ある日の出来事②-3 高1(挿絵有り)
ーー ある女子生徒 視点 ーー
「おっはよーー」
教室の扉を開けて、教室の中にいるクラスメイトの皆に朝の挨拶をします。
時間は朝の8時ちょい過ぎといったところ。
この時間だと登校している子は半分くらいといったところかな?と、思う。
いると言えばいる方だとは思うけどね。
バス組と電車組。
今教室に来てるのは、ほぼそのどちらかの通勤手段の子が多いのだけど。
あと15分程もすれば、ほぼ全員が揃うんだけどね。
私の通学手段はバス通学なんだけどさ。
私の地区を通るルートのバスはこれ以降の便はなくて、どうしてもこの時間になっちゃうんだよ。
ホントはもうちょい遅く来たかったりもするんだけど、こればかりは仕方ないか······。
「おはよー」
「おはー」
友人達がそれぞれ挨拶を返してくれます。
それぞれにまた挨拶を返しながら机に向かいます。
私は今回の席替えで真ん中の列の後ろをゲットしたので、まあまあよかったかな?
本当はこのはちゃんの後ろが良かったんだけどねー······。
荷物を置いて一息つく。
普段はここで友達数人と話をしてる筈なんだけど、今朝は違った。
クラスにいる女子皆がやってきて、質問攻めにあったんだよね。
理由は分かってるんだけどさ。
今朝の話題はもうコレしかなかった。
「ねぇねぇ、昨日は結局どうだったの?」
「そうそう!見に行ったんでしょ?」
「ずーーっと気になってたんだからね!どんな奴だったの!?」
「昨日······ああ!このはちゃんの件か。」
「「「「「そうそう!!」」」」」
敢えて勿体つけて言ってみた。
このはちゃんの件。
それは昨日の朝にこのはちゃんが呼び出しの手紙、つまりはラブレターと呼んでもいい物を貰って放課後に告白を受けた事。
手紙の件はこのはちゃんから、どうしたらいいかな?と相談を受けてた。
皆であれこれと話をして、結果このはちゃんは放課後に呼び出し場所に行く事にしたんだよね。
クラスのみんなもそれは知ってる事だからいいんだけど、皆が聞きたいのは放課後の告白のほう。
元々断るって断言してたから、そこはみんな安心してるんたけどさ。
相手が誰だったとかそういうのが気になるみたい。
同級生なのか上級生なのか······。
皆の結論としては、上級生じゃね?ってなったんだけどね。
「えっとね、結論から言うと相手は3年2組の佐藤拓矢だって。誰か知ってる?」
「うーん···知らないなぁ······。」
「私も知らないなぁ。」
「全く心当たりがないねぇ······」
女子は誰も知らないのか······。
まぁまだ全員が来てないから、これから来る子の中に知ってる子がいるかもしれないけどね。
「ねぇ、男子達で誰か知ってる?3年の佐藤拓矢って?」
「いや、知らないな。」
「俺も知らん」
「誰だよ、ソイツ。」
志保ちゃんが男子達に聞いてみてくれた。
だけども、男子達も知らなみたいだね。
そうなると、有名な先輩ではないみたいだね。
「皆が知らないとなると、同好会に入ってた人か帰宅部の人かな?」
「そうだねぇ······。その可能性もあるかな?」
部活の方なら知ってる子もいそうだけど、同好会はそれこそ低人数で活動してるからね。
分からなくても仕方がないです。
「それでね、そのよく知らない人、このはちゃんに一目惚れしたんだって。結果はバッサリと切られてたよ。」
「「「おお!」」」
「すげー。マジか。」
「やるー!このはちゃん!!」
「格好いいなーー♪」
歓声があがった。
皆、あらかじめ分かってはいた事だけど、でもやっぱり心配だったのかな?
驚きとか歓声の声の中に安堵の感情が乗ってるもんね。
かくいう私も聞いてはいたけど、心配だったし······。
それで覗きに行ったんだからね。
「ああ、それでね。男子諸君に伝えとく事があるの。」
「ん?何々?」
「なんだなんだ?」
「このはちゃん文化祭の時も言ってたけど、やっぱり誰とも付き合うつもりはないってさ。当然そこには友達からっていうお付き合いもないって。」
「おおう······。」
「マジか······。」
「···ヤバい······へこむ······。」
男子共がへこんでるけど、仕方ないよね。
あれだけこのはちゃんが、明確に拒否してるんだから。
そこに諦めきれず想いを寄せて迷惑をかけたら、私は許さないよ!
でも逆に望みがないのが知れたんだから、スッパリ諦めて次いきなと思う。
······私は今は要らないけどね。
そんな事を話してると、残りのクラスメイトが登校してきていた。
その中には昨日一緒に覗きに行った、2人もいたんだ。
「話の途中だけど、皆、ちょっと待っててねー」
皆に少しだけ話を待ってもらう事にしたんだ。
そして2人の所へ行って、ざっと先程までの話した内容を共有させます。
だってこの話はこれからがとても大事で重要だから!
2人も頷いてくれて、また皆の所へと戻る。
今度は2人と、同じく今来たクラスメイトも加えてね。
このはちゃんが来るにはまだ少し時間がある。
ここが勝負所だ!
「最後にこれは昨日後ついて行った私達の総意見なんだけど、みんな聞いて!!」
「何?」
「何々?」
「どうした??」
みんな注目してくれたね。よし!
「実はね······昨日の告白を覗いてたのが、このはちゃんにバレたんだよ。」
「「「「「!!!!???」」」」」
「「「マジ!?」」」
「それ、ヤバくね?」
「うっそーー?!」
皆が驚愕してる。
それはそうだよね、とは思うよ。
こういうシーンを盗み見るというのは、良くない事だとは私も思ってるし感じてる。
だけど、心配と言う名の好奇心が勝ってしまったんだから、そこはもう何も言うまい。
ただ、皆の驚愕がバレた事に対しての物なのか、はたまたその後の展開を危惧しての事なのかは分からない······。
少なくても前者は間違いないんだけどね。
「いい!? それで絶対にこのはちゃんを怒らしたらダメだよ!!」
「そうそう!! 覗いてたのがバレた時のこのはちゃん、すっっごく怖かったんだから!!」
「あんな女神様みたいな癒やされる声が、すごくドスが効いたような低い声で凄く怖かったんだよ······。」
その時のことを思い出して、身体を震わす私達。
その様子を見たクラスメイト達は今日1番の驚きをしてた。
「マジ?」とか「あのこのはちゃんが?!」とか。
分かるよ。
私達だってあれを体験しなければ、到底信じられないもん。
あの女神様みたいな、このはちゃんがってね······。
「ぱっと見は普通だったんだよ?明らかに怒ってるとかそういうのはなくて。」
「そうそう!ごく普通なの。あえて言えば、少しだけ表情がプリってしてたかなー?くらいでさ。」
「それが逆に凄く怖くて怖くて······。多分、このはちゃん本人も意識はしてないんだと思うんだよ。見た感じは普通って感じだったからね······。」
「だから私達3人の総意見として、『このはちゃんを怒らせるな!』これに尽きる!!」
「「「「「「·········」」」」」」
し~〜〜んと、お通夜みたくなってしまった教室。
恋バナにキャッキャしてたのが、嘘みたいです。
ーー このは 視点 ーー
ガラガラガラ······
「おはよー」
いつもの様に、ほぼ同じ時間に扉を開けてクラスのみんなに挨拶をして教室に入ります。
「「「おはよー」」」
「おはー。」
「このはちゃん、おっはよー」
そんな感じでいつも挨拶を返してくれるみんなが、今朝は違った。
挨拶は返してくれたんだけど、クラスの男の子も女の子も皆が私をじっと見てる。
しかも何か凄く静かだし······?
あれ?今日、なんかあったっけ??
あまりにもいつもと違うので混乱する私です。
「えっ?えっ??どうしたの?みんな?? 私なんか変??」
そう言いつつ、髪や制服のを確認してみるけど特に変わったとこはないみたい。
ないハズ······。
「え?大丈夫だよ、このはちゃん。どこも乱れてないし、いつもの素敵な私の大好きなこのはちゃんだよ。」
「も〜、何言ってるのよ!······茜ちゃんは!」
「はわわわ······」
みんなのいつもと違う雰囲気の中に、いつもと変わらず声をかけてくれた茜ちゃん。
嬉しくなって、つい茜ちゃんをギュッとしちゃったけどいいよね?
茜ちゃんは小さくて可愛いから雪ちゃんみたいでさ、ギュッとしたくなっちゃうんだよ。
茜ちゃんも嬉しそうにしてるから余計にね。
そんな私達を見て、
「いつものこのはちゃんだ······。」
「あのこのはちゃんがまさかねぇ······。」
「信じられないよ······?」
よく分からない事をみんなが言ってたけど、何の話なんだろ?
不思議そうに私を見てる子もいたけどね??
「いいなー。茜ちゃん······ギュってされてる······」
一部そんな声もあったけどね。
ギュ〜ってされたいのかな??
暫くして入ってきた時の変な感じはなくなって、いつもの教室になりました。
気になってみんなに質問したんだよね。
そしたらさ。
「何でもないよー。このはちゃん、気にしないでね?」
「そうそう。なんでもないから······。」
明らかに何かあったんだろうけど、みんなが話したがらないので結局分かりませんでした。
ほんと、なんだったんだろうね?
不思議です。
みんな大好き恋バナ。
結果は分かってても気になって気になって、仕方なかったみんなでした。




