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ある日の授業②-1 高1(挿絵有り)

外を見ると、見渡す限り青色一色の快晴の空で実にいい天気です。

こんな日は窓際の陽の光の当たる場所にいると、ポカポカといい感じで眠気を誘ってくるんだよね。

私は教卓の前の席だからポカポカとは無縁ではあるけど、窓際の子は大変だなと思ってしまう。

そんな一見素晴らしい天気ではあるけれど、一旦外に出れば非常に強く風が吹いているんだよね。

そんな教室と野外でガラリと様子の違う、とても寒い1月下旬のある日のこと。





キーンコーンカーンコーン······



チャイムの音が教室のスピーカーから鳴り、4時間目の授業の開始を告げます。

次の時間は英語だね。

時間割表についてはもう暗記してしまっているけれど、念の為確認をしてから用意を毎回するようにしてます。

たまに朝の連絡で授業が入れ替わる時もあるからさ。


席について教科書、ノートを出して先生を待つのが普通なんだけど、今日はみんな、席についてはいるものの教科書類を出してる生徒はいません。

何故かというと、今日のこの4時間目は自習だから。

たまーにあるんだよね、この自習の時。

先生の急な用事とか体調不良で休みとか、そういうのが理由なんだろうけど。



そして、こういう時にやるのが通称『1年3組 このはちゃん塾』。

クラスメイトの誰かがいつの間にか名付けたらしいこれは、もうすっかりみんなには浸透してしまってるんだよね。

私が知ったのは浸透しきってしまった後だったので、どうすることも出来なかったけど······なによ、『このはちゃん塾』って。

そんな名前をつけなくてもいいのに〜って、正直思ったよ。



でもこれは、誰もが嫌がらず取り組んでくれるんだから凄いなと思う。

授業が自習になれば、普通は「やったー!」とかって喜んで1時間を友達と喋ってたり寝たりして過すのが普通だと思うんだよね。

それがみんな、ちゃんと勉強に当てるんだもん。

感心しちゃうのも分かるよね。




じゃあ、今日もやりますか!って思った時、ガラガラガラっと扉が開いて巡回の先生が来たの。



挿絵(By みてみん)


「こんにちは。1年3組の皆さん。」



突然教室に入って来た先生に、教室の中がザワザワと騒つき始めた。

それもそのはずで、今までにこういう前の入口から堂々と入ってくるという展開はなかったからね。

今までの先生は後ろからこっそり入って来て見てるか、廊下から騒いでないか確認だけして去るという、そのどちらかのパターンだったから。



「誰?」


「どこの先生?」


「今回は流石に代理の先生で授業か??」



そんな感じで、みんなコソコソと話してる。

主に『誰だ??』って所に。

まぁ実のところ、私も知らない先生なんだけれどさ。



入ってきたのは、やや茶髪のショートヘアで紺色のスーツを着た若い女性の先生でした。


······うん。知らない先生だ。

もしかすると、全体で集まった時とかに見た覚えがあるかも知れないけど、ぶっちゃけ覚えてないんだよね。

そもそも全体で集まる事自体がほぼないから。

集まったのは体育祭くらいかなー?


それにクラスのみんなも知らないみたいなんだよね。

だから少なくとも、2年生か3年生を担当してる先生なのかな?もしくは他の専門学科を教えてる先生とか?



そんな事を考えてると、先生は教卓の前にやって来ました。

何をするんだろう??



「改めて初めまして。1年3組の皆さん。私は3年生の数学を担当してる井上晴香といいます。先程から皆さんが話してるように、私は同好会の顧問しかしてないので、1年生のみんなは知らないのは当然かな?と思います。が、来年度みんなが2年生もしくは3年生になった時にもしかしたら数学を担当するかも知れないので、これを期に覚えておいてくれると嬉しいです。」



井上先生の挨拶に「おー!」っとなるクラスメイト達。(特に男の子)

まー、今担当してくれてる数学の先生がちょっと不評なんだよね。だから余計に期待しちゃうのかな?


それにしても······やっぱり知らない先生だったね。

それも私達と関わり合いがあるもすれば部活くらいたけど、同好会の顧問だとそれこそ、みんなが知らなくても仕方ないか。

部活とか同好会とか多いけど、実力·実績のある部活だと経験者の方を監督なりに据えたりしてるみたいだからね。




「その井上先生が本日はどうなさったんですか?まさか、先生が授業をしてくれるとかそういう事ですか?」


クラスを代表して、委員長の志保ちゃんが聞いてくれてます。

でもその声はどことなく不機嫌っぽく感じる······。

気のせいかな??


「先生も1時間フリーだから授業をしてあげてもいいんだけど、今日は別の用があって来たの。それなんで、みんなは自由に過ごしてて貰っていいわよ。取り敢えず、他のクラスに迷惑になるような騒ぎとかは起こさないでね?」


「はーい。」

「分かりましたー!」


『自由に』と言われて嬉しそうに答えるみんな。

自由にって言っても、結局は真面目に勉強をする皆なんだけどね。


「それで用って事なんだけど、この中に鈴宮このはさんはいらっしゃるかしら?」


「はい。私ですけど·····?」


おや?私に用ですか??

目の前の教卓に先生がいるから、手を挙げるまでもなく声で応えたけど、なんでしょう?

知らないから用と言われてもさっぱり分からないよ。



「あぁ、貴女ね。やっぱり可愛いわ〜♪」


「えっ?!」


「ゴホン!······えっと鈴宮さん、申し訳ないんだけどこの後直ぐ職員室まで来てもらえるかしら?」


「ええ···大丈夫ですが···。」


何々!?この先生···。

『やっぱり可愛いわ〜』って、私のことを知ってるの?

······まぁ、目立つ容姿たから知ってても不思議はないけどさ。

でもなんかモヤモヤする。

 


「ありがとう。そういう訳で鈴宮さんをちょっと借りるわね。勉強会が出来なくて申し訳ないけど、騒がないようにね。」


「えぇーー!? このはちゃんを連れて行っちゃうんですか!?正直困ります!!」


先程に続いて志保ちゃんが先生に抗議してる。

しかも今度はハッキリと『困ります』と。

志保ちゃんがここまで言うのも初めてだけど、先生も引かなかったよ。

最終的には志保ちゃんが折れて、話はついたんだけどね。



「じゃ、そういう訳で行きましょうか。鈴宮さん。」


「はい。分かりました。ごめんねーみんな。そんな訳でちょっと行ってくるからさ、またお昼の時に見てあげるからね。」


「うん。行ってらっしゃい。」

「早く戻って来てね〜〜。」


みんなに一声かけてから、先生の後についていく私。

最近何だかこんな呼び出しが、ちょこちょこあるんだよね···。

以前のテレビの時とか、写真のモデルとか。

今回は何なんだろう?と、思ってしまうのも仕方ない事だよね。


ちなみに職員室に向かってる最中に、井上先生から謝罪を受けたよ。

なんでも私がみんなから、あんなにも慕われてるとは思ってもいなかったらしく、とても悪い事をしてしまったってね。

なので、みんなへのお詫びも兼ねて謝罪をしてくれた。


ちなみに井上先生。

初対面でクラスのみんなから反感を買うとは、やらかしちゃったなーって凄く落ち込んでたのが印象的だった。




  ーーーーーーーーーーー



ついて行った職員室だけども、授業中というのもあり職員室内にいる先生は極僅かでした。

きっとこの時間に授業がない先生なんだろうけど、それてもデスクに向って何かの作業をしてるから、大変だなと思う。


そんな先生方の後ろを歩き、案内されたのは職員室の隅にあったテーブル。


「ここに座って待っててくれるかしら?」


そう言われ椅子に腰掛けて、ちょこっとだけ待ってから渡されたのはシャープペンシルと消しゴム。

う〜〜ん······何かを書かせるのかな?



「ごめんなさいね、鈴宮さん。それで用なんだけど、このプリントを出来る所だけでいいから解いてみて欲しいの。お願いできるかしら?」


そう渡されたプリント。

中身をを確認してみると、数学の問題でした。

何故に数学?なんて思わなくもなけいど、しかもこれって1年生で習う内容じゃないね?他のも混じってますよ??

『出来る所だけでいいから』そんな事を言っても、普通の1年生なら出来る所なんてたかが知れてるじゃん。

そう感想を抱いたけど、私としては問題ないので受けることにしました。



「分かりました。出来るだけやってみますね。ちなみに時間はどうしますか?」


「ありがとうね。時間はそうね······お昼休みまで使わせてしまっては流石に申し訳ないから、チャイムの5分前には声をかけるわ。それまで気にしないで取り組んで貰っていいから。」


「はい。分かりました。」


念の為に時間についても確認してみたけど、チャイム前に声をかけてくれるとの事。

これなら終わらなくても、時間を気にせずに取り組めそうかな。

井上先生に返事を返してから、改めてプリントに向き合います。



久々の本格的な問題で面白そうだから、いっちょやってみますか!






  ーー 井上先生 視点 ーー



今日は非常にタイミングがよかった。

それは以前に高橋先生の席で見てから興味を抱いた、1年3組の鈴宮このはさん。

彼女がどのくらい出来るのか?と、試してみたくて自習になるタイミングを狙ってたんだけど、そうそう自習になる事もなく月日だけが過ぎていったんだよね。

因みに「放課後は、家庭の事情で忙しいみたいなので無理ですよ。」と、担任の高橋先生から事前に教えて貰ってました。

なので放課後作戦は使えず、かといってお昼休みも論外なのでダメで······。



そして、本日。

たまたま鈴宮さんのクラスの英語を担当する先生の体調不良により急遽自習となった。

また更に幸運な事に、この時間私は授業がなく、フリーだった事。

私の担当する3年生がこの時期になると殆んど授業もなくなるから、当然といえばまぁそうなんだけどね。



それで早速、はやる気持ちを押さえつつ1年3組の教室まで鈴宮さんを呼び行った。

そこまで良かったのだけど、その後に誤算が生じクラスの子にもの凄く反感を買ってしまった。

1人の女子生徒が代表で話してくれたけど明らかに怒ってたし、また3組の女子生徒ほぼ全員からも似たような視線や感情を向けられた······。

正直に言って、今までで1番居心地が悪かった。そしてやらかしてしまったなとも。

まさか鈴宮さんが、ここまでクラスの子から慕われてるとは思いもしなかったし。そしてこんなにも反発を買うともね······。


それとほぼ初対面の、しかも同性の生徒に悪印象を持たれるのは正直に言って辛い。

来年以降、この学年を担当する可能性は低いだろうけど、それでもゼロではないから·······。


なので向かう途中で鈴宮さんに、丁寧に丁寧に謝ったよ。

あれだけ慕われてる鈴宮さんなら、クラスの子への影響力も大きいだろうという思いもあったけど、それ以上に鈴宮さんに多大な迷惑を掛けたという自覚もあるからね。





で、職員室まで来てもらい今の状況に至るわけです。


鈴宮さんに渡したプリント。

出来ても出来なくても成績や内申に影響は全くない。当たり前です。

私の興味で鈴宮さんにお願いしてることだから。

まあ、後日何かしらのお礼はしようとは思っているけれど何がいいかしら?



そして、今回解いてもらうプリントの内容に関してもタイミングがよかった。

当初は私が問題を作ってやってもらうつもりだったのだけど、ここまでタイミングが伸びたお陰で、いい問題が出たんだよね。

予定を変更しまで渡したのは、つい先日行われた『大学入学共通テスト(旧 センター試験)』と言われる物。

受験しなくても、新聞に問題や回答が記載されるアレです。

その中の数学の部分だけを選別して。

我ながら無茶な事をしたなーと思ってもいますが······。



ただ、これがまた曲者で数学も種類でいくつかに別れてるんだよね。

どれがどのくらいか分からない為、とりあえず全部を渡したけど、さすがに無理だとは思ってる。

いくら鈴宮さんが1年生でトップの成績とはいえ、1年生の内容では到底回答は出来ないから。

それに、そもそも時間的に無理。

じきにお昼休みになるとはいえ、1時間ぐらいじゃね······。




···

······

·········


無理とは思ってたけど、何これ??自分の目が信じられない······。

私は鈴宮さんが座ってる側で見守ってるんだけど、やり始めてから鈴宮さんの手が止まらないんだけど······。

回答を見てるわけじゃないから内容までら分からないけど、もしかして解けてる?いや、まさかね···。

でも正解か間違いかは兎も角、分からないとなれば普通なら手は止まる筈。

それがないという事は······。



そんなこんなで見守りつつ眺めてると、チャイムがなりお昼休みに入りました。

でも、鈴宮さんの手は止まらずに動いてる。


どうしよう?どしたらいい??


チャイム前に声をかけると言ったけど、今の鈴宮さんを見てたら声をかけずらくなってしまい、ずるずるとここまで来てしまった······。

授業をしてた先生方も戻って来て、職員室で問題を解いてる鈴宮さんを見て、何だ何だ?というなんとも言えない空気になる職員室。

そんな中で鈴宮さんの集中力を乱すと不味いので、先生方に「静かにそっとしておいてください。」と頭を下げて回る私だった。



程なくして担任の高橋先生がやってきたので、今回の事情を説明します。


「高橋先生。すみません。4時間目の自習を利用して鈴宮さんをお借りしました。本来はチャイム前に終わらせるつもりだったのですが、今の鈴宮さんを見てたら声をかけづらくなってしまい、今に至ります。」


大変申し訳ございませんと、丁寧に頭を下げてお詫びをします。



「いえ、大丈夫だと思いますが、そこは後で鈴宮に直接言っといてください。所であれは······以前に言ってた個人的興味のってやつですか?」


「あ、覚えててくれたんですね。ええ、そうです。タイミング的に予定してたものより内容が変わりまして···その······本来は私の作った問題を解いて貰うつもりだったのですが、変更して先日あった大学入学共通テストの数学を一通り渡したんですけどね······。」


かなり無茶な事をしたと思ってるから、歯切れが悪くなる私。

そしてそれが分かってるから、後で怒られても仕方ないと覚悟はしてる。


大学入学テストと聞いて、ギョッとする高橋先生。

そして、そんな会話が聞こえたらしい近くにいた先生方も同様に。



「センター問題って······その割には手が動いてるな···」


「ええ、そうなんです。解答が合ってるかはまだ分かりませんが、仮に間違ってても手が動いてるのはすごいですよね。それなんで止めに止められず、この様なんです······。すみません···。」


そんなんで、周りの先生方巻き込み鈴宮さんの事で話しをしていると、鈴宮さんが終わったみたいてす。




挿絵(By みてみん)


「井上先生、終わりましたー。」


「はーい。ありがとう、お疲れ様でした。」




鈴宮さんから預かった解答用紙。

はてさて、どんな結果が出るのか······採点はこれからです。

このはちゃんは、クラスの皆からもの凄く慕われてます。

理由は様々な事が合わさっての結果ですが。


そして初対面の女性教師に連れて行かれるのを怒ってます。

久々の自習時間による勉強会を奪われたから。


そんな3組の面々でした。

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