ある日の春休み①-5 高1(挿絵有り)
『もしもし〜。このはちゃん、今大丈夫かなー?』
「はい、大丈夫ですよ。この間は大変お世話になりました。」
スマホを片手に頭をペコペコとする私。
何故だかは分からないけど電話越しでお礼をする時とか謝る時って、眼の前に相手がいないのに頭を下げたりするのって何でだろうね?って思う。
多分普段の会話の中でそういう時って頭を下げたりするから、その習慣なのかな?って思ったりもするけど、端から見ると変な光景だよね、きっと。
で、今、電話がかかって来た相手は栗田さん。
隣町でスタジオ栗田という写真スタジオを経営してる方です。
業務内容は個人撮影や各イベント事の撮影(七五三や成人式等)、企業からの依頼撮影、ファッション系のモデル撮影等など幅広く展開してるの。
私はというと、学校側からポスター撮影を頼まれてそこで栗田さんと知り合ったんだ。
その時のカメラマンさんが栗田さんって訳で。
で、その時の流れからモデルさんをやってみない?と誘われて、いくつかの条件をつけてそれでもよければって事で受けることにしたんだ。
つい先日1回目の撮影があって、当初は夏物の新作の服の撮影だったんだけど、それが向こう側の都合で急遽変更になったんだよね。
その変更先がまさかのウエディングドレスという、これまた驚きを通り越した物だったよ。
「で、どうしたんですか?······もしかして??」
『そ。このはちゃんに頼まれてたのが出来上がったから、そのお知らせね。取りに来れるかしら??』
「はい!大丈夫です。では今から伺いますね。」
『OK!お店で待ってるね!』
こうしちゃいられない!
私は勉強してた手を止めて、机の荷物はそのままに出掛けることにしました。
まぁまた帰ってくれば勉強の続きをするから、ノートを閉じて置くだけで大丈夫だしね。
それに幸いなことに雪ちゃんは特別保育でお願いしてある日だから心配ないし、時間もまだまだ平気。
バッグを取り出してお財布の中身も確認して、いざ出発!
はやる気持ちを抑えながら、車を運転する私。
ここで焦って事故でもしたら大変だからねって思ってはいるけれど、電話が終わった後の私は思い返しても酷かった。
机の上の物だって閉じはしたものの出しっぱなしだし、普段の私からしたららしくないなーって思う。
まー、そのくらい楽しみっていうのがあるんだけどね。
ちりんちりん♪
扉を開けると今どき珍しいそんな音が鳴るの。
なんだか懐かしいよね。
そんな入口から店内へと入ります。
「こんにちは〜〜。」
「このはちゃん、いらっしゃ〜い。待ってたよ♪ささっ、こっちへ。」
声を掛けると早速、栗田さんが出迎えてくれました。
タイミング的にも良かったみたいで、他のお客様の姿も見えないから直ぐに対応をしてもらえたよ。
栗田さんに案内されて、お店の奥へと行きます。
栗田さんのお店兼スタジオはいくつかのエリアに別れてて、出入り口入って直ぐはお会計レジや各写真用品が並べて売られてたり、栗田さんが撮影した写真が飾れてるの。
今も子供たちの七五三写真や成人式の写真などが飾られてる。
ここに今度、私のドレス写真が並ぶらしいです。
奥は打ち合わせ部屋や衣装部屋、スタジオ等に別れてるんだ。
で、案内されたのは打ち合わせ部屋。
ここは家族でも対応出来るようにと、大きなテーブルが用意されてあって広いです。
それに小さな子供が遊べるように、キッズルームがあって玩具や本なんかも置いてあるしね。
これなら小さなお子さんがいるご家庭でも、安心して打ち合わせとか撮影後の諸々のやり取りを出来るなって感じる。
「このはちゃんに頼まれたのはこれね。それぞれ4部づつあるから確認してね。」
「はい。ありがとうございます。」
椅子に座ってそんなに待つことなく、目当ての物を持ってきてくれた。
こうやってパパッと手際よくやってくれるのは凄いなと思うし、またありがたくも感じるよ。
早速中身を確認していく私です。
今回、栗田さんにお願いしたのは先日撮った写真の印刷。
沢山とった中から厳選した写真を各4部お願いしたの。
私用、両親、埼玉と新潟のお爺ちゃん達の計4部でね。
「よく撮れてますね。さすがですね、栗田さん。」
「そんな事ないわよ?モデルさんが良いからここまでの物が撮れたの。誇って良いのよ?このはちゃん。」
栗田さんはそう言ってくれるけど、やはりカメラマンとして上手だからここまでの物が撮れるんだと思うけどな······。
素人の私じゃこうは撮れないもの。
「はい。数と物は大丈夫でした。ありがとうございます、栗田さん。」
「どういたしまして。で、この箱とこっちのこれはサービスするから持って行っていいわよ。遠くの実家とかに送るんでしょ?」
「ありがとうございます。あれ?分かりますか?」
「それはそうよ。伊達に写真屋をやってないもの。こういう写真で多く印刷したりする時は、皆さん実家とかに送るものだしね。」
さすが写真屋さんだなーと思ってしまった。
そして撮影された方は、どなたも同じ様な事をするんだなと思っちゃった。
私も雪ちゃんのお食初めとか七五三とか、撮った写真は向こうのお爺ちゃん家に送ったりもしてるから。
見に来れたりすれば1番いいんだろうけど、距離的になかなかそういう訳にもいかないからね。
その後、写真をそれぞれの箱に分けて入れて袋に入れれば終わりです。
あとはお会計。
「······栗田さん。お会計やたら安くありません?」
絶対に安いよ、コレ。
私は以前に雪ちゃん撮影でア◯スを使ってたから、それと比べるとやたら安い。
別にア◯スが高いとかそういう訳でもなく、本当に純粋にね。
「大丈夫よ、心配しないでこのはちゃん。実はね、この前の撮影の時にクライアントさんが途中から見学に来ててね。このはちゃんの写真をすっっっごく気に入ってくれたのよ!! それで今後も宜しくお願いしますって頼まれちゃって、お仕事も沢山入りそうだからね!だから大丈夫。」
「そうなんですか······それなら良かったです。お役に立てて。」
心配してた事が1つ減って良かったよ。
「それに、このちゃんにもまた仕事依頼来そうよ?普通の服もだけど、予定では浴衣とかカラーのウエディングドレスなんかもお願いしたいとかって言ってたからね。」
「有り難いお話ですけど、その、条件が······。」
そう。私はこの話を受ける時に条件を付けた。
その1番は場所の問題が大きい。
私は学生の身だから長期休暇を除けば、土日くらいしかやれる日はない。
それに雪ちゃんの事もあるから、そんなに遠くへは行きたくないっていう想いもある。
場所や時間の関係で泊まりになるってのも避けたかったしね。
「それも多分大丈夫かな?先方にはこのはちゃんの条件を提示した上での話だからね。それに合わなければ受けなくてもいいんだからさ。」
そう栗田さんは言ってくれる。優しいよね。
本当は私が条件をつけないでどんどん依頼を受けた方が、栗田さん的にも仕事になるしお金にもなるのにと。
それをわざわざ私に合わせてくれるんだから、優しいし、いい人。
新井さんもいい人だし、あの時の撮影で会えたのが栗田さん達でよかったなって私は思う。
「あ、そうそう。肝心な事を忘れる所だったわ。」
ん?何でしょう?他に何があったかな??
考えてみたけど、特にこれと言って思いつくものはなかった。
少なくとも今日のこのやり取りに関しては忘れ物はないからね。
そう考えると、あとは······新しい撮影の依頼?
さっきの栗田さんの話を聞くに、ありそうな感じではあるけれど······。
「実はね······。今回の写真をウエディング系の雑誌に起用するんだって!凄いわよ!このはちゃん。デビューで雑誌なんて!」
「え!? 私が雑誌ですか······?」
全然考えた事も意識した事もなかったよ。
元々モデルをやりたい!って感じで始めた訳じゃないから、雑誌掲載とか全然興味なかったしね。
乗るとしたらインターネット上でどこかの式場のHPでドレス紹介とか、元の服の撮影なら通販のページ又は新聞チラシくらいかな?とは、思ってた。
だから驚きはしたけど、今イチピンとはまだ来てはいない。
雑誌に乗るのって凄いのかな?チラシとそんなに変わらないんじゃないのかな?って·······。
栗田さんは続けます。
「それでね、その雑誌を発売に合わせて何部か取り寄せるけど、このはちゃんはいる?要るようなら販売分以外にも必要な分を確保しとくけど······?」
「あ、ありがとうございます。そうですね······。」
栗田さんがわざわざ気を利かせてくれて、取り寄せてくれるみたいです。
これなら当日に書店やネットから予約注文とかしなくても買えるから、とてもありがたいですね。
さて、いくついるかな?
自分用とお父さん達とお爺ちゃんお婆ちゃん達。
お爺ちゃん達は一家に1冊あればいいかな?
でも、お父さん達はどうしようか······?それぞれ1冊ずつかな?
あ、見る用とは別に保存用も欲しいかもしれない。
何が特別な物にはそういう風に、複数買って取っておくって人がいるって聞いたことがあるから。
栗田さんに必要数を伝えてお願いしました。
その後、お会計を済ませて荷物を車に乗せて自宅へと戻ります。
さてさて、お父さんお母さんは喜んでくれるだろうか?
それ以前にモデルをやり始めたことを伝えてもいないから、先ずはそこからだよね。
ワクワク半分、不安半分······。
勝負は今夜です。




