ある日の休日⑤ 高1(挿絵有り)
「おーい!このはちゃーーん!」
「やっほー!」
お店の前で待つこと暫し、ようやく今回の参加者全員が揃ったようです。
「お待たせー! 待った?」
「ううん、大丈夫だよ。いま来たばかりだから。」
「そのセリフ、デートの待ち合わせみたいだね。」
「あ、分かる?」
アハハハって笑いながら、そんなジョークも言いつつ和やかなお昼前。
「でも実際、そんなに待ってないないから大丈夫だよ。私が来て直ぐくらいに志保ちゃんや茜ちゃんが来たし、男の子も来てくれたからね。」
「ですです。私服姿のこのはちゃんを見ながら待ってるのも中々いいもんだよ♪特に男子なんて、このはちゃんばかり見てるんだからさ!バレバレなんだよ?」
そんな志保ちゃんの言葉に「うっ···」っとなる男の子たち。
そう、今回は女の子だけでなく男の子も数名参加してるんだよね。
まぁ女の子も全員ではなく、半分いるかな?くらいなんだけどそれでも結構な人数だよね。
「それより早く中に行こう!日差しが当たってるといっても、寒いしね。」
と、いう訳で早速店内へ入ります。
受け付けを済ませてから部屋へ。
平日の昼間からこんな場所にいるのも久しぶりなので、ちょっと懐かしいな······なんて感じてる。
ちょと前までは家で雪ちゃんを見てたからさ。
平日でも用があれば出掛けて、病院やスーパー、子供関係のお店とか行ってた。
だから平日の昼間にこうして出掛けてるのが、なんだか懐かしい······。
「でもさー、平日の日中からこんな事してるのも変な感じするよね?」
「あ、やっぱりそう思う?実は私もなんだよね。」
「うちもうちも。」
不思議な感じがしてたのは、どうやら私だけではなかったみたいです。
勿論私が感じてるのと、みんなが感じてるのは違う意味でなんだけど。
そのみんなが感じてる変な感じという物の正体は、今日は平日で普段なら学校で授業を受けてる時間だと言う事。
そんな時間にみんなでここ、カラオケに来てるのは理由があってね。
ーーーーーーーーーー
事の始まりは、1週間程前の先生の朝の一言でした。
「······それとだな、来週の水曜日と木曜日は学校は休みになるぞ。良かったな。」
「「「えぇーー!!??」」」
「マジっすか!?」
「何でなんで??」
みんなが驚いてる。勿論私も。
来週って何かあったっけ?と考えてみるけど、パッと思いつかないね。
3学期は卒業式はあっても、それ以外の行事って特になかったと思うんだよね?
「みんなも去年経験しただろ?受験日だよ。」
「「「ああ!」」」
「そんな訳で来週の2日間は休みになる。前日にもまた言うが、この教室も使うから机の中身と脇の荷物はロッカーに仕舞うようにな。入り切らない場合は持って帰れよ。」
「「「はーい。」」」
思わず手のひらにポンって思わず打ちたくなっちゃう。そんな納得です。
そういえばそう云うのもあったし、もうそういう時期なんだねーと思います。
確かに私もこの辺りの時期に受験したなーと、懐かしく思い出しました。
中学校に連絡して事情を説明して書類を用意して貰い、高校に提出からの筆記試験や面接······。
ほんの1年程前なのに懐かしいね。
ーお昼休みー
「ねえねぇ、来週の休みの日にさ、みんなでカラオケでもいかない?」
私達のムードメーカー的な子、美紅ちゃんがそんな提案をしてきた。
カラオケか〜。
雪ちゃんを産む前に、お母さんとほんの数回だけ行った憶えがあるけど、それだけだったな。
「あ、いいね!私大丈夫!」
「私もいけるよ。」
「このはちゃんはどう?行けそう?」
私?私か······。
平日だから雪ちゃんの送迎の時間を除けば、昼間なら大丈夫かな。
「そうだねぇ····。昼間なら大丈夫だよ。夕方前には戻らないとだけど。」
「「「やったーー!!」」」
「夕方前って?」
「雪ちゃんのお迎えがあるからね。それだよ。」
「あ!そっかそっか。このはちゃんママだもんね。」
みんなが納得してくれた、お迎え。
これに間に合うようにすれば、特に問題ないからね。
そして、そんな一言から始まったカラオケに最終的に男子数名も入れて、今日のカラオケという流れになったんだ。
ーーーーーーーーーー
「誰から歌う?」
部屋に入ってから先ず誰からいく?ってなって、ノリの良い男の子が先発で歌ってくれるみたいです。
その間に私達は選曲です。
何を歌うか悩むね······。
「このはちゃんはどういうを歌うの?っていうか、歌って得意?」
そんな事を茜ちゃんに聞かれた。
私達の学科は音楽の授業がないからね。
だからみんなの前で歌ったことは勿論ないし、またみんなの歌唱力とかそういうのも分からないんだよね。
「歌はね、ちょっと昔の歌が中心かな?逆に言うと今の歌はあまり知らないんだよね。あと、子供向けの歌や子供にヒットしてる歌なんかはいけるよ。」
「あははは。このはちゃんらしいね。やっぱり雪ちゃん?」
「うん、そうそう。歌ってって頼まれるからね。子守唄なんかもいけますよ?」
小さい時はグズった時なんかに子守唄とかを歌ってあげてたし、今のだと見てるアニメの歌だったり、幼稚園で子供達の中で流行ってる歌を歌ってと頼まれるのもあるから自然と覚えていったよね。
1人2人と歌い終わり、私も選曲を決めました。
順番がくるまではみんなの歌を聞きながら、盛り上げたり軽食を食べたりしながら待ちます。
昔はお母さんと何回か来たりしたけど、こうして大勢でってのは初めてだから凄く新鮮だね。
みんな楽しそうに歌ってて、私もみんなの歌を聞いたり話ししてるのは楽しいけどね。
彩ちゃんが歌い終わって、次は私の番だね。
「このはちゃん頑張れー!」
なんて、応援まで頂いちゃって。
カラオケなんだから〜なんて思うけど、でも久しぶりだから気合入れて歌うよ!
〜〜♪ ♪〜♪♪
イントロが流れる。
私達から見るとお母さん達の時代のヒットソングだから、皆はまだ何かは気づいてないね。
「♪Can you cele◯rate〜♪」
私は歌い始める。リズム、ハーモニー、メロディに気をつけて。
私は歌の世界に入っていく。
みんなが「このはちゃん凄い!」とか「上手〜」なんて聴こえては来るけれど、あまり耳に入らないや。
そのくらい集中して歌います。
♪♪〜〜♪
♪〜♪♪♪ ♪〜♪
私が歌うのは、安◯さんの大ヒットソング。
私の歌う歌のレパートリーは、お母さんの影響で90年代〜2000年始めの頃の歌が多いいんだ。
お母さんとカラオケというのもあったけど、1番の影響は車に乗ってる時かな。
よく車の中で流していたから、その影響でこの年代のを好きになったんだ。
その中でもコレは気に入ってる、歌の1つなんだ。
歌い続けながら、思い出した。
この曲、お母さん達の若い頃に大ヒットして結婚式の定番ソングになったんだって。
でも、わかる気がする。だっていい曲だもん。
そんな定番ソングになったのに、お母さんは結婚式には使わなかったらしいんだって。
なんでかなー?とは思うけど、他にも気に入ってた曲でもあったのだろうか?
今となっては分からないけど、私だったらどうだったろう?と、考える。
······使ったかもしれないかな。それくらい気に入っている。
普通に恋愛をして結婚して子供を産んで······あったかも知れない未来、捨てた未来。
目がうるっときた。なんでだろ??
後悔はないのに、雪ちゃんがいて幸せなのに。
もしかして結婚式?いや、ウエディングドレスという物にどこか未練があったのかな?分かんないや······。
歌い終わった。
席に戻って一息ついた頃。
「このはちゃん、どうかした?」
「いや、特に何もないから平気だよ?」
「そう?ならいいんだけど、無理しちゃダメだよ?」
そう言われちゃった。
表面上は普通に歌ってたつもりだったんだけどな〜。
良く見てるというか、鋭いと言うか······驚いちゃった。
その後もローテーションで歌いながら、私も数曲歌って。
「このはちゃんって、歌も凄い上手なんだねー。なんかコツとかあるの?」
「あー、私も聞きたいな〜。どうしたら上手くなれるの??」
なんて、聞かれたりもして。
上手くなるやり方かぁ······。
「そうだねぇ······。簡単に言うとリズム、メロディ、ハーモニーを鍛えるとかかな? 音程が正確にとれる、リズム感がある、声量があるとかね。だから、ボイストレーニングみたいな感じで基礎的な事から取り組んでみるといいかもね。あとは、腹式呼吸は必須かな······。」
「腹式呼吸か〜。聞いたことあるけど、実際はどうやるの?」
「腹式呼吸はね······」
と、あれこれ私なりの歌の上手くなるコツみたいなのを皆にレクチャーしていきます。
カラオケの人数が多くて待ち時間が長いのが、かえっていい感じみたい。
時間を気にせずじっくりと教えられるし、逆に皆からも聞いてくれるしね。
「あとは自分がどんな歌が得意なのか、苦手ななのかが分かるといいかもね。」
「え?それって分かるもんなの?」
御尤な質問。
「うん。歌ってる声を録音して似た声のアーティストを探すとか、知り合いとか家族に聞いてもらったりとかね。
まぁ、これをするのは大変だし面倒くさいかな。
あとは······歌いながらこれは歌いやすいとか歌い難いとかを覚えておいて、他の似た曲でまた比較してみるの。
私で例えると、私の場合はテンポが早かったり元気や威勢のいい曲なんかは苦手なんだよ。逆に曲調がゆっくりしてる様なバラード系が得意かな。今日の選曲もそんな感じの曲が多かったでしょ?」
「そう言われれば確かにそうかも···。」
「さすが、このはちゃんだね。」
「もぅ······褒めたって何もでないよ?」
皆がなんとなくでも理解してくれれば、まぁいいんだけどね。
得意な歌でも見つけてくれて、シンプルだけど練習あるのみ、だから。
皆で歌って食べて喋って楽しい時間はあっという間で、これがラストかな?
雪ちゃんを迎えに行く時間が近づいて来たからね。
「みんな、ごめんね。もうそろそろ私時間だから、次歌ったら終わりにするね。」
「オッケー!」
「うん、分かったー」
「了解〜!」
みんなにも了解を貰って最後の選曲です。
最後は何にしようかな?
私も含めてだけど、ここまで全て邦楽だったから洋楽でもいってみようか。
選曲してスタンバイ。
程なくしてイントロが流れてきます。
物静かで、でもどことなく悲しげなイントロ。
「あ、これって······もしかして·····」
「あれだよね?」
「これ、オール英語のじゃん!?鈴宮さん歌えるの!?」
みんなの驚きの声がするけど大丈夫。歌えるよ。
だって、私が1番得意とする洋楽だから。
♪♪〜〜♪ ♪〜♪
歌い始めます。
最初は物静かに始まり、中盤、後半へ進むに連れて音程も高音がでたり情熱的になったりで結構難しいんだよね。
でも、凄くいい曲。
これは昔、アカデミー賞を総なめにした洋画のテーマソング。
貴族階級の女性と貧乏で画家を夢見る青年の禁断の恋と愛と別れの話。
そう『タイタ◯ック』です。
これを初めてレンタルして見た時は、それはそれは号泣しましたよ。
沈没した後の海上で身を挺して彼女を守った青年。
その青年に名前を必死に呼びかける女性。
そして、その青年が海の底へ沈んでいく一連の別れのシーンで。
映画でこれでもかって泣いたのは、この映画が最初で最後だったけどね。
そしてこの映画と歌にも虜になって、何回も見たり真似して歌ったりしたのは懐かしい思い出。
で、この映画を切っ掛けにリスニングが上達した事は誰も知らないんだけどね。
歌いきった。そして終わった。
久しぶりのカラオケがとても楽しくてあっという間だったけど、もう時間だからね。
「あれ?どうしたの??」
ちっと前まではワイワイやってたのに???
し~んとしちゃって······。
「このはちゃん、すっごいよー!」
「鈴宮さん、スゲーんだけど!」
「英語も歌えるの!?」
「プロみたい〜♪」
なんて、絶賛されちゃった。
そんな言う程凄くなんてないのに。
「そんなプロみたいって大袈裟だよ······。ああ、でも、英語は話せるけど歌としてはコレしか歌えないよ?洋楽はコレしか歌ったことないからね。」
「それでも凄いと思うよ。洋楽をここまで歌えるってさ。」
「うんうん。私もそう思うよ。それに、これ採点したら何点とれたんだろうね?気になるわ〜。」
残念ながら、ここにその機能はないんだよね。
私もそういうので歌ったこともないから、よくは知らないけれど。
でも点数なんかより、気持ちよく歌える方が私はいいかな。
「さてと。そろそろ時間だから私は先に帰るね。ありがとうね、みんな。楽しかったよ。」
みんなに別れの挨拶をして、みんなもそれぞれ返してくれた。
志保ちゃんに会計のお金をいくらか渡して、足りない分は学校で返すから後でLI◯Eを送ってね。と約束をして。
今回はみんなで割り勘だから、いくらになるか分からないからさ。
「じゃ、また学校で!ばいばーい。」
みんなに手を振って別れます。
またタイミングが合えば、みんなでカラオケに来てもいいかもしれないなって思った、そんな1日でした。
このはちゃんは歌も上手。
ある特定のテンポというか、曲調のものに限りますが。




