ある日の席替え③ 高2(挿絵有り)
ーー ある男子生徒 視点 ーー
「なあ?」
「ん?なんだ?」
「今日、先生が席替えするって言ってたけど、このクラスの席替えってどうやってるんだ?」
始業式の次の日の朝、俺の前の席の男子、江口にそう聞かれた。
というのも、この江口はクラス替えでよそのクラスから我が3組にやって来た数少ない生徒の1人だからだ。
だから気になるのだろう。どんな感じで席替えをするのかと。
俺としても他のクラスがどの様に席替えをしてるのかは、気になる所ではあるけれど、うちのクラス以上には魅力を感じないから実際の所はどうでもよかったりする。
今回のクラス替えは、自分としても驚いたものだった。
驚いたといってもこの高校では初のクラス替えであるから、比較するなら中学時代しかないのだけど。
それでもこうも移動が無いものなのかなー?と思ってしまった。
うちらのコースは5クラスあるから移動するならその5クラス内に限るのだが、動いたのは男子のみ。
それもこの江口を入れてほんの数名のみだったんだよ。
女子に至っては全員がそのままであり、これはこれで凄いよなって誰もが思ったよ。
おかげて女子は更に仲良く結束が高まり、鈴宮さんとの百合百合しい光景が見れるというもので、男子全員の意見としてはいい光景が見れる!と喜んでる(笑)
特に諸貫さんが鈴宮さんに抱きつく時なんて、それはそれは他の女子にはない素晴らしい光景となる······。
おっと、話がずれた。席替えの話だったな。
「このクラスは学期ごとに2回席替えをするぞ。3学期は1回だけどな。」
江口に説明をする。
クジを引いてその出た番号の席になること。
引く順番は特になく自由で、駆け引きが大事だという事。
嫌な席になっても、2ヶ月我慢すればまた席替えがあるという事。
あとは···例えば後ろになった女子が前が見えないとかになれば、変わる可能性もあるという事かな?
「それはいいなー。前の1組だった時は学期で1回だったし、場所も男女である程度決まってたからなぁ······。」
江口が嫌そうに思い出してる。
あまりいい思い出がなかったのかな?
「学期で1回ってのは分かるけどさ、場所がある程度決まってるっていうのは?」
「ああ、それな。先生が女子を人数で3〜4グループくらいに分けて予め席表を作るんだよ。で、各列に組み込む訳だけどその列の前にしたら次は後ろとかって言う具合に調整するの。だからあまり面白みがないというか、そんな感じ。あとは······嫌な席に当たると学期中はずっとソコだしなぁ······。」
「なるほどなぁ······。女子は女子である程度固まるから、隣に来る確率も減るのか。それにその嫌な席の問題もな······。」
そういうのを聞くと、高橋先生が言ってた事の意味も理解出来るよな。
うちらのクラスの場合は嫌な席=教卓の前は鈴宮さんが座るし、その周りも勝手に埋まるからこちらとしては被害がかなり減る。
それに約2ヶ月事に席替えをするから、仮に外れの席を引いてもモチベーションは保ちやすい。
うん。
やはり高橋先生は生徒の気持ちが良く分かっていらっしゃる。
「なぁなぁ。当たりってやっぱり後ろだよな?」
「ん?基本はそうじゃね?俺としては廊下側の壁際も好きだけどな。」
この辺りは人によって感覚が違うからなんとも言えないけどね·····。
ただ一般的には江口の言う通り、後ろの席は間違いなく当たりだろう。
特に窓際の後ろなんて誰もが望む席だとは思う。
ただうちのクラスには例外が多数いて、不人気なのに人気の席だという席がある。
それは当然ながら俺も知ってるけど、それは教えない。
実際に見て貰ったほうが面白いからな。
「鈴宮さんって実際はどうなんだ?俺、今まで接点がなかったから良く知らないんだよ。美人だよな〜とは前から思ってたけどよ。」
「鈴宮さん?いい人だよ。見たとおり綺麗で美人だし優しいし面倒見がよくて······俺たち男女全員が鈴宮さんの事好きだぜ。お前も直ぐに虜になるよ、きっとな。」
「そんなにか〜〜。」
「そう。そんなになんだよ。それに勉強もすっごく出来る!教えるのも上手いし、そこは江口も直ぐに実感出来ると思うぞ。そして、このクラスに来れたことを嬉しく感じるのさ!」
少しポカ~ンとした顔をしてるけど、本当に直ぐに実感出来るだろう。
なんたってアレがあるからな。
それを体験してる俺達全員がそう思っているんだから。
そう江口に言いつつ、向こうにいる鈴宮さんを俺は見つめる
。
女子たちに囲まれて楽しそうに談笑してる。
鈴宮さんも笑顔だが、そこにいる女子達全員も笑顔で嬉しそうにしてるんだよな。
何を話してるのかまでは分からないけど、鈴宮さんの近くにいるというだけでも嬉しいみたいだ。
そんな笑顔がまた1年間見れるというのは、いいもんだなと改めて実感する。
それにまた『このはちゃん塾』も恐らく再開してくれると思うし、そう思うと本当に鈴宮さんと一緒になれて良かったと思う。
俺は鈴宮さんにお世話になりっぱなしで、何一つお返し出来てないけれど······。
「良かったな、江口。このクラスは色んな意味で大当たりだぞ?」
「え!?」
今は分からなくても、きっと直ぐに理解出来るはずだ。
このクラスになれて良かったと······。
ーーーーーーーーーー
キーンコーンカーンコーン♪
チャイムが鳴り、暫くして高橋先生がやって来て席替えが始まるようだ。
「新しく来た子も居るから、うちのクラスの席替えの説明を改めてするなー。」
高橋先生の口から改めて席替えのシステムが発表されて、うん、去年と同じだ。良かった良かった。
そして、去年と同じなら鈴宮さんが教卓の前の席を希望する筈。
そしてそんな鈴宮さんの隣近所が俄かに人気らしいのだが、俺にはイマイチ分からん······。
だって教卓の前だぜ?
その隣近所だって教卓の前にはほぼ変わりないのに、何でそこがいいのか意味不明。
鈴宮さんの側だからってのは分かるけど、だけどそれだけで教卓の前がいいと言えるのだろうか??
鈴宮さんの事は俺も好きだけど、さすがにコレだけは他がいい。
後ろか廊下側の壁際な。
だから、暫くは静観する予定だ。
「では始めるが······やっぱり鈴宮は教卓の前か?」
「はい。みんなが良ければそこがいいです。」
「と、言う事だが皆は反対とかあるかな?······ないな。じゃ、そういうことで鈴宮、OKだ。」
「はい。ありがとうございます。」
やはり予想通り、鈴宮さんは教卓の前を希望した。
ありがたや、ありがたや。これで嫌な席が1つ減ってあとは運か······。
先生の言ってた駆け引きで、状況を見極めつつ引くタイミングを見極めないといけない。
出来るなら前のほうが消えたタイミングで引きに行けるのが、1番よい。
「なあなぁ?鈴宮さんっていつもあそこを希望するのか?」
「うん、そうだよ。いつもあそこ。おかげで嫌な席が1つ減るから、後ろとか狙うなら少しだけラッキーだぞ。」
「なるほど···すごいな鈴宮さんは······。」
「そうなんだよ、凄いんだよ鈴宮さんは。まぁ、後は状況を見極めて引きに行かないといけないがな。」
江口に教えてあげる。
鈴宮さんが毎回前を希望すること。その後の重要性を。
そして始まるくじ引き······だったんだか、今回は違った。
「せんせー!」
「何だ?諸貫??」
「私も前がいいですー!このはちゃんの隣で。」
「何ぃぃ!?」
「「「「えぇーー!?」」」」
驚く先生。俺も驚いてる。皆も。
まさかの展開だった!
まさか鈴宮さんと同じく、教卓の前を自ら希望する生徒が出るとは思わなかったんだもん。
それも諸貫さんだぞ?
「えーと···反対はあるかな?······ないからいいぞ。ほんとに良いんだな?そこだって教卓の前だぞ?」
「はい!!大丈夫です!ありがとうございます。」
「じゃあ、諸貫は鈴宮の隣で決定と······。他は?ないよな??」
そう先生が念を押した。
まさかの諸貫さんのお願いで驚いたけど、俺としてはまた1つ嫌な席が消えたので結果オーライなんだけどね。
「先生!俺も前がいいです!」
「私もー!」
「はーい!私も〜〜!」
「·········ちょっ···ちょっと待て、お前等。そんなに前がいいのか??おかしくね??」
うん。先生に激しく同感だ。
それに何だ?!この展開は···。
今までこんな事はなかったぞ?!一体どうなってやがる?
「な···なあ?何だ?この展開は?」
「さあ??俺も初めてで混乱してる······。」
江口の問い掛けにも、それしか答えられん······。
「昨日も思ったが、お前等そんなに鈴宮が好きか···。まぁ、前なら居眠りも出来ないだろうし、授業も集中出来るから別に構わないが······。
えーと、鈴宮と諸貫を除いて前がいい奴は手をあげてみ?」
そう先生が言って挙手をしたのは女子がほぼ全員。男子もそこそこいる。
マジかーー···。
先生もうわぁって顔してるよ。
原因となった鈴宮さんも申し訳なさそうな表情をしてるし。
まぁ、女子が手を上げるのはまだ分かるんだよ。仲が良いからな。
ただ男子がイマイチ分からん。
鈴宮さんを好んでるのは知ってるけど、だからってあの席はないわ。
その後、悩んでる先生に鈴宮さんがアドバイスをして何やら作ってた。
そしてすでに決まった鈴宮さんと諸貫さんの後ろ数席と、鈴宮さんの脇の通路を挟んだ隣の席周辺を急遽特別くじ引きで決めた。
つまり、4つの席限定のくじを作った訳だな。
そしてそれに当たった子は喜び、外れた子は凹むという極端な光景だった······。
ちなみに席は全て女子が持っていった。
つまり鈴宮さんを含めて6人の女子が前に集まってしまったので、他に座る女子が少なくなる。
只でさえ女子の方が人数が少ないというのに······。
そういう所を気にする男子と勿論いるだろうけど、俺には関係ない。
俺としては相当数の前の席が消えたので、これはこれでオーケーなんだけどね。
隣の女子より後ろの席さ!
鈴宮さんは先程から先生に「すみません、すみません」と謝ってるし、高橋先生もそんな鈴宮さんをなだめつつ、「次回は鈴宮周りも特別クジを用意しないとだな······。」なんて言ってたよ。
「スゲーな、鈴宮さん人気。そんで面白いな、このクラス(笑)」
「だろ?今回は俺もビックリだけどよ(笑) まぁでも、本当に鈴宮さんが居るから明るいし男女隔たりなくみんな仲良しだから、いいクラスだと思うよ。良かったな、江口。3組になれて。」
「ああ。まだ2日目だけど、そう感じるよ。」
皆を惹きつける謎の魅力を持つ鈴宮このはさん。
そんな彼女とまた1年間、共に過ごせる幸運に感謝する俺だった。
 




