ちょっと昔の出来事⑤ 18歳(挿絵有り)
「これから1人づつお名前を呼びますので、呼ばれた子は大きな返事をしてくださいね。」
「井澤たくやさん。」
「はーい」
先生が挨拶の中で、お名前呼びについての説明をしてくれました。
それによるとごく普通ではあるけれど、あいうえお順で呼ぶみたいです。
うちは『鈴宮』なので、そこそこ早い順番で呼ばれるのかな?
その間に隣で座ってる雪ちゃんに小さな声で確認をしてみます。
「雪ちゃん。お名前呼ばれたら大きい声でお返事出来るかな?」
そう確認してみると「うん。」と、頷いてくれたので大丈夫みたいです。
一応自宅でも練習はしてたからね。
私だとあまり効果はなさげな気がしたので、お父さんやお母さん、葵に協力して貰らって名前を呼んでもらい、返事を返す練習なんだけどね。
おかげで家族間では上手にできるようにはなったよ。
暫くして。
佐藤りょうた君という名前の子が呼ばれたので、次かな?
「鈴宮 雪さん。」
「は〜〜い!」
あ、来た!
雪ちゃんの名前が呼ばれ、可愛く大きな声で返事をする雪ちゃん。
最初の課題は無事クリア出来ました。
すっかり桜の花びらも散ってしまい、小さな葉桜になっている4月7日の今日。
晴天に恵まれた本日、雪ちゃんは幼稚園に入園いたしました。
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朝。
いつも通り一通りの家事を終わらせたあと、時計を確認してから身支度に入ります。
時間は8時半過ぎ。
予定の時間は9時半から9時50分の間に登園して下さい。とのことなので。
先ずは私自身から整えます。
雪ちゃんはお洋服を着せて髪を整えるだけなので、そんなに時間は掛からないし、万が一汚されても困るので最後です。
部屋着を脱いでから今日の服を着ます。
この日のために買った新着の服。
楽しみだなという気持ちや、大丈夫かな?といった不安の気持ちもありで、複雑な気分。
その後に軽くメイクをして髪を整えて完成です。
ちなみにメイクは普段と変わらず軽め。違うといえばリップをつけるくらいかな?
自分で言うのもなんだけど、まだ私にしっかりしたメイクはいらないと思ってるから、軽めに調整って感じ。
私自身が終わったので残るは本日のメイン、雪ちゃんです。
と、いってもそんなにすることはなく、パジャマを脱がせて着せるだけ。あとは髪の毛を整えて。
「は〜い、雪ちゃん、お洋服頭から被ってね。そうそう·····そうしら次は腕を通して···あぁ〜、そうそう···上手上手♪」
ワンピースタイプだったので少し手伝いつつ、でもなるべくは本人にやらせて。そこのさじ加減が難しいけれど、何事も経験だからね。
着せ終わって確認して。
うん、大丈夫。サイズも問題なし。
あとはリボンを付けてあと1枚、上着はまだ後でもいいや。
「雪ちゃん可愛い〜♡」
まだ完成ではないのに、それでも似合ってて可愛くてママは嬉しいよ。
「まま〜。ゆきにあう〜?」
そう言ってくる雪ちゃん。
ちっちゃくても、やっぱり女の子だね。
「うん!似合う似合う。とっても可愛いよ♪」
頭をナデナデしながらそう伝えて。
雪ちゃんもとても嬉しそうだ。
「じゃあ、お婆ちゃんにも見せに行こっか?」
と、未完成だけど雪ちゃんをお披露目にリビングへ向かいます。
「お母さ〜ん。どう?」
階段を降りリビングに入ると、支度の済んだっぽいお母さんが椅子に座って寛いでいた。
そんなお母さんに声を掛けて雪ちゃんをお披露目です。
「あら!? いいわね! 可愛いわ〜♪ このは、貴女も似合ってるわよ。」
「ありがとう、お母さん。雪ちゃんはあと少しなんだけどね。」
お母さんが雪ちゃんを褒めてくれる。
でしょでしょ?可愛いでしょ?
親バカ丸出しの私。
でも仕方ないよねーと思う。実際に可愛いしさ、それになによりお腹を痛めて産んだ我が子だもんね。
今は昔と違って自分の事を褒められるより、雪ちゃんを褒められる方がもの凄く嬉しく感じるもん。
「ところで、お母さんはもう済んだっぽいかな?」
「ええ、私は大丈夫。いつでも出れるわよ。」
今日の雪ちゃんの入園式にはお母さんも参加予定なんです。
入園式は基本保護者とその園児なんだけど、私達には父親という存在がいないじゃない。
それでその父親の枠が空くので、幼稚園の方に『私のお母さんを参加させてもよろしいでしょうか?』とお願いしたところ、無事了承を頂いて今回お母さんも参加という事になったんだ。
今回雪ちゃんが入園するこの幼稚園、実は私と葵もお世話になった幼稚園なんだ。
だから先生も私と顔見知りだし、お母さんとも当然顔見知り。
だからすんなりと許可を頂けたみたい。まぁ、参加人数的には変わりがないからね。
そしてこの幼稚園は私の地区で昔からあって、地方によくあるお寺さんが運営をやってる幼稚園なんだ。
なのでどことなく懐かしさを感じる作りにもなってたりはするけど、運営自体はその時代に合わせてきちんとやってるよ。
それに園長先生はじめ当時のお世話になった先生も辞めてない限りはまだ在籍してるはずなんだよね。
卒園して10年少しだし。
それなんで知らない幼稚園とかに預けるよりも、こちらの方がより知ってる分安心して預けられるよね。
ただそのせいか、去年幼稚園に行った時に色々とあったよ······。
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去年の秋に入園の関係書類を持って行ったんだよね。
お昼ごはんを食べた後にお昼寝タイムがあるから、その時の方が忙しくないだろうと思って午後にしたんだけどさ。
それがいけなかったのかな?
ベルを押して先生をお呼びして。
「来年度の入園書類を持ってきた者なんですが······。」
「はーい。お待ち下さいね。」
そう伝えて来てくれた先生は知らない先生だったんたけどね。
私を見て結構驚いてたよ。
「あ······外国の方ですか?」って。
「いえ、日本人ですよ?これでも。」
「これは大変失礼しました! あ、こちらへお入り下さい。」
ペコペコと頭を下げる先生。
そんなに気にしなくてもいいのに······なんて思いながらも、私としてはよくあるやり取りをここでもした後に、職員室に案内されたんだよ。
そして職員室に入った瞬間にバレた。
別に隠してた訳ではないけれど。
「このはちゃん!!?」
「うっそー!?えー!懐かしい〜!!」
「あらー!? 大きくなっちゃっても〜······」
職員室にいたお世話になった先生方の第一声がそれ。
それなんで私を職員室に案内してくれた先生は絶賛混乱してた。
え!? え? えぇ!??」
そんな感じでね。
で、何で顔を出しただけで私だって分かったのか聞いてみたんだよね。
先生の話を聞くと毎年沢山の園児を送り出してるけど、私程の特徴のある子はいないから記憶にも残ってて直ぐに分かったんだって。
「懐かしいわ〜」
「園にいた時は可愛かったけど、大きくなったら凄く美しくなったわね〜。」
「ほんとね〜。こんなべっぴんさんになるなんて······うちのお嫁さんに来ない?」
なんて返答にも困るものもあったけど、なんだかんだで昔話しが弾んだよね。
「あれ?そういえば書類持ってきたってことは······子供が??」
「でも、まだ卒園して10年くらいだよね?」
ご尤もな疑問を感じたみたいです。
「はい。今年17歳になりました。で、実は娘が出来まして来年度こちらの園でお世話になれればと思いまして来た次第です。」
「うっそー!?17歳で幼稚園に入る子供!!??」
「じゃあなに?中学生くらいで出産したの?!」
「はい。実は······」
先生方に私と雪ちゃんについて簡単に説明をしました。
理由は分からないけど突然妊娠した、遺伝子検査で父親となる存在が確認できなかった事。
「そう······大変だったのね。」
私の話を聞き終えた先生が、労いの言葉をかけてくれた。
「最初は凄く戸惑いましたけど、産むと決めてからはとても幸せでしたよ。それに毎日が充実してましたから。我が子の為に色んな事を頑張れましたからね。」
「あらぁ〜、なんて素敵な笑顔なのかしら?」
「ほんとね···。」
「それでですね、先生。うちの娘、雪ちゃんなんですけど、その···驚かないで見て欲しいんですけど······」
「え?何々??このはちゃん娘さん?」
「うわっ······すっごく気になるよー。」
「どんな子かしらね?でも、このはちゃんの子供だからきっと可愛いわよ〜。」
そんな謎のテンションで盛り上がる先生方を尻目に、スマホの中から雪ちゃんの写真を表示します。
自分の中で1番のお気に入りを。
驚かないでと伝えても、必ず驚かれるのは分かってはいるんたけどさ。
事前に雪ちゃんの事を知って貰って情報共有した方が、入園後の対応がしやすいと思ったんだよね。
「うわっ!!このはちゃんそっくりー!!」
「ほんとほんと!ちっちゃい時のこのはちゃん、そのまんまよ!懐かしいわー。」
「何これ!?娘と言ってもこんなに似るものなのー???しかも、凄く可愛いし〜♪」
盛り上がる先生達。
懐かしいだの、そっくりだの、可愛いだの。嬉しいのと照れるのと色々だよ。
暫くして先生が落ち着いた頃。
「このはちゃん、安心して。先生達がしっかりフォローしますから。ただ、年少さんの時は子供達の個人差が大きくてね、言葉が話せる子話せない子、感情が上手く伝えられない子。そういう差が大きいからどうしても先に手が出たり噛んじゃったりというのが出るの。
先生達もなるべく注意をして見てはいるけれど、どうしても全部ってわけには、なかなかいかなくてね···。だから、そういう可能性もあるって事を頭の隅にでも入れといてもらえると助かります。」
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そんなやり取りがあって、ただ書類を提出するだけだったのに15分くらい話に捕まってしまったんだよねぇ。
そんな去年の秋の出来事なんだけど、そういう顔見知りなのもありでお母さんも一緒出来たのは良かったよ。
写真撮影とかビデオ撮影は式の時とか1人じゃ無理だし、写真も2人並んでのは撮れないからさ。
だからって初めて会った他の保護者の方にも頼む訳にもいかないし、ほんと助かります。
「さて、そろそろ丁度いい時間ね。行きましょうか。」
「そうだね。行こっか。」
雪ちゃんに最後の上着を着せてあげて準備完了です。
うん!やっぱり可愛い♡
ついギュッとしたくなるのを堪えて、玄関の外で一旦写真撮影です。
雪ちゃん1人で撮って、2人並んで撮って、お母さんと交代して撮影して、そして出発です。
みんなに写真を送るのは帰ってからかな。
今送ってもその後の対応が出来ないからね。
そして、冒頭へ。
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式の後は年少組の教室へ案内されて、教室にある好きな位置の机と椅子に腰掛けます。
学校にある机とかのミニ版だね。これがまたちっちゃくて、凄く可愛いの。
そして後ろには荷物置きのロッカー(扉なしタイプ)もあって、何だか懐かしさを感じます。
ここで改めて担当する先生から「入園おめでとうございます。」との、挨拶から保護者向けではありますが、話が始まりました。
明日からの幼稚園生活についてや、登下校について。
特に下校時間は暫くの間はお昼なしの早めの下校となるので、兄姉が通ってる方は注意してくださいとかね。
「以上で終わりになります。明日からはお兄さんお姉さんも来ますので、楽しい幼稚園生活にしましょう。本日はご入園、誠におめでとうございます。」
そう締めくくり、今日の幼稚園の予定は終わりました。
雪ちゃんも終始静かでいい子に出来たので良かったです。
緊張でもしてたのかな?とも思わなくはないけどね。
帰ろうかなと思った時にお母さんが、車の鍵を渡して来たんだよね。
なんだろ?って思ったよ。
「先生にちょっと挨拶してくるから、車で待ってて。」
そう言って行っちゃったんだ。
園長先生はじめ、お世話になった先生が多数いるからそれかな?
そんな風に考えてたら、また声をかけられたんだ。
「あの〜、すみません。」
「はい?なんでしょう??」
声を掛けられて振り返ると、何名かの保護者の方とそのお子さんがいて、自己紹介をしてくれました。
私も遅れて皆さんに自己紹介をしたんだけど······。
「あの、鈴宮さん···。鈴宮さんは日本の方なんですか?朝、見かけた時から珍しくて綺麗な髪色だったので、外国の方なのかな??思ってまして······。」
あぁ···と思った。
これも初対面の方によく聞かれる事だから。
「はい。こんな姿ですけど、私も娘も日本人ですよ。なので普通に接して貰えると嬉しいです。」
隣りにいる雪ちゃんの頭をなでなでしながら、ニコッと笑顔で答えます。
後ろの方にいたお父さん方から「あっ」とか「可愛い···」とか聞こえたけど大丈夫かな?
···あ···抓られたり足踏まれてる······。
うわっ···痛そう······。
でも、私としては折角のこのチャンスは逃せないんだよね。
日本人は島国でどちらかというと英語が苦手だからか、外国人に対して苦手意識があるじゃない?
英語が苦手だから話しかけられたらどうしようとか、男性の方だとタトゥーがよくあったりで怖いとか。
それが見た目、外国人風な私にも働くみたいなんだよね。
主に言葉絡みの心配みたいなんだけど。
それに今までの経験上、ここで苦手意識とかを持たれると相手の方が話しかけずらくなるというのが過去にあったんだよね。
なのでここは思いっきり明るく元気に笑顔で、日本人をアピールすることにした私。
このお陰か、そのあと少し皆さんと談笑が出来ました。
ちなみにこの手の話になると、私の場合必ず聞かれるのがもう1つあるんだよね。
それは歳の事。
子供っぽさはないと思ってるけど、若いよね?とは思われてるみたい。
実際若いけど、雪ちゃんと一緒だと尚更なんだよね。
「あのー······それとこんな事を聞くのは失礼だとは重々承知してるんですけど、鈴宮さんってかなりお若いですよね?」
うん。やっぱり聞かれた。
私と雪ちゃんだと違和感ありありだからね。
親子というより姉妹にしか見えないし、事情を知らない人は皆そう考えるのが普通だからね。。
「はい。つい先日で18歳になりました。」
「「「ええーー!!?」」」
「うっそー!?若いってレベルじゃないんたけど!?」
「マジで!?」
隠すことでもないので素直に言ったら、やっぱり驚かれたよ。
後ろにいたお父さん方が「女子高生ママさんか〜···」なんて言って、また奥さんに足を踏まれたりしてるけど······。
帰ってから喧嘩とかしないでね?
そんなお父さん方の言葉に皆さん納得されて、それ以上聞かれなかったので私もあえてスルーしたの。
突っ込めば私は高校生をやってないからね。中卒だもん。
でも最近、ちょっと事情が変わってきたんだよね。
雪ちゃんの幼稚園入園が決まってからお母さんに、高校について少し言われてて考えてる最中なんだよね。
通うか通わないか、お母さんとしては今からでも高校に通って欲しいみたいでさ。
う〜〜ん······悩みます。
私としては他の選択肢も考えてはいるんだけどね······。
そんなお話をしてるとお母さんも戻って来て、私がここで話をしてたのが意外だったみたいだけど、帰ることにしました。
私が話をしてる間、雪ちゃんも一緒にいた子と後ろにあった玩具で遊んでたみたいで、これなら仲良くやっていけそうかな?とちょっと気が早いけどそう感じてしまった私です。
これから3年間、雪ちゃんにどんな幼稚園生活がくるのかな?
手を繋いで歩く雪ちゃんを見ながら、楽しく過ごせるといいねと想いながら帰宅するのでした。
雪ちゃんの入園式での出来事。
 




