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ある日の勅使河原先生 高1(挿絵有り)

「さて···どうしたものか······。」


私の目の前の机に置かれた書類の束。

その1番上に自ら置いた1人の生徒の書類を見ながら、私は悩んでいる。

毎年この時期になると考え始める作業。だけど、そんなにゆっくりもしていられない仕事。

そう、『クラス替え』。このクラス替えの草案を作らないといけない。

だけども今年はやたらと悩む。とにかく悩む。

書類の束の上に、あえて置いた1人の生徒。


『鈴宮このは』


彼女の存在が私を悩ませている······。


挿絵(By みてみん)



クラス替え。

それは基本的には毎年行われている。

小中高と、どの学校でも1クラスしかないとかいった特殊な事情がなければ。

他の学校はどうなのか知らないが、この桜ヶ丘高校ではその学年を担当する学年主任が各クラスの担任からの情報等を元にクラス替えの草案を作り、今年及び来年度の担任予定者と話し合いの上、決定する。

ただ、うちの学校の担任は基本的に3年生まで繰り上がる。

それは3年生の受験といった時期に、生徒の事を全く知らない教諭が新しく就くよりは2年間見てきた教諭が担任した方が良いからである。


何が得意で苦手か、今どの位の力があってどの辺りの学校を狙えるのか等、細かいアドバイスが出来たりするから。

なので産休や体調不良といった長期休暇、退職等が発生しなければ基本そのまま繰り上がりである。



担任事情はその様な感じではあるが、肝心のクラス替えについては私は様々な事を考慮しながら考える。

その中でも1番重視するのは、やはり生徒間の相性といった人間関係だろう。

約1年間を通して誰と誰が仲が悪いといった報告等があれば来年は別々にしようとか、問題行動を起こす個人や集団がいれば個別に別けたりなど。

幸なことに今年はそういった、問題行動を起こす生徒は居なくてホッとしているが。

ただこれが、1クラスしかないコースで発生すると厄介ではあるがね······。

替えたくても替えられないという事が発生するから。



それと、懸念すべきはイジメ問題。

小学校では喧嘩などで手足が出たりと分かりやすかったりもするが、中·高校となるとそうもいかない。

表には出ないで裏でこっそりと陰湿にやられたり、今はSNSといったものを介して誹謗中傷など色々とあるし······。

助けて欲しくても気付いてもらえない。

気付いていても対応して貰えないなど、様々な理由で命を絶つ子供もいる世の中。



報道でもたびたび取り上げられ、見てれば保身に走る学校側や教育委員会。

そういう事が起きないように、我々、桜ヶ丘高校の教員は目を光らせてるし生徒の小さな声にも対応する様にしている。 

それでも限界があるのも、勿論承知しているが······。

そして当然ながら問題を起こす生徒には、厳しい処分も辞さないつもりだし、私自身も最悪は身を切る覚悟も持っている。


そういった事もあり、学校側も教師陣も当然ながらピリピリもするし、かなりストレスにもなる。

だから生徒の組み合わせには、大変な労力を使ってしまう。



その点、今年度の高橋先生の担当する3組は、今までにない大成功なクラスだった。

1年生のクラス分けの場合は中学校から来るデーターしかない為、正直な所あまり参考にはならない。

成績が良ければ性格も良し!とは必ずしも、ならないからだ。


そんな中で決めたのにも関わらず、大成功を収めた3組。

その中心が、我々教師の間でも話題の鈴宮このはさんだろう。

先程自ら否定した『成績が良ければ性格も良し』に、100%該当する生徒。

高橋先生やクラスメイトの話によると、彼女がそこにいるだけでクラスの中が和むし纏まるのだそうだ。


分かりやすい例が、お昼休み。

普通は仲の良いグループ同士でお昼を食べたりするもんだが、彼女のクラスは女子全員が仲良く一緒に食べているらしい。

1人だけ外れるとか、そういった事もなく。


それだけでも信じられないが、その後も信じられない事がある。

2学期の中頃からではあるが、お昼休みに彼女に勉強を見てもらっているらしいのだ。(主に数学)

おまけに自習の時間が発生すれば、その時も彼女に教えを請うて貰ってるらしいし、彼女が教壇に立って教えてる事もあるのだとか······。


にわかに信じられない事ではあるが、それを目撃した先生もいるので間違いはないのだろう。

おまけにその評判も良くて、私も一度はこの目で見てみたいと思うほどだ。


それが功を奏したのか分からないが、2学期の期末テストは平均点が他のクラスよりも高かった。

3学期はまだ先だからどうなるか分からないが、これも高いとなるといよいよ凄い事だと思っている······。



そんな彼女とあのクラスをどうすればいいのか······。

これが今回の1番の問題だ。

彼女がただの優等生だけだったのなら問題はなかったのだが、数学のクラス平均点を上げるという事をやってしまってるから。

その力は本物なのかどうなのか、どこまで出来るのか見てみたい興味津々の我々もいるし、クラス自体の纏まりも最高だから出来れば弄りたくはない。

でも全くしないというのもダメだしなぁと思う。

どうしたものか······本当に難しい···。



ちなみに高橋先生から聞いていた、鈴宮さんから相談事、諸貫茜さんの件については叶えてあげるつもりでいる。

スクールカウンセラーもいるにはいるが、パッと見の初見の人には心を開きにくいだろうし、鈴宮さんだったから良かったのだろうと思う。

私としては同じクラスにしてあげる事くらいしか、今のところ出来ない。

そのくらいの手助けしか出来ない事を、申し訳なく思うが何とか諸貫さんを見てあげて欲しいと思う。

彼女の負担がまた1つ増えてしまう事にはなってしまうが······。






  ーー高橋先生 視点ーー



コンコン。


「失礼します。」


挨拶をして部屋に入る。

ここは学校にいくつかある部屋の1つで名を小会議室といい、使用用途は少人数での会議や2者ないし3者面談などで使う。

今日はこれからここで会議だ。


中へ入ると学年主任の勅使河原先生をはじめ、学年副主任と各クラスの担任の先生方が揃っていた。


「私が最後でしたか···遅れて申し訳ないです。」


座る前に会議室に来ていた先生方に、頭を下げてお詫びをする。

小さな事でもこの様にした方が気持ち的にも楽になるし、相手方もスッキリするだろうから。


「いえ、まだ時間前ですので大丈夫ですよ。でも···揃った事ですし、少し早いですが始めてしまいましょうか。」


「「「「はい。」」」」


私が座った所で勅使河原先生の言葉により、本日の会議が始まる。

会議の内容は、来年度のクラスの替えについて。

毎年やってる事ではあるが、今年ほどこんなに気になるクラス替えも珍しいもんだなーと思う。

さてさて、勅使河原先生はどの様な編成をしたのやら······。




「······という訳で、来年度のクラスの替えについてはご覧のプリントのような編成にしました。何か意見等ありますでしょうか?」


ふむふむ······。

先程配られたクラス編成表(仮)を眺めているが、そうきたか。

まず、私はそのまま3組予定。それは別にいい。

気になっているのは、鈴宮と諸貫の扱いである。

勅使河原先生には丁寧に説明したから、多分汲んでくれるだろうと思ってはいたのだが······。



まず第一に先生方、皆が注目している鈴宮の扱いだが、なんと俺の担当だった。

あと一人、気になっていた諸貫の扱いも鈴宮と一緒だという嬉しい采配で。

とっさに勅使河原先生を見ると小さく頷いてくれて、こちらの、鈴宮の意見を聞いてくれたみたいだ。

「ありがとうごさいます。」と、心の中で言いながら小さくお辞儀をしてお礼を伝えます。

後ほどきちんとお礼を伝えないといけないなと思う。



一番の懸念事項をだった諸貫の扱いを確認し、ホッとした後改めて私の予定の3組全体を見てみると······あれ?

んん??

目の錯覚か?

女子の名前がみんな一緒だ。それも誰一人として変わってないな。

代わりに男子は数名だけが変わっているが······?



「すみません。勅使河原先生。私の予定クラスの女子なんですが、1人も変わってないのですが······これは??」


挙手をし、許可を頂いてから発言をする。

内容は当然この編成についてだが、こういった疑問に思った事を述べるのもこの会議では必要である。

まだ(仮)の段階だから、意見次第では多少変わることもあるからな。

生徒の事をよく分かってるのは担任をした教諭が一番だし、その意見は意外と大きい。


なので鈴宮と諸貫の扱いについては理由が分かってるからいいとして、それ以外の気になった事を聞いてみることにした。



挿絵(By みてみん)


「まず、みなさんが気になってる鈴宮さんですが······。彼女の能力及びクラスで行ってる事。まぁこれは先生方も承知してると思いますが···これをもっと伸ばしてみたいのと、クラス全体としてもどれだけ伸びるのかを見極めたいと思ってます。なので引き続き高橋先生のクラスとしました。まぁ、これは彼女が高橋先生を信頼し慕ってるというのがありますがね。」

 


勅使河原先生の言葉に????となる私。

鈴宮が私を慕ってくれてる?

態度的には嫌われてるとは思わないけど、信頼·慕ってると言われるとちょっと疑問にも思うな。

それにそう言われると、変に照れる所もあるし······。

さすがに、顔には出さんが。


そんな話を聞いて周りの先生方から「良いですね〜、高橋先生」などと、囃し立ててくるし。

やめなさいって。そういう事は!

人が折角苦労して、顔に出さないようにしてるというのに······。



高校教師なんて仕事だと、意外とこういう好感度的なのは個人的にはほぼないんだよ。他の先生方はしらんけど。

小学校なら低学年ほど慕われたりもあるだろうけど、中·高校と思春期になっている子供達相手だと、嫌われることはあっても慕われる事はほぼないからな。

まだ若い新米系の教師とかならまだしも、私みたいな中年に入った男の教師なら尚更だよ。

それがまた女子生徒となれば、なおさらで。



そういう感じではあるのに、今までの人生で見たこともない程の美しい容姿を持つ鈴宮相手に、他者とはいえそんな事を言われればそれはそれで嬉しいよ。

だからって、それを顔に出すわけにはいかんしな。



「それと女子についは、先程の理由ともう一つ。このクラスは鈴宮さんを中心に1つに纏まっています。誰一人として外れる事なく、信じられないくらいに。なので、これを壊すのは勿体ないと思いそのままで行く事としました。」



なるほどな〜と思う。

鈴宮の行っている事を考えると、クラスの生徒は弄らない方が結果が分かりやすいというのは確かにあるな。

それに、女子も見事に纏まってるし、仲も良いし。

1人も外れることもなく、鈴宮を中心に本当に仲良くやってるよ。

おまけに今は男子も加わって、さらに纏まってるからな。



少し前の文化祭の事を思い出した。

あの時、鈴宮には突然お願い事をしてしまって悪い事をしたと思ったが、蓋を開けてみれば頼んで正解だった。 

鈴宮の持ち前の聡明さとカリスマ性とでも言うのか、そういった物が合わさってあれよあれよと文化祭の出し物が決まっていったんだよな。


こういうのは中々決まらないのが当たり前だから、職員室で話が出て直ぐに伝えたのにも関わらず、あっさりと2週間程で決めたし。

おまけに人員配置についても、テキパキと調べて調整して。

当時、他のクラスが出し物が決まらずに苦労してアレコレとやってた時には、うちのクラスはもうほぼ決まって終わってるという状況だった。


それを知った他のクラスの先生方が、大変羨ましそうにしてたのが印象的だった。

私も鼻が高かったが、特に何もしてないからな·····。


凄いのは短期間で纏め上げた鈴宮であって、私ではない。

だから本当に凄いと、私は心からそう思うよ。




その後も多少の質疑応答が続いていく会議室。

これで反対意見等がなければ、このまま決まるだろう。

まぁ、恐らく出ないと思うが···な。



来年度がまた楽しみになった、私だった。



いつもご愛読頂きありがとうございます。


今回のイラスト、会議室っぽくない部屋ですけどもこれでご了承ください。

雰囲気だけでも掴んでもらえると助かります。



さて、今回の内容のクラス替えですが、実際にはどう行われてるのかは私には全く分かりません。

なので、このはちゃんの学校はこんな感じでやるのかな?という、ある程度調べたうえで書かせてもらいました。


実際に教職に就かれてる方からすると、『全然違うよ!』って思われるかもしれませんが、そこはこのお話の学校の設定という事でお願いします。

 



これからも引き続きご愛読の程、宜しくお願いします。

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