ある日の春休み② 高2(挿絵有り)
『春』
名前からすると凄くいい響きでいい季節だよね。
かくいう私もこの季節はとっても大好き。
気温が暖かくて丁度いいのがあるのもその理由の1つ。
また、私の住んでる家の地域は比較的雑木林が多いから、木々から出てくる新緑のあの色合いが好きなんだ。
薄い黄緑色の葉っぱ。
田んぼに植えてある小麦の苗の緑。そして温かさ。
すべてが私をハッピーにさせてくれる。
あとは私の誕生日があるけれど······今年は完全に私の黒歴史になった。
恥ずかし過ぎるので、もう思い出すのも凄く嫌。
起きたら雪ちゃんは隣にいないわ、私は裸で寝てたで記憶にないわで······。
お母さんに聞いてみたら、お酒を飲んだ後に私が暑いとかって言って脱ぎだしたんだってさ。
なにそれ?全然記憶にないんですけど!?
それなんでお母さんと葵で私を部屋に運んで寝かせたとか。
で、雪ちゃんは葵と一緒に寝てるらしい。
ほんと、最悪な誕生日になったよ······。
初めから誓ってはいたけれど、もう絶っっ体にお酒は飲まないよ!!って改めて誓ったよね!
さてさて、そんな出来事のあった先日ではあるけれど、窓を開けて網戸にしとけば心地よい風が入っていて気持ちいいし、外は桜や菜の花が満開。
もう4月だから桜は散って葉桜になってはいるけれど。
そんな今は春休みの真っ只中。とは言ってもあと3日程だけどね。
そんな残り僅かな春休みの中、私は部屋で勉強中。
勉強中とは言っても課題じゃないよ?課題は3月中に終わらせたから。
課題は休みの後半に纏めてやるっていう子もいるみたいだけど、私は前半、正確に言うと出た瞬間から取り掛かってさっさと終わらせるタイプなんだ。
で、終わったあとはずっと遊ぶとかではなくキチンと自主勉強をしてよ。
只ね、今年の春休みの課題自体は私としては難しくなかったんだけど、量が半端なかったの。
プリントや問題集なんかを沢山出されてさ、それらを消化するだけでそこそこの時間が取られちゃった。
雪ちゃんが特別保育に行ってる間や寝たあと、時にはリビングで一緒にいる時とかにやって消化はしたんだけどね。
そんな感じで課題を早めに終わらせて、後はいつもの英語の勉強です。
先生からも問題集とか色々と頂いたりしたからね。
そういうのも含めて机に向かってコツコツ、コツコツと。
ひたすら地味な作業の繰り返しだけど、やっぱり私は勉強するの好きだな〜と改めて思う。
分からなかった事が理解出来る様になる嬉しさや喜びといった充実感が、また頑張ろう!ってさせてくれるし。
それで知識が増えると、また次を知りたいなって気分にさせてくれるんだよね。
だからついつい夢中になっちゃうよ。
どのくらい集中してたのか分からないけど部屋の外、階段が賑やかになって来た。
どうやら出掛けてた葵が帰って来たみたい。
でも、それにしてはやけに賑やかだけど······友達でも連れてきたかな?
「お姉ちゃん、ちょっといいかな?」
程なくして私の部屋の扉をコンコンとノックされて、葵が扉から顔を覗かせた。
「どうしたの?お友達連れてきたんでしょ?」
「あ、分かる?千紗と夏美が来てるんだけど、その···うるさくしたらゴメンね。」
「あぁ······大丈夫だよ。意外とこっちまでは響かないから。私の事は気にしないで楽しく遊んでなね。」
「うん!ありがとー。」
そう言って葵は自分の部屋へ戻って行きました。
わざわざ律儀に報告までしてくれて。別にそこまでしなくても、私は気にしないのに······。
そして先程も言った通り、2階も意外と音が響かないんだよね。
階段から上がってきて廊下を挟んで私と雪ちゃんの部屋と葵の部屋とがある。
廊下という空間を挟んでるから、音が響き難かったりしてるみたいのんだ。
これが壁1つを挟んでくっついてる間取りの部屋なら、響いたり聞こえたりしたかもしれないけどね。
ちなみに2階はトイレとは別に、あと2部屋あるの。
その内の1部屋はいずれ私が引っ越しする予定ではあるんだけどね。
雪ちゃんが大きくなればいつまでも同じ部屋とはいかなくなるし、遅くても中学に入る前には分けないといけないなって考えてる。
2階で1番広いこの部屋を雪ちゃんに譲って。
まだかなり先のようで意外と早いんだよね、コレが······。
カリカリカリ···
カリカリカリカリ····
響かないとは言ったものの、意外と······いや、かなり静かだね?
葵の事だから、そこそこの話し声とかすると思ってたけど。
ま、これはこれで嬉しいけどね。
私の方も捗るし。
コンコン♪
「いいよ〜。」
扉がノックされた。
まぁこの場合、来るのは葵しかいないんたけど。
「あのさ······お姉ちゃん、今、暇···じゃないよね?」
「暇かと聞かれれば暇ではないけど、どうしたの?」
何となく何を伝えたいのか想像は出来るんたけど、あえて聞いてみます。
「そのね···みんなと宿題を片付けてるんだけど、分からなくってさ。お姉ちゃんが分かるようなら教えて欲しいなって思って······。」
「······まぁ、いいよ。見てあげる。」
「ほんと!? ありがとーお姉ちゃん!」
ビンゴ!だった。
やたら静かだったのと葵の性格から多分そうかな?と当たりはつけてたからね。
私は昔から夏休みとか長期の休みの宿題は早々に片付ける派なんだけど、葵は序盤と終盤にやるタイプなんだよね。
序盤にやるのだからそのまま片付けてしまえばいいのにと思うんだけど、本人曰く集中力が切れて力尽きるのだそうです。
で、中休みを挟んで終わり際に残りを片付けると。
さすがに最終日の夜中まで課題をやるとかのレベルではないのが、せめてもの救いだけど。
「お姉ちゃん連れてきたよ〜〜。」
「「おぉーー♪」」
葵に連れられて部屋の中に足を踏み入れれば、歓喜の声で出迎えられた。
葵の部屋は真ん中にラグが敷いてあって、そこに置かれたテーブルを利用して勉強会をやってるみたい。
そしてそこにいるのは当然ながら女の子で、2人いた。
あれ?この子達、以前に見たことある子だね。
「いらっしゃい。いつも葵と仲良くしてくれてありがとうね。」
「「お邪魔してます。」」
「もう〜お姉ちゃんったら〜······。」
「いいじゃないの、葵〜。優しいお姉様で···羨ましいよ。」
「そうそう。あ、お姉さん今日は済みません。私達の為にわざわざ来てもらっちゃって····。それとお久しぶりです。文化祭以来ですね。」
「そうだね、お久ぶり。元気だったかな?それと気にしなくて大丈夫だよ。それで早速だけど、何が分からないのかな?」
「えっと〜これなんですけど······。」
部屋に入って挨拶をしたら、途端に賑やかになったよ。
葵は葵で何か照れてるんだか私に何か言いたそうにしてて、それを千紗ちゃんと夏美ちゃんだったかな?が、葵を構ってる構図。
この子達は見たことあるなーつて思ってたら、文化祭の時に葵と一緒にうちのクラスに来てくれて女の子達だと気がついたよ。
それに見た感じ文化祭の時と同じ様に、仲が良さげでお姉ちゃんとしては安心だよ。
そして早速、取り掛かる事にします。
宿題がどのくらい残ってるのか分からないし、時間も限られてるからね。
で、聞いてみたところ分からないのは数学と英語と社会系か。
学校が違うから使ってる教科書も勿論違うんだけど、なんとかなるかなとは思ってる。
社会系は調べれば答えが分かるし、英語は······どこで躓いてるかにもよるかな?
数学は学校や教科書が違っても高1でやる範囲は大体が決まってるし、まぁそれでも通ってる学校のコースなんかで何処まで深く学ぶかは違いはあるけれど。
なので、数学は取り敢えずこの場しのぎで解き方を教えて解いてもらう事にしようかなと思う。
3人共がそれぞれの所で躓いてるんだけど、それぞれ教えて解いて貰って先ずは宿題を終わらせる。
覚える云々はまたその後、時間や本人たちのやる気を見てからでいいかな?
兎に角今は今は、課題を終わらせる事を最優先にしないとだからね。
ーーーーーーーーーー
「「「終わった〜〜〜!」」」
そう言うなり葵は床に倒れて手足を広げ、お友達2人はテーブルに突っ伏した。
「お疲れ様。今飲み物持って来てあげるから待っててね。冷たいのがいいかな?」
「ありがとう〜お姉ちゃん。冷たいのでいいよ。」
「ありがとうございます。私達も同じでよいです。」
さて何があったかな?
階段を降りてキッチンへと向かいます。
まだ暑いわけでもないからそんなに冷たい系はストックしてないんだけど、あるもの見繕って好きに飲んで貰えばいっか?
いくつかのジュース系をお盆にのせて、あとはコップに氷を入れて持ってけばOKと。
「はい、どうぞ。お好きに入れて飲んでね。」
「「「頂きま〜す。」」」
テーブルにコップとジュースを置き、好きに飲んでもらいます。
一息ついた頃。
「お姉ちゃんって教えるの上手?」
と、葵に言われた。
「私もそう感じたよ〜。」
「私もー」
千紗ちゃんと夏美ちゃんにも同様に。
「んー···上手かどうかと言われると良くわからないけど······。」
と、3人に私がお昼休みや自習の時間ができた時にクラス内でやってる事を教えてあげました。
「「凄い···。」」
「お姉ちゃん、それもう先生じゃん。塾の先生とか家庭教師の先生とかそんな感じで。」
「あ〜〜、確かにそう言われるとそう言うのに近いかもね。でもやってて楽しいよ。現にみんなの成績も上がってるみたいだし、私が言うのうもあれだけど、評判もいいみたいだから。」
葵に言われたように、確かに私のやってる事は塾の先生みたいな所があるのは自覚してる。
意識的には友達に勉強を教えてあげてるっていうのだけど、結果的にはみんなもやる気を出してるし成績も上がってる。
今回の学年末テストも数学については、みんなかなりいい点数を取れたみたいだしね。
「いいなぁ〜···、私もお姉様に教えてもらいたい······。いいよね、葵は。こんな素敵なお姉様なら勉強なんて教えて貰い放題じゃない?」
「分かる分かる。今日お姉さんに教えてもらったの不思議とスッと入ってきたんだよね。それで頑張ってけば成績も上がるか···。羨ましいよねぇ。」
千紗ちゃんと夏美ちゃんが羨ましそうに言ってる。
特に千紗ちゃんは私の事、『お姉様』なんて呼んでるし。茜ちゃんタイプかしら?
「私って実は家でお姉ちゃんと勉強の話とか、殆どしたことないんだよね·······。」
「えー!?マジ??勿体ない······。」
「うん。今思うと本当に勿体ないよね。前々から教わってれば、こんなに苦労しなかったかも······。けどさ、お姉ちゃんってもしかして凄く勉強できるの??」
「まぁ努力はしてるよ?理由は葵も知ってる通りだけどさ。」
「あ〜〜····雪ちゃんの為か。さすがお姉ちゃん。···ちなみにどれくらい?そういえば、部屋に呼びに行った時も勉強してたよね?」
「んー···。一応、基本教科は学年トップだよ。それとさっきまでやってたのは英語の勉強ね。」
「凄い······。」
「マジか〜〜···。」
「素敵過ぎます♡」
三者三様の反応を見せてくれるけど、切っ掛けは最初に誓った『雪ちゃんの為』だからね。
それに今でこそ高校に通ってるけど、元々は高校に行くつもりはなかったんだよね。
『高等学校卒業程度認定試験』という試験を受けるつもりでいたから。
それに合格すれば高卒の認定はとれるし、同時に大学の受験資格も貰えるから。
そんなこんなで話し込んでたら、もう雪ちゃんを迎えに行く時間だね。
「葵〜。私そろそろ雪ちゃんを迎えに行ってくるね。千紗ちゃに夏美ちゃん?どういう風に来たか知らないけど、もう少し待っててくれれば帰り送って行ってあげるからね?」
「「ありがとうございます〜。」」
「じゃ、行ってきます。ごゆっくりね〜。」
ーーーーーーーーーー
「じゃ、行ってきます。ごゆっくりね〜。」
そう言ってお姉ちゃんは雪ちゃんをお迎えに行ってしまいました。
「ねぇ······葵?」
「何?千紗···??」
さっきからちょっと千紗の様子が変だったよね······。
この子、妙にお姉ちゃんに惚れ込んでるっぽいし。
「······お姉様、私に頂戴!!」
「「えっ!?」」
「お姿が素敵なのは言うまでもないのに、性格まで素敵って何よ?!その上、勉強まで出来るって······。パーフェクトじゃない!!」
「いや、私も今さっき勉強も凄いって知ったトコだけどさ······。」
千紗がお姉ちゃんの虜になってるよ······。
文化祭で会った直後からそれっぽい所があったのに、今日の勉強のやり取りで更に拍車が掛かったみたい。
お姉ちゃん、謎の魅力が溢れてるからなぁ······。
私も虜の1人だけどさ(笑)
「あーあ···。あんなお姉様、マジで欲しいな〜。葵が羨ましいよ。」
「それ、分かる〜。私だって欲しいよ。」
「もぅ···千紗に夏美まで······。否定はしないけどさ。」
見た目も美しいけど、性格だってとても優しくて怒ったとこなんてほぼ見たことない。
余程悪い事をしない限りはね。
料理も上手で美味しいし、家事も勉強も出来て自慢のお姉ちゃんではあるけれど、私としては雪ちゃんの方が凄く羨ましいと感じる。
あんなに若くて綺麗で優しいお母さんって最高じゃないない!ってね。
だって、高校生になっても30歳位のママだよ?
一緒に歩いててもお姉さんで通るレベルの歳だし。
それがママって、本当に羨ましいよ。
それにこの間あった、酔っぱらい事件。
相変わらず綺麗で美しかったなぁと、思い出すだけで顔がニヤける。
最近は1人で入ってるのが多いし、たまには姉妹で一緒にお風呂ってのもいいよね?
お湯だって節約できるし、誘ってみようかな??
「ねぇねぇ??今度さ、葵の家に泊まりで遊ぶってどうよ?ね??」
「それだったら私も来ようかなー?」
『一緒に春休みの課題を片付けよう』作戦。
作戦は無事完遂されたけど、別の問題が発生しちゃった模様です。
原因は勿論お姉ちゃんなんだけどね。
さてさて、どうしたものかな?
悩むね······。




