ある日の夜① 高1(挿絵有り)
茜ちゃんが倒れた騒動から数日後の、ある日の夜。
し〜〜んと静まり返った夜の自室に、雪ちゃんの寝息と私がペンを走らせる音だけが響く。
私は今、自室のテーブルに向かって勉強をしています。
時間は午後9時少し前。
いつものように雪ちゃんを寝かしつけて、ここらから2時間少しの間が私専用の時間です。
朝起きてアレコレして、学校に行って、帰ってきてから晩御飯を作ったり雪ちゃんと遊んだりお風呂に入れたりと色々やることは沢山ある。
別にそれが嫌じゃないよ?
それが私の日常で、それはそれで充実してるし楽しいからね。
でも、この2時間少しの私専用の時間はそれとは別にやっぱり嬉しいと感じる。
だって好きな事ができるからね。
ヒーリングミュージックでもかけて、雪ちゃんの寝顔をただ眺めてるのも良いし、本を読んだりするのもいい。
軽いストレッチをやるのもね。
ちょっと前の時期は雪ちゃん関係であれこれやってた時もあったけど、今は特になく落ち着いている。
おそらく来年の正月くらいまでは大丈夫かな?
逆に言うと1年後の今頃は、小学校入学前という事で色々とやることが増えるけどね。
特に用品を揃えてからの名前書き。
幼稚園の時もそうだったけど、全部の物に名前を書かないといけないからね。
鉛筆1本から算数で使うおはじきセットのおはじき等。
物の大小に関係なく持ち物全てだから、小さいのはとにかく大変····=·。
まぁ、それはあと1年後だからとりあえず置いといて、今この自由時間にやるのは勉強です。
それもかなり本格的なやつ。
元々私は勉強するのが好きだったから、やることには問題ないんだけど、切っ掛けがまた突然だったからね。
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切っ掛けは、先日の茜ちゃんが倒れた日のお昼休み。
倒れた茜ちゃんの様子を担任の高橋先生に伝えるべく、職員室へ行った時の事だった。
私があえて伝えなくてもまず間違いなく、当時担当してた国語の先生や養護の先生から連絡は来てる筈だけど、それでもと思って伝えることにしたんだよね。
他にももう1つ、目的もあったけど。
「高橋先生、休憩中にすみません。今大丈夫ですか?茜ちゃんの事で伝えに来たのですが······。」
「ん?あぁ、鈴宮か···。『あの時は任せちゃって悪かったな。感謝してるよ』って国語の先生から言伝を貰ってるよ。改めて俺からもありがとうな。」
「いえいえ、とんでもないです。私も心配でしたから。それで様子なんですけど、貧血と疲労じゃないかと言う事です。」
保健の先生の見解を伝えます。
私もその辺りかな?とは思ってはいたけれど。
「ああ、それは俺も先生に確認したから大丈夫だよ。わざわざ伝えにまで来てくれて本当にありがとうな。」
やっぱり先生も確認してましたか。さすがです。
話がサクッと終わったので、本題を伝えるとしましょう。
どこまで聞き入れて貰えるか、望みは薄いですけどね。
「で、先生。実は先生にお願いしたい事がありまして······。」
と、声のトーンをかなり抑えて周りの先生に聞こえないようにコソコソと話します。
「あ、待て。場所を変えるか。他の先生方に聞かれると不味い話だろ?」
こくこくと頷く私。
先生も察してくれたのか、トーンを抑えて答えてくれました。
で、高橋先生に案内されて向かった先は放送室でした。
今のお昼休みは基本使わないし、そんなに広い部屋でもないから話すのにはいいかも······。
機材の所にあった椅子に座って、お互いに向かい合って話を伝えます。
「······という訳で、私としては一緒に学校生活を過ごせるあと2年間、彼女に寄り添ってあげたいなと思ってるんです。なので、進級時にあるクラス替えで茜ちゃんと一緒になれる様に配慮して貰えないかなと、高橋先生にお願いしたく話した次第です。」
「なるほどな〜。諸貫にそういった事情があったとは······。おまけに心のケアか······。」
高橋先生は目を瞑って何やら考えてるみたい。
本来こういうプライベートな事は他人に言ってはいけないんだけど、こればかりは先生に伝えないと始まらないから。
それに私は高橋先生の事をかなり信頼している。
約1年という期間を担任と生徒として接して見てきて、時にはお手伝いを頼まれてやったり、文化祭の時の私への対応とか色々でね。
「分かった、考慮してみる。だけどいいのか?鈴宮の負担になるだろう?」
先生が私を気遣ってくれる。こーゆー所も高橋先生のいい所だよね。
「大丈夫ですよ。基本は今までと変わりません。まぁ多少はスキンシップが増えると思いますけど、私も彼女のこと好きですから力になってあげたいんです。」
「そうか······鈴宮がそれでいいなら構わんよ。ただ学年主任の勅使河原先生には話すぞ。うちは基本的には学年主任が考えて、我々担任と話し合いながら最終的に決めるって流れだから······。ただそれでも一緒になれないかもしれないからな?こそだけは承知してくれ。」
「はい。大丈夫です。ダメ元でお願いしましたから。先生、宜しくお願いします。」
頷いて了承しました。
こっちも無理を承知で頼んでいると理解してるので、もしこれで駄目だとしても文句は言わないよ。
そもそもこういうクラス替えは、どういう基準で決めてるのかは知らないけど、大体生徒側からの要望とかは通らないと思ってる。
余程の理由、例えば◯◯さんに虐められてるから別のクラスにして欲しいとか、問題を起こす生徒が複数いるとか、そういった後々にトラブルや問題になりそうな案件なら考慮はして貰えるかもしれないとは考えてるけど······。
今回の私のお願いした件は、正直言って微妙だと思う。
高橋先生は心のケアと捉えてくれたみたいだけど、クラス替えを決めるという勅使河原先生がどう捉えるかは分からないから。
一介の生徒に何が出来るんだと思われればそれまでだしね······。
これで終わりだなって思ったら、今度は先生の方から何かあるみたいです。
「この話の後に言うのもあれなんだが、また鈴宮にお願いしたいことがあってな······。」
はて?なんでしょう??
「まず、この間の井上先生がお願いした数学の問題な、あれ満点だったよ。凄いな。」
「いえ、とんでもないです。」
あぁ、あれか〜と思い出した。
久々に難しいのをやったから楽しかったけど。
「それでな、その話の流れで英語はどこまで出来るのか?ってなってな。鈴宮は英語も得意だろ??」
「得意かと言われると分かりませんけど、自分なりに努力して覚えましたから······。」
「凄いな······それで学年トップだからなぁ。そんでな、そんな話を英語の蛭川先生と話してたら来年度、2年生から皆、英検を受けるからそれ受けるのと、あと何が1つ検定を受けて貰えないだろうか?となってさ。英検自体は来年度からみんな受ける予定だからいいんだけど、それとは別のに対する試験料なんかは私達が用意して持つから、鈴宮は勉強と試験だけ受けて貰えればいいんだけど······。ちなみに、試験はものにもよるが英検ならまだ半年くらい先だな。」
ふむふむ···。
私的には検定は受けてみたいと思う。
だって元々検定には興味があったから。
自分がどこまで出来るのか?と知りたいのもあるし、仮に受けて合格出来れば就職なんかにも有利で、他の資格なんかもそうだけど持ってて損ということはない。
そして何より今は、夜の時間が空いてるからね。
雪ちゃん絡みのやることなんかも、今は一段落してるからさ。
······やるなら今がチャンスかな。
「先生。是非受けてみたいです。今なら勉強する時間もとれますので。」
「そうか···ありがとう。では早めに色々と用意するからな。······因みに今現在で英検だと何級は合格出来ると予想する?一応この学校は2級合格を目指してはいるけれど、個人差もあるから最初は3級からスタートかな。ちなみに2級だと高卒レベル、準1級だと大学中級レベルらしいが······。ちなにみ公務員試験で加算なんてメリットがあるらしいぞ?」
う〜〜ん···難しい······。数学同様に問題集なんかもやってたから、筆記問題ならいけるんだけどリスニングが試したことがない。
理解して話すことは出来るけど。
「私もちょっと調べてみますけど、とりあえず2級は合格出来るかなとは思います。筆記だけなら。とりあえず筆記だけでも1回試してみますか??」
そんなこんなで、私の英語検定受験が決まったのでした。
まぁ、英検自体はみんなが受けるのは決まってるらしいので、後ほど英語の先生からお知らせはあったけどね。
出来る子は然程反応はしてなかったけど、苦手な子はやはり嫌そうな顔をしてたけど······。
教えて〜って言われたけど、私的には英語は数学と違って難しいんだよね。
英語もとにかく書いて覚えるのは勿論あるけど、リスニングもあるからさ、聴いて覚えるとかそういのが誰に何が合うのか正直難しいんだよね。
とにかく書いて単語や文法を覚える。
聞いて発音や聞き取り能力を高める。
私のやり方はシンプルにそれなんだけど、これが皆に合うかどうかはまた別だしね······。
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そういったやりとりがあって、私はまた本格的に英語の勉強を始めました。
まずは公式ホームページからレベル別の難易度、試験内容を調べて対策をたてる所から。
そうするとやはりというか、出てくる題材はかなり多様なジャンルから出るみたい。
なので、より難しい内容の英文に触れることにした。
ジャンルは問わずに。
そこで思いついたのが新聞だった。
調べてみたら日本でもニューヨーク・タイムズ紙が購読出来るらしいので、お父さんにお願いし頼んだんだよね。
「あの、お父さん?」
「ん?なんだい?このは??」
リビングのソファに座り、ちびちびとお酒を飲みながらテレビを見てたお父さんに私は声をかけたんだ。
「お願いがあるんだけどさ······。」
「おや?このはがお願いとは、これまた珍しいな。」
「そうねぇ······。葵と違ってこのはは、あまりお願い事はしないから確かに珍しいわね。どうしたの??」
お父さんとお母さん、2人に珍しいと言われてしまった。
そんなに珍しいのかな?と思った私。
でもよーく考えて見ると、確かに私はあまりお願い事をしないなと気がついたよ。
学校関連の物はお父さん達が出してくれてるけど、途中であれを買い足すとかっていう事もあまりないからね。
それに私も少なからず収入があるから、私や雪ちゃんの物、例えば衣類だとか幼稚園の用品なんかは私のお金で出してるから。
そう考えると確かに珍しいのかもしれない······。
「えっとね、実はお父さんにニューヨーク・タイムズ紙を購読してほしいの。期間はどのくらいになるかは分からないけど、取り敢えず1年半とかそのくらいの期間かな?」
「ニューヨーク・タイムズ紙!?そんなの読むのか!?」
「なにそれ?」
驚くお父さんとキョトンとするお母さん。
対照的だよねぇ〜。
「ニューヨーク・タイムズ紙ってアメリカの新聞だよ、お母さん。で、これが日本でも購読出来るからお願いしたいんだ。」
「アメリカの新聞······凄いわね······。」
「購読するのはまぁ構わんが、一体どうしたんだ?」
「先生から2年生から英検を毎年受けるって話を聞いて、私が英語を出来るからより上の級を受けてみないか?って言われてるんだ。それでその勉強で使いたいんだよ。」
「確かにこのはは、英語の成績は凄くいいわね。その他も凄いけど······。」
「そんなにか?」
「ええ、凄いわよ! 体育は普通だけどそれ以外、基本の教科なんて全部最高だもの。家事をやって雪ちゃんの面倒をみながらこの成績ってどうやったら取れるの?って思うくらいよ······。」
「それは凄いな······。」
お母さんがべた褒めしてくれてる。
聞いてて何だか照れ臭くなるけど······というか、なんでお父さんは知らない訳?
学期末に貰う成績表諸々はお母さんに渡してるよね?
そこから新学期始めにまた学校へ持ってく訳だけども、お母さんはお父さんに見せてないの?
それともお父さんが、それを忘れてるとか??
そんなまさかと思うけど······お父さんの反応を見てる限り、本当に知らないっぽいな······。
よく分からないけど、謎が1つ増えたよ···。
「そういう事なら全然構わんぞ。頑張って合格を目指せな。」
その一言であっさりと購読をしてくれたお父さん。
そして今はそれを基に勉強中。
目標は毎日のニューヨーク・タイムズ紙をすらすらと読み、理解すること。
まずは読む。声を出せる時は出して。
そうするとやはり知らない単語で引っかかるの。それを書き出し調べて覚えまた読む。
そして書く。頭の中で読み上げながら新聞の記事そのものを。
その繰り返し。
日本の新聞もそうだけど、新聞なだけあって扱うジャンルは様々。
時事、科学や文化、その他日本の新聞では分からない世界の様々な出来事が書いてあるんだよね。
だから言葉を単語を覚えるうえで語彙が偏らないのも良いし、その出来事に対しての知識も同時に得られるから、勉強をするのに凄く良いなと思っちゃった。
そして値段もそんなにしないからリーズナブルだし、内容も毎回変わるから飽きない。
だから覚えるという意味で、新聞はいいなと思う。
車の通る音も殆どしなくなり、周りがすっかり静かになった頃。
1つの部屋に小さな寝息と、カリカリと文字を書く音が響くのでした。
いつもご愛読頂きありがとうございます。
学校のクラス替えについては、実際にどの様にしてるのかは分かりませんが、このはちゃんの学校ではこの様な形で取らせていただきました。
今後とも宜しくお願いします。




