ある日のバレンタイン①-2 高1(挿絵有り)
「教科書とノートも入れた。チョコももちろん入れた。うん、忘れ物は無いね。」
昨夜のうちに確認はしたけれど、自宅を出る前に改めて確認をします。
普段、教科書やノート類を入れてる薄型のカバン以外に、今日本来は持って行く必要のないスポーツバックにチョコを入れて持って行く事にした私。
それ以外の袋とかで持って行くと如何にもって感じだから。
一通り確認した後に、玄関で雪ちゃんといつものやり取りをして学校へ向かいます。
寒いけれど、雪ちゃんパワーを充電したので元気満タンです!
「おはよー♪」
「あ!このはちゃん、おはよー。」
「「「「おはよー、このはちゃん」」」」
いつものように、扉を開けてみんなに挨拶。
これもかれこれ1年近くになってくると、見慣れた光景だよね。
私が登校して来るのがクラスの中でほぼ最後だし、それ故にみんなが一斉に挨拶を返してくれるというお馴染みの光景が。
それで手さげ鞄は机の脇に、スポーツバックは後ろのロッカーにしまってから先生が来るまで話をして。
いつもはそんな感じなんだけど、今朝は違った。
特に男の子がなんとなくソワソワしてる。
もちろん理由は察してるけどね。
「このはちゃ〜ん♪」
「ん?」
私の名前を呼びながらギュッと抱きついて来たのは、大きい雪ちゃんこと茜ちゃん。
毎日って訳じゃないけど、時たま朝に抱きついて来るんだよね。
これももう慣れたもので、慣れって恐ろしいなとつくづく感じる。
でも嫌でも何でもなく、寧ろ嬉しく感じてる自分なんだけね。
ちっちゃくて可愛いのは勿論なんだけど、他の子と違ってグイグイとくっついてくる所が雪ちゃんにそっくりで。
そんなんだから、私もつい甘やかしちゃうんだよ。
ちなみに茜ちゃんは、以前の暴走?して私がちょっと怒った後からは頑張って自分を律してる。
まぁあの時は嬉しくてつい、みたいな感じだったらしいから、もうそうそう起こらないと思ってはいるんだけどね。
「あのねあのね、このはちゃん!今日、チョコ持ってきたから受け取って欲しいの。」
「わぁ! ありがとう。嬉しいな。後で美味しく頂くね♪」
「うん!私の手作りだから!!」
パアァァァ〜っと背後にお花畑が浮き出るような笑顔で、嬉しそうに喜ぶ茜ちゃん。
何これ? 凄い可愛いんですけど!?
茜ちゃんってこんな可愛い笑顔が出来るんだって、この時期にして初めて知った瞬間だったよ。
で、それを皮切りに彩ちゃんや志保ちゃんを始め、クラスの女の子達からチョコを頂いたんだよね。
もちろんありがたく後で美味しく頂くけれど、これだけ量があると食べ切るには数ヶ月かかっちゃうね。
でも、みんなの気持ちが籠もってるからちゃんと食べるよ。安心してね。
落ちついた後は私の番。
「私もみんなに用意してきたから受け取って欲しいな。」
「ほんと!?」
「「ヤッター!!」」
「嬉しいよ〜」
って、まだ渡してないのにもう喜んでくれてる。
「でもね、もう時間もないからお昼休み入ってからでいいかな?男の子達の分もあるから直ぐに購買とか行かないでね。行っちゃったらナシだからねー?」
「うおぉおマジで!?」
「やったー!」
「今日休まなくて良かったぜ!」
「購買全然待ちます!」
なんて、こっちもこっちで凄く喜んでくれた。
教室入ったときから、ソワソワしてたから予想はついてたんたけどさ。
私もみんなから貰って嬉しかったし、男の子なら尚更なのかな。
義理でも何でも、女の子から貰えるというのは。
ーーある女子高生 視点ーー
今日はバレンタインデー。
昔、お菓子メーカーが広めたんだか何だかで始まったらしい、チョコを好きな人に渡すイベントの日。
今は自分へのご褒美として高級チョコを買って食べる人もいるらしいけど、私はそこまではしない。
そもそもそこまでお小遣いがあるわけでもないから······。
そんな私でも、好きな人に渡すチョコレートは用意した。
お店で吟味して、少しいいやつを。
そのお相手はクラスメイトの鈴宮このはちゃん。
とってもとっても綺麗で美人で頭も良くて面倒見も良く優しい。
みんなから慕われてるお姉様。
私にはお姉ちゃんはいないけど、こんなお姉ちゃんが欲しかったなーって、このはちゃんと出逢ってからよく思ってる。
そんなこのはちゃんにチョコを渡す一大ミッションのある今日。
教室の中はソワソワしてた。主に男子が(笑)
義理でも貰えるのを期待してるのかな?私は用意してないけどさ。
ちなにみクラスの女子みんなの分は勿論用意したよ。
私達とっても仲良しだからね!
暫く話をしてるとお目当てのこのはちゃんが登校して、そこへ茜ちゃんが突撃してた。
相変わらずだよね、あの子は。
でもそこがまた、あの子の良いところでもあるのかな?
怖いもの知らずというのか、よく分からないけど茜ちゃんはよくこのはちゃんに抱きつく。
私も抱きつきたいけど、恥ずかしくって自分からじゃ無理だよ······。
でもそんな茜ちゃんに抱きつかれてるこのはちゃんも、嬉しそうにしてるからまた不思議。
ちなみにこのはちゃんが、以前に茜ちゃんに怒った時はちょっと怖かった。
普段女神様なこのはちゃんが······って思ったけど、告白を覗いてバレた友達曰く、あれは全然怖くないって言ってたんだよねー。
バレた時のこのはちゃんの方が、凄く怖くて震えたって言ってたから···。
一体どんなこのはちゃんを見たんだろう?と思うけど、私はこのはちゃんを怒らせる気はこれっぽっちもない。
このはちゃんに限らずそうだけど、笑顔がいいに決まってるし。
それに優しい人ほど本気で怒ると怖いとも言うしね。
さて、このはちゃんに突撃してた茜ちゃんが、勢いそのままにチョコを渡してた。
「わぁ! ありがとう。嬉しいな。後で美味しく頂くね♪」
そう言って、嬉しそうに受け取るこのはちゃん。
受け取って貰えたのを見て、凄い嬉しそうな笑顔になる茜ちゃん。
うわっ!
茜ちゃんって、あんな笑顔出来るんだ。
初めて知ったけど、本当に超可愛い笑顔だよー。
茜ちゃんって私達の前だとごく普通なんだけど、このはちゃんの前になると感情がよく表面に現れるんだよね。特に嬉しいって感じの感情がさ。
それが今はいつにも増して輝いてる。
あ〜これ、絶対に人気が出るやつだわ······。
そう感じた私だった。
で、その茜ちゃんがチョコを渡しを見て、みんながこのはちゃんにチョコを渡しに行ってた。
私もその流れに乗って渡しに行ったんだけどね。
本当はこっそり渡したかったんだけど、このはちゃんは人気者だから多分そんな時間はないだろうし、放課後も雪ちゃんを迎えに行くみたいで忙しく帰るからさ。
まあでも、無事渡せて一安心だよ。
お昼休み。
4時間目の終わり際から、男子がソワソワしてたのは見てて面白かった。
授業を担当してた事情を知らない先生でも、気付くくらいだからね。
その、原因はこれ。
「日頃の感謝を込めて、みんなにチョコを用意しました。なので1人1個貰っていってください。」
そう言って、机の上に置いたスポーツバックを開けるこのはちゃん。
スポーツバックはこれの為だったんだね。
今朝、体育もないのにスポーツバックを持参してたから、あれ?とは思ってたんだけどさ。
みんなで規則正しく並んで、チョコを頂いていきます。
凄くワクワクするよ。
「チョコ頂くね、このはちゃん。ありがとう♪」
「はい、どうぞ。あ、みんな、まだ開けないでねー。」
と、このはちゃん。
なんだろ?とは思ったけど、私は頂いたチョコをまじまじと眺める。
手のひらに乗るサイズの可愛いデザインのラッピング袋。
口はカラーのリボンで丁寧に結んであって、私のは黄色のリボンだった。
そんな風に感想を持ってると、最後の子に渡ったみたいだね。
最後は志保ちゃんか。
「あれ?このはちゃん、1個余ってるよ?」
「ああ。これは高橋先生用だからいいの。」
さすがこのはちゃん。まさか先生にも用意するとは流石だよね。
私も皆には用意したけど(女子限定)、高橋先生まで用意しようとは思わなかったよ。
高橋先生のこと嫌いじゃない、寧ろ担任としては良い方だけどそれでもね······。
「みんな受け取ったかなー?」
「うん!」
「大丈夫〜。」
「「「はーーい。」」」
受け取りの確認をするこのはちゃん。
でもそれからがまた、楽しい事の始まりだった。
「義理だけど、私の手作りだからお口に合うといいんたけど、不味かったらゴメンね。」
「「「おぉー!」」」
「やったー!」
「不味くたって、喜んで食べるからねーー!」
一斉に喜ぶ皆。
まさか義理でも手作りとは思わなかったから、私も嬉しい♪
そしてすごいなーって、手に持つラッピング袋を見ながらそう思う。
だって手づくりって事は、こういう袋とかも用意したって事だよね?
それもクラスの皆の分ってなると、手間だって掛かって大変だと思うのに······。
「あとね、みんなに渡したチョコに1つだけ当たりがあるから、当たるといいね♪ ちなみにこれは、袋を開けてみれば直ぐに分かるようにしてあるから。
じゃあ、私ちょっと高橋先生のとこに行ってくるから、みんな、先にお昼ごはん食べててね。」
そう言って教室を出ていくこのはちゃん。
このはちゃんの去った教室で。
「ねぇねぇ、当たりだってよ?」
「なんだろね?しかも手作りだって!勿体なくて食べられないんだけどー?!」
「とりあえず、開けてみようよ!あ、男子も中身みんなに見せてね!!」
「先に食べちゃうなよーー!」
わいわいキャーキャー言いながら、それぞれ頂いた袋を開けます。
開けて取り出してみると、そこには型に入った2〜3口サイズくらいのチョコが入っていた。
表面というか上部には可愛くデコレーションされてて、これだけでも手づくりって思わせてくれるチョコレートだった。
可愛い♪
それが第一印象だった。
そのあとは男子も女子も皆で集まってお互いの選んだチョコを見せ合います。
当たりとはどんな物のか?誰がGETしたのか?
だけども······。
「あれ??みんな差があるにせよ、同じようなデザイン?」
「だなぁ〜」
「そうだね···。」
「このはちゃん、開ければ直ぐに分かるって言ってたよね?」
「「「うんうん」」」
皆で不思議がる私達。
このはちゃんすぐに分かるって言ってたのに、皆ほとんど大差がなったんだよね。
このはちゃんが嘘をつくとは思えないし、何か勘違いしてるのか忘れてるのか······。
そんな時だった。
「あっ!もしかして!?」
と、美紅ちゃんから声が上がったんだ。
「なになに!?」
「どうした!?何か分かったのか!??」
そして一斉に美紅ちゃんに注目が集まる。
それもそうかな。
今まで分からなくて悩んでたところに、何かを発見したかの様な発言だったから。
「もしかしてもしかすると、最後の1個。あれが当たりだったんじゃない?!」
「「「「まさか!!?」」」」
「「「「うそーー!!??」」」」
まさか!?と思った私。
でもでも、あれだけしっかりとみんなそれぞれのチョコを確認して、なかったんだからそう考えるのが妥当なのかな??
そうすると、最後の1個って······あれ???
「じゃあ、なに? 私、1/3を外した訳!?凹むんですけど······。」
「それ言ったら私なんて、1/2だよ! 1/2!! あと一歩で大当たりだったのに······自分の運の無さに超ショックなんですけどー!?」
そう言うのは委員長の志保ちゃん。
たかが1個のチョコでと思わなくもないけど、私も出来るなら当たりが欲しかったから気持ちは分かるよ。
私は真ん中辺で頂いたから確率的には低い方だけど、1/2や1/3は確かに悔やむよねー······。
どんだけ運がないのかと。
『残り物には福がある』
そんな言葉があるけれど、本当にそうだったね。
高橋先生♪
1年3組。今日みんな仲良く平和です。
ーーーーーーーー
「あれ?······茜ちゃん、外れちゃったけど大丈夫??」
私は気になって茜ちゃんに声をかけてみた。
あれだけこのはちゃんに夢中になってるから、ちょっと心配だったんだよね。
「うん。大丈夫だよ? 外れたのは残念だけど、これもこのはちゃんの手作りなのは変わらないからね。だからそれを貰えただけでも嬉しいんだ♪」
キラッキラに目を輝かせて、嬉しそうにチョコを抱えてる茜ちゃん。
あー······これは相当だわ。
確かにこのはちゃんの魅力は凄い。
人を惹きつけるその姿、一緒に過ごせば分かるその性格。
そして一番の謎である、なでなでとハグのあの魅力。
私を含めた皆は、あの魅力の虜になってしまったといっても過言ではない。
そしてその1番の虜になっちゃったのが、眼の前にいる茜ちゃんなんだろうな、きっと······。
「これね。お家に帰ったら、少しずつ味わって食べようかなって思ってるんだ。本当は取っておきたいけど、いずれは駄目になっちゃうからさ。勿体ないけど仕方ないよね?」
あぁ·····間違いない。
予想が確信になってしまった······。
でも、そんな茜ちゃんはとてつもなく可愛かった······。
バレンタインデー。
クラスの皆は、狂喜乱舞です。
 




