ある日の保健室①-2 高1(挿絵有り)
ーー茜ちゃん 視点ーー
私は、1年3組の諸貫 茜です。
身長は140センチ、クラスで1番小さい······いや、学年でも1番小さいかもしれないです。
そのせいなのかかどうかは分からないけど、皆が可愛がってくれるんだよね。
まぁそれはそれで嬉しいけど、やっぱりちょっと複雑な思いもあるけれど。
でもそんな思いもあるけど、実はいい事もあるんだよ。
それは、私の大好きな鈴宮このはちゃんの事。
このはちゃんは、たまに私をギュとしてくれて抱きしめてくれるんだよね。
私もそれが嬉しくて幸せで、ついギュッと返しちゃうんだけどね。
それに私は小さいから、ギュッとされるとこのはちゃんの胸にジャストフィットするんだよね。
ブラのせいで表面の硬さはあるけどあの豊かで柔らかくていい香りのする胸······小さい私だけの特権。
これが背の小さい私のいい事で、コンプレックスだったこの身長に感謝する日が来るとは思わなかったよ。
それに、クラスメイトの皆もこのはちゃんにギュッとされるのは好きみたいなんだけど、恥ずかしいのか軽くしてもらうくらいなんだよね。
正直、勿体ないと思う。
ただなんでそんなに私がギュッとされたりするのが好きなのか、理由は分かってる。
それは私の家庭環境に影響してるから。
そんな私だけど、今日の授業中に倒れたらしい。
らしいというのは、私にその記憶がないから。
朝は特に変わった感じもなく普通だったんだけどな。もちろん授業中も。
ただ、先生に指されて立ち上がった辺りで記憶がなくなってる。
そして気が付いたら保健室だった。
いや、保健室だったというのも、目が覚めた時は理解してなかったんだよね。
ただあの時は眼の前に居なくなったお母さんがいて、帰って来てくれたんだ!と嬉しくてわんわんと泣いた。
今思い出しても、それはそれは恥ずかしい程に泣いたよね······。
そして落ち着いた頃に良く見たら、それはお母さんではなくてこのはちゃんだったんだ。
これはこれで、またもの凄く恥ずかしかった。
このはちゃんは私が涙でシャツを濡らしちゃったのも気にしないで、私の事をあれこれと心配してくれた。
本当に優しくて面倒見が良くて安心出来る。
まるでお母さんみたいだよねって······お母さんだったね、このはちゃんは。
写真で見せてくれた雪ちゃんって名前の、このはちゃんそっくりな幼稚園児の子供がいるって教えてくれたんだよね。
とっても可愛かったな〜♪
髪の長さと身長以外はこのはちゃんそっくりで、とっても元気そうな女の子。
私もいつかああいう子を持ちたいなって、思っちゃったよね。
話が逸れたね。
目が覚めた私にこのはちゃんが、私の身体の事について色々と聞いてくれて、私はそれに答えていった。
その一連の話の中で、私を保健室に運んでくれたのはなんとこのはちゃんだったと知った。
その後も留守だった保険の先生の代わりに色々と診てくれたみたいで、また迷惑かけちゃったなと落ち込んだら慰めてくれて······。
ほんと、このはちゃんにはお世話になりっぱなしだよね······。
お返しに何が出来ることはないのかなぁ······と、思う私です。
「ねぇ、茜ちゃん。目が覚めた時に私を『お母さん』って呼んでたけど、あれは何?もし言えるなら教えて欲しいのだけど······。」
ああぁぁ〜〜······やっぱり聞かれてたー······。
でも、あれだけ派手に泣きもすれば分かるか。
私は恥ずかしくって一瞬にして顔が赤くなった自覚があるんだけど、意を決してこのはちゃんに伝える事にした。
「あのね、このはちゃん。実は私、お母さんがいないの······。」
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「あのね、このはちゃん。実は私、お母さんがいないの······。」
「お母さんが······いない?······それは···離婚とかで??」
このはちゃんが驚いた感じで聞き返してくる。
まあ、そうだよねと思うけど。
私もそんな事を聞いたら驚くと思うし。
「ううん。······離婚じゃなくて、文字通り。お母さんはね、私が幼稚園に入った頃に事故で亡くなったの。 私には年の離れたお姉ちゃんがいるんたけど、お母さんを亡くした私達姉妹の面倒を見てくれたのがお婆ちゃんでね。不自由は無かったんだけど、その···甘えるってことがどうしても出来なくて······。よその子を見て、お母さんに甘えたりくっついたりして楽しそうにしてるのを、いつもいいなーって子供心に思ってたんだ。」
私は昔を思い出しながら、このはちゃんに語ります。
そんなこのはちゃんは、私の隣のベットに腰掛けながら静かに聞いててくれる。
「大きくなって、お姉ちゃんが結婚して家を出て行って。それでも近所に住んでるから直ぐに会いにも行けて、行ったりもするんだけどさ。赤ちゃんが産まれて子育てをしてるのを見てると、やっぱりいいな〜って思うのと淋しくなるのがどうしても抑えきれなくて······。帰ってから部屋で泣くの······。『お母さん、どうしていなくなっちゃったの?』って······。
お母さんが亡くなったのが幼稚園入って直ぐくらいだから、私には殆ど記憶がなくてさ。ちゃんと覚えてるのは入園式で並んで撮ったっな〜って事だけ。顔も殆ど覚えてないし······写真も私の場合は殆どなくて······。」
そう。
お母さんは私がうんと小さい時に亡くなったせいで、記憶にもないの。
細かく言うと幼稚園の入園式で並んで撮ったな、という記憶はある。あるけど、ほんとそれだけ。
お母さんの顔も思い出せない。声も。当然甘えた様な記憶も······。
物心つく前なら抱きしめられたりとか、一緒に寝たりとかあっただろうけど、物心つく前だから当然記憶にはなくて。
写真だって僅か3〜4年だからあまりないし、あっても大半は私1人で写ってるか、お姉ちゃんと一緒の写真。
お母さんと一緒に写ってるのなんて、先程の幼稚園のを入れてほんの数枚のみ······。
「そんな時に出会ったのが、このはちゃんなの。最初は背が高くてスタイル良くて綺麗だなって思ってただけなんだけどね。いつだったか、初めてギュッとしてくれた時に凄い衝撃を受けてね。温かく包みこんでくれる安心感とか、そういうのを何故か感じちゃって······。このはちゃんは赤の他人なのに、お母さんみたく感じるのは変だよ気の所為だよって、自分に言い聞かせてたんだけど、実際にこのはちゃんがお母さんをしてるって知ったら、もう気持ちが抑えきれなくて······。抱きついたらつい甘える様になっちゃったの。ごめんなさい······。」
「でもね。そんな私をこのはちゃんは受け入れてくれて優しくしてくれて、本当に嬉しかったの。暴走しちゃった時もあったけど、このはちゃんに抱きしめて貰うたびに淋しかった私の心が癒やされてく感じがして、お母さんがいたらこんな感じだったのかな?って自分勝手だけどこのはちゃんとお母さんを重ねちゃって······その···イヤだよね、全然関係ないのに······。今日だって保健室まで運んでくれて、お世話までしてくれて······迷惑ばかりかけてる······。本当にごめんなさい···もう抱きつかないから···嫌いにならないで·····。」
あぁ···言っちゃった······。
涙をぼろぼろ流しながら、最後はただ単純に私の想いをこのはちゃんに伝えた。
この涙はお母さんを思い出したのでなく、このはちゃんに嫌われたくない、ただそれだけの思いで出てきたもの。
自分勝手だけど、やっと見つけた私の心を癒やして満たしてくれる人。
同性だけど、そんなのは関係ない。
あと高校2年間しか一緒に過ごせないけど、それでも一緒にいたい。
故に嫌いになってほしくなくて、懇願してしまった······。
ギシ···。
ギュッ。
温かい温もりと不思議と安らぐいい香り。
それが私の前に広がる······。
涙を流していると今まで静かに聞いていてくれたこのはちゃんが、隣に来て私を抱きしめてくれてた。
「大丈夫だよ、茜ちゃん。嫌いになんてならないから。」
「······本当??」
「うん、本当だよ。私は······母親としての立場から言うとさ、今、私が居なくなると雪ちゃんにすごく悲しくて辛い思いをさせるって想像が出来るもの。だからきっと茜ちゃんのお母さんも突然だったとはいえ、さぞ無念だったと思うって思うよ······。そしてその辛い思いを娘の茜ちゃんに経験させちゃって申し訳ないなって思ってると私は思う。そしてそんな思いを茜ちゃんはして来たわけだしね。辛かったよね。淋しかったよね。甘えたい盛りの時にお母さんがいないってさ······。」
私の気持ちを理解してくれるような、そんなこのはちゃんが嬉しくて抱きしめ返す私。
なんでこの人はこんなに優しいのだろう?
いくら母親をしてるからって言ってもさ······。
でも······だからかな?
そんなこのはちゃんだから、私は惹かれたんだと思う。
好きになったんだと思う。
「淋しくなったり、辛くなった時は来てもいいからね。それにLI◯Eとかでもいいし。まぁ、時と場所は考えてくれれば構わないからさ。」
「うん、ありがとう······。」
「それと正直に言うと私、茜ちゃんを結構好きなんだよね。小さくて可愛いし。それに雪ちゃんをちょっと大きくした感じがしてさ。だから、全然嫌じゃないからね。」
!!??
このはちゃんが私を好き!??
······あぁ、ダメだ。
色んな事が起き過ぎて頭がクラクラするよ······。
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話が一段落ついた頃を見計らって、茜ちゃんには寝てもらった。
いや、寝かしつけたんだけど。
精神が高揚したり消沈したりで寝れるかな?とは思ったけど、今日のみた感じで雪ちゃんと同じような対応でいけるかな?とやってみたら寝てくれた。
まぁ要は一緒に寄り添って、頭を撫でてあげたてただけなんだけどね。
そして毛布も勿論かけてあげたよ。
保健室の中は暖房が効いてて暖かいけど、念のためにね。
それに当初はこんな長話をするつもりはなかったんだけど、なりゆき上仕方ないよね。
まさか茜ちゃんに、この様な出来事があったとは思わなかったけどさ······。
当時は分からなくても大きくなれば否が応でも理解するし、辛くなる。
それはうちの雪ちゃんにも当てはまる訳で······。
茜ちゃんは好きだから、出来るだけ手を差し伸べてあげたいと思う。
それが私の自己満足であったとしても。
それに、一緒の空間で過ごせるのもあと2年。
卒業後も友達として付き合えても、会えるのはそんなに多くないからね。
だからそれまでに茜ちゃんの心を満たしてあげられたらな、と思う······。
茜ちゃんの寝顔を見つめながら待つこと少し。
ガラガラガラガラ···
「待たせちゃってごめんなさいね。それでどういった状態なのかしら?」
やっと養護の先生が来てくれました。
もぅ〜···何の用で席を外してたのか知らないけど、ちょっと遅いですよ、先生?
そんな事は顔にも出さず、私は教室で倒れた事、保健室で軽く診察して本人からも確認した事を説明しました。
「···なるほど······。そうすると貧血かしら······。後は疲れ的なものも出たのかな?頭部ももう少しよく見て場合によっては病院にも連れて行くわ。本当に診てくれてありがとうね。よく観察してくれたからとても助かったわ。」
その後、茜ちゃんの事を先生にお願いして私は教室に戻りました。
「「「「どうだった?」」」」
「このはちゃん、茜は無事?」
「貧血と疲労じゃないかって。それだから心配ないよって、先生が言ってたよ。それに一度目を覚ましてくれたし、今はまた眠って貰ってるからね。」
帰って早速、みんなから茜ちゃんの容体について聞かれて。
それについて先生の見解を伝えて、みんなを安心させます。
勿論、茜ちゃんのプライベートな話は伏せてね。
やっぱり茜ちゃん、みんなからも慕われてる。
小さくて可愛いから妹みたいだとか、まぁ色々と思うことはあるけれど、総じて守ってあげたくなる、そんな子なんだよね。
―お昼休み―
お昼ご飯を食べた私は職員室へと向かいます。
理由は高橋先生に茜ちゃんの事を報告しに行くこと。
まぁ、もう知ってる可能性の方が大きいけれど、それでも一応ね。
あともう一つあるけれど、これは望み薄いかな······。
それでも少しでも可能性があればと、考慮して貰えればなと思い伝えることにする。
ガラガラガラ···。
「失礼します。」
職員室の扉を開け先生方の注目を集めながら、もう既に把握済みの高橋先生のデスクへと向かいます。
「高橋先生、茜ちゃんの事で伝えたいことがあるのですが······。」
どうなるかは誰にも分からない。
でも、少しでも良い方向に持っていければなと切実に願う。
大切な可愛い友人の為に······。




