ある日の誕生日 高2(挿絵有り)
「「ハッピバースデー·トゥー·ユー♪」」
お母さんと葵がバースディソングをノリノリで歌ってる。
雪ちゃんも全部じゃないけど、分かる範囲で歌ってくれてる。
そして私はというと······
「や〜め〜て〜〜······恥ずかい···」
両手で顔を覆ってぷるぷると震えてるの。
きっと鏡で見たら私の顔は真っ赤になってるのは間違いないと思う。その位、恥ずかしいから。
そして、小さな声で呟くのが精一杯でもある。
羞恥心に襲われている私だけれども、その耳は塞がない。
だってそれは、雪ちゃんが歌ってくれてるのから。
全部を歌えてる訳ではないけれど、分かる範囲で一生懸命に歌ってくれてる姿は、ママとして正直に嬉しいから。
嬉しいけど、でも······。
「「ハッピバースデー·ディア·このは〜♪ハッピバースデー·トゥー·ユー」」
パチパチパチ······
「お姉ちゃん誕生日おめでとー♪」
「ままぁー、おめでと〜」
「「このは、おめでとう!」」
「はぁはぁ······みんな、ありがとうね。嬉しいよ······。」
「どうしたの?お姉ちゃん??そんな、息も絶え絶えで(笑)」
「まま?」
葵がわかってる癖に面白いものを見たかの様な口ぶりで問い掛けてくる。
そして雪ちゃんは、ちょっと不思議そうで心配してくれてるっぽい感じかな?
「恥ずかしかったんだよ!もぅ〜〜、あれほど止めてって言ったのにー······。」
「あはははは!まぁいいじゃん!年に1回しかないんだからさ。」
「『あはははは』、じゃないよ···もう······。まぁでも、ありがと。嬉しいよ。」
感謝を伝えます。
恥ずかしいのはあったけど、祝ってくれたのは嬉しかったからね。
そんな誕生日ソングが終わって、後はみんなでご飯を食べ始めます。
今日は4月3日。私の誕生日です。
10代が終わりとうとう20歳になりました。
とはいっても、急に何かが変わることもないんだけどね。
聞く話だと、それぞれの年代の終わりは何か特別に感じるとかって聞いたりはしたけど、私にはそれがない。
10代が終わる〜とかアラサーになる(泣)っていう悲壮感的なのがね。
私自身が歳とかをあまり気にしてないのもあるし、それよりも雪ちゃんの成長の方を重視してるっていうのが1番なのかもしれないけど。
それにさっきも思ったけど、20歳になったからって急に身の回りで変わることがない。
法改正で18歳で成人になってるし、車だって運転してる。
強いて言えばタバコとお酒が出来るようになったくらいかな?
それでもタバコやお酒は吸ったり飲んだりするつもりはないんだけどね。
だって身体に悪いじゃない。
それにそっちにお金を使うなら、雪ちゃんにあれこれ買ってあげたりする方が余っ程いいもの。
だから、特別に何か変わる訳でもない。
唯一つ歳をとっただけ。それだけ。
そう思ってる私は冷めてるのかな······?
でも、今夜は別。特別。
今夜だけは少しだけど飲んでもいいかな?とは思ってるの。
それはお父さんと飲むため。
直接お父さんからは聞いたことはないけど、お酒を飲むお父さんって子供と飲みたいって思ってるとかって聞いたことがあるから。
うちのお父さんがそう思ってるかは分からないけど、お酌すると凄く喜ぶからこれも多分喜ぶんじゃないかなーとは思う。
だから、今夜だけは一緒に飲んであげようと思ってる。
これが最初で最後のお酒になるからね。
「はいは〜い。ケーキもあるわよ〜。葵、ちょっとテーブル開けて?」
「はーい」
お母さんが持ってきたのは、定番の苺のホールケーキ。
おまけにロウソクも数本付いてるという仕様で。
これもやるのか·····と、思った。
せめてもの救いはロウソクが20本もなかった事かな?
まぁ、20本も刺すスペースがあるのかっていう問題もあるけれど、そもそも20本もロウソクが刺さってるケーキがあったら、それはそれで引くよ。
「はい。このは。吹き消してね。」
お母さんがロウソクに火を付けて、そんなことを言ってくる。
「お母さん、もうさすがにこれは止めて······。気持ちは嬉しいけど、20歳になってこれは拷問だよ······。」
「分かったわよ。このはがそんなに嫌なら今回で終りにしてあげるから、そんなに捻くれないで······。」
「このはがそんな態度を見せるなんて珍しいな···。余程嫌か······。」
「恥ずかしいんだよー。だったら、お父さんやお母さんの時もロウソクを立ててあげようか?」
「う······。確かにこの歳でそれはキツイな······。」
「言われればそうよねー······。」
あえて言葉に出して言ってみた。
お父さん達の時に私がロウソク付きのケーキを出して来たらどう思うのか。
恥ずかしいよね?
ケーキを用意してくれるのはいいんだよ。
それは普通だし、私もお父さんやお母さん、葵の時もケーキは用意するからね。
たけど先程の歌とかロウソクとかは、いくらなんでも勘弁して。恥ずかしいよ······。
小さい時は良かったんだよ。
純粋に嬉しかったし楽しかった。
だけどいつからか恥しくなって、楽しめなくなっちゃったんだよね。
祝ってくれる気持ちは凄く嬉しいんだけどさ。
せめて、せめてあの歌とロウソクだけ止めてくれればまだマシなんだけど······。
「ままー。 雪がロウソク消していーい?」
「雪ちゃんが?うん、いいよ。消しちゃって!」
「わーーい♪フゥ~〜···」
雪ちゃんが息を吹きかけてロウソクの火が消えました。
「やったー!きえたー!」
と喜ぶ雪ちゃんと「あ〜あ·····」と殘念がるお母さん。
孫が喜んでるならいいじゃない?とお母さんに言いたくなるけど、そこはあえて言わないでおく。
そして、ナイスタイミング!雪ちゃん!!
まさか雪ちゃんが消してくれるとは思ってもいなかったから、これには私も大満足です。
「雪ちゃん?もう1回やる?」
「いいの!?」
「うん。いいよ。ママの代わりに沢山楽しんで。」
雪ちゃんにもう一度やる?って確認をしてみたら、やるって。
子供ってこういうの好きだよねーって思う。
まぁ、私も小さい頃は好きだったけどね。
そんな雪ちゃんのお陰で、私も助かったんだけどね。
ありがと、雪ちゃん。
家族で楽しくご飯を食べて、あとはデザートのケーキを残すのみとなりました。
お母さんがケーキを切り分ける為にキッチンに行き、私はお父さんにお酒の準備です。
「お父さんはビールでいいの?」
「ああ。」
冷蔵庫から冷えたビールをとりだします。
お父さんはいつもビールか日本酒。
お父さんや他の飲む人も美味しそうにお酒を飲んでるけど、そんなに美味しいものなのだろうか?といつも疑問には思ってたんだ。
それが今日これから分かるんだけどね。
「はい、お父さん。」
トンっとお父さんの前にビールをおきます。
私もお父さんの正面に座って、同じくお酒を置く。ビールではないけど。
「おお、ありがとな。···あれ?このはも飲むのか?」
「お姉ちゃん飲むの??」
お父さんと気付いた葵が聞いてくる。
「うん。一応今日から飲めるしね。でも、今日のが最初で最後だよ。私、そんなにお酒飲みたいって思わないし、身体にも悪いから。」
「う······」
ちょっとお父さんがショックを受けてたけど仕方ないよ。
実際にはお酒で身体を壊す人もいれば、酔っ払って周りに迷惑をかけたりする人もいるからね。
お父さんはそういうのはないけれど、それでも今後の事は分からないからね。
だから、飲まないで済むのなら私はそれでいい。
その後お母さんが切り分けたケーキを持ってきてくれて、乾杯です。
「お父さんどう?美味しい?」
「ああ、美味しいよ。お酌してもらうのもいいが、こう一緒に飲むのもいいな。」
「そっか。それは良かったよ。」
お父さんにビールを注いであげて、感想を聞く。
その後に私も飲み始めます。
私が選んだのはビールではなく、フルーツが書かれたお酒。
アルコール度数が少なくてジュース感覚で飲めるかな?と思ったから。
「お姉ちゃん、どう?」
葵が聞いてくる。
「ん〜~···味?はジュースっぽくは感じるんだけど、やっぱり何か違うね。表現が上手く言えないんだけどさ······。」
「そうなんだ·····。」
「まぁ、無理して飲むものでもないさ。こういうのは徐々に慣れてくもんだからな。」
そう言いながら、ビール片手にケーキを食べるお父さん。
その組み合わせどうなの?美味しいの?って思わなくもないけど、私も同じ組み合わせだからなぁ······。
そしてこのお酒。
ちょっと薄いジュースっぽさはあるんだけど、それ以前にちょい変な感じがする。
コレがアルコール成分のせいなのかは分からないけど、やっぱりあまり好きには慣れそうにはない···かな。
暫くして2缶目を開けたお父さん。
普段は1缶なのにと思ったけど、お母さんが今夜は多めにみてくれたのかな?優しいよね。
そして美味しそうに飲んでる······。
ヒョイっとお父さんのビールを奪ってゴクゴクゴク···。
「「「あっ···」」」
「うえぇぇ〜〜···不味い···。」
お口直しとばかりにケーキと酎ハイを口にいれます。
「お姉ちゃん大丈夫?? 何で飲んだのさ?」
「いや〜、どうせ最後だからあんなに美味しく飲んでるビールがどんな味かなと思って飲んでみた。だけどビール凄く苦いよ。よく美味しい美味しいって飲めるね?」
「さっきも言ったろ?徐々に慣れるものだって。父さんは日本酒も好きだけど、あれはもっと好みが別れるぞ。」
「そうなんだ···。まぁ、私は紅茶かコーヒーでいいや······」
結論。
お酒は美味しくない。
お父さんの言う様に慣れの問題なのかもしれないけど、私にはコーヒーか紅茶で合ってる。
そう、感じて私の誕生日は過ぎていくのでした。
ーー葵 視点ーー
「······」
「······」
「······」
「まさか、このはがねぇ·····」
「ああ······」
「びっくりしたよ···。まさかお姉ちゃんが脱ぎ始めるとは思わなかった······。」
お父さんとお母さん。それに私。
3人で先程のお姉ちゃんの様子を振り返って、そんな感想を述べてる。
娘の雪ちゃんは私の隣で録画したアニメを見てるけどね。
お姉ちゃん······。
お父さんのビールを飲んだあの後が大変だったんだ。
とにかくビールが苦い不味いで口直しとばかりにケーキを食べ、酎ハイも勿体ないからって全部飲んだまでは良かった。
いや、そもそもそれがいけなかった。
普段の食事なら勿体ないからって綺麗に食べるのは良い事なんだけど、今回ばかりはね。
なんたって、お酒だから。
お酒も勿体ないからって全部飲んで、その後暫くしていきなり「暑い」とかって言い出して服を脱ぎだしたんだよね。
私達は目が点だよ!
だっていきなり脱ぎ出すんだよ!?あの真面目なお姉ちゃんが!!
あれよあれよと上着を脱いで、そのあとブラまで脱ごうとするから慌てて止めに入って、お母さんと協力してお姉ちゃんの部屋まで連れて行ったの。
結局最終的には全裸になったお姉ちゃん······。
服のままだとあれだから、パジャマを着せようとしたけど着せる度に「暑い」って言って脱ぐし。
私達も諦めて、そのままお母さんが寝かしつけてくれた。
普段しっかりしたお姉ちゃんだけに、あの姿、あの行動が信じられないよ。
お酒って怖いんだなーって、改めて実感したよ······。
ただ良いこともあった。
それは久しぶりにお姉ちゃんの裸を見れた事。
最近は一緒にお風呂も入ってなかったから、見れたのはちょっぴり嬉しくもあった。
それに普段は色白のお姉ちゃんだけど、お酒で血色が良くなったお姉ちゃんの身体は普段よりも色っぽくて綺麗だった。
「とりあえず寝かせたけど、もうこのはにお酒は駄目ね。」
「だな。あれを外でやられたらと思うとゾッとするよ。襲ってくれっていってるようなものだしな······。」
3人でうんうんと頷きながらお姉ちゃんについて話し合ってます。
「幸い本人は今日で最後って言ったからもう飲まんとは思うけど、念のため明日起きたら伝えといてくれ。恥ずかしいだろうけど、そこは我慢してもらってさ。」
「そうね。そうするわ。」
「ねえ?お父さん。お姉ちゃんが飲んだ量って、ああもなるもんなの?」
テレビでベロンベロンの酔っぱらいの人の映像とかは見たことあるけど、そういう人は大概結構飲むって見聞きした。
勿論そこにはお酒に強い弱いの個人差があるだろうけど、それでもお姉ちゃんの飲んだ量は特別に多いとは思えないんだよね。
「いや〜···、あれは本当に大した量でも度数でもないし、あれくらいでああなると弱いってもんじゃないな······。」
「そうね···。となると、やっぱりあの身体の体質の関係かしら?すると先生案件ね。」
なるほど······。
やはり量は大した事ない。
するとやはりお姉ちゃんの身体の問題かもしれないから、後日病院の先生に報告ねって事で落ち着きました。
お姉ちゃんが片付けば後は······。
「ねぇ、雪ちゃん? ママは今日調子悪いみたいだから、お姉ちゃんと一緒に寝ない?」
「葵ねーねと?···うん、いいよ〜。」
「おお!やったーー!!」
「あ!しまった······。」
ムフフフ······。
やった!やったよ!と私の心の中は狂喜乱舞だよ。
ここ最近は雪ちゃんと一緒に寝るという事がなかったからね。
春になって昼間はだいぶ暖かくなってきたけど、夜はまだまだ冷え込んだりするからさ。
そういう日は雪ちゃんと寝ると、とっても暖かくて気持ちいいんだよね。
それに寝顔もとってもかわいいし、癒やされるんだよね。
これを独占してるお姉ちゃんは正直言って羨ましい。
母親はお姉ちゃんだから、当たり前といばそうなんだけどさ。
偶には私の所で一緒に寝て〜って、せつに思う。
「雪ちゃん、ついでだからお姉ちゃんと一緒にお風呂入ろっか?」
「うん!」
ちょっとしたパプニングもあったけど、結果オーライだよ!
二度と見れないであろうお姉ちゃんの初酔っぱらい姿を見れたし、久しぶりに裸も見れた。
そのお姉ちゃんは相変わらず美しく魅力的だった。
私もコツを聞いて運動したり、朝晩は同じ物を食べたりはしてるんだけど、お姉ちゃんの域まではなかなか届かないし······。
ま、なにはともあれ
お姉ちゃん。お誕生日おめでとう!!!
◆◆◆◆◆◆ おまけイラスト ◆◆◆◆◆◆




