ある日の春休み①-4 高1(挿絵有り)
私は竹中直美(28)。
アパレル系の雑誌関係の仕事をしている。
業務内容は多岐に渡るが、その1つに取引先の企業の新作や売出し商品の写真撮影及び管理、専門雑誌の作成などもやっている。
若者向けのファッション雑誌然り、マタニティ系やブライダル系だったりと色々です。
私は今日も何時ものように、いくつものスタジオに洋服の撮影の依頼を出したり撮影終わりのデータを受け取って確認をしていく。
ちなみにデータはメモリーカードを郵送で受け取っている。ネットだと容量がデカ過ぎるのと、またスタジオがいくつもあるために受信するだけでも大変なのだ。
その中の1つ、埼玉のとあるスタジオから受け取ったデータとは別に紙と写真用紙?が何枚か入っていた。
何だろう?と思った。
データ以外には特に何か書類をやり取りをする様な事はしてなかった筈だから。
データの方は確認に時間がかかるから、手っ取り早く確認出来る紙の方から読んでみた。
何々······。
『(前略)この度弊社、スタジオ栗田にて新しい新人モデルさんを採用致しましたので、紹介させて頂きます。尚、彼女は学生の身でありまた家庭の事情により沢山の撮影は出来ませんが、撮影の際にはどうぞ宜しくお願いいたします。』
ふむふむ···。
まぁ、よくある学生さんモデルを雇ったというやつだね。
人は年を取るためどうしても若い新人の子を常にスカウトしなくてはいけない。そうしないと幼児服や若い子向けの服の撮影が出来なくなるから。
折込チラシや雑誌といった紙媒体の部数は年々減ってはいても、それでもまだまだ需要はある。
また、拡大してるネット通販でもモデルさんの着用というのはイメージしやすいというのもあるからね。
紙袋の中の写真用紙に、その新人の子が写ってるのかと合点がいった。
それでも、あまり期待はしていない。
可愛いには可愛いのだろうが、正直似たりよったりなんだよね。
テレビで見るアイドルグループも、似たような髪型に同じ雰囲気のメイク。
顔は個性がある筈なのに、メイクのせいでどの子も似たような顔に···。
私達のネット広告やチラシはそこまでではないものの、それでも似たような子を採用してしまうし。
まぁ···モデルとして使うには、こういう感じの子がいいというデータがあるから仕方ないのだけど。
あまり期待せず封筒から引っ張り出してみる。
どれどれと······。
「···········」
動きが止まる。思考が止まる。
何?何だこの子は···???
こんな子が存在するの?!
どこかの学校の制服を着用して微笑んでる女の子。
笑顔も物凄く魅力的で引き込まれるが、何より驚いたのはその髪の毛と瞳。
目は赤い。ルビーの様に輝いてる。カラコン?いや···無理だ。
そして目立つ髪の毛。銀髪···かな?
そらになんとなくだけど、透き通ってるような感じにも見える。
これも染めてるのだろうか···?いや、これも無理だ。
これだけの長さのロングヘアーを染めるのは現実的じゃないし、なにより染めてなるような色艶、輝きじゃない!
本当に彼女は何者なの?新人だとは書いてあったけど······。
顔つきは日本人っぽく見えるが、見た目が明らかに違うし。
欧州、ロシア辺りにいそうな気もしなくはないけど、いや、いないな······。
赤毛やブロンドっぽいのはあっても、こんな綺麗な白?銀髪??は見たこともないし、そもそも瞳の色が違うしあり得ない。
あの地域はあっても青系だし······。
赤色の目ってあるのだろうか······?
他にも数枚入っており、取り出して写真をじーっと眺める。
やばい。引き込まれそうだ······。
そして気付いた!
これは私の好きなファンタジー作品にある姫様とか女神様とか、そういうものではないか!と。
この子なら再現出来ない又は難しいコスプレが色々と出来そうだと脳内で考えた。
金髪や白も染めたり脱色すれば出来るけど、ここまで美しい銀髪を再現するのは難しいから。
それにプロポーションも良さげだし、顔立ちも文句なし!
衣装の出来しだいでは、かなり完成度の高いコスプレが出来るぞ!と。
そんな脳内妄想をしてたが、途中でハッとした。
今はそれどころではないと!
「かちょー!大変ですーー!!」
コスプレの事は脳内の隅に一旦置いといて、私は課長の所へすっ飛んで行った。
「何だ?竹中。騒々しいな······。」
課長が嫌そうに言ってくるが、それどころではないのだ。
このチャンスを逃してはいけない!
私の感がそう教えてくれる。
「課長、私の担当する埼玉のあるスタジオから新人モデルを起用したとお知らせがありまして、確認したのですがその子がヤバ過ぎます!逸材です!!」
「新人って言ったって、ただの綺麗だったり可愛かったりする若い子だろ?何をそんなに······。」
課長は訝しむように私を見つめてくる。
まぁ、私もついさっきまではそう思って側でしたけどねー。
でも今は違う。
(フフフフ······。見てろよー、驚くからな〜。)
いつもアレコレと言われてるから、たまにはいい機会だ。
ちょっとしたドッキリを仕掛けてる様な気分で、楽しくなる私だった。
「送られてきた新人さんの写真です。見て下さい!!」
私は自信を持って『ドン!!』と、課長の眼の前のデスクに突き出した。
そして、それを見て固まる課長。
ほれ、やっぱりね。そーなるんだよ。
写真を凝視して固まるかちょーを見つめながら、久々に面白い光景を見れたなーと優越に浸る私だった。
「課長、そろそろ大丈夫ですか?」
「あぁ···。まさか、こんな子がいるとはな······。この子は外人さん??」
すっかり放心しちゃいましたねぇ〜。
見てる私としては、面白い光景だったけど。
「いえ、違うと思います。見た目はあれですけど、同封されてた書面には日本人とありましたから。まぁ、外国人でもこの髪色はもの凄く珍しいと思いますけどね。」
「この容姿で日本人か······。まぁ、国籍の話だから親が外国人とかはあり得るな·····。にしても····うん。悪くない···いや、アリだな······。」
後半は自分の世界に入って、ブツブツと呟いてるかちょー。
珍しいには珍しい光景だけど、この人こうなると長いんだな〜。
なので、戻って来るのを待つことなく話を進めることにした。
「それでですね、このスタジオには普通の洋服の撮影依頼を出してるんですけど、この子にはウエディングドレスの撮影を頼んで見ませんか?この子の容姿とこの笑顔なら普通の日本人には出来ない、凄い素敵なドレス姿が撮れると思うんですよ!それに、出来によっては今度発行する雑誌掲載も問題ないと思いますし······。いや、むしろ乗せるべきですね!!」
私は写真を見て、思ったことを伝える。
絶対この子なら凄いのが撮れると!!
そう私の直感が告げていた。
「編集長のとこに行ってくる!!」
電話しながら走ってく課長。
あの冷静な課長が走るとは······。
これもある意味凄い光景だよ。
ーーーーーーーーーー
今日は例のドレスの撮影日。
この埼玉のとあるスタジオに私と課長と、編集長の3人で見学に来た。
例のモデルさんを一目見るために。普通はこんな事しないけどね。
あの後、編集長の所に行った課長は写真を見せて説明をしたらしい。
そしたら編集長は速攻許可を出して撮影をしようとなった。
すぐさま連絡をし、先方のモデルさんからもOKを無事頂き今日に漕ぎつけたという流れ。
スタジオ内に入り中を確認。
今は撮影をしてないみたいなので、衣装チェンジ中なのかな?
今回お願いしたスタジオ栗田の栗田さんにご挨拶。
「栗田さーん。こんにちは。御無沙汰してます。」
「あ、竹中さん。こちらこそいつもお世話になってます。」
2人でペコペコ挨拶をして、課長と編集長を紹介します。
担当の私は兎も角、課長や編集長がスタジオの人と会うことはあまりないから、お互いに名刺交換をしたりしてます。
一段落し落ちついた所で、
「で、今は衣装チェンジ中ですか?」と尋ねてみた。
「はい。もう何着か取り終わってまして、あと1着ですね。少し時間かかりますので、撮ったの見てみますか?」
「ええ、是非!」
これが見たくて、わざわざ来たわけだからね。
あと1着というのが少し残念だったけど、1着でも生で見れるなら良かったというものさ。
データー量が多いから、少し展開に時間がかかるものの開いた。
で、皆して覗き込む。
「······」
「······」
「······」
3人して沈黙。
パソコンの画面は自動でスライドされて行く。
真っ白な純白のウエディングドレスに肌の白くて銀髪?をなびかせた女の子。
白色の中に赤い目が綺麗に輝いてて、笑顔だったり微笑んでたり、または照れてる様な表情の女の子が映し出されてる。
「ヤバい···。素敵すぎて泣けてくる······。」と私。
「こんなん想像以上だ······。」と編集長。
課長はと言うと、「うちの息子のお嫁さんに欲しい」とかほざいてる。
感動が台無しだよ!
正気に戻った私達は、栗田さんにあれこれと質問をしたりして話をしてます。
内容はもちろん、この女の子についての事。
どこで出会ったの?とか、本当に日本人なの?とか。
その中で驚いたのがこの女の子、実は女子高生だったと言う事。
女子高生だよ!?女の子としてこれからノリノリの時期じゃん!
今でこのレベルなら、女子高生をターゲットにした服や20代を狙った服が行けるね!
そんな妄想が頭の中を駆け巡る。
そして、いけると!!
そう意気込んでたけど、残念な事もあった。
それはこの娘が本気でモデルをやりたいと思ってなかった事。
誘われて今回の撮影をしたというのは間違いないのだけど、断られても仕事が来なくなっても良いような条件をつけたのだとか。
しかも活動年数も、ほんの数年しかやらないとかって······。
正直、変わった子だな〜と思う。
これだけの容姿やスタイルがあればモデルは勿論の事、芸能界でもいけると思う。
もちろん努力や才能だとかそういうのも必要にはなるけれど、それでも容姿が優れているというのはもの凄く絵にもなるし武器にもなる。
今は栗田さんの所で契約をしてるけど、それでもこれが世に出ればそれを目にした芸能界事務所が黙ってはないだろうなーと、ちょっと先の未来の事を想像して苦笑してしまう。
本日最後の衣装で彼女がスタジオに入って来た。
最後の衣装は白一色の中に入れといた、唯一の赤色の入ったドレス。
髪は彼女の綺麗なロングヘアーを最大限に活かした髪型。
つまり、ほぼそのままである。
ちなみにこれは、先程確認したその他ドレスでも同じだった。
結ったりとかしてアレンジするのかな?なんて思ったりもしてたけどね。
ウエディングドレスも様々な髪型で魅せられるけど、私はやはりロングヘアーが1番だと思ってる。
それも腰まであればさらにね。
まぁ、一部アニメや映画の印象が影響してなくもないけれど······。
だから彼女は私の中では、理想のドレス姿です。
そんな彼女についてもう少し詳しく。
頭部に少し結ってあって、そこに薔薇の髪飾りを付けてある。
この薔薇とドレスの赤色が非常にマッチしてて統一感があるね。
背中も今どきのドレスに多いい、背中出しスタイル。
うん、非常に綺麗で魅力的な背中だ。
そして、胸元。
ドレスも胸元を隠すタイプと出すタイプとあるが、これは出すタイプ。
そして彼女は胸が大きいから、ドレスが良く映える。
今時の高校生はこんなに胸があるのだろうか??
自分の胸元を見ながら考えるけど、悲しくなるからやめよう······。
でも···うん。普通の子はあそこまではそうそういないね。
特に体型とのバランスを考えると尚更。
同じ女性として羨ましく思ってしまうよ。
そんな彼女も今日最後の撮影。
スクリーンの前で撮ったり、セットの中で撮ったり······。
栗田さんの指示で色んなポーズで表情で、初めてだと聞いていたのに凄く上手に演じてる。
特にあの笑顔と微笑みがヤバい。
なんなんだ、あれは??
あんな表情が女子高生に出来るのだろうか?と思ってしまう。
そんだけヤバい破壊力。
隣の課長と編集長を見る。
···
······
·········
忘れよう。あれは駄目だ。
いい年したおっさんが、鼻の下伸ばしてるよ······。
でも···同性である私もヤバいと思ったくらいだから、男性である上司が骨抜きにされても仕方ないか······。
ーーーーーーーーーー
帰りの車にて。
車を運転するのもちろん私。最年少で下っ端だから。
いや、逆に課長や編集長に運転させて私が後ろで寛ぐとか恐れ多くて出来ません。
まぁ、運転は嫌いじゃないから別に構わないんだけどさ。
「鈴宮さん、すごい魅力的で綺麗でしたねー。」
「ああ。まさかあそこまで美しいとは思わなかったな。」
「ええ。しかもあれで高校生ときたもんです。まだまだ先も長いですから、これは期待ももてますね。」と課長。
べた褒めする私達3人。
そのくらい素敵だったから無理もない。
「だけど···栗田さんから聞きましたけど、鈴宮さんはモデルとして本格的にやるつもりはないって言ってましたよ?」
「そうなんだよな〜···勿体ない······。」
そう、彼女はモデルを本格的にやるつもりが無いみたいなんだよね。
撮影に関してもいくつか条件を出してるくらいだから、それなりの事情があるのだろうけど。
「ま、それは仕方ないさ。皆それぞれ事情ってもんがあるからな。それよりも彼女は間違いなくヒットするから、我々も撮影は彼女の希望に沿った場所等を選ぼう!」
「はい。」
「了解です。」
「それと例の雑誌は彼女を表紙に持っていこう。周りの文字等もなるべく減らしてな。中身も彼女のドレス姿を数ページ用意しないとだな。」
「えらく気合の入れようですね、編集長。」
「そりゃ〜そうだろ?あんな素晴らしい姿を1枚だけ掲載して他は眠らせとくのは勿体ないからな。お前達もそう思うだろ??」
「「えぇ。」」
「おまけに、最初の起用が我々だったのも運がいいな。短い期間かもしれんが、彼女とはうまくやっていこう······。」
ぶつぶつと何やら考え始める編集長。
「私としては鈴宮さんにカラーのウエディングドレスとか浴衣とかと着て欲しいなと思いますね。」
自分の欲望をサラッと伝える私。
なんとなくだけど、GOサインが出そうな気がするから。
本音を言うと、コスプレをやって貰いたいと私個人は思う。
黒髪、茶髪系は結構あるけれど、白ないし銀髪は少ないんだよ。
おまけに素であの髪の毛だからね。
「俺としては大人っぽい服装だな。あと、着物な。あー···水着も見てみたいかも······。」
「かちょー······。」
エロジジイめ!!
そんな真面目で少しおバカな会話をしつつ、会社に戻る私達なのでした。




