ある日の休み時間④ 高1(挿絵有り)
「これをこうして···次はこことあれをやって······よし!出来た!! 見直しも問題ないからこのはちゃーん、できたよー。」
「ちょっと待っててね〜。今いく〜。」
茜ちゃんに呼ばれ、今は手が塞がってるからちょっと待っててねと伝え、私は今見てるこちらに集中します。
「ここはどうしてこうしたのか説明できる?」
「んーと、この問題はここを求めることだから、こことこっちをこうして······で、最後はこうなのかな?と。」
「なるほど······途中まではいい感じだったね。そうすると、ポイントはここかな?」
今見てる男の子の解答を見ながら、問題となっているポイントを指摘してそこからの解を説明し教えていきます。
この子もここをクリア出来るようになれば、もうこの問題は大丈夫なんだけどね。
「どうかな?途中まで理解出来てるから後少し、このポイントを間違えずにいければクリアだからね。頑張れ♡」
「うっす!ありがとう、鈴宮さん。」
「どういたしまして。」
男の子を後にして、次は呼ばれてた茜ちゃんの所へ向かいます。
「茜ちゃん、お待たせ。んーと、これかな?」
茜ちゃんが取り組んでるのは数式問題。
どれどれ?と確認してみると、おぉ!出来てる出来てる。
オッケーだ。
「茜ちゃんはコレ、どう思う?」
正解かどうかの答えを言うより先に、自身でどう思ってるのか確認してみることにしました。
「私としては問題ないと思うんだ。解き方としては······」
と、説明してくれて、説明もキチンと出来てるね。
これなら大丈夫。
「うん、大丈夫、合ってるよ。」
「ほんと?やったー!!」
と、喜ぶ茜ちゃん。
そんな喜ぶ茜ちゃんを横目に、最後にと1つ問題を書いていく私。
「じゃあ、最後コレ解いてみて。時間的には問題ないと思うから、終わったら呼んでね。」
「はーい。」
茜ちゃんの可愛い声を後にして、また次の子を教えに行く私です。
そんな事をやってるのは、お昼休みの時間と教室を利用した個別レッスンで、クラスメイトの誰かがいつの間にか名付けた通称、『1年3組 このはちゃん塾』。
あとから知った時は「何?!その名称は!?」って思ったけど、何も言わない事にした。
だってみんなの中で、その名称が既に浸透しちゃってたんだもん。
だから私からは何も言えないよ······。
それに意外とみんなも真剣に取り組んでくれてるからね。
あと他に知ったのは、利用可能者は3組のクラスメイトのみという事。
基本他言無用で、他のクラスの生徒は友達でも呼ばないらしいです。
私は知らなかったんだけど、なんでも短い昼休みに沢山来ちゃうと収集がつかなくなるのと、ただでさえこのはちゃんに負担掛けてるのにこれ以上は······って事で皆で決めたんだってさ。
他言無用とは言っても教えてるのはお昼休みで、当然他のクラスの子も気づいてはいる。
そして友人関係の子に頼んだりしてるみたいだけど、そこはクラスのみんなでお断りをしてるらしいです。
それに私の負担っていう部分でも、私的には大した負担でもないんだよね。
寧ろ私の復習としても役立ってるから、どちらかというとWin-Winの関係じゃないかなーって思ってるんだけどね。
そんな通称『1年3組 このはちゃん塾』の始まりは9月頃のお昼休みに勉強を見てあげた事だった。
それを期に女の子の間で輪が広がって、いつかの自習だった時に黒板の前で教えたのがきっかけで、男の子を含めたクラスのみんなに教えたりすることになったんだよね。
その時の飴作戦が効果を発揮したのもあるかもしれないけれど。
お昼休みを利用してその時習ってた三角比をメインに、場合によっては他の問題なんかも教えたりしてさ。
そしたら二学期の期末テストは、教えてた子みんなの点数が上がって喜んでたよ。
赤点の子もいなくて、みんなに感謝されて「ありがとう」って。
凄く嬉しくなっちゃったよね。
教えながらやり方、進め方についても尋ねてみたんだよね。
「教え方はどうかな?」
「数学の先生より解説が分かりやすくて、凄くいいよ!」
「不思議なんだけど、頭の中にスゥ~っと入っていくんだよね。」
そう言われたりもしたんだよね。
他にも色々と感想とかも貰ったんだけど、一部先生の耳に入っちゃいけないのもあったし。
「このはちゃんに授業教わりたいくらいだよ」
「先生変わってくれねーかな?」とか。
それはさすがに数学の先生に言ったら駄目だよって、念を押したけどそんなに良かったのかな?
三学期に入ってもそれは続いてて、三学期の期末テストは1年間の総合的なテストになるらしいので、個別に分からない所をピンポイントで教えてあげてるんだ。
時たま自習なんかもあるんだけど、そういう時もみんなは遊ばないで自習して学ぼうとするんだよね。
今は習ってる所を教えたりする時は黒板を使ってるんだけど、みんなからは高評価を頂いてます。
それと前は巡回の先生が1人だったのに、最近は時たま2人とか複数で来て見てる時もあるんだよね。
先生、暇なの?
なんて失礼なことを思ったりもするけど、特に何を言われるでもないので気にはしてないんだけど······。
あちらを見て、こっちを見て。
暫くの間をそんな感じで教えていると、茜ちゃんの声がしたんだ。
「出来た〜♪」と。
「お!?」
ちょっと意外で驚いた私。だって予想より早かったんだもん。
今教えてた女の子を終わらせてから、見に行くにしたんだ。
「問題ないと思うんだけど、どうかな?」
と、もじもじしながら、ちょっと自信なさげに見せてくる茜ちゃん。
そんな様子をチラッと見ながら確認をしていきます。
···
······
·········
「うん!大変良く出来ました!これが解ければもうこの問題は大丈夫だよ。あとは忘れないように定期的に復習すれば問題ないからね。」
笑顔でそう伝える私。本当によく頑張ったって思うよ。
「やったーー!」
喜ぶ茜ちゃん。
さっきのもじもじが嘘みたいな喜びようだね。
「じゃあ、このはちゃん?いいのかな??」
「うん、いいよ。前からがいいんだっけ?はい、どうぞ?」
腕を広げるとそこへ飛び込んでくる茜ちゃん。
背が低いから当然腕も短いんたけど、それでもその腕を私の背に回してギュッとしてくる。
ほんと、ちょっと背の大きい雪ちゃんみたいだよ。
これが1つクリア出来た時の女の子の飴作戦。
私に抱きつきたいらしいです。
ここまで抱きついてくるのは、茜ちゃんくらいなんだけどね。
他の子は恥ずかしさもあってか、軽くくっついて来るくらいなんだけど。
腕を回してギューっとしてくる茜ちゃん。
身長差的に私の胸に顔を埋める形にはなってるんだけど、本人もそこは気にしていない模様。
「本当に良く頑張ったね!偉いよ。」
頭を撫でながら労う私。
彼女は本当にここで苦戦してたし、時間もかかったからね。
喜びも人一倍大きいだろうと思う。
「うん······ありがとう。みんなこのはちゃんのおかげだよ。いつもいつも···本当に·····グスッ···」
ぐすっ、ひっく···と泣き出しちゃった茜ちゃん。
よっぽど嬉しかったんだね。
背中をポンポンとしながら、あやす私。
そんな私達にクラスのみんなも、最初は「いいなー」とか「羨ましい」とかっていう視線だったんだけど。
茜ちゃんが嬉し泣きをしたのを見て「頑張ったね」っていう労いの感じになったね。
それは今まさに自分達が頑張ってやってる勉強の結果であり、それを経験した子もいるから、その達成感とか嬉しさが分かるんだよね。きっと。
だけど、そんなほのぼのとした空気も長続きしなかった。
なぜなら暫くして落ち着いてきた茜ちゃんが、今度は顔をグリグリしてきたんだよ。
!!??
驚く私。クラスメイトみんなも同じ。
「ちょっ·····ちょっと、落ち着きなさい茜ちゃん! あっ···ちょ···やん♡ ····こらっ······もう、ダメだってば!!」
強制的に引き剥がす私。
「······あれ?私は何を······?」
「ちょっと······あ〜か〜ね〜ちゃーん······」
「ひいぃぃっ······」
怯えた声がしたけど、ここはちょっと無視して言わないと。
「抱きつくのは許可してるけど、それ以上は限度ってものがあるのよ?嬉しくて感極まってってのは理解してるけど、きちんと時と場所は考えなさい! いい? 出来るわよね??」
「はい······。ごめんなさい。」
「分かればよろしい。······はい、これでお仕舞いね。」
しゅんとして、心なしか小さくなった茜ちゃん。
ちゃんと悪い事をしたという、自覚はあるみたい。
最後に茜ちゃんの頭をポンポンとして、慰めてご褒美はお仕舞いです。
私は怒ったり叱ったりした後は、そのフォローも大事だと思ってる。
だって、ただ理不尽に一方的に怒ったり叱ったりしただけじゃ、相手は何で怒られてるのか分からないと思うから。
きちんと理由を説明して、次は同じ事を繰り返さない様に気を付けようねと。
それは雪ちゃんに対してもそうだし、今回も。
「はーい、みんな〜。そろそろ時間だから終わりにしましょ。お疲れ様でした。」
「「「「はーい」」」」
本日の『1年3組 このはちゃん塾』はこれにて閉店です。
ーー 志保ちゃん 視点 ーー
その日の放課後。
「ねぇねぇ!今日のこのはちゃんすっごく色っぽくなかった!?」
今日のこのはちゃんを見てて、感じたことを皆に聞いて確認してみることにした私。
「あ、やっぱり?」
「うちもそう思ったよ。」
「『あっ』とか『ちょっ』とか戸惑いもあったけど、最後の『やん♡』なんてエロかったよ······。」
「分かる分かる!」
「このはちゃんからしてみれば、くすぐったい程度なんだろうけど、それでもあんな声を聞くことできるとはね······いい日だった!」
「しでかした茜に感謝だねー♪」
今日のこのはちゃんの事で盛り上がる私達女子組。
あの時、茜がこのはちゃんに抱きついたまでは良かったんだよね。
問題はその後。
何故か茜がこのはちゃんの胸にぐりぐり仕出して、このはちゃんが変な声を出した。
そんな大きい声ではないから、全員にまでは聞こえてないだろうけど·····。
でも、聞こえてしまった私達はちょっとドキドキしてる······。
普段···というか、まず聞くことのない声を聞いてしまったばかりに······。
きっと男子は男子でコソコソと盛り上がってるんだろうね?
「でも、そのあとのお怒りはちょっと怖かったな······」
「ああ、確かに。」
「あれがこの間の覗きがバレた時のこのはちゃん?」
ちょっと前の時に、あれだけ念を押されてたので気になって聞いてみました。
「いや、あの時の方が震えるくらい怖かったよ。」
「「うんうん」」
「マジか······」
「どっちかと言うと、今日のは子供を叱るお母さん的なお怒りじゃないかな?」
「あ、そうかもね。何で怒ったのかフォロー入れてたし。」
「お母さんかー······。私にはお姉様が怒ってる風に感じたけどなー。」
「「「お姉様風??」」」
「うん。なんか口調もいつもと違って「のよ」とか「わよね」とかを使ってじゃん。」
「そ〜言われると使ってたかも?」
「お姉様口調のこのはちゃんも、斬新で良さげだったけどちょっとお怒りモードが残念だったな〜······。」
「うん。でも、なんだかんだ言ってもさ、このはちゃんはママなんだねぇ〜って改めて思うね。」
それには激しく同意です。
普段は普通の女子高生なんだけど、時通り見せる姿や仕草がママになってて、そのギャップにドキッとさせられるんだよねー。
「あーあ、私もこのはちゃんみたいなお母さん欲しかったなー」
「私だってそうだよ。うちのお母さん、すぐ怒るし、太ってるし···」
みんな口々にお母さんの悪い所を言ったりしてる。
直ぐ怒るだの、太ってる、腹たるんでる、料理下手、おばさん丸だしだの、それはそれはもうね······。
「雪ちゃんっていいよね〜。あんなに綺麗で美人で優しくて包容力があって子供第一のこのはちゃんママだよ。」
「おまけに髪も白くって綺麗だし、プロポーションも抜群!しかも!若い!!とにかく若い!!! 雪ちゃんが私達と同じ年になってもこのはちゃんは30歳くらいだよ? 高校生で30歳のお母さんって絶対にいないよ!」
「あー······いいなぁ〜。しかも、そんなこのはちゃんにそっくりに産まれてこれてさ。遺伝が同じって言ってたから雪ちゃん=このはちゃん確定だしねぇ······。」
なんかもの凄く盛り上がってる。変な意味で。
親の愚痴から始まって、このはちゃんママいいよねー、欲しかったねーって。
まあ、みんなの気持ちは凄くわかるけどさ。
私だって正直そう思うもん。
こういうのが、話に聞く親ガチャってやつなのかな?
それで、このはちゃんママはSSSの超大当たりとか!?
そんなこのはちゃんに、あれだけ甘えられる茜も凄いなって思うけどね。
私もくっつくけど、さすがにあそこまでは無理。
恥ずかしくって······でも、本音は甘えたい!!
あー、悶々とするよ〜〜。
くそぅ······部活で発散だーー!!!
このはちゃんは、怒るとお姉様モードになるみたいです。
いつも読んで頂きありがとうございます。
これからも引き続きご愛読宜しくお願いします。




