〜13の決断と14の涙〜 -前編- (挿絵有り)
2024.04.07 加筆修正しました。
寝てる雪ちゃんの寝顔を見つめながら、ふとこの子と出会った時を思い返します。
まだほんの数年前の事だけど、今よりもっと子供だった私には大きな大きな出来事。
みんなが勉強をして部活を楽しんで頑張って、時には遊んだりしてる中で、私は私の人生で一番の決断をしなくてはいけい出来事に見舞われた。
しかもそれが私一人のだったらまだ良かったのに、そうではなかった。
私とは別のもう1人の人命をどうするのか、早い話が生かすのか殺すのかを決断をしなくてはいけなくなったんだ。
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私が異変に気づいたのは、中学1年の秋だった。
その当時の私は髪の毛は短くしてて、今みたいに伸ばしてはいなかったんだよね。
勉強は出来るほうだったからそんなには苦労してなくて、どちらかというと部活動に力を入れてたんだ。
入ったのは運動部だったけど、運動神経がいいとかは特になくて普通だった。
でもそれが楽しかった。
部員の皆と時には真剣に、休憩の時は和気あいあいとしながら過ごすあの空気というか空間が居心地良くて。
そんな中学校生活の日々を過ごしていた、ある秋の日。
そういえば最近生理来てないなぁって、思い出したのが切っ掛け。
私くらいの年齢だと生理は始まってる子もいれば、まだの子もいた。
そして始まってても周期がまだしっかりと安定しきってなかったりで不安定になる事も多いから、この時はまだ来てないな位で余り気にしてなかったんだよね。
そして月日は進んで冬になり年も明け、学校も3学期が始まって暫く経過したある日の朝。
着替えをしている時に、再び生理がないなって思い出したんだよね。
そういえば前も確かそんな事を思ったよなって思い出して、今回はきちんと思い返して考えてみる。
確か······秋の時に1度来ないなって思って······1学期の時は来てたから·····とブツブツと呟く。
すると夏休みから?いや、8月はあった様な気がするから9月?になってから来てない?って結論に。
でも正直に言って、正確には思い出せなかった。
一応カレンダーには印を付け、次はいつ頃に来るかもって目安はつけてるけど。
目安を分かるようにして近くなってからナプキンをあてとけばいつ来ても安心で、来なければ来ないで無駄にはなるけど汚したりハラハラしたりするよりはマシだからね。
だけどそのカレンダーも、もう既に捲って処分しちゃってるから分からないんだよね。
さすがにこれだけ長期間来ないと変だよね?と思い、ふと目線は私のお腹へ移った。
少し太ったかな?って思ってたこのお腹······もしかして······?
いやいやいや!
でもでも、私、そんなことしてないよ?
保険の授業で習ったから仕組みとしては理解してる。それには相手の、男の人が絶対に必要であることも。
男の人とどういう事をして妊娠と言うプロセスを辿るのか、習った時に女の子同士でちょっと盛り上がった事もあったし。
まぁ、それを経験した子は流石にまだ誰もいないみたいで詳細は分からなかったけど······。
一度意識しちゃうと私は怖くなってしまった。
記憶に全く該当しないあり得ない今の状態。
13歳で中学生の私。お腹には子供??
もちろんそうと決まった訳では無い。ただ単に生理が遅れてて私が太っただけなのかもしれない。
だって私は今、成長期だからね。そういう可能性もある。
でももし、妊娠だったら親や、学校にはなんて?どうしたらいいの??
怖くて怖くて、不安でいっぱいになった私はベットに潜り込んだ。
暫くして下に降りてこない私を不思議に思ったお母さんがやってきて、「どうしたの?」って声をかけてくれた。
「なんか具合悪くて、今日休んでもいい?」
って、小さな声でそう返事をするのが精一杯で······。
そうしたら一瞬驚いた表情をしたお母さん。
「学校には連絡しとくから、ゆっくり休んでいいよ。」
疑うことも無く、そう言ってくれた。
ありかとう、お母さん。
めったに体調不良を起こさない私が、いきなり休んでもいい?だから、驚いたよね。ごめんね。
コンコン♪
軽く休んでたら扉がノックされてお母さんが顔を出した。
「仕事に行ってくるけど、熱とかどう?ありそう??」
「大丈夫だよ、ありがとう。」
「そう······。キッチンの棚にゼリー飲料と和室にスポーツドリンク置いてあるから食べれるなら食べていいからね?
それと、仕事行ってくるから何かあったら連絡しなさいね。何もなければ3時過ぎくらいには戻るから。」
「うん。」
そう言ってパートのお仕事に出かけて行ったお母さん。
急に仕事は休めないから仕方ないよね。
それに私も休むとは言っても、本当に体調が悪いという訳でもないし。
どちらかと言えば精神面で不安になってるだけだから······。
しーんと静まり返った自宅。
リビングに降りてきて、おもむろにテレビをつけてみる。局のアナウンサーさんとタレントさんが東京に出来た話題のスポットやグルメなんかを紹介してた。
こんな時間にここでテレビを見ることがないから、新鮮ではあるけれど全然頭に入ってこないや。
時計を見てみると午前11時ちょっと。
今は理科の時間か······。理科好きなんだけどなぁ。
植物関係と宇宙や星とかの分野。未だに人の手で解明できていない謎だらけの世界とかが惹かれるんだよね。科学も意外と面白いし。
受けたかったな、授業······。
授業の事を考えてたら今度はクラスの様子を想像しだしちゃって。
今、みんなきちんと聴いてるのかなー?とか、もう少しで給食か〜とか、サボっちゃったな〜とかって思ってると、ふいにお腹に手が添えてる事に気が付きました。
まだ何も分からないけど、ここに小さな命があるのだろうか?
居ない確率のほうが高いのに自然と手が動く。
すりすり、さわさわしながらこちらの事も考えないといけないよね。
どうしようか??
とりあえず、病院に行って検査は受けないと始まらないし駄目だよね?
結果、なんにもなくて本当に遅れてるだけなら安心だし。
でもそれをするには私一人では行けない。
保険書もお母さんが持ってるし、お金も足りないかもしれない。
病院だって遠いしお母さんに訳を話して、連れて行って貰わないといけないから。
話すの、怖いな·····。
なんて言われるんだろう?
怒られる?この不良娘がっ!とかって怒鳴られたり泣かれたりするのかな?
何かの作品で見た、私くらいの歳の子供に赤ちゃんが出来るシーンて修羅場になるんだよね?
相手の男の子とその両親が相手の娘さんの家に来て土下座の平謝り。娘のお父さんが「よくもうちの娘をキズ物にしてくれたな!」て、怒鳴ったりしてさ。
私には見に覚えがないから、逆にそれはそれで問題になりそうな予感がするし。
後は堕ろす堕ろさないで一悶着あったりで。
堕ろすってことは赤ちゃんを殺すってことことだよね。
嫌だな、それは。
なんの罪もない子に、陽の光も見せてあげられないというのは······。
居るのかも分からない、お腹を撫でる。
居るのだったら産みたいな、とは思う。私の子供だもん。
でも私はまだ子供で中学生で、稼ぎも当然ない。
お父さんとお母さんに養って貰ってる身なのです。
とてもじゃないけど、私の力だけじゃ育てられないのは理解してる。
よく考えないといけないと思う。
産んだら親になり責任も発生し、きちんと育てないといけない。
途中で子育て辞めただなんて、放棄することは許されない。
だけども堕ろしたら堕ろしたらで、その事を一生後悔する気がする。
·······やっぱりお母さんに訳を話して、病院に連れて行って貰おう。
そう決断した。
だけどお母さんが帰ってきて、いざ話をしようとすると声が出ない。
ずるずると時間だけが過ぎて、晩ごはんの時間になって。
食欲も余り湧かなくて、静かにちびちび食べてたらお父さんと葵に心配された。
「このははどうしたんだ?具合でも悪いのか?」
そう聞かれても答えられずにいた。
だって······実際に悪いわけではないし、どちらかというと精神面的なものだから。
それにお父さんには話せないよ。
お母さんにすら話せなくて、躊躇ってしまってる状態なんだから·······。
「今日具合悪いみたいで学校休んだのよ。このは、無理して食べなくていいから、早めに寝なさい。」
「うん······。そうするね。ごちそうさまでした。」
お母さんがフォローしてくれた。
それでお父さんも納得してくれて、それ以上は何も言われなかったよ。
ありがとう、お母さん。
言葉に従ってリビングを後にして、歯みがきをしてから自室に戻る。
部屋に明かりをつけるのも忘れて、横になってたらいつの間にか寝てしまってた。
スマホで確認すると11時半すぎ。
もう葵は寝てる時間で、お母さん達も多分お風呂に入り終わって寛いでる頃かな?と思う。
······今かな?
お母さんにスマホで連絡を送る。
お母さん、起きてる?>>
暫くしてお母さんから返信が来た。
>>起きてるよ?どうしたの?
お父さんは寝ちゃった?>>
寝てるといいな。まだお父さんには話したくないから。
>>寝てるよ
······良かった。
勇気を出して最後の一文を書く。あと一押し。送信ボタンだけ。
手が震える。怖い。怖い。
だけど、今ここで言えなかったら多分もう言えない。
目をギュッと閉じで、送信ボタンをタップした。
話ししたい事があるんたけど、部屋に来てくれるかな?<<
あぁ······。押しちゃった······。
もうこれで後には引けなくなった。
程なくして既読マークが付いた。
お母さんがこちらに来る足音がする。
長いようで短い時間に、一生懸命何をどう話すか必死に考える······。
上手く伝えられるのだろうか?怒られるのかな?
それとも······??
朝から始まった私の長い1日。
その最後の大一番が、直に始まる······。