな?」


「ん~大丈夫」


「カスミ、お茶なら私が入れるよ」


「大丈夫だから前園とくつろいでてくれ」


「は~い」


「うい~」


 楓は前園の頭を膝まくらしながら日の光で輝く金糸のような髪を優しく撫でている。前園は毛並みを整え貰ってる飼い猫のように気持ちよさそうにしている。ふたりの天使がリラックスする姿はルネサンス期の絵画のよう。


 問題なのは女の子座りをする楓の太ももがやたら柔らかそう見えるし、前園に至ってはブラウスの襟元から二つ目までのボタンを外しているため、呼吸に合わせ柔らかそうな白磁の谷間が隆起すること、プリーツスカートが捲れて長く細い足の先が、もう少しで露わになりそうなっていること。

 

 こんな神々しい映像を一人独占で見てたことが学園のヤロー共にバレたら、直死の呪詛をかけられるに違いない。これ以上見ては駄目だ……とてつもなく惜しいけど……


 焼き鳥は、楓がささみと皮、前園がつくねとレバー、俺はねぎまと手羽ををそれぞれ一本ずつ選んだ。


「ん~~~美味しいこのタレ最高。ご飯にかけたら何杯でもいけそう」


 前園がほっぺに手を当てて嬉しそうな声を出す。


「本当に美味しいね。食べ過ぎちゃう」


 楓もご機嫌な様子。うんうん、女の子が嬉しそうに食べているところって実にいいと思う……ってことを考えていたら突然スマホが鳴った。


『もしもし緒方君すまない。今いいかな?』


「はい。大丈夫です。ちょっとだけお待ちください」


 俺はスマホを持ったまま自室に移動する。連絡はバイト先のファミレスの店長からだった。バイトメンバーに急遽、欠員が出たからシフト変更の相談だった。しばらく店長と話し込んだ後、電話を終え居間に戻る。


「お疲れ~」


「おう悪い」


「気にしなくていいよ。バイト?」


「ああ、シフトメンバーが一人抜けるらしくて来週から少しだけ忙しくなりそう」


「じゃあ姉さんにも連絡が届いてるかも?」


「そうだな」


 俺のバイト先は、楓のお姉さんである加恋かれんさんに紹介してもらった。ただ加恋さんは大学が忙しいらしくあまりシフトには入っていない。


「緒方はよく働くよね~ほどほどにね」


「ありがとう……ん?」


 俺はあることに気づいた。


「ねぎまがない……俺のねぎまがな――い!」


 ねぎまが好物なので、大切に食べようと二本目に取っておいたが、いつの間にか無くなってる。これはおかしい……とは言え楓や前園が俺の分を食べるは思えない――と思ったその時だった!


「ぐはっはっはっ、貴様のねぎまはこのわたしが美味しく頂いた! Dear My お兄ちゃん様」


 廊下へと続くドアがバーン!と開き、悪の巨頭、もとい妹様が焼き鳥の串を咥えたまま姿を表す。どうやら俺がバイト先と通話中に学校からご帰還されてたようだ。


「あのなぁリナ、人のものは勝手に食べるのは感心しないぞ」


「兄ちゃんのものはわたしのもの、わたしのものもわたしのもの、そしてわたしは兄ちゃんのもの、だから何の問題もない!」


 リナはジャイアニズムをさらに飛躍させたトンデモ俺様理論で小生意気にも反論してきた。


「いや俺の焼き鳥が食われた現実は変わらないから問題あるだろ」


「ふっ、焼き鳥の一本なんて小さな事だぜ兄ちゃん! それよりわたしがいない間にめんこい女の子を二人も連れ込むとは~どういう了見だ?」


「昼前にRIMEライムでふたりが家に来るって連絡したら、お前「りょ!」とか返してただろ」


「あ、そうだった。いらっしゃい~楓ちゃん、凛ちゃん」


「ってか今更挨拶かよ!」


「お邪魔してます。リナちゃん」


「うぃー妹ちゃん……今日もかわいいね。こっちにおいで」


「はい~きゃう~凛ちゃん良い香りがシマスるるる♪」


「ホント……食べちゃいたいくらいにかわいいよ」


 イケメン少女にハグされたリナはまるで子犬のように甘える。……その光景はまたしても尊い。


 前園さんや……あなたやっぱ百合なの? 楓だけじゃなくてリナも狙ってるの? これは波乱の展開ですわお姉様! ……ってお姉様って誰だよ?

 

 リナこと高山莉菜たかやまりなは、俺の実の妹ではなく正確には親戚に当たる。以前俺がリナの実家に住んでいたため兄妹同然で育った。俺は中学に上がる時に東京に戻り、リナは高校進学と同時に上京し家に下宿している。学校も同じ白花学園高等部に通う同学年。クラスは別でリナはA組で、俺、楓、前園はB組。

 

 そしてリナも白花学園高等部天使同盟の一翼「気ままな天使」


 天然茶髪のショートボブ、小動物のようなビジュアルは一言で言うとかわいい。勉強はできないし部屋の片付けもできない、唯一の特技は運動で、食っちゃ寝の我がまま姫だけどかわいい。リナは世界一いや宇宙一かわいい妹、正確には妹でも義妹でもない「義妹もどき」だけど

 

「俺の分を食べなくてもお前の分の焼き鳥も、ちゃんと前園が買ってきてくれたんだけど」


「な・な・な・なんと……! 部活が終わったばかりでお腹ペコペコだったし、わたしだけ仲間はずれにされたと思ってつい……兄ちゃん、さーせんでしたぁあああ!」


 三つ指をついて深々とお辞儀をする義妹もどき、姿勢だけは真摯だった。


「お前あんまり反省してないだろ」


「そんなことないよ兄ちゃん。ひょっとしていつものようにわたしにえっちい罰を与えたいのか? なら仕方ない。ふたりが帰った後、好きなようにしていいよ。でも最近あちこち敏感だからさ……や・さ・し・く・ね」


 顔を上げたリナはウインクをする。あざといとか全部通り過ぎて、うざっ! この妹マジうざっ! しょうもない発言に吹き出す楓、前園は腹を抱えて笑っている。


「アホなことを言ってんじゃね~ぞ、いつもえっちい罰なんかしてないわ~」


 俺は在らぬ疑惑を即座に否定した。前園はともかく楓から発せられる負のオーラで室温が一気に下がった気がしたからだ。無言で笑顔なのも怖い。


「あれ違った? じゃあ兄ちゃん、お詫びは脱ぎたてパンツにしとく? それとも脱ぎたてブラ?」


「いらんわ。そんなもん!」


「なんとぉ~!? ひょっとして楓ちゃん凛ちゃんのを合わせた三人分のブラとパンツを? 兄ちゃんさすがにそれはごうが深いぜ」


「下着の話から離れろ~!」


 脳内ピンク色おバカ妹のしょうもない会話が終わらない。誰か助けてくれ!


「楓、オレたちもパンツとブラが獲られるみたいけど、今日は勝負できるやつ?」


「え? いつでも準備はできてるけど……じゃなくて、そんなの駄目に決まってるじゃない!」


「兄ちゃんにパンツ獲られても、わたしの未使用品をふたりに進呈するから大丈夫だよ……ブラは楓ちゃんのスイカと凛ちゃんのメロンはわたしの夏みかん用じゃ入らないのでノーブラで」


「スイカ……ブラ無し」


「それは困った……緒方におっぱいのカタチばれちゃうかも」


 楓は言葉を噛み締めるように呟くと耳の先まで湯気が出そうなくらい真っ赤になり、恥じらいの表情を浮かべ、前園は身をよじり胸を両手で抑え、上目遣いで俺を見つめたまま怪しく笑う。


 あぁ神様なんと言うことでしょう、この前十六歳になったばかりなのに女神のようにナイスバデェな親友と、やたらえっちぃエロフ様がここにおられます。目の前に広がるお胸様ファンタジー浪漫を心より感謝いたします。令和~年、平凡な男子高校生代表緒方霞。


「だ~か~ら何で私たちの下着をカスミにあげる事が決定になってるの!?」


 珍しく大きな声を出す楓、すまない……うちのおバカ妹には後で教育的指導をするから許してくれ。


「しかしこの兄妹、仲がいいよね……少し妬ける」


 半笑いでつぶやく前園。仲がいいのは認めるが違うんだこれは……


「ねぇ私は小論文書くの終わったけど、カスミと凛ちゃんはまだ小論文が残ってたよね?」


「うん。そうだね」


「そろそろ続きをやる?」


「いや、残りは家でやる。そこの兄妹のイチャコラを見せつけられた後にすぐに書ける気がしない」


「そうだよね~はぁ」


 楓は深いため息をついた。勉強するのって雰囲気大切だよな、うんうん


 時計はいつの間にか午後五時に迫り、辺りは暗くなり始めていた。早く小論文の続きをやらないと思いつつ俺も前園同様に続きが書ける気がしなかった。


◇◇◇


 時刻はさらに進み、午後九時を回った頃――。


「……というわけで別に何にもなかったからな」


『楓ちゃんもいたし心配してなかったから大丈夫だよ』


「でも前園や天使同盟に関わることは全部報告するって約束だからな」


『緒方君がおりんちゃんのこと本気なら言わなくても良いけど』


「俺が本気でも前園が俺に本気になるとは思えないけどな」


『さてどうだかね』


 電話の相手は宮姫みやひめすず、白花学園高等部一年A組、リナと同じクラスで、白花学園高等部天使同盟の一翼「癒しの天使」、前園と同じく中等部からの内部進学組で前園の親友、いつも前園のことを気にかけている。


 俺と宮姫との付き合いは楓たちとは根本的に違う。誰にも言えない秘密を共有し協定を結んでいる。そして目的達成のため必要以上に互いへの干渉や馴れ合いは行わない。


「前園との関係が変わるとしたら、まずはお前に相談するよ、すーちゃん」


『了解とだけ言っておくね~今度は私を……私たちを裏切らないでね、かーくん』


 俺たちはふたりの時だけ、昔の呼び方を使う。


「大丈夫、必ず約束は果たすから」


『無理はしないで……ところでさくらちゃんに連絡した? さっきRIMEで誰かさんから連絡がないってすごく怒ってたんだけど……』


「あっ!」


『私に連絡する前にさくらちゃんが先でしょ、もういいから早く連絡して、おやすみなさい、かーくん』


「おやすみすーちゃん」


 通話をオフにする。同時にRIMEに山のようにメッセージが届いている気づいた。嫌な予感を感じつつ俺はメッセージページを開く。


 さくら『わたしに黙って家に女を連れ込むなんて上等だわ』


 さくら『浮気絶対ダメ』


 さくら『返事がないわね、ではあなたに伝わりやすい言葉で』


 さくら『異世界転生→させない』


 さくら『タイムリープ→させない』

 

 さくら『婚約破棄→させない』


 さくら『ざまぁ→させない』


 さくら『TS→させない』


 さくら『VRMMO→させない』


 さくら『わたし以外のグットエンド→させない』


 さくら『ずっとずっとわたしのターン』


 さくら『ラスボスからは逃げられない』


 さくら『逆らえば徹底的に駆逐する』


 さくら『覚悟して』


 さくら『好き』


 さくら『大好き』

 

 さくら『愛してる』


 さくら『好き』


 さくら『大好き』


 さくら『愛してる』


 さくら『好き』


 さくら『大好き』


 さくら『愛してる』


 さくら『好き』


 さくら『大好き』


 さくら『愛してる』



(以下同様の内容三百件、怖いので割愛)



 さくら『わたしだけ見てマイ・ダーリン♡』


 さくら『じゃないと』

 




 さくら『ヤる♡』





 ぎゃぁぁぁぁぁぁあ――! 怖いよ~怖すぎるよ! さくらたん!


 『好き』『大好き』『愛してる』を「good」「better」「best」にみたいに連呼して使うの止めて~!


 かわいいを通り越して狂気と絶望と地獄の「魔の三段活用」になってるから~! 


 あ、わかった。これヤンデレってやつ? 俺もう回避不可の死亡フラグ立ってない?


 さくらたんに明日撲殺される? 違う、違うから! やましい事なんてなかったからね!


 脱ぎたてパンツとブラは結局貰ってないから~! 


 浮気してないよ。そんな気にも……多分だけどなってないから~!


 どうしたら信じてくれる? 今すぐ家に行って土下座すればいい!?


 いや待て……もう夜も遅いし、さくらたんの家は厳重警備だから通報されてしまう、タイ~ホされちゃう。


 でもさくらたんにぶち殺されるくらいなら逮捕されて塀の中にいた方が俺の身は安全じゃないか? 初日は昔気質むかしかたぎな刑事さんがたくあんと味噌汁付きのかつ丼を出前でとってくれるかもしれないし?


 それに明日の妹の弁当どうする? ひもじい思いをさせたらリナが不憫だよな……うーんよし、ここは潔くさくらたんに電話して真意を伝えよう。


「もしもし、さくら? 俺だけど……うんうん……遅くなってごめん、とりあえず一言だけ


 

 愛してるよマイ・ハニー」



 白花学園高等部一年A組、天使同盟の一翼『櫻花の天使』赤城あかぎさくら、一年生最後の天使同盟メンバーであり『鮮血の死だれ桜』『ミス・BADエンド』などの異名も合わせ持つ白花学園史上最強にして最悪の天使。


 ――そして俺のフィアンセでもある。

お越しいただき誠にありがとうございます。


こちらの作品は長編版もございます。お時間がございましたらよろしくお願いいたします。


【連載版】優しいだけの嘘つき達は今日もラブコメを演じる

  https://ncode.syosetu.com/n9973ik/


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― 新着の感想 ―
[良い点] 良き安全パイ。 [気になる点] 男の子の主人公が結婚すれば、落ち着きそうな感じはありますけどね。 [一言] 五人目のヒロインの出会いがどんなだったか知りたいですね。
[一言]  五人を囲うハーレムかと思いきや、居合わせたのは3人のみで、そしてあのオチ。  本妻がちゃんといたのですね。  いろいろ気になります。  私も、続編希望!  推しキャラは、それまで保留で(…
[良い点] 主人公からすれば悩みの一つであり、周りからすれば「羨ましい」という感情を隠しきれない「何人もの美少女に囲まれた学園生活」をおくる本作は「ラブコメの定番」だと思いつつ、タイトルから興味を引か…
感想一覧
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