ある日のバレンタイン①-1 高1(挿絵有り)
ふん♪ふふ♪ふ〜ん♪♪
今日というか今の私は気分が高揚してて、楽しくてついノリノリで鼻歌を歌ってる。
何かの曲のメロディって訳でもなく、ただ単にノリで適当に歌ってるだけなんたけどね。
そしてそんな私は、キッチンで作業をしてるのでした。
「あれ?いい香り······。お姉ちゃん、何してるの?」
そんな所にやってきたのは妹の葵だった。
葵はリビングに入ってくるなり鼻をスンスンとして、香りを察したみたい。
換気扇を回してるといっても、全部の匂いとかを回収出来るわけじゃないからね。
そして対面型のキッチンの向こう側、リビング側からヒョコッと顔を覗かせて、そう聞いてきた。
「ほら、これだよ?」
そう言って葵に見せる。
果たして分かるかしら?
「これ?······ああ、チョコレートか〜。」
「そうそう。あったりー♪」
あっさりと見破られてしまった······。
私としてはもうちょっとこれで弄りたかったんだけど、今の季節を考えれば直ぐに分かっちゃうよね。
そう。
私がキッチンで今やってる作業は、近々にあるバレンタインデー用のチョコの用意。
この作業をやってるのが楽しくて、つい鼻歌を歌ってしまったんだよね。
「······何、お姉ちゃん?本命でも出来たの??」
「え!? 何言ってるの葵? 本命の訳ないじゃん。義理だよ義理。」
ほんと、何を言ってるのかしら?この子は。
何がどう転んだって、彼氏なんて者は作りませんよ?
「でも、それって手作りってやつでしょ?義理で手作りって······お姉ちゃんらしいか。」
よく分からないけど、納得したみたい?
でも、『お姉ちゃんらしい』か。
そうかもそれないね。
本命用ならいざ知らず、義理でわざわざ手作りはしないよね。それは私も分かってるし理解してる。
でもさ、意外とこういうの楽しいんだよ。
普段、ご飯は作ってても菓子類って意外と作らないからさ。
理由は簡単で手間とコストかな。
ご飯は毎日食べるものだし、栄養バランスの事もあるから手間が掛かっても美味しいものを作るよ。
当然コスト面も考えながらだけどね。
だけど菓子類は作るものにもよるけど、時間がとにかくかかるのよ。
だから作るとなると休日しか作れないし、専用の道具なんかもいるしね。
まぁ、道具なんて一度買えば壊れるまで使えるけど、毎回その道具を使う菓子類を作る訳にもいかないし······。
なので総合的に考えると、菓子類は買った方がいいという結論になったんだよね。
だけどバレンタインは作っても良いかなと思ったんだ。
家にある普段使ってる道具だけで、基本的には出来るから。
それに、こーゆー機会でもないと作ることもないからね。
「葵はしないの?それこそ本命用とかさ?教えるよ??」
今度は私から仕返しとばかりに聞き返してみました。
「え!? いないよ、そんなの!もう······何を言うかなー?お姉ちゃんはっ!」
おぉ!慌ててる慌ててる。
でもこの感じだと、本当にいない感じみたい。
それはそれでちょっと安心というかホッとするというか······。
まぁ、彼氏彼女なんて急いで作るものでもないと思うからいいのかな?
作った事のない私が言うのも変だけどさ。
それに仮に葵に彼氏が出来て、家に連れてきたらよく見るつもりではいるよ。
可愛い妹の為にね。
意外とお父さんはこういう時、テンパってダメそうな感じがするからさ。
普段はしっかり者のお父さんなんだけど、私や葵の事になるとちょっとね·····。
だからお父さんに代わって、私とお母さんでチェックしてあげる。
雪ちゃん?
雪ちゃんが将来どんな風に育って、どんな子を連れて来るかは分からない。
良い人を連れて来てくれれば嬉しいけど、そうじゃなかったら·····。良い人でも雪ちゃんを泣かせたらただじゃ済まさないからね。うふふふふ·····。
「········」
「ね、ねぇ、お姉ちゃん?何だか凄く怖いんだけど······?」
「え!? ······あら、ごめんね。考え事してたらつい······。」
危ない危ない。
雪ちゃんの事を考えてたら、つい表情に出てしまったみたいだね。
これは気をつけないとだね。
「で、どうする?葵。 作ってみる?」
話を戻して改めて葵に聞いてみた。
「う〜ん·····。一応友達用には用意しちゃったんだよね。そんな数でもないからさ。」
そっか。それは残念。
「ところでお姉ちゃん?こういうのって難しくないの?よく失敗したとかって聞くけど?」
そんな葵の疑問に、う〜ん······と考える。
料理をしない葵からこういう質問が来るのは珍しいな、とは思うけど、この手の事は意外と見聞きしたりするからそうでもないかな?
「これに関してはそこまで難しくないよ。ポイントは1つでチョコを湯煎で溶かすんだけど、その時のお湯の温度くらいかな? 多分そこの調整を間違えるんだと思う。あとは、割れるとか砂糖の分量とかそういうのだと思うけど、これは元々甘いミルクチョコレートを使ってるから砂糖も特に入れる必要もないからね。」
「そうなんだー。」
「うん。それに今回手作りっていっても、溶かして型に流し込むだけだから簡単だよ?あとはそのままラッピングだから、割れるって心配もないしね。」
今はホントに便利だよね。
100均とかでなんでも揃うから、こういったお菓子作りの小物なんかも買えるし。
今回はアルミ箔の小さな型にチョコを流し込んで、上部に軽くデコレーションをしてラッピングして終わり。
型から出すとかって事もしないから、割れたなんて心配もないし楽なんだよ。
「折角だから葵もやってみようよ?どうせチョコと材料は余るからさ。気に入れば千紗ちゃんと夏美ちゃんにあげてもいいんじゃない?チョコを買ったって言ってたけど、それにプラスでもしてあげれば喜ばれそうだよ??」
1度は断られたけど、もう1回誘ってみた。
今度は簡単だよって伝えてからの誘いだから、乗ってくれるかな?
ちょっと考えてる葵。
これはもしかして、いけるかな??
「じゃあ、ちょっとやってみようかな?暇してたしね。」
お!やってみるみたいだね。
やらないと思ってたから、ちょっと嬉しいな。
「じゃ、ちょっと待ってて。もう少しでこっち終わるから。」
そう言いつつ、トレイに並べた型に溶かしたチョコを流し込みます。
数は多いけど型自体は小さいので、そこまでチョコの量は使いません。
少し固まってきたところでデコレーション。
1個1個違った感じにして······こういうのは作る人のセンスが出てくるけど、楽しいよね♪
まー、これは小さいからセンスも余り関係ないのだけど。
「ねぇ、お姉ちゃん?これ、何で1個だけ違うの?」
「これ?」
「そう」
葵が指摘したのは、他のと比べて異様にデコレーションが違うやつ。
あえてコレを作ったんだけどね。
「これは当たりだよ。」
「当たり??」
「うん。みんなに1個ずつ選んで貰うつもりなんだけど、当たりがあるよーって言ったら楽しそうじゃない?それに、ラッピングすれば外からじゃ分からなくなっちゃうし。」
「なるほどね〜。お姉ちゃん、よく考えるね。」
「そお?」
デコレーションを作りながら閃いたことを、やってみただけなんだけどね。
葵に言ったように、ただ渡すだけだとつまらないから。
だったら今みたいなのを作ってあげれば、選ぶ楽しさもあるし開けるワクワク感も同時に味わえるよね?と、閃いたんだよ。
葵と話をしながらも手を動かし、ようやく完成!
あとは冷蔵庫に入れて冷して固まればOKです。
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「お待たせ!! じゃあ、葵もやってみようか。」
はい、コレ。とエプロンを葵に渡してから早速取り掛かります。
「先ずはこの板チョコを手である程度小さくパキパキと割ってから、包丁で細かく刻みます。」
「こう?」と確認しながら割っていく葵。
「そうそう。そうしたら、このキッチンペーパーの上に載せて包丁で刻むの。全部だと多いから何回かに別けて、こういう感じでね。」
包丁を持ってやり方を実践します。
私も葵も聞き手は右手なので、実践の説明は多分大丈夫なハズ。
心配なのは包丁を持つのが初なのかどうかということなんだけど、野菜を切る時みたいに手と包丁が近いとかじゃないから大丈夫かな?
「あ、いい感じだよ。その調子。チョコが散らばって来たら、包丁で中央に寄せてまた刻むって感じ。」
「おっけー。ちょっと怖いけど、これならなんとかやれそ······」
おっかなビックリな手付きだけど、大丈夫でしょう。
野菜とか切ってるわけじゃないから、よほど変な動きをしない限りは指を切ることもないだろうから。
それでも、万が一があるからきちんとは見てますけどね。
3回くらいに別けて刻んで終わりました。
「葵は包丁持つのは初めてだっけ?どうだった?」
「うん。そうだね〜······最初は怖かったけど、ゆっくりやれば大丈夫かな?」
「ならよかった。ゆっくり丁寧にきちんと持ってやれば、そうそう指切ったりとかはしないからね。安心して。」
初めはゆっくり丁寧に。
それを心掛ければ初心者でもそうそう指は切ったりしない。
あとは怖いからって変にビクビクしたりすると、手の動きがブレて切ったりもするからね。
そこを葵にも覚えて貰えれば、今後の料理にも繋がるから。
「料理は彼氏が出来てから〜」
なんて以前に言ってたけど、やり始めたり覚えたりするんなら、出来るだけ早いほうが私はいいと思うんだよね。
世の中どんな順でどんなタイミングで、妊娠とか結婚とか来るか分からないからね。私みたいにさ。
それに料理も一気に上手になる訳でもなく、日々の積み重ねだからね。
「じゃあ、続いてこっちにお湯入れてあるから、ここにチョコの入ったボウルを置いて溶かすよ。お湯の温度は50℃〜55℃ね。ここでよく熱いお湯使うと風味とか飛んで美味しくなくなるの。」
刻んだチョコの入ったボウルをお湯の張ったボウルに置いてもらい、溶け出すまでにその先について説明しときます。
「溶けたら型に流すから、先に選んで並べといて。数はそうだね······こらなら7個くらいかな?あとデコレーションにカラースプレーチョコとピンクしかないけどチョコペンもあるから使ってね。」
「はーい。ありがとうお姉ちゃん。」
そんなこんなでトレーの上に型を並べといて、ヘラを使ってボウルの中のチョコを溶かします。
お湯の温度は問題ないから、ここでのポイントは固まりを残さないこと。
きれいに溶けたのを確認してから型に流し込みます。
「うん、いい感じだよ。これであとはデコレーションをして冷やせばオッケーだからね。終わったら冷蔵庫に入れといて。私は先に洗い物してるから。」
「はーい。ほんと何から何までありがとー。お姉ちゃん、ほんと頼りになるよね。」
「そんなことないよ。それに葵だって、今日初めて作ったのに上手に出来たじゃない。だから自信持ってもいいと思うよ。
それにさ、料理なんかも調味料の量を極端に間違わなければ、そうそう不味いのは出来ないから作ってみてもいいんじゃないかな?
だからまた教えて欲しかったら、いつでも声かけてね。教えてあげるから。そこはお母さんでもいいし。」
「うん。」
そう頷いて、デコレーションに入る葵。
「どうしようかな〜?」
なんて言いながら楽しそうにデコレーションをしてる葵を見つめながら、片付けをする私でした。
このはちゃんと、バレンタインチョコの話




