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ある日の春休み①-2 高1(挿絵有り)

「このはちゃんって、メイクアップアーティスト泣かせだよね。」


「そうなんですか?私としては全然分かりませんけど??」


私は今、控室で椅子に座りながら新井さんにメイクをしてもらっている。

そんな最中に新井さんから、そんな事を言われてしまった。

私としてはそう言われても、全く実感とかないんだけどさ。




  ーーーーーーーーーー




スタジオでスタッフのみなさんに挨拶を終えた後、控え室に案内された私。


「ここが控室よ。ここでメイクから衣装替えまで全部をやるからね。」


そう教えてもらって入った部屋は、照明や壁も含めて全体的に白色で統一されてて結構明るかった。

そして、広い。

入口から見てみて、右手側には大きな鏡にカウンターと椅子があっていわゆるドレッサーがあった。

映像作品とかでたまに入ってたりする、舞台の裏側とかを収録した映像とかに出てくるアレだよね。

まぁ、これにもデザインだとか機能だとか色んなタイプの物があるのかもそれないけど、こうして本物を見てたのは何気に感動があったりしてる。


そして左手側には仕切られた更衣室があって、その近くには大きな姿見。

そしてズラリとは言っても数着ではあるけれど、本日の衣装が並んでかけられてる。

パッと見た感じでは白色ベースのが殆どだね。

まぁ定番といえば定番だけど、これをこれから私が着るのかと思うと感慨深いものがあるよ。



そんな風に控室全体を見渡してると、「はい、これ。」と紙袋を渡されたの。


「何ですか?これ?」


唐突に渡されたので、咄嗟に声に出してしまった。

渡された紙袋。

ややピンク色で何やら文字が入ってる。

何となくお店の名前かな?とは思うけど私は知らない名前で、重さもこれといってなく軽かった。

不思議に思いつつ開けて中身を確認してみるとみると、それはブラジャーだったんだ。

それも色違いでいくつか入ってるし。


「それね、栗田さんからのプレゼントだって。今日の撮影は肩紐がないのが良いからそれを着けてほしいんだ。サイズは聞いたって言ってたから、多分大丈夫だと思うんだけどね。」


「わざわざありがとうございます。結構色んな色のを揃えてくれたんですね?」


「うん。まぁ、デザインは一緒だけど色々とあれば他の撮影でも使えるしね。あ、今日の色は白でお願いね。」


「はい。分かりました。」


そっか···。

この前の電話でサイズを聞いてきたのはこの為だったんだね。


この前······衣装の変更があるって電話を貰って一度電話が切れた後、直ぐかけ直して来た栗田さん。

どうしたんだろ?って思ったら、ブラのサイズを教えて欲しいと聞かれて教えはしたんだよね。

切れる直前でブラの話をしたからそれの件かな?とは思ったけど。


まさか、用意してくれるとは思わなかったよ。

おまけにこんなにも数を揃えてもらって、安くはなかっただろうに······。

その気持ち、優しさの分もモデルとして素敵な写真が撮れるように、期待に答えなくちゃね!

改めて気合を入れた私です。



そして、着替え始める。

今回はブラも指定されたので服は勿論の事、ブラも外し取り替える。

このタイプは初めての着用ではあるけれど、物がいいのか案外としっかりとしてる。


「このはちゃん。サイズはどう〜?」


扉越しに新井さんの声がした。


「問題ないと思いますけど、一応確認と調整をお願いできますか?」


着けた感じこれと言って違和感等はないんだけど、撮影というのもありきちんと確認はして貰うつもりです。

私には分からなくても、プロの方からしたら何か調整とかするかもしれないからね。


更衣室の扉を開けた。


「新井さんどうですかね?って······どうかしました?」


扉を開けた先に新井さんと田中さんもいたんだけど、その2人が私をじーっと見つめてる。

あぁ······この光景、学校の時と一緒だ······。そう思ってしまった。

学校の時と一緒とは、体育の授業での着替えの時の事。

特に1学期の時の事なんだけど、あの頃は毎回みんなからジロジロと見られてたんだよね。

スタイルが良いとか綺麗だとかって、言われたりしてさ。


今はさすがに慣れてきたのかそういうのは減ったけど、それでも未だにそれなりには見られたりはしてる。



新井さんと田中さんの反応を見てると、その時を思い出しちゃうよね。

そしてそんなにも前の出来事なのかって、たかが1年程前だけど懐かしくも感じちゃう。



「いや〜······、この前は最初から制服姿だったけど、こう直接見るとやっぱりプロポーションいいなーと思ってね。」


「そうね······同じ女性として羨ましいわ。その胸の大きさ、形、ヒップ周りに全体のバランス······うん!申し分ないわ!!」


「あ···ありがとうございます。で、どうですか?私としては特に問題はないんですけど?」


お礼を言いつつ、確認をお願いしました。

だってそうしないと今までの経験上、この話題で2人が盛り上がりそうなんだもん。

クラスのみんなもそんな感じだったしさ。

体型の差は個人差があるにせよ、同じ女性同士なのに何故か盛り上がるし······。



「うん。これなら大丈夫だよ。」


「よかったです。」


確認してもらって特に調整等もいらなかったので、一安心です。


「じゃ、今度はこっちの椅子に座ってメイクをしましょう。髪は着替えてからね。」


そして、冒頭へ······。





  ーーーーーーーーーー




私は下着姿で肩から大きいタオルを羽織るという格好で椅子に座りながら、新井さんの言葉に耳を傾けている。

暖房が効いてて寒くないからいいんだけど、なんともシュールな光景だよね。

以前に見た物はシャツ姿でやってた様な気がしたけど、その時々で色々なのかな?

そういった知識のない私には分からない世界です。



「理由としてはまず、このはちゃんの肌の良さね。前々から綺麗だなとは思ってたけど、顔とか肌をこう間近に見ると状態の良さに驚かされたし。あとはやっぱり、このはちゃんだけが持ってる唯一無二の武器、その髪と目と肌よね。もうこれが美し過ぎて神々しいレベルだよ。」


新井さん、随分と興奮してらっしゃる······。

おまけに田中さんまでもうんうんと頷いて。


「そしてそれが、恐ろしく整ってるからメイクなんて要らないわね。まぁ、肌が白いと言っても健康的な感じはあるから化粧も大して要らないし、やったとしても本当に極薄く。あとはリップくらいかな。

そういう感じでメイクをする仕事がないから、メイクアップアーティスト泣かせってとこかしら?」


「·········」


私としては珍しくポカーンとしてしまった。

だってそんなことを言われたことないし、そもそも他人にメイクをしてもらう事自体が初めてではあるから、当然ではあるのだけど。


ちなみに普段の私はこれといったメイクは殆どしない。

肌が白いのもあってかそんなに必要としないというか何というか······。

眉は軽く描いたりはしてるけど、どちらかというと肌を整える方とかに力を入れてる。

食事や睡眠。化粧水や乳液とかそういうので。

もっと歳をとってきたら、また変わるのかもしれないけどね······。


「でも逆にいい事もあるのよ?メイクに時間をかけないって事は撮影の総合時間も減るし、メイク崩れによる中断も発生しないしね。···はい、終り。次は衣装ね。」


「はい。」


立ち上がって、今度は飾ってある衣装の前に移動します。

数は数着。色はほぼ白色が占めてる。

まー、これは一般的には白ってイメージがあるから、このラインナップにも違和感はないんたけどね。


電話を貰った時から分かってはいたけど、これを着るんだよね?と、眼の前にある陳列された衣装を見てると改めてそう思ってしまう迫力がこの衣装にはある。



「今回は白色がメインなんですね?」


「そうね〜。数着違うのもあるけど、これはやっぱり白色が1番じゃない。人気も断トツだしね。」


それは確かにそうだ。

これのイメージカラーって何ですか?って聞かれたら、ほぼすべての人は白って言うと思う。

もちろん他のカラーもあるけれど、定番そして憧れはやっぱり白色だもんね。



衣装の前に立ち、新井さん達の指示に従い腕を通したりしながら着せて貰います。

うん、これは1人じゃ無理。

実際のシーンでは着せてもらうわけだけど、着せてくれる人も1人じゃ無理かな?

出来なくはないのかもしれないけど、2人の方が確実かも······。

あとは細かい調整とかもあるし、そのくらい大変そうだったよ。



着せて貰った後は、最後に残った髪のみです。

どんな髪型にするんだろう?

何気にワクワクしている私だった。


髪を作るにあたって、また「座ろう」って言われて再び椅子に座り直したんたけど、何故か鏡を隠されちゃった。

「なんで?」って聞いたら、出来上がりまでのお楽しみ♪だってさ。

そんな事言うなんてズルいよね。

私だって早く見てみたいのにって思ってるのにさ······。


ちなみにだけど、衣装の所にあった姿見も隠されちゃてたよね。

もう···新井さんも田中さんも意地悪だ······。



髪型に関しては私のロングストレートをそのまま活かすらしいです。

この衣装を着る女性はそれこそ色んな髪型を選択出来るけど、新井さん曰くロングヘアーが1番だよねって感じみたい。

この辺りは好みの問題もあるんだろうけどね。


それに私の髪が綺麗だからそれも活かそうというのと、衣装も何着か替えるから最初はロングヘアーで撮って、後々に髪型を変えたほうが調整がしやすいんだって。

結ったりしてからストレートにすると、癖がついたりもするからね。

これに関しては私も経験済みだから、凄くわかる。

ストレートなんだけど、どこかがクネって曲がっりとかするんだよね。


で、今日の髪型。

最初はそのままストレートで。後半は結ったりして変化をつけると。

あとは髪飾りとかそういった小物をつけたりして、色々とやりましょうだって。



そして、やっと終わりました。

時間がかかるのかな?と思ってたけど、実際はそんなにでもなかった。

かかったのは着付けが1番長くて、他はそれほどでもなかったね。

まー、メイクも髪型も然程いじってないから当然と言えばそうなんだけど。




「このはちゃん······。とっても綺麗よ。」


「本当に綺麗です···。私、この業界に入ってこんなに感動したの初めてだよ······。」


新井さんと田中さんがうっとりとした表情をしながら、嬉しそうに教えてくれる。

そんなに?と思うけど、私は肝心の鏡を隠されててまだ見てないからなんとも言えない。



「じゃ、お披露目ね!」


まってました!!と言わんばかりに、楽しそうなテンションで言う新井さん。

バサッと鏡を隠してた布が剥ぎ取られる。

眼の前に現れた大きな鏡。

その鏡に現れたそこに写る私は······。



···


······


·········



「綺麗······。これが私??」


そう呟くので精一杯だった······。







暫くして落ちついた頃。


「こんなに素敵に仕上げてくれて、ありがとうございます。」


と、2人にお礼を伝えました。


「そんなことないよ〜。このはちゃんが素敵だからここまでになったのよ。それに私、メイク殆どしてないんだから!」と新井さん。


「こんなに素敵でスタイルも良くて······。将来鈴宮さんを捕まえる男性ってどんな人なんだろうね?羨ましいわぁ〜。」と、田中さん。



あ〜それは······と思う私。

言ってないのもあるけれど、普通に勘違いしてる。

もしくは、私の考えが一般的には少し違うのかもしれないけど。


「田中さん。私は結婚はしないですよ。一生独身予定です。」


「え!? そうなの??なんでなんで!?」


驚く田中さん。

新井さんも一緒に驚いてたけど、まぁそう思うのも無理はないのか。

とりあえず結婚をしない理由を2人に説明をします。


「·········というわけで、私は結婚はしないつもりなんです。」


「そうだったのね·····。このはちゃんがそこまで子供思いだったなんて······。」


「いや、私、高校2年生になる鈴宮さんにお子さんがいるのにビックリしてるんだけど······。」


納得した新井さんに対して、田中さんは子供がいる発言に驚いてるけどね。


「はい。なので着ないと思ってた衣装を着る機会を頂けて、もの凄く嬉しいですしとても感謝してます。」


「そっか···。」


話を頂いてから何回も思ったこと。

感謝って言葉しか出てこないけど、あとはこの感謝を撮影で返すだけ。

少しでも良い写真が撮れるように、頑張らないとね!



「どうしたんですか?新井さん??」


ふとみたら腕を組み、先程から何やら考え込んでる新井さん。

さっきはあれほど嬉しそうにしてたのに、私の話を聞いたあとは静かになってたんだよね。



「······よし。このはちゃん!」


「はい?」


「この衣装を着れた事、ただの撮影だけじゃ勿体ないから私が栗田さんにお願いしてちょっと演出してあげるね!」


「演出??」


考え込んでたのが決まったのか何なのか分からないけど、静かだったのが一転して元気になった。

一体何をする気なんでしょう?

田中さんもキョトンとしてるし。


スマホを持っていって、控室の外で何やら話す新井さん。

よく分からないけど、私に聞かれたくはないみたいです。

そして戻って来て「OKだったよー♪」って、何がOKなのやら······。


また暫く待機しつつ、向こうも準備OKらしいのでスタジオに移動です。

向かう道中に、この衣装での歩き方を教えて貰った。

歩幅や歩調、視線。

慣れるまではちょっと大変なんだけど、でもこれもまた斬新で中々体験出来ることではないから楽しくもある。


スタジオの入口に着いて、「ちょっと待っててね」と新井さんが中に入って行きました。

少しして戻ってきて、田中さんとゴニョゴニョ。

うんうんと頷く田中さん。

一体何を始めるのでしょうか?

教えてくれないからさっぱりだよ······。


「このはちゃん。私が先に入るからね。それで扉が開いたら田中さんの合図で真っ直ぐ歩いて来てくれる?真正面に私が立ってるから、そこまで歩いて来てね!あと、これも持ってね!」


「はい。真っ直ぐですね。分かりました。」


返事を確認してからまた中に戻る新井さん。 

ほんと、何をしたいんだろう?

田中さんに聞いても「うふふ。楽しみにしてて。」としか教えてくれない。

まぁ、反応からすると悪いようにはしないんだろうけど······。

そしてまた少し待つこと暫くして、田中さんに連絡が来て「行くよ」だって。



キィッと扉が開く。



あれ?

真っ暗だ。それに静か···。

栗田さんをはじめとした、スタッフさんもいるはずなのに?

どうしたんだろ?って思った瞬間······。


「それでは、新婦、鈴宮このはさんの登場です!皆さん、盛大な拍手でお迎え下さい!」


そんな言葉と共に暗かったスタジオから私にスポットライトが当たる。

明るいライトの光が前方と左右から、私を優しく照らしてくれて。



「あ······。」



と、思わず声が出た。

そしてそれが精一杯。

動きが止まって思考も止まって、只々この光景を眺めてるだけ。


そんな私に背後から田中さんが声をかけてくれた。


「このはちゃん、あそこ。新井さんの所までゆっくり歩いて行って。ゆっくりでいいからね?」


「······うん。」


優しい声に言われて歩いていく私。



挿絵(By みてみん)



雪ちゃんを妊娠して産みたいと決心した時に、独身を貫くと決めた私。

それはその当時の私が雪ちゃんの為、自分への誓いとして決めた事だけど、今もその想いは変わらない。

まぁ···雪ちゃんが大きくなって「パパが欲しいな。」なんて言われたら考えなくもないけど、多分無理だろうなーとは思ってる。

歳とか見た目とかの問題ではなくて、私の心がもう男性と付き合える気がしないから。


それに当時は13歳だったから、結婚とかそういうのは全然気にしてなかった。

まぁ、それはそうだよね。

当時は好きな人とか気になる人もまだいなかったから、そんな事を考えた事もなかったし。

それよりも勉強の事や部活の事、そういう事を考えてた事が多かったような気がするもん。

だから当然、ウエディングドレスにも興味とか全く無かった。


今だって男の子や恋愛だとか結婚だとか、全然興味もないししたいとも思わない。

なのに。なのに······。

ウエディングドレスは知らない内に興味?憧れ??

分からないけど私の心の奥底にはあったみたい。

栗田さんから今回の話を聞いた時から、心の中でワクワクしてた私がいたから······。



私の前方で、新井さんが手を振ってくれてる。


『新井さんの所まで歩いて行く』


それを思い出して姿勢を正して前を見て、転ばないように小刻みに歩みだす。

チャペルのバージンロードではなく、撮影スタジオの中だけども。

それでも、スタッフさんの心遣いが嬉しくて。

拍手で迎えてくれて。



カシャカシャカシャ···。



栗田さんが沢山シャッターを切ってくれてる。笑顔出来てるかな??

栗田さんの言葉を思い出す。


「好きな物や出来事なんかを思い出して。」


私の大好きなもの。それは愛娘の雪ちゃん。

「まま」と嬉しそうに私を呼んでくれる声。

もぐもくとご飯を食べてる姿。

安心しきった表情で眠る姿。

どれもこれもが、可愛くて愛おしい。


勿論、笑顔だけではなくて泣いたり怒ったりする事もあるよ。

でもその全てが、私にとっての大切でとても大事な宝物。


それと、この演出をしてくれたスタッフさん達の心遣い。



「ありがとうございます。」



私から笑みが溢れた―――。

このはちゃんに、ウエディングドレスを着せたかった。

ただそれだけの想いで書いてしまいました。


でもこういうのが出来るのも、また楽しいですね。

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