ある日の授業②-2 高1(挿絵有り)
ーー 井上先生 視点 ーー
「井上先生、終わりましたー。」
「はーい。ありがとう、お疲れ様でした。」
終わったとの声を聞き、鈴宮さんへねぎらいの言葉をかけてから解答用紙を受け取りました。
凄い······ぱっと見だけども回答が埋まってる······。
正解か不正解かはまだ分からないけど、回答が出来てるだけでも凄い事だよ。
そんな鈴宮さんに、ちょっとだけ感想を聞いてみたいと思ってしまったけど、その前に謝らないとね。
「ねぇ、鈴宮さん。私、正直無茶な問題をやらせちゃったなと思ってるの。それと時間の事も······。チャイム前に声をかけるって言ったのに、集中してる鈴宮さんを見たら声を掛けるに掛けられずにお昼休みになってしまったわ。重ね重ね本当に申し訳ないです。ごめんなさいね。」
本当にそう思ってるので、まずはしっかりと謝ります。
いくら教師と生徒という間柄でも、それ以前に人として大切なものがあるから。
「いえいえ。特に問題もないですし大丈夫ですよ。まぁ、最初は何だろう?って思ってましたけど······。」
鈴宮さんは許してくれるみたいです。
ここも以前に高橋先生から聞いていた、鈴宮さんの人柄と一致しますね。
本当に優しいというか大らかというか······。
「それでね、これやってみてどうだった?なんでも構わないから、正直な感想を教えて欲しいのだけど。」
一番聞いてみたかった事を尋ねてみました。
「う〜ん······正直な所、久々の本格的な問題で楽しかったですよ。」
「······楽しかった?」
え!?何言ってるの?この子······。
楽しかったって······これセンター問題だよ?
全く予想だにしてなかった言葉に、混乱する私。
ますます鈴宮さんという子が、分からなくなる。
「えぇ。昔自分で勉強してた時に、難しい問題を解けるようになって嬉しかった気持ちとか、問題を解いていく楽しさって言うのかな?そういう懐かしさとか気持ちを思い出して楽しかったな、と。」
「そうなんだ······。」
「はい。なので先程、井上先生が謝ってくれましたけど、私としては本当に問題ないです。むしろ楽しくさせてもらったので、こちらそこ有意義な時間をありがとうございました。」
大変に悪い事をしたなと思ってたのに、逆にお礼を言われてしまったよ······。
高橋先生を含めて他の先生方も呆気に取られてるし······。
「そ、それと、問題自体はやってみてどうだった?難しかったとか分からなかったとか、そういう意味での。」
「んーと、難しかったとかは特にないですね。引っ掛けっぽい所を気をつけたくらいで。······これってもしかして、センター試験問題だったりします?」
!!!??
うそ······まさか、気付く?!
「そ、そうなの。一応今年、先日行われた大学入学共通テストの問題ね。 鈴宮さん、分かるの?」
「はい。一応、過去問は出来る限りやってましたので。なので、似てるなーと思ってました。」
「それは凄いわね······。あ! もう本当に今日はいいわ。終わったのに引き止めちゃってごめんなさいね。お昼休みにもあと······30分くらいか。少なくなっちゃったけど、ゆっくり食べて休んでね。」
「はい。分かりました。では失礼しますね。先生、お疲れ様でした。」
そう言って涼宮さんは丁寧に私達に頭を下げて、教室に戻って行くのでした。
「はあ〜〜〜······本当に驚いた······。」
どっと疲れが出たみたいな気分になり、椅子に深く座りグテって感じになる。
「高橋センセ〜。彼女、鈴宮さん何者ですか!?今年の大学入学問題が楽しかったとか、難しくなかったとか、問題がセンター試験問題って気付くとか普通じゃないんですけどーー??!」
鈴宮さんの話を聞いてて感じたことを、高橋先生にぶつけます!
キッカケは私だけど、ぶつけずにはいられないよ!
「そうは言われてもなー。俺だって分からんよ? 以前に言ったように、人柄としては真面目で授業態度も良く、成績優秀、優しくて面倒見が良くてクラスの皆から慕われてる。容姿も特殊ではあるけれど、美人で綺麗だし、欠点という欠点が今の所ないな。それが鈴宮このはだ。」
「ああ、あと追加だ。数学の大学入学テスト問題、鈴宮にとっては難しくない!と、いうのが発覚したな。」
「うへぇ〜〜」となる、私。
一連のやり取りを聞いていた他の先生方は凄いですね!とか、鈴宮さんは何者!?って、盛り上がってます。
盛り上がってる気持ちも分かるけどさ。
「ところで、井上先生。それ、採点してみてくれませんか?さっきから非常に気になってまして······。ほら、見てください。職員室にいる先生方、皆気にしてますよ?」
そう言われて周りを確認してみると、確かに付近の先生方だけではなく、職員室にいる先生方、皆が気にしてる様ですね。
まぁ、大半の先生方は担当してる生徒と共に繰り上がりして、受験も気にするようになるから仕方ないか。
そこに今年のセンター問題をやってもらったとなれば、結果も気になるよね。
実際に私も先程から気になってますし、いっちょやりますか!!
昼食のパンを片手に回答を見ながら採点をしていきます。
いくら数学の高校教師といっても大学入学問題を解くのは時間がかかりますし、私自身間違える可能性もあるので、ここは素直に正解を見て採点です。
まあ、時間の問題が一番大きいけど。
1問目、2問目、3問目···と採点していく私。
始めは食べながらしてたのに、次第に食べる動きはなくなり終いには手が震えてきた······。
震える手を必死に抑えながら最後の確認を終えて、机に突っ伏す私。
やった······やりとげたよ······。
「で、どうでした?」
終わったのを見計らってやって来た高橋先生に、無言で解答用紙を渡します。
それ見て驚きなさい!
私はもう力尽きた!! エネルギー残量は〇よ!!
解答用紙を渡してほんの数秒後、
「ええぇぇぇーー!!!??」
な〜んて、それこそ職員室でまず聞くことがないであろう驚きの悲鳴が高橋先生からあがった。
それを始点に何だ何だと集まって来た先生方に、解答用紙が渡りさらに悲鳴じみた驚きが連鎖していったのでした。
そこには、赤い◯が沢山の、100点満点の解答用紙があったのでした。
ーーーーーーーーー
放課後の職員室。
今日の学校で起きた事の報告や明日の予定についての話、あとあればであるが県や教育委員会等から来た連絡等をして、あとは各々の仕事が終われば普段は解散、帰宅なのだけど今日は違った。
それは私がやってしまった事についてなんだけども、今のこの職員室での話はただ単に私達教師陣の、鈴宮さんに対しての好奇心や興味があっての話です。
学生風に言うと、教室で友達と遊びの話や世間話といったどうでもいいような事を話してる感覚に近い。
決して会議とかそういう類の物ではない!これ大事。
ただメンバーが問題で······。
事を起こした私は勿論のこと、1年生を担当する先生方並びに校長や教頭、他の学年の先生、要はほぼ全員いるってこと。
帰ればいいのに······。
なんでいるかなー??
「······と、いうわけで1年3組の鈴宮さんにお願いしてやって貰った訳です。」
今日の一連の出来事について、改めて説明をします。
テストをしてたのは知ってても、そこまでの経緯を殆どの先生方は知らないですからね。
「それで結果ですが、先日行われた大学入学共通テスト(旧 センター試験)の数学を一通りお願いしたのですが、オール満点でした。しかもこの量を1時間程でしたので、ペースも非常に早いですね。私では真似出来ません······。」
「「「おお!」」」とか「「凄い!!」」といった声があちこちから上がる。
私も丸付けしてて、手が震えたもん。
こんな事があるのかと眼の前の解答が信じられなくて。
「担任の高橋先生はどう思われますか?」
「そうですね······。まず、鈴宮がここまで出来るとは流石に思いもよらなかったですね。ただまあ、普段のあの子をみてると出来て当然といった不思議な感覚はありますけど。あと、多分ですが英語も恐らく同様に出来るのではないかと思います。まぁ、リスニングが有りますので試すのは流石に難しいのかな?とは思いますが。···あ、まてよ···別に出来るな······」
振られた高橋先生は、考えながらもそう発言しました。
最後は何がブツブツと呟いてましたけど?
ただ、なるほどなぁと普段から鈴宮さんを見てるとそう捉えるんですね。
その話の流れで今度は英語の担当教諭に振られたけど、こちらも同様に鈴宮さんをべた褒めしてた。
文章読解力問題なし、リスニングも発音含めて素晴らしい。寧ろ自分より発音がいいとまで言ってましたね。それに一度、AETの先生に聞いてもらって感想を貰いたいくらいだってさ。
そこまで皆から言わせるとは、鈴宮さん凄いわ。
来年度、できたら数学の担当をしたいくらいよ。
あー······でも、不味いな。
あのクラスの女子生徒達に嫌われたんだった······。
それはそれである意味辛いな。
そんな私の思いとは裏腹に、なんだかんだと鈴宮さんで盛り上がる職員室。
こんな生徒はまず現れないし、めったにお目にかかれる訳でもないからね、仕方ないです。
少し経った頃、高橋先生が挙手をした。
ん?となる私。
「高1でこれだけの数学の理解度と英語成績を考慮すると、我が校で多分初?ですかね、現役東大合格も狙えるんではないでしょうか?? もちろん本人が望めば、ですが。 決して強制はしてはいけません。。」
現役東大合格か······。
······うん、行けそうな気がする。
少なくとも数学に関しては満点だ。そしておそらく英語もいけるのではないかと思われる。
難問である数学と英語がいければ、きっと現役合格も夢ではない!と思う。
そうすれば高橋先生が言うように、我が校で初の東大現役合格者の誕生となるのかな?
うちの高校は7割少々が進学してる。
その中には専門学校も含まれてはいるけれども、私の知る限り東大生はいない。
勤務歴の長い高橋先生でも知らないんだから、きっとそうなのだろう。
まぁでも、いくら私達学校関係者が盛り上がっても、選ぶのは鈴宮さん自身な訳で進学を望まない可能性もありえるわけで···。
まだ先のこととはいえ、ままならないね、と思う······。
ーーーーーーーーーー
教員で盛り上がった話が終わり各々が解散していく中、高橋先生と鈴宮さんを担当してる英語の蛭川先生が話をしていた。
「蛭川先生。ふと思ったんですが英語ってリスニングがありますけど、これって検定を受ければ力も判りますし、いけますよね?」
「あ、そうですね。いけますね······。うちでも2年、3年生の時に検定は実施しますし皆受けて貰いますからね。それは鈴宮さんも例外ではありません。これを受けてもらって実力を測るのもいいかもしれません。」
え!?英語検定で力を測る!?
確かに英語の場合、これはかなり有効ではあるけれど···マジかい。
「一般的な英検ならおそらく2級は合格するでしょう。だから他の生徒と同じレベルの級では役不足だと思いますね。だから鈴宮さんにはもっと上、準1か1級を受けて貰えると良いなとは思いますが······。あと、もう一つくらいも受けて貰えるといいですね。」
「英検は······来年度の申込みはまだ先ですね。もし受けてもらえる場合を考慮して早めに話はしてみるかな。」
「そうですね。そうすれば準備もできますし······」
なんだか向こうは向こうで、私がした事より凄い話をしてる。
英検2級を合格出来るって言い切ってるのも凄いけどさ〜······。
ハァ〜······。
まさかこんな事態になるとは思わなかったんだよ···。
ごめんなさい。鈴宮さん。
でも、私も気になるよ。
このはちゃんは勉強が出来る子です。
本人は気づいていませんが、頑張れば頑張った分だけ身につく不思議な頭脳をしてます。




